ビジネスパーソンインタビュー
サイゼリヤは「料理人の理想郷」
ミシュランシェフが「サイゼリヤは、本場も勝てない“世界一のイタリアン”」と熱弁する理由
新R25編集部
「目黒の星付きイタリアンのオーナーシェフは、サイゼリヤでバイトしながら2億年先の地球を思う。」
このnoteが公開されたとき、目を疑いました。
ミシュランに認められるシェフが「サイゼリヤ」でバイト…?
僕らR25世代にとってサイゼリヤは、初めてイタリア料理を教えてくれた店であり、青春時代のたまり場であり、そして今も疲れたときに「ミラノ風ドリア」を食べにいくオアシスだと思っています(個人の見解)。
目黒にあるミシュラン一つ星レストラン「ラッセ」のオーナーである村山太一さんは、そんなサイゼリヤのことを「料理人の理想郷」と言っています。
今回は村山さんに、なぜサイゼリヤでアルバイトしているのか、そしてサイゼリヤの何がすごいのかを教えてもらいました。
この記事を読み終わったら、間違いなくサイゼリヤに行きたくなるはずです!
(※記事末では、ミシュランシェフである村山さんお墨付きのオススメメニューを教えてもらってます)
〈聞き手=福田啄也(新R25編集部)〉
【村山太一(むらやま・たいち)】1975年、新潟県生まれ。イタリア三ツ星レストラン「ダル・ペスカトーレ」で副料理長としてキッチンを担当したのち、2011年に東京都目黒区に「レストラン ラッセ」をオープン。9年連続でミシュラン一ツ星を獲得している。2017年より「サイゼリヤ 五反田西口店」でアルバイトをしている
サイゼリヤの「エスカルゴ」はどんな高級店でも敵わない
福田
村山さんは恵比寿にあるミシュラン一ツ星レストラン「ラッセ」のオーナーシェフでありながら、「サイゼリヤ」でアルバイトをされています。
正直、ミシュランに認められるような方がサイゼリヤで働く理由がまったくわからないのですが…
村山さん
簡単ですよ。サイゼリヤのほうがおいしい料理を出しているからです。
たとえば「エスカルゴのオーブン焼き」なんかは、どんな高級店でもサイゼリヤには敵いません。
福田
ミシュラン一ツ星の店が味で負けてる!?
僕もサイゼリヤは大好きですけど、それは言いすぎじゃないですか?
村山さん
まったく言いすぎではありません。
我々のような飲食店は、水煮されたエスカルゴをフランスから輸入して調理しているので、どうしても固くて風味が落ちてしまうんです。
一方、サイゼリヤには独自の輸入ルートがあり、ヨーロッパから柔らかくて大粒なエスカルゴを選んで仕入れています。
だから、香り高い高品質のものを提供できているんです。
福田
そうなんですね…
村山さん
それにサイゼリヤは、素材の自社生産もおこなっています。
みなさん、この自社生産のすごさをわかっていませんよね?
福田
よくチェーン店などで「自社生産の素材を使用しています」と書いてあるのを目にしますが、正直「だから何…?」くらいに思ってました。
村山さん
サイゼリヤが牛肉100%のハンバーグを400円というありえない価格で提供できているのも、自分たちで牛肉を生産しているからです。
僕らが同量の肉で一品つくるとしたら、7000円くらいで提供しないと元が取れません。
福田
な、7000円…どうしてそこまで価格の差がついてしまうのでしょう?
村山さん
通常はまず、肉屋さんが農場から牛を仕入れて、それを加工します。それを輸送して飲食店に届けられる。
でも、サイゼリヤはオーストラリアの自社農場があり、そこで自分たちで肉を生産・加工して、そのまま空輸できているんです。
無駄な手数料や運送料がかからないことで、低価格が実現できるんです。
福田
なるほど。
サイゼリヤの料理が安いのは、こう言ってはなんですが「品質がそれなりだから」だと思ってました…
村山さん
いや、むしろ肉屋を経由しない分、移動距離・時間が短くなるので、サイゼリヤの肉は高品質なんです。
高級店の肉と遜色ないはずですよ。
マジか(2回目)。もっとありがたがって食べようと思います…
村山さん
つまり自社生産をしているということは、最高級の素材をお値打ち価格で提供できますよ、というアピールなんです。
それは大規模な資本があって初めて成立すること。
我々のような個人経営の飲食店では、絶対サイゼリヤに勝てないんですよ!
