ビジネスパーソンインタビュー
カル・ニューポート著『デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方』より
能力が高い優秀な人も脅かされている。私たちがスマートフォンの誘惑に負ける理由
新R25編集部
今や生活に必要不可欠なスマートフォン。
しかし一方で、「通知が気になる」「SNSを見ていると、気がついたら時間が経っていた」など、どこか不自由さを感じている人は多くいるのではないでしょうか。
そんな現代の世相を科学的に分析し、現代人をデジタルのしがらみから解放しようとしているのが、ジョージタウン大学准教授でコンピュータ科学者のカル・ニューポート氏。
著書『デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方』(ハヤカワNF文庫)の中で、次のように語っています。
「現代のデジタル・ライフについて議論するうえで繰り返し耳にしたキーワードは“疲労感”だった。(中略)デジタル・ミニマリストは知っている。現代のハイテクな世界で生き延びていくために必要なのは、テクノロジーを使う時間を大幅に減らすことだ」
技術が急速に進化するデジタル過多な現代で、私たちは新たなテクノロジーとどのように付き合っていけばよいのでしょうか。
同書から一部を抜粋してお届けします。
なぜ、スマホの誘惑に負けてしまうのか
ソーシャルメディアやスマートフォンといった新しいテクノロジーが21世紀の暮らしを大きく変えた事実は、誰もが認めるところだろう。
これらのテクノロジーは、私たちの行動や気分に及ぼす影響力をじわじわと強めてきた。
そしていつしか健全な範囲を超えた量の時間がそれに食われ、その分、もっと価値の高いほかの活動が犠牲にされている。
つまり、私たちが不安に思うのは、「コントロールを失いかけている」という感覚があるからだ。
その感覚は、日々、さまざまに形を変えて表面化する。
子供を風呂に入れていて、携帯電話が手の届かないところにあるとき。
この瞬間を写真に記録してバーチャルな観客に見せなくてはという強烈な衝動に邪魔されて、いま目の前で起きているできごとをただ楽しむことができないとき。
有益かどうかは問題ではない。
主体性が脅(おびや)かされていることが問題なのだ。
となると、次に問うべき質問は、私たちはなぜこんな状態に陥ったのかということだろう。
私が知るかぎり、日常のなかのオンラインで過ごす部分に振り回されている人々の大半は、意志が弱いわけではないし、愚かなわけでもない。
順調なキャリアを歩むプロフェッショナルや勉学に励む学生、愛情に満ちた父親や母親ばかりだ。
みな能力が高く、目標達成に向けて懸命に努力するのがふつうだと思っている。
ところが、日常のいろいろな場面で顔を出すほかの誘惑は退けられるのに、スマートフォンやタブレットのスクリーンの奥から手招きしているアプリやウェブサイトにはなぜか抵抗できず、本来の役割をはるかに超えて生活のあちこちに入りこまれてしまう。
なぜこんなことが起きているのか。
最大の原因は、それらの新しいツールの大多数は、表面上は無害と見えても、実はそうではないという点にある。
スクリーンの誘惑に屈してしまうのは、その人がだらしないからではない。
使わずにいられないようにするために何十億、何百億ドルもの資金が投じられているからだ。
スマホは「スロットマシン」
HBOテレビのトーク番組『リアル・タイム・ウィズ・ビル・マー』は毎回、司会者ビル・マーの独白で終わる。
話題はたいがい政治だ。
しかし2017年5月12日の放送回は違った。
マーはカメラをまっすぐに見つめると、こう話した。
デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方ビル・マー「ソーシャルメディアの巨大企業は、よりよい世界を築こうとがんばっている友好的なテックの神々であるふりをやめ、自分たちは依存性の高い商品を子供たちに売りつける、Tシャツを着たタバコ農家であると認めるべきです。
なぜなら――はっきり言いましょう――
“いいね”がついたかどうか確認する行為は、喫煙と同じくらい依存性が高いからです。」
ソーシャルメディアに対する懸念をビル・マーに抱かせたのは、この前月に放送されたCBSテレビのドキュメンタリー番組『60ミニッツ』の特集だった。
「ブレイン・ハッキング」と題されたその特集は、ジャーナリストのアンダーソン・クーパーによるインタビューの模様から始まった。
インタビューの相手は、シリコンヴァレーの若年層から圧倒的な支持を得ている人物で、名前はトリスタン・ハリス。
スタートアップを起業したのち、エンジニアとしてグーグルに勤務していたが、用意された道を自らはずれ、テクノロジー業界という閉じられた世界ではきわめてまれな生き方を選択した――内部告発者となったのだ。
