「イチローさんみたいにはなれないから…」
「21年プロやれてるのは、前向きじゃないから」川崎宗則が“ネガティブは武器になる”と語る理由
新R25編集部
コロナウイルス感染拡大の影響か、なんとなく日本中がネガティブな雰囲気に包まれている今年…。
スポーツ好きの筆者は、今こそこの人のポジティブさを学びたく、栃木県小山市を訪れました。
【川崎宗則(かわさき・むねのり)】1981年生まれ、鹿児島県出身。1999年オフのドラフトで福岡ダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)に入団。最多安打、盗塁王1回、ゴールデングラブ賞2回受賞。2006年、2009年のWBCでも活躍。2012年からはメジャーリーグに挑戦。2017年から日本球界に復帰し、今季は9月から独立リーグ・栃木ゴールデンブレーブスに所属している
川崎宗則選手。英語もほとんど喋れないまま、メジャーの舞台で活躍。ボディランゲージでヒーローインタビューに答える姿は、日米に爆笑と感動をもたらしました。
ただ、川崎選手といえばネットでもおなじみの“独特のムネリン節”が有名。
読者の方にちゃんとした学びを届けられる取材になるのか? 不安な気持ちで取材にうかがったところ、やっぱりメジャー級のムネリンワールドに翻弄されてしまいました。
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
衝撃の告白。「僕、本当はポジティブじゃないんです」
川崎選手は現在、独立リーグ「栃木ゴールデンブレーブス」に所属しています。栃木県小山市内の、廃校を利用した練習場にお邪魔しました
天野
日本中が暗いこのごろ…川崎選手のポジティブさを教えてもらいたいです。
川崎選手
あー、僕本当はポジティブじゃないんですよ。昔からずーっとネガティブなんです。
はい、企画がブチ壊れました
川崎選手
いつも「ポジティブな自分になりたかったなあ…」って思ってるんだけど、性格って変わらないですね。
天野
意外すぎます。すごい前向きなイメージがありますけど…
川崎選手
いや、本当はどんな人もポジティブとネガティブを両方持ってるはずでしょ。自分の中の割合をコントロールできればいいと思うんだよね。
最近はようやくバランス取れるようになってきたんだけど…
天野
たしかにそうか…。今はポジティブとネガティブが何対何の割合なんですか?
川崎選手
6:5。
天野
ろ…
川崎選手
6がネガティブで…
…あれ?アッハッハッハ!!!
爆笑されたがおそらく6:4
通訳なしでアメリカに渡って人気者になったのは「ポジティブ思考」だからじゃないの?
天野
でも、通訳をつけずにメジャーに行って、コミュニケーションを取って人気者になってましたよね…!
「ムネリンは超ポジティブ思考だからチームメイトやファンに溶け込めた」って聞いたんですが…
川崎選手
メジャーに行ったときは、「イチローさんと同じチームでプレーしたい」という夢があって、そのためだけに動いてたんです。
だから、マリナーズでチームメイトになれることが決まったときはもう「イチローさんと一緒のチームになった、やったー!!」…
「ヤッタアアアアア!!」
川崎選手
…って思ってたんだけどアメリカ行ってびっくりしたね。
天野
何にですか?
川崎選手
「英語、必要やん」って。
(迫真)
川崎選手
アメリカ着いてから、「オオオオイ! 誰か日本語喋れるやついねえのかよ!」って思いました。
天野
行ってから…!?
川崎選手
そうなのよ!そこから大慌てよ!英語の本買って「アイハブアペン」から勉強したね。
イチローさんと一緒ってことしか考えてなかったから、「え、英語…?」みたいな。
天野
ネガティブになるような知識がそもそもなかったと。
川崎選手
そうそう。でも、英語だろうがアラビアン語だろうが、言葉なんてしょせん方言だと思ってるから(笑)。
しかも、やることは野球。野球にイングリッシュは関係ないのよ。
「川崎選手がイチロー選手から学んだこと」をきいてみたところ…
天野
じゃあ、ちょっと角度を変えて質問します。イチロー選手からメンタルのコントロールについて学んだことってありますか?