プロの料理人だからこそわかる“サイゼリヤのすごさ”。知らなかった…
サイゼリヤは年商でも世界一のイタリアン。その真髄は徹底した「マニュアル」主義
村山さん
それに、サイゼリヤは売上でも世界一のイタリア料理店です。
サイゼリヤの年商は1268億円。コロナの影響で今年は減益していますが、1000億円を超える規模のイタリアンチェーンは本場イタリアにも存在しません。
福田
おお…! それはやっぱり「コスパのよさ」が理由なのでしょうか?
村山さん
そうですね。
それを実現できているのは、サイゼリヤスタッフの生産性の高さにあります。
僕の見積もりだと、高級イタリアンに必要なスタッフの数はおよそ2席に1人。
一方僕がバイトしている「サイゼリヤ 五反田西口店」は、160席に対してスタッフの数は6人しかいません。
入ったときは「6人で店を回すなんて絶対ムリだろ!!」と思ってました。
福田
1人あたり26席も見ないといけないのか…そう聞くと人員が足りてないように感じますね。
村山さん
でも、サイゼリヤのオペレーションだと、それが可能になってしまうんです。
たとえば料理提供の簡略化。
有名な話ですが、サイゼリヤのキッチンでは包丁を使いません。
すべて下処理済みの材料が店に届くので、料理人はパスタを茹でたりグリルで温めたり、カットされたサラダを盛り付ける程度です。
だから注文されてからすぐにメニューを提供できます。
福田
確かにサイゼリヤで「料理遅いなあ」と思ったことないですね。
村山さん
そして、もっとも生産性につながっているのが「マニュアル」の存在です。
サイゼリヤのマニュアルには、サーブのときにどこに水を置くのか、お皿やグラスを下げるときに何をどっちの手で持つか、など細かく定められています。
福田
そんなところまで決まっているんですね…
村山さん
すべては作業効率を上げるためです。
マニュアルには、時間帯ごとの従業員の肉体疲労度も記録してあり、従業員が一度に持てる皿の重量まで定められています。
そのマニュアルにのっとることで、少人数のスタッフでホールを回せるし、高校生2人のキッチンスタッフでも1日2000皿のメニューを提供できるんですよ。
1日2000皿ってすごいな
村山さん
サイゼリヤの正垣(泰彦)会長は、創業時からこのマニュアルづくりに注力してきました。
20年かけてマニュアルを作り込んでいったそうです。
福田
20年も…なぜそんな時間がかかったのでしょう?
村山さん
正垣会長は、「サイゼリヤを1000店舗以上にするため」にずっと準備していたんです。
1~3店舗くらいだとマニュアルを作り込む必要はないのですが、10店舗以上になってくると、同じマニュアルが通用しなくなります。
会長は少しづつテスト店舗を出し、「郊外の店はどう動くべきか」「駅前の店舗のピークタイムは?」みたいなパターンを蓄積していきました。
20年かけてマニュアルを完成させ、現在は国内外含めて1500店舗を経営しています。
そんなマネができるイタリア料理店は世界にも存在しないんですよ!
味よし、コスパよしのサイゼリヤがあれば、高級店に行かなくてもいいのでは?
福田
サイゼリヤのすごさはわかりました。
ただ、ここまでの話を聞くと、逆にミシュランに認められるような高級店に行く理由がなくなってしまうような気がしますが…
(この質問をするときが一番ドキドキしました)
村山さん
高級イタリアンが提供しているのは料理だけではなく、お客さまの心を豊かにする時間と空間です。
ディズニーランドの掃除スタッフと同じですよ。
彼らはゲストの方に対して、手品やダンスといったパフォーマンスするじゃないですか。正直、ゴミを拾うだけでいいのに、演出でゲストの心を豊かにする。
福田
とにかく効率を追求するサイゼリヤとは真逆の哲学ですね。
村山さん
サイゼリヤでそんなことをやったらすぐに改善されるでしょうね!(笑)
たとえば、「ラッセ」のワインクーラーなんて人間国宝に作ってもらっているんですよ。
福田
おお…
これがワインクーラー。うまく表現できる言葉が見つからず、陳腐なリアクションとなってしまいました(スミマセン)
村山さん
サイゼリヤがお客さんに提供する価値は「安さ以上のおいしさ」。
一方で高級店が提供する価値は「体験」なんです。
スタッフの所作やサービス、リラックスできる空間。料理の味はもちろん、そういった付加価値を求めるなら、ぜひミシュランが認めた店に行ってみてください。
「料理人の理想郷」はフラットな職場環境にあった
福田
村山さんがサイゼリヤでアルバイトを始めたことで、自分のお店にどんな変化が起こったんですか?
村山さん
僕自身の身の振り方がガラッと変わりました。
それまでの僕は「完コピハラスメント」だったんですよね。
福田
完コピハラスメント?
