「学歴があっても仕事ができない人」がいる理由も…
「学校は“自分が頑張れるもの”を模索できる」高学歴芸人たかまつななに“勉強する意味”を聞いた
新R25編集部
「今どき大学に進学したって意味はない!」
「学校の勉強なんか社会に出ても何の役にも立たない!」
そんな、「学校で勉強をすること」への懐疑的な意見を耳にすること、ときどきありますよね。それなりに勉強を頑張ってきた身としては、「そんなことない!」と言いたい反面、少しわかるような気がしちゃうのも正直なところ。
ほんとうに勉強って、必要なんだろうか…?
今回はそんな疑問を、全国の学校や企業に面白くて分かりやすい授業をお届けする「株式会社笑下村塾」を設立したお笑い芸人・たかまつななさんにぶつけてきました。
ご自身も慶應義塾大学を卒業後、慶應義塾大学大学院、東京大学大学院情報学環教育部に同時在学されている超高学歴なお方ですが、そんなたかまつさんが語る「学校で勉強をしたほうがいい理由」…思いがけず深イイお話でした。
〈聞き手=サノトモキ〉
【たかまつなな】1993年生まれのお笑いタレント。株式会社笑下村塾(しょうかそんじゅく)創業者・取締役・元代表取締役社長。お笑いジャーナリスト、時事YouTuber、番組プロデューサー、コンサルタントとしても幅広く活動中。著書に『政治の絵本』がある
たかまつさん
「勉強をしたほうがいい理由」、か…
サノ
え、なんかまずかったでしょうか…?
たかまつさん
いや私、勉強超嫌いだったんですよね…
え?
たかまつさん
私もともと生粋のスポーツ少女で、小学生のころは、将来サッカー選手になるのが夢だったんですよ。
サノ
そうだったんですか!?
たかまつさん
横浜F・マリノスの女子チームとかに入って練習したりしてましたから。
当時は福島に「JFAアカデミー福島」っていう日本初のサッカー選手を育成するアカデミーができたばかりで、私はそこに入りたかったんですよ。でも親に「野蛮だ」って猛反対されて。
そこから週6で塾に通わされて、小6の冬休み明けは小学校をずっと休んで1日16時間くらい勉強して、フェリス女学院中学校に入学したんです。
1日16時間…!?
たかまつさん
そんな感じだったから、入学後の中高6年間の勉強はまわりが優秀すぎて…英語なんかはずっとビリだったし、もう本当にイヤでしかなかったんですよね。
「テスト85点だったの…」って引きこもっちゃう子がいたんですけど、「え~私30点なんだけどな~…」みたいな。
サノ
そんな環境で6年も…僕なら確実に心折れます…
たかまつさん
だから、今日お話しすることは、そんな勉強嫌いだった私でも「勉強してよかった」と思えたことなので、それなりに納得感あると思います(笑)。
頼もしい…よろしくお願いします!
「学歴」は“全アトラクション対象のファストパスチケット”。ただし、みんながみんな手に入れなくてもいい
たかまつさん
「勉強したほうがいい理由」として、まずわかりやすいところからいくと「学歴」の恩恵を受けられることですよね。
学歴って、言ってみれば全アトラクション対象のファストパスチケットみたいなものなんですよ。
ファストパスって、あの…?
たかまつさん
某遊園地では、ファストパスがあると列に並ばずに優先的にアトラクションに乗せてもらえますけど…
社会という巨大な遊園地においては、「学歴」というチケットが1枚あるだけで、優先的に通してもらえる場所がめちゃくちゃ増えるんですよ。
就活イベントのサイトでも、普通の学生は「残り席数ぜロ」って表示されるのに、有名大学の学生がアクセスすると「残数あり」って表示される…みたいな話、よく聞きません?
サノ
はい。就活時代にブチ切れた記憶があります。
たかまつさん
正直おかしな話ですけど、たった一つのラベリングだけで幅広く歓迎してもらえるチケットって、「学歴」くらいしかないんですよ。
しかも誰もに開かれていて、毎年何万人と手に入れられるので、入手しやすいですし。
だから、自分の夢とか、これといって熱中したいものがない人はとりあえず手に入れておいたほうがいいと思います。
「逆をいえば…」
たかまつさん
自分のやりたいことが決まってる人は、「学歴」を目的に勉強する必要はまったくないと思います。
乗りたいアトラクションが決まってるのに、わざわざ全アトラクション対象のファストパスを取っても意味ないので。
将来をしっかり見据えて専門学校に入学した人とかも、学歴なんて一切気にする必要ないと思う。
サノ
あくまで、「やりたいこと」が見つかっていない人が「学歴」というファストパスを取っておけばいいと。
じゃあやっぱり、サッカー選手とかYouTuberとか、将来やりたいことが明確に決まってる人は勉強する必要はないんですかね?