川崎選手
ああ、イチローさんもポジティブとネガティブの両方あるはずだけど、彼はそのコントロールがすごくうまいんだよね。
イチロー選手の話になるとやっぱりうれしそう
川崎選手
イチローさんは「ビーフカレーのビーフ抜き」っていうのを食べるんだよね。
ビーフを抜くなら、最初から入れなくていいと思うじゃん?
天野
はい。そのカレーにどんな秘密が…
川崎選手
でも、ビーフを抜くからこそおいしいんだって。
天野
そこから学んだこととは…?
川崎選手
イチローさんは本当においしい食べ方を知ってるってことかな。
天野
おいしい食べ方を…
???
川崎選手
すべてにこだわりがあるんだよね。寿司屋に入ったら、必ず42分で食べ終えてお店を出るんだよ! 握りだけをパンパンパン!って食べて。
マネできないよねえ。
「ネガティブを解決する方法? “解決する”っていうのが違うんだよ」
天野
もう少しこう、川崎さんがネガティブをどう解決していったかみたいな話を聞きたいんですが…
川崎選手
あー、そうじゃないんだよね。
「解決しようとする」のは絶対違う。
お…?
川崎選手
イチロー選手がやってるのは「常に同じ行動をして、波を作らない」ってことだよね。
でも、僕は飽きっぽいからできないなって思った。毎日違うもの食べたい。普通の人は毎日同じ行動するなんてムリでしょ。
だから最近、「マインドフルネス」をやるようになって、それがすごくいい。
天野
あ、聞いたことあります。
川崎選手
マインドフルネスっていうのは、今自分のカラダに起きていることに意識を集中して、浮かんできた考えに身を任せることなの。
たとえば食事のとき、テレビ見ながらパスタ食べてるのは、集中できてない「マインドレスネス」。パスタを食べるならパスタに集中する。
川崎選手
パスタ食べてたら、「おいしい」「こんな味がする」「においがする」…って浮かんでくる自分の気持ちに意識を向ける。
そのうち「あの仕事どうしようかなあ」って、不安や考えごとも浮かんでくる。そんなネガティブな不安と自分を行ったりきたりするんだよ。
いいことでも悪いことでも、自分が今何を考えているかに意識を集中するの。
天野
座禅みたいな感じなんでしょうか?
川崎選手
そこまで堅苦しくないよ、コツさえ覚えればいつでもできるの。
僕はジョギングしたり、温泉でお湯につかったりしながらやってる。スッスッと足を出すことに集中したり、お湯の中で自分の呼吸に集中したりすれば、何も用意しなくてもじゅうぶん。
天野
ふむふむ…それで浮かんできた不安について考えて、解決していくんですか?
川崎選手
いや、考えようとしなくていい。不安は解決しなくていいんです。
ネガティブな自分、「ネガ・ティブリン」は勝手にどんどん出てくるんだけど…
「ああ、出てきやがったな、ネガ・ティブリン」って観察しておくんです。
ネガ・ティブリンが浮かんできた様子を再現してくれています
川崎選手
「来季の契約はどうなるのかな」「肩が痛くて不安だな」っていうネガティブな自分は、そのうち“ニョキニョキ”って大きくなっていくんだけど、ただ置いておけばいいの。
天野
不安を解決しないって、イヤじゃないですか?
川崎選手
イヤだけどしょうがないじゃん、その不安たちも含めて自分だからね。
ネガ・ティブリンはそのうちいなくなることもあるから、戦わずに置いとけばいい。人間関係も同じで、戦うと壊れちゃうんだよ。
ネガ・ティブリンがニョキニョキ大きくなる様子を再現
「25歳ぐらいの人は“会社辞める”と思いながら働いたほうがいい」
天野
ネガティブを解決しちゃいけないって話、面白い…それ、もう少しくわしく教えてください…!
