ビジネスパーソンインタビュー

大切なのは制度じゃない。佐々木俊尚×曽山哲人が考える「病気と仕事を両立させる社会のつくりかた」

“シック”と“ワーク”、両立できるもの?

大切なのは制度じゃない。佐々木俊尚×曽山哲人が考える「病気と仕事を両立させる社会のつくりかた」

新R25編集部

Sponsored by ヤンセンファーマ株式会社

2020/12/04

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働く人の3分の1が病気と付き合いながら仕事をしている(※1)という事実があることをご存じでしたか?

この国に、『ワークシックバランス』という考え方を。

これは、ヤンセンファーマ株式会社が展開する「IBDとはたらくプロジェクト」が打ち出したメッセージです。

昨今、“ワークライフバランス”という言葉はよく使われていますが、“ワークシックバランス”は聞き慣れません。

そして、「“ワーク”と“シック”は両立しない」と考えている人も多いのではないでしょうか?

今回は、IBD(炎症性腸疾患)(※2)の一つである潰瘍性大腸炎を抱えながら自分らしい働きかたを実現してきたジャーナリストの佐々木俊尚さんと、サイバーエージェント常務執行役員 人事統括である曽山哲人さんに「ワークシックバランスを実現するには」というテーマで話を伺うことに。

ここまで読んで、「自分は病気じゃない」「まわりに病気の人がいないから関係ない」と感じた方がいたら…ぜひ読み進めてもらいたいです。

※1 厚生労働省「平成25年度国民生活基礎調査」
※2 IBDとは
Inflammatory Bowel Disease(炎症性腸疾患)の略。腸に炎症が起こる疾患の総称。免疫の異常によって起こると考えられているクローン病と潰瘍性大腸炎の2つを総称することも多い。
IBD(炎症性腸疾患)基本情報|IBD LIFE
より

重要なのは、“制度”ではなく“文化”をつくること

曽山さん

佐々木さんは、潰瘍性大腸炎と仕事の両立はどうされていたんですか?

佐々木さん

僕は会社員時代に潰瘍性大腸炎を発症したのですが、会社には最後まで病気のことを話しませんでしたね。

佐々木さん

潰瘍性大腸炎は、症状のない時期である寛解(かんかい)と症状がでている時期である再燃を繰り返すのが特徴で、寛解時は健康な人と同じように働けるんです。

これがなかなか理解されないので、「病気である」と言った瞬間に病人扱いされてしまったり、異動させられてしまったりすることが不安だったんですよね。

曽山さん

なるほど…。実は僕も、以前会社に腰のヘルニアであることを隠してたんですよ。

「同じですね!!」取材開始早々、共通点が発覚しました

曽山さん

数年前、症状が悪化したことをきっかけに役員陣に打ち明けたところ、「ヘルニアと付き合いながら働く方法を考えよう」と言ってもらえて、すごく気が楽になりました。

この原体験から、言ったほうが楽だとわかっているんですけど、当事者に向かって「とりあえず打ち明けよう」なんて簡単にアドバイスできないなと。     

その前に、“言える雰囲気を組織が作る”ことが経営マネジメントとしてすごく大事だと思うようになりました。

佐々木さん

そういうときって「病気の人も働き続けられる制度を整えよう」となりがちじゃないですか。

でも当事者からすると「制度に申請したら陰でなにか言われるかもしれない」と考えてしまって、結果行動できないので、制度が形骸化してしまう。

それより、風土や文化といった不定形なものが大切だと思うんですよね。

曽山さん

まさにそうですね。僕はいつも、「風土や文化をつくりたいときは事例を増やそう」と言ってるんです。

たとえば、病気と付き合いながら働いている人や、子育てをしながら働いている社員がいるといった、多様な事例を積み上げていくことこそ、もっとも価値があると思うんですよね。

サイバーエージェントが実践する「多様性を認める文化のつくりかた」とは

佐々木さん

事例をつくるといっても、まわりに自分のことを打ち明けられる文化が育っていないと難しいですよね。

サイバーエージェントではどのようにしているんですか?

曽山さん

まずは、一対一の信頼関係をつくることが大事だと考えています

たとえば、月に一度、上司と部下が1on1でキャリアや気になることを話す時間を推奨していたり、全社員に毎月「自分の成果やパフォーマンス」「チームのコンディション」「ミッションや目標」の3つの状態を、“お天気マーク”で入力してもらうアンケートも実施していますね。

曽山さん

その内容を見ることができるのは役員と人事のみなんですが…

任意で記入できるコメント欄が一番下にあって、毎月1000件ぐらいはコメントがくるんですよ。

「先月こんな受注をしたのでアピールします」とか「キャリアに悩んでいるので相談したい」とか。ときどき、「体調面での相談がしたい」というコメントもあるんです。

佐々木さん

当事者からすると、普段働いている同僚から過剰に声をかけられたくないんですよね。

潰瘍性大腸炎の場合、1日に20回以上トイレに行くので、端からみても様子がおかしいのは明らか…。そこで「何の病気なの?」と聞かれても、説明するのは嫌だし恥ずかしいですよね。

でも一方で、知っておいてほしいというジレンマもあるんです。

曽山さん

僕たちは、本人が相談に来た場合「どこまで広めたいか」をすりあわせています。

「秘密にしてほしい」という場合は人事だけで止めておきますし、上司やまわりに伝える場合は「こういうときは放っておいてOK、こういうときは声をかけてほしい」など、必ず条件とアクションのリクエストを聞くんです