インタビュー開始からまもなく、ハリスは自分のスマートフォンを持ち上げてこう言う。
デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方ハリス「こいつはスロットマシンなんです」
クーパー「スロットマシン?どういう意味でしょう」
ハリス「携帯をチェックするのは、“さあ、当たりは出るかな”と期待しながらスロットマシンのレバーを引くようなものだからです。
ユーザーが製品を使う時間をできるかぎり長くするために(テクノロジー企業が)使うテクニック集が存在するくらいです」
クーパー「シリコンヴァレーは、アプリをプログラミングしているのでしょうか。
それとも人をプログラミングしているのでしょうか」
ハリス「人を、です。
テクノロジーは善でも悪でもないとよく言いますよね。
どのように使うかを決めるのは使う側だという意味で。
しかし、実際にはそうではなくて――」
クーパー「テクノロジーは中立ではないということですか」
ハリス「中立ではありません。
ユーザーに一定の方法で長時間使わせることを目的としています。
企業はそこから利益を得ているわけですから」
『リアル・タイム』のビル・マーは、似たやりとりを前にもどこかで見たぞと考えた。
そして『60ミニッツ』のインタビュー映像を自分の番組内で紹介したあと、マーは皮肉めいた調子でこう問いかけた。
デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方ビル・マー「同じ話を前にも聞いた覚えがありますが、はて、どこでだったか」
ここで画面は切り替わり、ジャーナリストのマイク・ウォレスが1995年、タバコ業界の内部告発者ジェフリー・ワイガンドに行なった有名なインタビュー映像が流れる。
このなかでワイガンドは、世間がすでに抱き始めていた疑念は事実であると認めたーー
大手タバコ・メーカーは、タバコの依存性を高めて販売していると証言したのだ。
ビル・マーはこう締めくくった。
デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方ビル・マー「タバコ・メーカーのフィリップ・モリスが狙ったのはあなたの肺でした。
しかしAppストアは、あなたの魂を乗っ取ろうとしているのです」
ほとんどの記事は“はずれ”だが、義憤であれ笑いであれ、何らかの強烈な感情をかき立てる記事にときどき“当たる”。
おもしろそうな記事タイトル、おもしろそうなリンクをクリックするという行為もまた、たとえるなら、スロットマシンのレバーを引くのと同じなのだ。
テクノロジー企業はこのランダムな正のフィードバックの罠の威力にむろん気づいていて、それを意識しつつ、訴求力をいっそう強めようと製品を改良し続けている。
アプリや巧みにデザインされたサイトは、ビル・マーの表現を借りるなら、「よりよい世界を築こうとがんばっている友好的なテックの神々」からの贈り物ではなかった。
私たちのポケットにスロットマシンを入れるために作られたものだったのだ。
テクノロジーの奴隷になっていないか?
スマホが必要不可欠と言われるようになったいま、「携帯依存症」という言葉は、もはや死語になったかと思われましたが、「必要不可欠」という言葉の裏で「依存」に無自覚になっている状況が往々にしてあるのかもしれません。
同書を読むと、私たちがどれだけテクノロジーに振り回されているか、深いレイヤーで気づくことができます。
著者であるカル・ニューポート氏は強く訴えます。
「デジタル・ミニマリズムのような哲学が、いまこそ必要なのだ」
本当に大切な時間の使い方とは何か?
私たちそれぞれにとっての答えを、自分自身に問い直すときなのかもしれません。
〈画像提供=Penny Gray Photography〉
ビジネスパーソンインタビュー
またスゴいことを始めた前澤さんに「スケールの大きい人になる方法」を聞いたら、重たい宿題を出されてしまいました
新R25編集部
【不満も希望もないから燃えられない…】“悟っちゃってる”Z世代の悩みに共感する箕輪厚介さんが「幸せになる3つの方法」を伝授してくれた
新R25編集部
「実家のお店がなくなるのは悲しい… 家業を継ぐか迷ってます」実家のスーパーを全国区にした大山皓生さんに相談したら、感動的なアドバイスをいただきました
新R25編集部
「俯瞰するって、むしろ大人ではない」“エンタメ鑑賞タスク化してる問題”に佐渡島庸平が一石
新R25編集部
社内にたった一人で“違和感”を口にできるか?「BPaaS」推進するkubell桐谷豪が語るコミットの本質
新R25編集部
【仕事なくなる?そんなにすごい?】“AIがずっとしっくりこない”悩みへのけんすうさんの回答が超ハラオチ
新R25編集部