ビジネスパーソンインタビュー
僕には「繊細さん」がわからなかったんです。
美談じゃなくて、生きるために必要だった。しくじりを経て、中田敦彦がたどり着いた“優しさ”
新R25編集部
芸人、アーティスト、YouTuberと、活躍の場を変えて何度もブレイクしてきたオリエンタルラジオの中田敦彦さん。
8月に発売された新著『幸福論 「しくじり」の哲学』では、「成功」や「強さ」を求めてきたこれまでのキャリアについてつづられています。
傷だらけになりながらも戦ってきた中田さんの姿勢に勇気をもらえる同書ですが、そのなかには、
「成功としくじりを繰り返す、終わらない祭り。でも、大切なことを見落としているのかもしれない」
「強くなれば、成功すれば、幸福になれるのか?」
と、自身のあり方に迷いを感じられる一節も…。
新R25では今回、YouTube動画の収録やオンラインサロン運営で多忙を極める中田さんに特別インタビューを敢行。
自身に大きな影響を与えたオンラインサロンでの出来事について語ってもらいました。
〈聞き手=渡辺将基(新R25編集長)〉
【中田敦彦(なかた・あつひこ)】1982年生まれ、大阪府出身。慶應義塾大学在学中に藤森慎吾とお笑いコンビ「オリエンタルラジオ」を結成し、2004年にNSC(吉本総合芸能学院)へ。同年、リズムネタ「武勇伝」でM-1グランプリ準決勝に進出してブレイクし、バラエティ番組を中心に活躍する。2016年には音楽ユニット「RADIO FISH」の楽曲「PERFECT HUMAN」を大ヒットに導き、NHK紅白歌合戦にも出場。2018年には自身のオンラインサロン「PROGRESS」やアパレルブランド「幸福洗脳」を立ち上げ。2019年に開設したYouTubeチャンネル「中田敦彦のYouTube大学」は登録者数300万人を突破した。現在は「中田敦彦のトーク- NAKATA TALKS」「NAKATA WORLD」なども運営している
オンラインサロンを始めて“優しさ”の必要性に気づいた
渡辺
中田さんは一匹狼的な形で活動されているイメージがある一方、人を巻き込まないとできないこともたくさんやられているじゃないですか。
なので、人間関係で失敗をしていたり、学んだりしたことがあるんじゃないかと思ってまして。
中田さん
もちろんたくさんあります。
特にオンラインサロンの活動では、人間関係についてたくさん勉強になりましたね。
オンラインサロンはメンバーとの距離が近いし、僕に直接的にお金を払ってるお客さんだから、ここに背を向けるわけにはいかない。
そういう集団をまとめるのって、めちゃくちゃ人を磨くんですよ。
渡辺
中田さんのオンラインサロンは、今3000人もいますもんね。
中田さん
僕はもともと、オンラインサロンに入る人たちって「強い人たち」だと思っていました。
堀江さんとか西野さんのサロンをベンチマークにして追いかけてきたこともあって、「秒で動け!」とかマッチョなメッセージを伝えてたんですけど…
人間はそんなに強くないってわかったんです。
渡辺
具体的にどんな問題が出てきたんですか?
中田さん
単純に人が辞めていきましたね。
渡辺
「もうついていけない」と。
中田さん
そうです。「私みたいな人間でスイマセン…」って言いながら、こぼれ落ちていくんですよ(笑)。
そうやって会員数が頭打ちになってきた状況で、サロンのなかから「改革が必要なんじゃないか」って声が出てきました。
そこでかなり意見を聞いて、いろんなことを見直しましたね。
渡辺
何を変えたんですか?