そのうえで、周囲の人に伝えるときは、病気という“事実”だけでなく、どうすべきかという“アクション”まで伝えるようにしています。

佐々木さん

アクションまで指示するというのはいいですね。

人事から直属の上司に伝えてもらって、「何かの病気だから気を遣ってあげよう」くらいの薄い認識と、接し方が社内で共有されているだけで安心して働けますから。

曽山さん

「リクエストを聞くこと」の反対って、「制度に当てはめること」なんですよね

こういうときは、制度を前提にするのではなく、寄り添うことが大事なんです。

曽山さん

病気だけでなく、その人が持っているマイノリティ性を周囲の人が本当の意味で理解するのは難しい。

それなら分からないことを認めて、自分がとるべきアクションを知っておくことが一番の配慮だと思っています。

社会全体が“AND思考”になることで、多くの人が生きやすくなる

曽山さん

僕は今回、“ワークシックバランス”という言葉を初めて聞いたんですけど、これは盲点だったなと。

“ワーク”と“シック”の二項対立って、シンプルだけど芯をとらえた言葉ですよね

そもそも、“シックはあるものだ”という前提を明確にしたことは、社会的意義のある発信だと思います。

佐々木さん

なんなら、“全員が病人である”ぐらいの認識でもいいと思ってるんですよね

僕は、毎日運動もしていますし、栄養バランスを考えて食事も自炊している。寛解時は、病気なのに健康という不思議な状態なんですよ。

佐々木さん

つまり、健康/不健康と区別するのではなく、グレーな領域が存在していることが本質だと思うんです。

でも、日本人って中途半端が苦手なのか、白黒はっきりさせたがる。

そうではなくて、「グレーでいいんだ」と思える社会に変化していけば、あらゆる人がもっと楽に生きられると思うんです

曽山さん

『ビジョナリーカンパニー』という本のなかで、「永続的に伸びる会社は“AND思考”、ダメな会社は“ORの抑圧”」と言われていて。

トレードオフと思われていることを両立させる方法を考えられるのが、強い会社の条件なんですよね。

曽山さん

今回の話も同じで、「“病気”か“仕事”」ではなく、「病気と付き合いながら仕事をする方法」を考えられる人や会社の価値が、これからどんどん上がってくると思いましたね。

優秀な人の共通点とは、「弱みの自己認識が高いこと」

佐々木さん

今は、「IBDとはたらくプロジェクト」が展開している「リモートワーキングロボットプロジェクト」のように、病気をサポートしていくためのテクノロジーもどんどん発達していますよね。

佐々木さん

こういったテクノロジーを活用することで、病気を抱えた人がチャレンジできる幅も広がると思うんです。

曽山さん

自分の弱い部分を補完できるツールになりますから、テクノロジーのトレンドをチェックしておくことは大事ですよね。

佐々木さん

ジャーナリストとしていろんな方に取材していて感じるんですが、病気や身体に限らず、能力や性格、いろいろなところに、誰しも欠落した部分があるじゃないですか

佐々木さん

これまで何度もみてきたのが、優秀な技術者と優秀な営業マンで会社をつくって、どんどん人数も増えていったのに、マネジメント能力を持つ人を外部から雇うことを避けて失敗してしまうケース。

でもうまくいく会社は「CEOは外から連れてこよう」と切り替えられるんです。

つまり、自分の欠落をどう埋めるのかを常に考えられる人が、本当に強い人なんだなと。

曽山さん

僕も、優秀な人の共通点って「弱みの自己認識が高いこと」だと思うんですよ

藤田(晋。サイバーエージェント代表取締役)はまさにそうで、どんどん若手社員に権限移譲する。

それは、自分が無敵だと思わずに「できないことは任せたほうが結果が出る」と割り切れているからなんですよね。

曽山さん

もし病気を抱えていても、弱みを補完しようと治療しながら働いていたり、そのときの自分にあったポジションをみつけたりしていくことが大事。

自分の弱さと前向きに向き合えた人には、必ずチャンスがくると思うんです。

佐々木さん

僕は、10年以上潰瘍性大腸炎と付き合ってきましたが、「周囲に相談したほうがいい」と簡単には言えません。

だけど、友人でも家族でも職場でも、しんどいことを話せる相手を1人つくっておくだけで、気持ちの面で救われることは多いと思っています。

曽山さん

相談先が増えることで、選択肢が広がると思うんですよね。

職場での相談は上司だけでなく、人事もいることを知ってもらえたらうれしいです。

「IBDとはたらくプロジェクト」とは?

ヤンセンファーマ株式会社では、革新的な薬剤の提供のみならず、患者さんに寄り添い、より充実した生活を送るための課題に向き合う「Beyond the Pills(薬剤を超えて)」という概念を大切にしています。

その一環として、IBD領域では、職場の理解や配慮を得ながら働き続けることが困難な状況に一石を投じるべく立ち上げたのが、「IBDとはたらくプロジェクト」です。

IBDを抱えながらも「自分らしくはたらく」ことが社会の中でもっと当たり前になることをミッションに、さまざまな取り組みを展開しています。

※ここで話された内容は、佐々木さんの個人的な経験に基づいたコメントです。すべての潰瘍性大腸炎の方にあてはまるわけではありません

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