ビジネスパーソンインタビュー
佐俣アンリ著『僕は君の「熱」に投資しよう』より
「しょぼい起業家」が、偉大な経営者になれる唯一の方法とは? #熱投
新R25編集部
世の中には新たなビジネスやサービスが生まれやすくなりました。
ただ、そんな時代の煽りを受けて「起業しよう」と思っても、「何から手をつければいいのかわからない」「失敗したら大損失になるんじゃないか」と二の足を踏んでしまう人も多いはず。
先日出版された『僕は君の「熱」に投資しよう』(ダイヤモンド社)のなかで、ベンチャーキャピタリストの佐俣アンリさんは、そんなくすぶった10代、20代の若者たちに向けて挑戦を後押ししています。
「やり場のない熱をもったやつ。君の暴走本能を、僕はとことんまで応援する」
「僕は言い続ける。世界の誰に何を言われようと。世界がどんな危機的な状況にあろうと。君はかならず、成功する」
heyやMirrativ、アルなどに投資している佐俣さんが、若者を応援する熱量、起業を勧める理由とは何か。そして、事業を成功させるには何が大切なのか。
起業家や投資家以外にも活かせる学びを、同書から抜粋のうえ一部再構成してお届けします。
まずは規模を100倍にしろ
起業家に、僕が口癖のように言っているのは、「まず規模を100倍にしろ」だ。
とどのつまり、起業のアイデアなんてどうでもいいのだ。
君に熱があって、やってみたいことが見つかればそれで十分。あとはそれを100倍の規模でやるだけだ。
今の世界は、起業家がただの思いつきを100倍の規模でやった結果でできている。
どんな思いつきでも、とにかくとんでもない大きさにしてしまえば、それが事業になり、まとまった金を生む。
たとえば僕の妻で、フィンテックにいち早く参入し、モバイル決済サービスを展開している「hey」の起業家・佐俣奈緒子は、学生時代にせどりで稼いでいた。
僕は彼女と大学3年生の頃に出会っている。
そのとき、彼女は同じ学生なのに飲みに行くとなれば高級ホテルのバーへ行くし、しょっちゅう海外旅行に出かけていく。
「金持ちのお嬢様か何かなのかな?」と思って、なんでそんなにお金があるのかと聞いてみたら、とある販売店で大量に電子辞書を買い込み、それをヤフオクで転売しているという。
なんでもその販売店で売っている電子辞書は、内蔵している辞書の数が多いうえに、一般的な電子辞書よりも安く買えるそうだ。
さらに彼女はニューヨークなどに海外旅行に行っては、ブランド物の靴を買い込んで帰ってきていた。
現地で「型落ち」したブランド物の靴を日本で転売すると高く売れるんだそうだ。その差益で、海外旅行の旅費のほとんどを賄えるという。
「これ、履く?」と、革靴をもらったことがあるが、それは日本で6万円はする高級品だった。
普通の人なら1つ2つ買って少し儲ける程度だが、成功する起業家は売れるとわかれば一気に購入し、まとまった金に変えてしまうのだ。
これに対し、失敗しがちな起業家がよくやるのが「クオリティを担保するために、まずは小さく始めてみようと思います」というものだ。
この段階でこの起業家はほぼ100%失敗する。
ゼロの起業家が着想したアイデアなんて、よほど優れていないかぎり全部ゴミみたいなものである。
起業で成功するためには、まず「規模にアプローチ」しなければならない。
頭を使うんじゃない。
手と足をつかって100倍にするんだ。
それがもっとも手っ取り早くアイデアが事業化できるかを試すことができる唯一の方法だ。
規模を変えてこそ、わかることがあるんだ。
規模が「バカ」を「起業家」にする
僕が「アジト」と呼ぶ、渋谷の「Good Morning Building」にいる起業家には、信じられないほどレベルの低いアイデアを持って現れたやつらがいる。
2014年に最初に会ったとき、彼らは28歳で、「渋弁」という、渋谷にあるオフィスにお弁当を届ける事業をしていた。
起業家の芦野貴大とその相棒が本当にただのお弁当屋さんだったこと以外、何も記憶していない。
僕はお弁当屋さんという肩書で僕の目の前に現れて投資を求めるという、彼らの信じられない熱に対して、投資を行った。
彼ら2人の熱だけはホカホカだったが、渋弁は「ほっともっと」の足元にも及ばないほどの存在感を一部の利用者だけに残し、終了した。
次にやつらを見たのは渋谷のど真ん中だった。
弁当屋に見切りをつけ、やつらは「スク水(スクール水着)」のコスプレをして踊っていた。
その姿を目の当たりにしたとき、すでに最悪を通り越したアイデアに暴走中だということだけがわかった。
おそらく自分たちもどこに向かっているのかわかっていなかっただろう。
再び僕の前に現れたとき、やつらはすでにコスプレダンサーではなくなっていた。
日本でも火がつきはじめたエアビーに乗っかったビジネスをしようと、次はマンションを借りて、日本にやってくる観光客に貸し出そうと言うんだ。
そこで僕が路頭に迷いかけている彼らに「まず規模を100倍にしろ」と言ったら、29歳の彼らは本当に100倍にした。東京中でマンションを借りまくったのだ。
わずか数人のスタートアップだ。膨大な量のマンションをマネジメントするなんて途方もない話だろう。たちまちオフィスに大量の洗濯機と乾燥機が持ち込まれ、24時間体制でベッドのシーツを洗濯し交換するという爆笑の光景が広がった。