中田さん
まず、僕自身のスタンスを根本から変えました。
ここから先に進むには、優しくなきゃいけない。
「強さ」は絶対に必要なんですけど、「優しさ」を兼ね備えてなきゃいけなくて。
渡辺
まさに今回出版された『幸福論』にも書いてましたね。
「強く優しい人になる」と。
中田さん
優しくて弱い人って、いっぱいいるんですよ。「ごめんなさい。私のせいでここの空気よどんでませんか…?」みたいな人。
その一方で、強い人もいますよね。「秒で動け!」「わかんないんだったらググれ!」っていう。
渡辺
堀江さんとか、まさにそんな感じですね。
中田さん
そうですね(笑)。
ただ、そういう人って実は全体の1割くらいしかいなくて。残りの9割の人が、優しくて弱い人だったんです。
もっといろんな人に自分の話を聞いてもらいたかったら、この9割の人を大事にしなきゃいけない。
『幸福論』という本は、そこへの宣言なんですよね。
渡辺
その話で言うと、中田さんのYouTubeで『繊細さん』という本を紹介した動画の再生回数がすごく伸びているのを見て、「みんな繊細なんだな」と思いました。
中田さん
そうなんですよ。
「繊細さん」のほかにも、「山奥ニート」とか「がんばらない働き方」みたいな本を紹介した回がすごく再生されています。
みんな、めちゃくちゃ疲れてるんです。
「秒で動け!」って毎秒言われすぎて、鼓膜が溶けかけてるんですよ(笑)。
渡辺
そうかもしれません(笑)。
中田さん
セールスフォースを創業したマーク・ベニオフさんの著書『トレイルブレイザー』にも書いてあったんですけど、強い人ほど優しさが求められているんですよね。
セールスフォースが急成長して社会的に影響力のある会社になったことで、「CEOとして、社会問題や人種差別、マイノリティへのスタンスをはっきり表明しろ」という声が、世間からも企業のなかからも出てくるようになった。
中田さん
僕もオンラインサロンも大きくなるにつれて、「『秒で動け!』なんて言って、弱い人を切り捨てていいのか?」といった声がすごく集まってくるようになったんです。
だから「わかった。秒で動かなくてもOK!」というスタンスに変えて、そういう人たちの声にも一個一個耳を傾けるようになりました。
渡辺
「耳を傾ける」というのは、具体的にどんなことを?
中田さん
たとえば、僕は「YouTube大学」の収録をサロンメンバーに生配信しているんですけど、今は収録終わりに「何か言葉が間違っていることや気になることがあったら言ってください」と聞くようにしてるんです。
そうすると、「この言い方だと、こういう人たちが傷つくかもしれません」という意見が出てくることもあって。
授業終わりでテンションも上がっているときに、そういう意見が出るとウッとなるんですよね。
本音を言えば、「気にしすぎじゃない…?」って思うんです。
渡辺
なるほど。でも、そういう意見も受け入れるようにしたということですか?
中田さん
一回飲み込むようになりました。
「たしかに、そういう人もいるかもしれない」と。
なぜそういうことができるようになったかというと、僕は『繊細さん』の本を読んだときに「ウソだろ?」って思ったんですよ。
渡辺
自分とは対極にいすぎて?
中田さん
そうです。「先輩なんぼのもんじゃい」って姿勢を貫いて死にかけてきた男だから、繊細な人のことが理解できなかったんですよ。
ただ、「自分はそれをわからないんだ」ってことを自覚するきっかけになりました。
渡辺
「自分はある種、特殊なのかもしれない」と。
中田さん
はい。普通じゃないからこんなことやってるので(笑)。
ただもっと先に行きたいなら、ノーマルな声やまったく逆の意見に対しても理解を示し、歩み寄っていかないといけないと思いました。
これは「いいヤツぶろう」という話じゃなくて、生存本能ですね。
渡辺
自分のサロンを大きくするために、優しい人になる必要があったと。
中田さん
そうです。
「このままで死にたいか?」「もっとちゃんと成功したいなら耳を傾けろ」って本能に沁みて理解しました。
強い人間って、弱い人のために存在しているとも思うんですよね。
目指しているのは「ヒアリングする独裁政治」
渡辺
ただ、モノづくりにおいては、ユーザーの声に耳傾けすぎることのデメリットもあると思っていて。
中田さんがそちら側にシフトしたのは、個人的にけっこう意外でした。
中田さん
これポイントは、「めちゃくちゃヒアリングする独裁政治」なんですよ。
たくさんの意見は聞くけど、決めるのは僕。
「みんなで投票して決めましょう」とやったらおしまいです。
渡辺
なるほど。
中田さん
お笑いの養成所にいたとき、4人くらいのネタ講師の意見を全部取り入れて、キメラみたいなネタになっちゃってる人とかいたんですよ(笑)。
渡辺
キメラ(笑)。
中田さん
だから、モノづくりにおいては「民主主義の投票が必ずしも正解を出すとは限らない」ということを改めて理解しなくちゃいけないと思います。
このやり方は、ジブリの鈴木敏夫さんをモデルにしています。
渡辺
鈴木さんも「ヒアリングする独裁政治」なんですか?
