最初に伝えておきたいんですけど…みんな、ゲイバーにいるような人たちって声枯らしながらマシンガントークすると思ってるでしょう？

でも私、人と話すのが苦手なのよ。

だからIKKOさんがうらやましいの。なにを話しかけられても「どんだけ～！」って返せば盛り上がるでしょ？

プライベートで話す友だちも、数人くらい。

私がほとんど話さないでずっと話を聞いてるもんだから、こじるり（小島瑠璃子）からは「おじいちゃん」って呼ばれてるんですよ。

だから、私がお話しできるのは「コミュニケーション術」というより「コミュニケーションが苦手な人がうまく見せるためのテクニック」かもしれません。

私の経験上、お客さんは100％満足した状態で帰さないほうがリピート率が上がる。

これを、腹八分目戦略って呼んでるんですけど。

たとえば、バーのお客さんが「AかBかどっちがいいか悩んでる」と相談してきたら、なんて答えますか？

それだと1回きりになっちゃうわね。

理解は示すんだけど、100％の答えを与えちゃだめなのよ。「もう少しアドバイスしてほしい」「もっと聞きたかった」と思わせないと。

私ならそうね…悩んでる女子は、泣かせて帰す。男性は、“少し喜ばせて”帰す。そうするとまた来てくれます。

あ、今の返しもだめね。

「わかる～」って手っ取り早い言葉なんですけど、だいたいはとっさの反応として使ってませんか？

その“とっさ感”が相手に伝わっちゃうので、「ちゃんと聞いてもらってる」感じがしないんです。

「聞き上手」になれなくていいから、「聞いてるフリ上手」にならないと。

口数は少なくして、“あなたのことを理解してる”と思わせます。

聞いてるフリをするときは、じっと相手の目を見て、キリのいいタイミングで深くうなずく。

私は話すのが苦手だから、ずっとこの方法で乗り切ってきましたね。

なにより大事なのは、お客さんがお店に来るまでどんな1日を過ごしてきたか汲み取る想像力。

たとえば、秋から冬にかけて急に寒くなった日は多くの女性が外出するんです。どうしてかわかりますか？

朝家を出る時に「今日は冷えますよ」って言われたら、いつもとは違うものを持っていきませんか？

そう。その年初めてコートを着る日、女性は外へ出たがるんですよ。

特におろしたてのコートを着てる日なんてルンルンじゃない。髪も化粧もしっかりして、ちょっと寄り道したい気分になってるんです。

ここまで考えて、そういう日はいつもより多めにハンガーを用意しておくんです。

帰り際はお客さん一人ひとりにコートを着せて、「ありがとうございました」と丁寧に見送る。それだけで「いい日だった」って思えるじゃない。

逆に、ハンガーが足りなかった、かけ方が雑だったとかでお店の印象が悪くなってしまうこともあります。

だから天気をみて、その日のおもてなしを考えるのは毎日やってました。お客さんの細かい心理を想像できるかどうかで、数字って如実に変わるんです。

バーのマスターって最初に「今日は飲んできたんですか？」「何軒目ですか？」って聞くでしょ。あれは、1軒目か2軒目かで、すすめるお酒や話しかける内容を変えるためなんです。

その人がここに来るまでにどんな時間を過ごしてきたのかを考えることって、コミュニケーション力でありマーケティング力なんですよね。

とはいえ、飲食店の業務って接客だけじゃなくて、それ以外もけっこう大変なんです。

私が20代のころに（新宿）二丁目でアルバイトをしていたときは、次の日のお酒を発注するために、明け方クタクタになりながら酒屋に電話をして、晴れの予報だったらビールを多めに発注したりね…

当時は電話やFAXがやるのがメインで、クタクタのなかFAX用紙を1枚ずつ作業したこともありました。あれは地味に面倒ですよね。

もちろんそれも大切な仕事なんですけど、もっとお店やお客さんのことを考えなくちゃいけないとも思ってたんです。だから裏側の仕事は手間に感じていましたね…

へえ～。今ってこんなサービスがあるんですか。

いいですね。こういうサービスをうまく活用して、マニュアルではなく一人ひとりに合わせた接客を考える時間をつくることが大事ですね。

いま、飲食業界は大変な時期ですよね。私「ポジティブに笑顔で頑張ればなんとかなる」みたいな精神論って嫌いだったんです。

でも、外出自粛期間中に近所のお店が、スタッフ同士とにかく明るく、テイクアウトでもなんでもできることからやっているのをみて、効率化できるところはシステムで効率化しつつ、お客さんやお店のこと、スタッフ同士の活気などアナログな部分も考えていくことが大切だと思いましたね。

「希望を持って」なんて私の口からは軽々しく言えないけど、あまり無理はせず、はやく以前のような活気が戻ってくるといいなと思ってます。