村山さん
料理人の世界では、「教えない」というのが当たり前でした。
料理人として弟子入りしたら、とにかく先輩の動きを見てそれをマネしていく。僕も四六時中、料理長の動きを観察していました。
イタリアの三ツ星レストラン「ダル・ペスカトーレ」にいたときも同じ。オーナーであるナディアの瞬きや呼吸する回数まで記録していました。
さらっととんでもないこと言うな…
村山さん
一流の人を完コピすることは、人を圧倒的に成長させます。
だから、僕も自分の店でスタッフにそれを強要していたんです。「俺の一挙手一投足をすべて見て、マネしろ」と。
塩の置き場所を1センチずらしただけでも怒ってました。
福田
それは厳しいな…でもきっと自分ができていたからこそ、まわりにも期待していたんでしょうね…
村山さん
そうです。でも、次第にスタッフは僕に怯えるようになり、みんなあっという間に辞めていきました。
ある朝店に行ったらドアに辞表が挟まっていた、なんてこともあったんです。
村山さん
そのときに「俺は間違っていたんじゃないか?」と立ち止まり、これまでの自分のやり方を変えようとサイゼリヤでアルバイトすることにしたんです。
サイゼリヤの世界は、料理人からしたら理想郷なんですよ。
福田
そういう理由だったんですね…!
理想郷というと、どんなところがですか?
村山さん
サイゼリヤのアルバイトには上下関係がなく、みんなフラットなんですよね。
高校生がバイトリーダーを務めていて、入ったばかりの僕に対しても丁寧に仕事を教えてくれる。
モタモタしているスタッフがいても、積極的に助けようとする。
そんな優しい空間だったんです。
福田
厳しい料理人の世界とはまったく違ったと。
村山さん
そうです。
サイゼリヤのスタッフからは、「もっとお店をこうしたらいいのに」というアイデアがどんどん生まれています。それは肩書きがなく、全員に責任が与えられているから。
アルバイト初日の夜、これまで「黙ってオレの言うことを聞いていればいいんだ」というスタイルだったことを大きく反省しましたね。
村山さん
サイゼリヤの基本理念は「人のため 正しく 仲良く」。その基本理念がアルバイトにまで
浸透していて、みんな幸せそうに働いている。それで生産性も売上も高い。
福田
改めて聞くと、サイゼリヤって最高の環境だな…
村山さん
僕もすぐに「人のため 正しく 仲良く」の精神を店に取り入れました。
これまで当たり前だった上下関係を取り払って、新しく入った人には丁寧に仕事を教える。
どうやったらスタッフが幸せに働けるかを追求し、労働時間も半分程度に抑えました。
するとスタッフはどんどん職場が好きになって、サイゼリヤのアルバイトのように自主的に動いてくれるようになったんです。
福田
おお!
村山さん
結果として、スタッフ一人あたりの年間売上が2.5倍に成長した。
もし僕がサイゼリヤで働かなかったら、「ラッセ」はもう潰れていたかもしれません。
福田
すごいサクセスストーリーだ。
今度、ぜひ「ラッセ」にご飯を食べにいかせてください!
【おまけ】ミシュランシェフが教える至高の「サイゼリヤ」メニュー
福田
今日はありがとうございました。
最後に、村山さんオススメのサイゼリヤメニューを教えてほしいです!
村山さん
「パルマ風スパゲッティ(トマト味)」は、イタリアでも食べられないくらい高クオリティです。
トマトソースがとにかくうまい。
村山さん
これに唐辛子と粉チーズをドバっとかけて、最後にオリーブオイルをかけます。
それを思いっきりかきこむのが最高なんですよ!
福田
やばい、もう食べたくなってきた。話を聞くだけでうまいってわかる。
村山さん
パスタを食べおわったら、「プチフォッカ」にソースを付けて食べてください。
サイゼリヤのフォカッチャの生地は、イタリアで出されるものより、はるかに質の高い発酵の過程を経ています。
プロがこの「プチフォッカ」の断面を見たら、「これは絶対マネできないな…」って思うはずです。
「パルマ風スパゲッティ」を頼んだら、ぜひ一緒に注文してみてください!
はっきり言います。サイゼリヤのことを舐めてました。
いつ行っても“安くておいしい”イタリアンが食べられるのは、効率化を追求した企業努力の賜物だったとは…。
今回、村山さんが語ってくれたサイゼリヤのすごさはほんの一部。
著書『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか?』のなかには、サイゼリヤの超効率的な店舗改善や、村山さんが考えるビジネスパーソンが圧倒的に成長できる「マヨネーズ理論」についても書かれてます。
もっとサイゼリヤの経営について知りたいという方は、こちらもチェックしてみてください!
〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/撮影=森カズシゲ〉
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