中田さん
そうです。NHKの仕事で「ジブリの鈴木敏夫さんのもとで1カ月働く」っていう企画をやったことがあるんですが…
ある日鈴木さんが「次の映画の新聞広告のポスターのビジュアル、A〜E案まで候補があります。みなさんの意見聞かせてください」って会議を開いたんですよ。
そこでみんなで意見を交わして、A案が5票、B案が3票、C案が4票…って票が集まるんですよね。
渡辺
そこはよくある会議風景ですね。
中田さん
僕もメモを取りながら「じゃあ(票数がもっとも多かった)A案で決まりだな」と思ってたんですけど…
翌日、「これにします」って言ってA〜Eのどれでもない謎の案を出してきたんですよ。
「ええ!? 昨日の会議はなんだったんですか?」ってビックリして。
渡辺
鈴木さんにそのワケを聞いたんですか?
中田さん
「昨日の会議を受けて、俺はこう思ったんだ。だからこうした」って言ってましたね。
こんな光景を、1カ月の間に何度も見るんです。
カフェの店員のお姉さんとかにも「君はどっちがいい?」とか聞くし、僕のマネージャーとか取材に来た人のアシスタントとかにも「君はどう思う?」って聞く。
でも結局、全然違うものを選ぶんです。それがすごく面白くて。
渡辺
たしかに、僕も成功者の方から同じような話を聞きますね。
まわりの意見を聞くことで世間のバイアスがわかってくるので、あえてそれを逆手にとったアイデアを自分で出したりする。
キングコングの西野さんもそういうタイプ。
中田さん
そうですね。苦情とかクレームにヒントはあるんですけど、ユーザーって最適解を持ってないんですよ。
だって「みんな欲しい電話は何?」って聞いても、「iPhone!」って言わないじゃないですか。
つまり、ユーザーの意見のマックスをとったってiPhoneなんて浮かばない。
ユーザーからニーズは聞くけど、ソリューションはクリエイターがつくらないといけないんです。
渡辺
ユーザーの声は聞いても、ソリューションはクリエイターがつくるべき。納得しました。
思想が違う人たちとも絶対にわかり合える
中田さん
あと、オンラインサロンをやっていると、自分があまりにも狭い世界で生きてるなって知らしめられます。
サロンのなかには、いろんな国籍や思想の人がいるんですよ。
たとえば中国人の人もいれば、中国のことを嫌っている人もいる。ヴィーガンの人もいれば、畜産業をやっている人もいる。
この両極端な人と、コミュニティのなかでどう接するのか。
渡辺
それは難しいですね…
そういうとき、中田さんはどういうスタンスでコミュニケーションを取るんですか?
中田さん
僕は、「誰でも絶対に仲良くできるはずだ」と信じています。
たとえば、僕がコメンテーター時代に斬ってしまった人とも、僕のことを叩いてきた人たちとも、きっといつか仲良くなれる。
必ず誤解がとけるはずだと。
中田さん
だから、誰のことも憎まないし、切り捨てない。
僕がこれを信じて、みんなと仲良くするってことをやらないとダメなんです。
それをやらずに、このままでは死にたくない。
“普通の人”がダイバーシティを理解するには?
