本橋亜土著『ありふれた言葉が武器になる 伝え方の法則』より
レポーターはなぜ「甘い」と言う?売れる営業マンも実践する「 ギャップ 」の影響力
新R25編集部
ミーティングや商談がオンラインでおこなわれるようになった今、これまで以上に“伝える”力が求められます。
しかし、画面越しだと相手の顔がよく見えないことから、オンラインでのコミュニケーションに苦手意識を持ってしまう人も多いのではないでしょうか。
そんな方におすすめなのが、『嵐にしやがれ』『しゃべくり007』など人気番組のディレクターとして、視聴者を引きつける伝え方を磨いていた本橋 亜土さんの著書『ありふれた言葉が武器になる 伝え方の法則』。
「話がうまい人、説得力のある説明ができる人は、素晴らしい才能やセンスを備えているのではありません。
その差は、『伝え方の勝ちパターン』を知っているか、知らないかの違いなのです」
テレビ番組も実践している「伝え方の勝ちパターン」を同書から一部抜粋してお届けします。
ギャップを生み、とても大きな付加価値をつける
「話にインパクトを持たせたいならギャップが大事」という言葉をよく聞きます。
見た目は怖いのに、実は優しくてつい心を許してしまう。
こんな状況を「ギャップ萌え」と呼んだりします。
テレビ番組でもギャップを使って視聴者の心を動かす演出が多く使われています。
ここで1つ、テレビの現場で使われている表現を例に挙げてギャップの持つ力を紹介しましょう。
かつて私は、『王様のブランチ』(TBS)という情報番組で、初心者のリポーターに言っていた言葉があります。
それは、表現に困ったら、「甘い」と言えばなんとかなる!
本来、甘くないものを「甘い」と表現することで、ギャップを生み、とても大きな付加価値をつけることができるのです。
これは、かなり役立ちました。
たとえば、肉を食べたときは…、噛めば噛むほど、ギュッギュッって「甘み」が出てきます!
生野菜を食べたときも…、野菜なのに「甘み」があるってすごいですね!
あなたもこんな食レポを見たことがあるのではないでしょうか。
でも冷静に考えてみてください。
フルーツならともかく、肉ってそんなに甘みが出てくるものだったでしょうか?
私は一度も生野菜を甘いと思ったことはありません。
きっとあなたも同じだと思います。
でも不思議なもので、「甘い」と表現するだけで、スーパーで安売りされている肉や刺身では、味わえない代物という印象を与えます。
これが「ギャップ」の効果です。
ちなみに、対象が「甘くないもの」であればあるほど、その効果は大きくなります。
短い「モノサシ」を提示して、 相手にギャップを感じさせる
遊びに行く場所を決める、モノを買う、こんなとき人は無意識にある作業をしながら「アリかナシ」か、「良いものか悪いものか」 を決めています。
たとえば、家電製品を買う場合、違うメーカーの商品をさまざまな角度から比べてから買う人が多いはずです。
このように、人は常に何かと比べながら思考しています。
その際必ず登場するのが「モノサシ」。
つまり比較対象です。
これがなければ比べようがありません。
実は、この「モノサシ」をうまく活用すれば、ギャップ効果によって言葉をより強くすることができます。
では、どのように活用するのか?
相手に比較対象を考えさせず、先手を打ってこちらから「モノサシ」を提示することで、ギャップ効果を生み出すことができるようになります。
その際のポイントは、こちらから短い「モノサシ」を提供し、 長さを顕著に感じさせること。
つまり、物事を判断する際の「スタンダード」を相手より先に打ち出して印象操作をしてしまうということです。
このテクニックの効果を実感した私の体験を紹介しましょう。
私が以前、中古マンションを購入したときの話です。私は当初から「買うなら築浅中古」と決めていました。
ある日、案内されたのは2つの物件。
2つとも至近距離にあって床面積・築年数ともほぼ同等、価格もまったく同じでした。
1軒目、内見に伺うと、まだ売主は居住中で、暗い表情をした男性が迎えてくれました。
和室には奥様らしき方の仏壇。息子さんの部屋は臭いもあり、壁に穴が空いていました。
営業担当者も「この場所、築年数でこの価格ならこれくらいかもしれませんね」と話していて、妙に納得していました。
そして、その次に向かった、同じ金額の物件…。
入った途端、目の色が変わりました。売主はすでに退去済みで広々。さらに、 リビングに隣接する部屋の壁かがぶち抜かれ、20畳超の広いフローリングのLDKになっていたのです。
この物件に即決しました。
今思えば普通の家です。
広さに感動したリビングも、家具を置いたら普通のリビングになりました。
この営業担当者は、自ら本命物件を売るための「モノサシ」をうまく設定し「ギャップ」を作り出すことで見事、即決で契約を勝ち取ったわけです。
短い「モノサシ」を先に提示し、相手のスタンダードを下げることで、実は普通の物事をより良く見せることができる。
特に、「同カテゴリー」かつ「できるだけ近い条件」の中で高低差をつけると効果絶大です。
会話のなかでのギャップの付け方
「ギャップ」を使って相手に一発で印象づける方法をお伝えします。
それがこちら。
「逆接」を使って、言葉をより強くする。
逆説をうまく活用すると、話にギャップによる起伏やアクセントができ、言いたいことがより強く相手に伝わるようになります。
使い方は簡単で、強く肯定したいワードの前に逆接を配置するだけです。
例を挙げましょう。
若手経営者の活躍を伝える文章です。
まずは、逆説なし。
仕事に対する考えが甘いと言われる「ゆとり世代」の中で、 自分に厳しく、仕事に励む若手経営者がいた。
では、この文章に逆説を加えてみましょう。
仕事に対する考えが甘いと言われる「ゆとり世代」。
しかし!
そんな中で自分に厳しく、仕事に励む若手経営者がいた!
使われている単語はほぼ同じですが、逆接を入れることで、若手経営者の存在が際立ちますよね?
イメージがより鮮烈に、整理されて頭に入ってきます。
ポイントは、強調したいことと正反対の言葉を逆説の前と後ろに配置すること。
次のように、前後の言葉のギャップが大きければ大きいほど効果も大きくなります。
『ありふれた言葉が武器になる 伝え方の法則』佐藤さんの仕事は本当に丁寧でいつも助かってるよ。
でも、もう少しスピードを意識してくれるともっと助かるよ。
→「あなたの仕事は遅い」ということを強調できる。
我が社の強みは伝統です。
しかし! 今回の新サービスは、その伝統を打ち破る革新的なものです。
→「サービスの新しさ」をより強調できる。
前後に真逆の言葉を配置し、振れ幅・ギャップを大きくして、逆接で斬る。
一番伝えたいことから逆算することで、効果的な構造ができ上がります。
明日から使える、聞かせる会話術
『ありふれた言葉が武器になる』では、「テレビの長い歴史の中で磨きつづけられている伝え方」「“相手に気づかれることなく”伝えたいことを確実に刻み込むテクニック」がわかりやすく紹介されています。
オンライン化が進んだ今だからこそ、改めて「伝え方」を学んでみてはいかがでしょう。
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