ビジネスパーソンインタビュー
久木留毅著『個の力を武器にする 最強のチームマネジメント論』より
監督が選手から好かれていないチームは強い。岡田武史が気づいた、日本と海外の指導者の差
新R25編集部
チームの方向性を決める決断が苦手・部下との適切な距離感が掴めない…など、リーダーになるとマネジメントに関する悩みはつきませんよね。
個人ではなく、チームで成果を上げるために、リーダーのとるべき行動はなんなのでしょうか。
その答えの一端はスポーツの世界で見出すことができると、国立スポーツ科学センターのセンター長である久木留毅さんは著書『個の力を武器にする 最強のチームマネジメント論』で述べています。
著書のなかで、久木留さんは、サッカー元日本代表監督の岡田武史さん、全日本女子バレーボール監督の中田久美さんと対談。
彼らが世界の強豪国と戦うために、どのようにチームを導いていったのかを紐解いていきます。
今の時代に求められるリーダーの素養を同書のインタビューより一部抜粋してお届けします。
チーム仲良しと、チームの和は違う
久木留:古河電工で現役を引退する直前に、バイエルンミュンヘンが来日して試合をし、その差を身を持って感じ、到底勝てないと思ったそうですが、何がそこまで違ったのですか。
岡田:自分は当時34歳ぐらいでしたが、まだサッカーがうまくなると思っていました。
もっとうまくなって、きっとドイツ人などのプロと対等にできるようになるのではないかと思っていたのです。
ところが試合をしたら、トラップとかキックとか一つひとつがうまいとかいう要素で比べればそこまで差はないと感じたのですが、試合をしてトータルでみると次元が違ったのです。
何が違うのかとははっきり言えませんが、絶対にこいつらになれないと思ったんですよ。
それで、その瞬間から日本人がどうやって世界で勝てるのだろうかと考えはじめました。
久木留:なるほど。その後、引退してドイツへコーチ留学をしましたよね。
岡田:入社して1年目か2年目にブラジルに2〜3カ月間、2人で選手留学をしました。
その年に留学する高卒の選手は決まっていたけれど、大卒での適任者がいなかったから「お前、もう1回行くか」となって、2カ月半ロンドンのウエストハムに2回目の留学をしました。
そして引退後にドイツに1年間行くことになったのです。
久木留:そのときに、技術と戦術について学ぶものはあまりないけれど、監督と選手の差がものすごくあることに気づかされたとありましたが、これはどういうことですか。
岡田:よくベースボールと野球は違うと言いますが、サッカーは一緒なのです。
情報化社会だからドイツがどういう練習をしているのかなどは全部入ってくるのでわかります。
ただ、監督は立場が違うことを痛感しました。
当時、日本はキャンプで集合すると初日に監督主催の大宴会がはじまるのです。
歌を歌い、仲良しだ、仲良しだ、とやってこれが和だと言うわけです。
それで、ドイツに行ったら、もう監督の立場が全然違うわけですよ。
監督の孤独さ、強さみたいなものを強く感じました。
たとえば、当時、現役のブルガリア代表の選手がいて、そいつが思うような動きをしないから監督が「レチ、レチ」と練習中に言うわけです。
それで、選手が怒ってボールをバーンと投げつけて、「なんで監督はオレのことばかり、レチ、レチと言うのだ」と言ったら、今度は監督が「全員集合。今から俺がいいと言うまでダッシュしろ」と言うのです。
自分は「え、これ、俺が中学校の頃にやらされた光景だな」と驚きました。
でもずっと誰も文句を言わずに走っているわけですよ。
そのうちキャプテンが「レチ、おまえが謝ってこいよ」と言って、レチも謝りに行っていました。
「他のやつは帰れ」と自分も帰らされたので、後がどうなったかわからないけれど、監督と二人で30分ぐらい残っていました。
「なんなのだ、この古いのは」と思いましたね。
ところが、僕らが考えた仲良しと、チームの和は違うのだということをそこで強烈に教えられたんですよね。
それで、監督が首になるときに、二人でご飯を食べに行ったときに言われたのは、「監督の仕事はハードワークするか、仕事がなくなるのかのどちらかだ。これは仕方がない。これがフットボールだ。」
そう言って格好良く辞めて行ったんですよ。
あまりに格好いいから自分も辞めるときには絶対これ言おうと思ったんですけどね(笑)。
監督の主語は「I」じゃなくて「We」
岡田:でも、そのときに本当に監督というのは、「主語」で語れるものではないのだと理解しました。
選手は、自分が上手くなりたい、自分が日本代表になりたい、自分がいいプレーをしたい、これでいいのです。
でも監督は、自分がよい監督になりたい、自分が有名になりたいでは駄目なのですよ。
主語が必ず「I」じゃなくて、チームや選手を指す「We」とか「You」になっているのです。
つまり、見ている方向が全く違います。
そこで「そうか。選手がやってほしいことと、やらなければいけないことは、全然違うのだ」ということに気づいたのです。