川崎選手
みんなネガティブをなくそうとするんだけど、ネガティブさって武器になるから、そのままでいいんだよね。
僕、プロ野球選手になってすぐに、まわりがうますぎて「あっ、これはムリだ」って思ったの。「クビだわ」って。
川崎選手
クビだと思った瞬間、めちゃくちゃネガティブな覚悟を決めた。「どうせプロの寮に1年しかいられないんだったら、寝るとき以外は練習しよう」ってね。
1年経ったら、川﨑電気工事で働こうって。
「川﨑電気工事」はご実家の電気屋さんらしいです
天野
そこで練習に打ち込めるのが、川崎選手のすごさですね。
川崎選手
いや、それは誰でもできるんだよ。
25歳から30歳ぐらいの会社員の人なら、「仕事を辞める」ってカードを胸に1枚持ちながら働くべきって言いたい。「俺は明日にでも辞めます」っていうカードね。
天野
辞表みたいなことですか?
川崎選手
そうだね。みんな思考停止して、無意識に「続ける」っていうカードだけを持ってない? だから仕事がつらいの。
「いつでも辞められる」って思うだけで、ふわっとモノの見方が変わって、自由に体が動くようになる。思考も動くようになる。
学校も会社も、別に行かなくていい。あなたが辞めたぐらいで、会社つぶれませんから!
天野
ネガティブになると、逆にポジティブに動けるようになると。
川崎選手
それは逆じゃないの。「逆が同じ」ってことなんだよね。
1枚のコインに裏表があるみたいなことでさ。二面性を持って戦うことが大事なんだよね。
川崎選手
今の若い人は仕事にもすごく積極的だよね。
でも、「仕事くださいください!」ってガッつくだけじゃダメで、「ガッついてる割にはふわっとした柔軟性もあるな」っていう二面性が大事。
40~50代の人たちから見て、「こいつ仕事できるな」って人はそういう人なんじゃないかな?
天野
なるほど、二面性か…
川崎選手
僕は、18歳のときに「クビだな」っていうネガティブなカードを手に入れた。
でも、そのネガティブさのおかげで“いつクビでもいい”って覚悟が決まって、人より練習することができた。
そこから21年間も続いてるんだから…そういうことなんだよね。
「まさかの39歳までやらせてもらってるもん」
天野
…「ポジティブじゃない」と言ってた理由が、ようやく理解できてきた気がします。
ただ、川崎選手は昨年は台湾リーグ、今年は独立リーグといろんな不安定な環境にも飛び込んでいくじゃないですか。それはなぜなんですか?
川崎選手
自分の感性を広げたいから。
思考停止して「とりあえず今のまま続ける」っていう選択肢をとるのがイヤなんだよね。「いつでも辞めるカード」を持ちながら、世界中の文化に触れたい。
メジャーでもマイナーでも、台湾でも野球やらせてもらったけど、どんどん違うところでやっていきたいなって思いますね。
天野
感性か…。川崎選手は「ひたすらポジティブな人」っていう印象があったんですが、正直イメージが少し変わりました。
川崎選手
ありがとう(笑)。
僕はすごくネガティブな人間だけど、いろんな場所の野球や文化に触れてわかったのは、大変なことが起きても、しょせん「大変なだけ」ってこと。現状を変えるためにはどんどん動いてみたらいいと思う。
「どんなところに行っても、人はやさしい。どの国に行っても大丈夫だ!」。これを最後に言いたいね!
独特の表現で終始笑いを取りながら、ネガティブならではのポジティブな思考法を教えてくれた川崎選手。
取材後に練習を見学させていただいたのですが、世界を見た男が、練習場となっている小学校の体育館で真摯にトレーニングに励む姿に胸を打たれました…!
コロナウイルスの影響もあり、昨季プレーした台湾に渡れず、急遽独立リーグ入り…。迷いや不安もあるはずなのに、練習に打ち込めるのは、マインドフルネスとネガティブさのおかげなのかもしれません。
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=高橋団(@dangphoto83)〉
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