しかしこの試みも失敗に終わった。いい線を行ってはいたが、日本でいわゆる民泊問題に火がつき、法律が改正されると同時に、彼らのビジネスもまた、燃え尽きたのだ。
それにも懲りず、彼らは再び僕の前に現れた。
そのとき、彼らは31歳。京都で町家を借り、モダンな内装に改装し、ハイクオリティなゲストハウスとして貸し出すビジネス「宿(やど)ルKYOTO」を始めていた。
京都という観光の一大スポットで、京都らしい高付加価値の宿泊サービスを提供するというビジネスだ。
このビジネスは、どうやら好調らしい。現在も着々と規模を拡大中だ。ぜひ一度ウェブサイトをのぞいてみてほしい。
とても元弁当屋がやっているとは思えないクオリティに驚くだろう。
やつらは考え得るなかで、いや、考えるまでもないなかでも最低のアイデアで起業している。
もはやアイデアですらない。熱にまかせた衝動で、ただ暴走していただけだ。
ただ、彼らは大きな規模への挑戦をした。その時点から、事業がみちがえて良くなっている。
いいか、規模が「バカ」を起業家にするんだ。
10年後の格差は「選択の差」によって生まれる
どんな偉大な起業家も、創業当初のビジネスなんてひどいもんだ。
あのホリエモンだって、最初はホームページ制作業務だ。
もちろん今のような誰でも気軽にウェブディレクターを名乗れる時代ではなかったが、起業家になりたければ「あの時代にしてはすごい」「先見の明がある」なんて言っちゃだめだ。
「俺でもこれくらいできるぞ」と笑ってやれ。
僕の大好きな本に『ビットバレーの鼓動』がある。
この本には、かつて渋谷がベンチャービジネスの集積地「ビットバレー」などという名前で呼ばれていた頃にそこにいた、サイバーエージェントの藤田晋や楽天の三木谷浩史ら43人のしょぼかりし頃が綴られている。
いいか、「しょぼかりし」頃だ。「伝説の…」なんて言っちゃいけない。
読むなら「こんなので成功できるんだ」と、寝っ転がって笑いながら読むくらいがちょうどいい。
当時のサイバーエージェントの主力商品は「クリック保証型広告」。ウェブページに貼りつけるタイプのバナー広告で、ユーザーがクリックするたびに収入が入る仕組みのものだ。
広告というとカッコよく聞こえるかもしれないが、単なるバナー屋である。
藤田氏の「2000年以降は、インターネット自体をビジネスにするより、それをいかに活用するか、つまりマーケティングの時代に差し掛かっているんです」という発言も、今の輝かしい姿から考えると、どうもぱっとしない。
どんなすごい起業家も、最初からすごいわけじゃない。
投資家というのは、起業家の暴走を「砂かぶり」で見ることができるという特権があるんだ。
だから断言できる。起業家全員、最初はしょぼい。
それに成功して有名になったら、起業家は、自分のしょぼいスタートなんて自伝や記事に書かなければいい。
そうすればその起業家は、才能にあふれた起業家として人々に記憶される。
いいか、世に知られている起業家像や投資家像と、実際にやることは全然ちがうんだ。
しかし覚えておいてくれ。君はまだ何もやっていない。
起業というのは、自分の手で大きな規模の事業を実際につくったかどうか。それだけで決まる。
僕は、数多くの若き成功者たちをその学生の頃から知っている。
もとはみんな、君と同じ、「普通」だった。ちょっと血気盛んな、どこにでもいるただの学生だったんだ。
僕は大学生の頃からずっとスタートアップに関心があり、周囲にはたくさんの起業家がいた。でも、僕もしょせんはただの学生だったんだ。
結果的にベンチャーキャピタリストという道を選んだけれど、最初に選んだキャリアはリクルートだった。
学生時代のまわりの優秀な友人たちがこぞって外資系投資銀行や大手メーカーに就職していくのを見て、流されるように選んだ大企業の就職先だった。
それから10年の時間が流れた。
気づけば僕は投資家になり、学生時代からの仲間であり、僕の投資先にもなっている起業家たちは『フォーブス』誌の表紙を飾り、世間に知られるベンチャー企業をつくった。
そして、学生の頃に優秀だった人たちは、外資系やメーカーを辞め、今や彼らに雇用される側になっている。
スタートは同じ、普通の学生だ。
それがたった10年でこれほどの差がつく。
この差をもたらした要素はふたつある。
ひとつは、今は起業家にとって「そういう時代」だということ。
もうひとつの要素は、この差が「能力の差」ではなく、「選択の差」によって生まれているということだ。
たった10年で、ほぼ能力が同じだった人間が、会社をつくって雇う側と、雇われる側になる。人材を選ぶ側と、人材として選ばれる側になる。
自分の熱にかけたか、「なんとなく外資や大企業」で選んだ就職かで、これほどの差が生まれるのだ。
君はどっちのゲームを選ぶ?
君に熱があるなら、これから先はすべて君次第だ。
挑戦を楽しもう
淡々と、しかし力強く、若者の起業、挑戦を後押しする佐俣さん。
新たな挑戦を始めたいときにこそ、一度読んでみてはいかがでしょうか。
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