それは、選手ファーストではないのだということに気づきましたね。
もう立場が違うということです。
それまでは、好かれよう、好かれようとしていましたが、監督は全然好かれなくてもいいのですよ。
でも尊敬されなければいけません。
それまで日本はそんなに強い指導者がいなかったし、みんな和だとか言っていたので、ドイツで初めてそういうことを見て学びました。
ここが、自分の指導者としての転換期です。
久木留:なるほど。
岡田さんがチームを創るときに、目標設定、チームフィロソフィー、チームのコンセプト、そして強化のポイントということをやられていましたよね。
フィロソフィーも、「Enjoy」からはじまって、「Our Team」「Your Best」「Communication」「Improve」「Concentration」と6つ設定して、コンセプトも全員攻撃、全員守備、ハードワークとしていました。
今でこそ、ハードワークと言われますが、岡田さんが監督をした2010年ワールカップでもGPSの利用により日本代表は、2番目に多くの距離を走ったチームという記録がありますね。
これは実際にハードワークを行っていたことを物語っていますよね。
それがすべてではないけれども、きちんとそうやってきたじゃないですか。
これが組織だとよく、ビジョン、ミッション、バリューと言いますが、短期決戦だから、目標設定、チームフィロソフィー、チームコンセプトとおっしゃっていたのですか。
岡田:よく調べてるね(笑)一番大事なのは、フィロソフィーであり、理念ですよね。
それで、目標設定は、その次というか、実は、それを具体化するための方法なのです。
代表チームを任されたのは、ワールドカップの2年前でした。
今のチームでワールドカップを勝てるかと言えば、俺の決断は勝てないでした。
だから勝つためには何をしなければならないのかと考えたわけです。
まず、1対1のボール際で勝たなければならないから、そのためには体幹トレーニングをしてくれと言いました。
そして、だいたい1人1試合でキロメートル走るのですが、人がそれよりも1キロメートルずつ多く走ったらフィールドで相手より1人多いのと一緒なのだから、それなら勝てるだろうということで、そのためのトレーニングをしてくれと言いました。
さらに中距離パスの精度を上げるキックの練習も加えました。
これを全部、自分の所属チームでやらなければならないわけです。
自分が選ばれるかどうかもわからない2年後のチームのために、そしてその監督のために、所属チームでもいろいろなことを言われるのに、毎日その練習をしろと言うわけですよ。
だから、そのためにどうしたらいいのかなと思ったときに、志が高いワールドカップのベスト4という目標を本気で目指すと伝えたのです。
『個の力を武器にする 最強のチームマネジメント論』「ベスト4を本気で目指すということは、犠牲も払わなければならない。
そしてこういうことも続けてもらわなければいけない。
自分は、本気でベスト4を目指すやつとだけ行く。
本気で目指さないやつとは行かない。
うまいヘタは関係ない。
本気でベスト4を目指さないか」
と選手みんなに手紙を書いたり、ミーティングの度にそれを言い続けて、それで段々みんなが本気になりだしたという感じですね。
指導者は好かれるのではなく、尊敬を抱かれるべき
現役を引退した後、岡田さんがドイツにコーチ留学して経験したのは、監督という仕事の厳しさの違いでした。
このことを本当の意味で最初から理解している日本人監督はいないのではないでしょうか。
それはサッカーだけではありません。他のスポーツでも少ないように思います。
人は誰でも他人に好かれたいと思うものです。
しかし、プロフェッショナルサッカーという厳しい仕事の中で、選手たちに好かれたいと行動する監督が相手のチームに勝ち、リーグ戦で勝ち続けることができるでしょうか。
まして、世界を相手にしていくときには、選手に好かれることなど関係ないのです。
ただ、チームがまとまり、一つの目標に進んでいくとき、監督は尊敬される存在でなければならないのです。
そのことを強烈にドイツで経験したからこそ、二度目のワールドカップでベスト16へとチームを導いたのでしょう。
スポーツから学ぶ、マネジメント論
今回は日本のスポーツ界を牽引する監督と久木留さんの対談からリーダー論をご紹介、『個の力を武器にする 最強のチームマネジメント論』では個人の力を最大限に伸ばす方法も紹介されています。
「これらの時代背景の中で社会に求められているのは、予測不可能な状況においても、自ら考え行動できる自立した強い個人と強い組織であることは言うまでもないでしょう。」
と久木留さんは語っています。
組織を勝たせるリーダーになりたい人はもちろん、自分の力をハードに伸ばしていきたい人にもおすすめの一冊です。
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