渡辺
Twitterなんかも、自分がフォローしてる人だけ見てると、基本的に同じ意見ばっかりを吸収しちゃいますよね。
普通の人が、中田さんのようなダイバーシティの感覚を持つにはどうすればいいのでしょう?
やっぱり、いろんなコミュニティに触れるっていうのが解決策になるんですかね。
中田さん
まさにそうだと思います。
というのも、僕はもともと芸人とばっかり話してたんですよ。そこでは、徹底的に「誰が面白いか」という話しかしない。
それが堀江さんとかオンデーズの田中(修治)さんとか、いわゆるNewsPicks界隈の人と話すようになると、「何が儲かるか」という話題が多くなる。
まったく違うコミュニティに飛び込んでみると、「あれは一つの考え方の潮流だったんだ」って思えるんです。
渡辺
今はオンラインサロンもありますもんね。
中田さん
そうですね。所属するコミュニティはなんでもよくて、町内会でも、近所のスポーツセンターでもいいと思います。
全然違うコミュニティに飛び込むことで、何もかもが変わって見えてくるはずです。
中田さん
それを踏まえて、僕が今すごくやりたいのは海外移住。
15年も芸人をやってきて、これまでいろんな人と話しましたけど、あるとき「全員相手は日本人だったな」と気づいたんです。
渡辺
コミュニティのスケールが広がってますね(笑)。
中田さん
今は「DMM英会話」で、毎日いろんな国の人と喋っています。
渡辺
その様子を「NAKATA WORLD」に投稿されていますよね。
中田さん
最高の発見だったのが、アフリカや東ヨーロッパ、中南米、東南アジアのどの国の人と話しても、ゲラゲラ笑えるんです。
「アフリカの人と、出会って10分でこんなに腹抱えて笑えるんだ」っていうのは希望になりました。
だから、オンライン英会話は自分もこれからも続けていきたいし、まわりにも絶対やったほうがいいと伝えたい。
渡辺
世界中の人と好きなときに対談ができるって、冷静に考えるとすごいことですよね。
中田さん
コロナの状況もあいまって、オンラインでのコミュニケーションはより活発になると思いますね。
今、コミュニケーション革命が起きてます。
ワールドワイドにいろんな国の人と話せるようになったことで、もう小さいコミュニティの絶対正義なんて、霧のように消えますから。
めちゃくちゃ面白い時代がきてると思います。
「中田が嫌いな人も絶対にわかりあえる」自叙伝『幸福論』が絶賛発売中
『幸福論』「はじめに」よりぼくはただ、人生に熱狂して、祭りのように毎日を夢中で生きてきた。もっとも恐れていたことは、変化と進歩のない退屈な毎日だった。強くなりたかった。だれにも文句が言えないほど成功したかった。
(中略)ぼくには先見の明などありはしない。しくじって、怒られて、恥をかいて。笑われて笑われて、生きてきただけだ。
『幸福論』で書かれていたのは、ブレイクしているときに迷い、しくじっているときに「まだやれることがある」と奮闘する中田さんの姿でした。
インタビューで答えていたとおり、「強くやさしい」文体で書かれた同書は、「成功」を追い求めて必死にもがくビジネスパーソンに、立ち止まるきっかけを与えてくれるはずです。
最後に、中田さんからいただいた宣伝コメントをもって、この記事を締めさせていただきます。
中田さん
今までもいろんな本を出してきましたが、まったく違う内容の本になっています。
「はじめに」と「おわりに」だけ読んでいただいても、本屋で立ち読みしていただくだけでも結構。
中田が嫌いだったあなたに、ぜひ読んでいただきたい!
きっと私とあなたは友達になれる。そう信じています。
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