ビジネスパーソンインタビュー

苦情ではない「クレーム」が妄想を形にする。黒澤明監督も実践した「“1行”の言語化」

暦本純一著『妄想する頭 思考する手 』より

苦情ではない「クレーム」が妄想を形にする。黒澤明監督も実践した「“1行”の言語化」

新R25編集部

2021/04/11

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業界を問わず、あらゆる人が「新しいアイデア」を生み出そうとしています。

ディープラーニングや人工知能(AI)技術の開発が進むにつれて、その競争はさらに激化していくはずです。

東京大学大学院情報学環教授、ソニーコンピュータサイエンス研究所フェロー・副所長を務める暦本純一教授は、新著『妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方』(祥伝社)の中で、アイデアを出すために必要なのは「妄想」だと語っています。

「私たち人間は、いつも『新しいもの』を求めている。(中略)アイデアの源泉は、いつも『自分』だ。誰に頼まれたわけでもなく、むりやり絞り出したわけでもなく、自分の中から勝手に生まれてくるのだ。そう、それは『妄想』である。妄想から始まるのだ

新しいものを生み出すためになぜ「妄想」が大切なのか。

アイデアを出すためには具体的にどうすればいいのか。

同書より一部を抜粋してお届けします。

言語化は最強の思考ツールだ

妄想レベルのアイデアは他人どころか本人にも、その意味や面白さがはっきりとわかっていないことがしばしばある。

モヤモヤしたイメージが頭の中で膨らんでいて、自分では「なんとなく面白そう」と感じているけれど、じつはまとまった形になっていない

では、自分が抱いた妄想をどうやって形にしていくのか。

発想法にはいろいろな技法があるが、私が大事にしている思考ツールはとてもシンプルに「言語化」

言語化すれば一撃でわかる。

モヤモヤとした頭の中のアイデアをとにかく言語化してみることで、そのアイデアの穴が見えてきて、妄想は実現に向かって大きく動き出す。

アイデアの表現方法としては、絵や図などのビジュアルも有効だが、それを使うのはどちらかというと「HOW(どうやるか)」を表わすときだ。

アイデアの原点である「WHAT(何をしたいのか)」「WHY(なぜやりたいのか)」などを明確にするには、言語化が最強の思考ツールなのだ。

やりたいことは、まず「1行」で言い切る

私たち研究者は、自分たちの研究対象のことを「クレーム」という言葉で表わすことがよくある。

日本では苦情や抗議を意味するカタカナ語として定着しているけれど、もともと英語の「claim」は「主張」「請求」といった意味だ。

クレームは個人的な「メモ」とは違い、やりたいことを自分にも他者にもわかるように整理したもの。

このクレーム、つまりやりたいことを書く上で最も重要なのは「1行で書き切る」ことだ

頭の中ではモヤモヤと無限に広がってしまいそうなアイデアを、できるだけ短い言葉に落とし込む

それをやらないと、思考を整理したことにはならない。

モヤモヤの中から、たった1行で切り出せるのは何だろうかと考えることそのものがアイデアを洗練させていく。

黒澤明監督も、映画の企画を1行で説明することを心がけていたそうだ。

「百姓が侍を七人雇い、襲ってくる山賊と戦い勝利する」

これは『七人の侍』を説明するクレームだ。

「あと六五日で死ぬ男」

こちらは『生きる』だ。

そのまま映画のタイトルにしてもいいぐらいの端的さである。

黒澤監督の名作の数々は、そういう短く具体的なクレームから始まった。

それを言い切れた時点で、本人の頭の中では作品が出来上がったも同然だったかもしれない。

そこで大まかな道筋が見えれば、あとはそのクレームに肉付けしていけばいい。

クレームを1行で書いてみると、自分の中でモヤモヤしていたアイデアの正体をつかむことができる

それがわからないと、それが本当に面白いかどうかもはっきりしない。

モヤモヤのうちは「面白いはず」と思い込んでいたアイデアが、いざ言語化してみると意外とショボかったということもよくある。

同じモヤモヤに対して複数のクレームを作ってみて、比較するのもいい。

もし、その時点でどうにもモノにならないと思ったら、切り替えて別のことを考えてもいい。

そういうジャッジができるのが、言語化のメリットのひとつだ。

モノにならないアイデアをいつまでもモヤモヤのまま抱えていても仕方がない。

別のことを考えているうちに、そのアイデアが活きるクレームを思いつくこともある。

1行は、フィードバックをもらいやすい

さらに、1行にまとめたクレームは人の感想を聞きやすい

独りよがりでない面白さがあるかどうかは、人の反応を見ることでも見当がつく。

クレームを人に見せて反応を見るときに気をつけなければいけないのは、クドクドと説明をしないことだ。

短い言葉だけでは伝わらないのではないかと心配になって、クレームを見せるやいなや

「これは何が面白いかというとですね…」

などと詳細を喋りたくなる気持ちはわかる。

しかし、それではあえて「1行」で書いた意味がない。

1行でうまく伝わらないなら、そのクレーム自体に大したインパクトがないということだ

自分自身の思考がまだ十分に整理されていないのかもしれない。

それに、たとえうまく伝わらずにネガティブな反応を受けたとしても、それだけで大きな意味がある。

クレームは試験の答案ではないから、一発で「正解」を出す必要はない

むしろ、他人からのフィードバックを受けてさらに中身をブラッシュアップするのが目的だと考えたほうがいいだろう。

つまり、あくまでも「仮説」でしかないのだ。

仮説は最終的な答えではなく、検証を受けるために出すものだ。

常に正しいことは「ファクト(事実)」であってクレームにはならない。

「太陽は東から上る」はファクトなのでクレームとして検証する必要はないが、「この地域では光が雲に反射して太陽が西から上るように見える現象がある」と言ったら、

「本当か? どのくらいの頻度でそうなるのか?

雲に反射するメカニズムはどうなっているのか?」

と検証したいことがどんどん出てくる。

それがクレームを提示する価値となる。

また、たとえば

「〇〇というモーターを開発すれば推力が上がって空飛ぶ装置が作れる」

というクレームは、正しいかどうかわからない。

実験したら全然ダメでした、ということも当然だがあり得る。

でも、仮説を出さなければ実験もできない

まだ海のものとも山のものともつかない仮説を、思い切って端的に言い切ってしまうことにこそ意味があるのだ。

「妄想」の先に、今ここにないものがある

私たちはいつも新しいものを求めている。

にもかかわらず、私たちの思考は、既存の枠組みに囚われすぎてはいないでしょうか。

暦本教授は明確に述べています。

我々は、現在の延長で物を考えがちである。

妄想は、今あるものを飛び越えて生まれるものであり、だからこそ『新しい』。

いや、何かを妄想しているとき、最初からそれが新しい発想だとは自分でもわかっていないかもしれないのだ。

『妄想する頭 思考する手』

「何かアイデアを」「何か新しいものを」と考えすぎず、自由な妄想を広げた先に、今ここにないものを描いていることに気付けるのかもしれません

私たちも、まずは「妄想」から始めてみましょう。

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