たかまつさん
いや、そういう子は「学歴を目的に」勉強する必要はないよ、という話です。
個人的には、やりたいことが決まってる人こそ学校の授業はちゃんと受けたほうがいいと思ってます。
やりたいことが本当に自分に「向いていること」かどうか、それを確かめられるのが学校なので。
学校は、「自分が何を頑張れるか」を見極められる場所
たかまつさん
子どもって単純だから、「そのとき得意なこと」が好きなんですよ。
でも、「いま得意なこと=向いている」というのは、けっこう危ない考え方だと思うんですよね。
たかまつさん
サノさん、就活で会社とか職種を選ぶとき、何を軸に考えてました?
サノ
えっ…なんだろう。
それこそ「得意なこと」だった気がします。ゲームが好きで、人と話すのが得意だから、ゲーム会社の営業が向いてるのかなとか。
たかまつさん
ですよね? みんなそうやって一時的な「得意」を絡めて考えがちですけど、それってすごく短期的で後悔することも多い視点だと思うんです。
その人の向いてるものって、結局「頑張りつづけられるもの」なんですよ。
たかまつさん
たとえば私は、子どものころ、まわりより走るのが速かったんです。でも、走る練習するのは全然楽しくなくて、あまり打ち込めなかった。
一方で、サッカーはそんなに得意じゃなかったのに、壁打ち練習してるときは走ってるときより断然面白かったんですね。
長期的に見れば、そういう人はやっぱり陸上選手じゃなくてサッカー選手を目指したほうがいいと思うんですよ。
サノ
たしかに僕も、就活のときは「営業は得意」と思ってたのに結局全然続かなかったな…
たかまつさん
仕事って何十年も続けていくものだから、「続けられるかどうか」を軸に考えるべきなんですよね。どれだけ得意なことでも、どれだけ給料がよくても、続けられなければ意味ないので。
だから、自分が何なら頑張るのが苦じゃないのか、社会に出る前に知っておくべきなんです。
なるほどな…
たかまつさん
そう考えたときに、学校って「自分がいま得意じゃないことを頑張らなきゃいけない機会」がいっぱいありますね。よくもわるくも、食わず嫌いができない。
学校ほど「自分は何なら頑張れるのか」を幅広く模索できる環境ってないんですよ。
サノ
たしかに…! これはめちゃくちゃ納得感ある。
たかまつさん
「スタート地点で他の人より劣っていても向いてること」って絶対あると思うんです。
始めたときの差なんてどんぐりの背比べでしかない。最終的にはそれと「長い時間向き合える人」が圧倒的に追い越していくんですよ。
学校というのは、「何をしてるときが自分の本質に近いのか」を子ども時代にじっくり試すことができる、めちゃくちゃ貴重な場所なんですよね。
「スタート地点で他の人より劣っていても向いてることって絶対ある」。全スロースターターの心を救ってくれる言葉だ…
「勉強」は、「転用する力」とセットになってないと意味がない
たかまつさん
ただ、勉強したことによってダメな人間になっちゃう人っていうのも、残念ながら一定数いるんですよね~。
東大なんてほとんどそうじゃないすか?
東大大学院にいる人を目の前にしては答えづらすぎる
たかまつさん
会社を経営してるとよくわかるんですけど、「学歴」だけを目的に勉強してきた人って仕事できない人けっこう多いんですよ。
“高学歴”であることのプライドが邪魔して、雑用みたいな小さな仕事をやりたがらないし、基本自分の手を動かそうとしない。
「自分なんて…」って謙虚に何でもやる子がガンガン打席に立って高学歴を抜き去っていく場面、たくさん見ますから。
※たかまつさんは出張授業や研修などをおこなう会社・笑下村塾を起業されています
サノ
たしかにちょっとわかるかも…
たかまつさん
で、そういう有名大に入ることが目的の学歴至上主義の人にかぎって、「学校の勉強なんて何の役にも立たない」とか言ったりするんですよね。
それはその人に「転用する力」がないだけ。勉強して身についた思考力や教養が社会で役に立つ場面なんて、本当はいっぱいありますよ。
たかまつさん
それこそ、お笑いの世界でも第一線で活躍してる人にも、「勉強」の大切さを口にする人いっぱいいます。
サノ
どなたですか?
たかまつさん
たとえば、南海キャンディーズの山里さんとかオードリーの若林さんは、政治や社会問題のことを勉強し直すために、大人になってから家庭教師をつけてるし…
ロンブーの淳さんも40代になってから大学院で勉強してますよね。
あと、これは噂で聞いたんですけど、あのビートたけしさんも「芸人になるには中学校の教科書を読み直すべきだ」と言ってめちゃくちゃ教科書を読み直したらしいんですよ!
サノ
へええー!!!
たかまつさん
学生時代の勉強は、「転用する力」…つまり「この学問はこういう形で自分の仕事に活かせるに違いない」という視点があればどんどん真価を発揮するんです。
でも、「勉強」の価値を「学歴」にしか見出していない人は、いつまでもその力が伸びない。その結果、「学歴はあるのに、こんなこともできないんだ…」と言われる人になっちゃうわけです。
「せっかく勉強したのに、もったいないですよねえ…」
勉強って、諸刃の剣だとも思う
サノ
今日はありがとうございました!
新しい気づきもありつつ、改めて勉強ってやっぱり大事なんだなって思えた気がし…
たかまつさん
あっ最後に一ついいですか。
これは絶対記事にも入れてほしいんですけど…勉強って自分を救いもするけど、ときに自分を追い詰める諸刃の剣にもなるから、逃げるときは迷わず逃げていいってことは言っておきたくて。
たかまつさん
たとえば、勉強ってイジメられてる子の救いになることもあると思うんです。
それこそ、迫害でいろいろなものを奪われた歴史を持つユダヤ人は、「学びは裏切らない一生の財産だ」という格言を言い聞かせて子どもを育てるらしいんですけど…
たしかに学校の友達に裏切られても、勉強したことは絶対将来の自分につながっていくから、心のよりどころになる側面もあると思うんですね。
サノ
はい。
たかまつさん
でも、受験への不安とか親からのプレッシャーで心が潰れちゃう子も、ホントにいっぱいいるので。
私もいま中高思い出すと、やっぱり辛かったですもんね。槍ヶ岳の山頂から飛び降りるかみたいなことが頭をよぎったこともあったし。
たかまつさん
勉強で苦しくなってる人は、勉強を頑張るためにも他のことも頑張ったほうがいい。勉強以外の時間や居場所を、絶対に作ったほうがいい。
私も「お笑い」という勉強とは対極の居場所に、本当に助けられたので。
親とか友達とか、勉強のことしか頭にない人たちに24時間囲まれてたらホント辛いと思う。
サノ
自分のために勉強しているのに、辛さに押しつぶされちゃったら元も子もないもんな…
たかまつさん
他の居場所を作ってもダメだったら、逃げ出していいと思う。
違法ドラッグを辞めたいって人が、まわりの知人が全員やってたらまず辞められないと思うんですよ。まずはとにかく、そこから離れることが大事。
たかまつさん
逃げることは、決して悪いことじゃないので。
幸せになるために環境を変える力って、社会に出たら学歴に負けないくらい大切な力だと思います。
そういう選択肢も頭に入れたうえで、自分にできるペースで勉強を頑張ってほしいですね!
「勉強をしたほうがいい理由」だけでなく、勉強との向き合い方まで真剣に語ってくれたたかまつさん。
「どうして勉強しなくちゃいけないの?」
いつか子どもにそんな質問をされたとき、答えるべきことが少しわかった気がします。
勉強した時間を活かすも殺すも自分次第。みなさんもぜひ、勉強から「転用」していること、探してみてはいかがでしょうか?
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
勉強の大切さと説くたかまつさんが創設した「クイズサロン」がこちら!
“大人になっても学び続ける場”として、たかまつななが創設したクイズサロン「クイズアカデミー」。
定期的に集まり、クイズを楽しみながら教養や様々なジャンルの知識を身に着けることができるとのこと。気になった方はぜひチェックしてみてください!
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