ビジネスパーソンインタビュー

売上を追うのをやめたら、黒字続きで店舗が拡大。「佰食屋」が教えてくれる“逆転の成長論”

超ホワイトの飲食業態、ボーナスは年3回…

売上を追うのをやめたら、黒字続きで店舗が拡大。「佰食屋」が教えてくれる“逆転の成長論”

新R25編集部

2019/12/05

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飲食業界で異例のビジネスモデルを構築し、超“ホワイト”な働き方を実現している企業が京都・西院にあります。

・残業ゼロ

・店舗営業時間は11時~15時

・有給取得率は100%

・ボーナスは年3回

それが、株式会社minitts(ミニッツ)。1日100食限定の「佰食屋」を運営しています。佰食屋のメニューはたった3種類で、国産牛のステーキ丼(1100円)が名物。

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創業者である中村朱美さんは、二児の母。「自分が働きたいと思う会社をつくろう!」と、28歳で旦那さんと株式会社minittsを立ち上げたそうです。

今年で創業7年目。「残業ゼロ」で「1日4時間以下の営業」なのに、経営が成り立つってどういうこと?

…先にお伝えしておきます。もし今、「売り上げを上げるため」に必死で働いているのであれば、本気で佰食屋に転職したくなると思います

〈聞き手=ほしゆき〉

【中村朱美(なかむら・あけみ)】京都府亀岡市生まれ。専門学校の職員として勤務後、2012年9月に飲食・不動産事業を行う株式会社minittsを設立。2015年3月に 「佰食屋すき焼き専科」、2017年3月に「佰食屋肉寿司専科」、2019年6月に「佰食屋1/2」を開業し、現在4店舗を運営。テレビや雑誌などのメディアで多数紹介される。「第4回京都女性起業家賞」最優秀賞、京都市「真のワーク・ライフ・バランス」推進企業賞など受賞。著書に『売り上げを、減らそう。』(ライツ社)がある

ほし

中村さん、今日は噂の超ホワイト企業「佰食屋」について、くわしくお伺いさせていただきます!

中村さん

なんでも聞いてください。

私、社員のみんなに収入額を公開しているくらいオープンなので!

これは取材に期待が持てます

ほし

「長時間労働」「低賃金」なんて言われてしまうこともある飲食業界ですが、佰食屋はおどろきのホワイト企業ぶり。なのに企業としては順調に成長している。これはなぜなんでしょうか?

中村さん

たしかに、転職してきた社員からは、「今までの年収と変わらないのに、労働時間は1日5時間も短くなった」という声もありますね…

私たちの会社は、「ホワイト企業なのに成長している」と言っていただけることも多いんですが…むしろ逆で「“従業員を第一”にすると、売上は伸びる」という結果になってるんですよ。

ほし

どうしてそんなことが可能なんですか?

中村さん

やはり、“売上の上限を決め、1日100食しか出さない”というコンセプトにしたことが大きいですね。

中村さん

「100食しかつくらない」という制約も、普通に考えたら売上にとってはデメリットですよね。

でも、制約によって生まれたメリットがいくつかあるんです

1日100食に限定したら、フードロスがなくなり、はやく帰れるようにもなった

中村さん

たとえば、フードロスがなくなる

佰食屋には、「冷凍庫」がありません。

ほし

冷凍庫がない!?

中村さん

多くの飲食店は、一度に大量の食材を仕入れて原価率を低くしようと考えるので、冷凍庫は必須ですよね。

でも、いくら冷凍技術が発達したとはいえ、一度冷凍したらお肉の味は落ちてしまいます。

ほし

それはまぁ…そうですよね。

中村さん

私は、絶対にお出しする食材の味を落としたくないんです。

だから佰食屋では毎日、1日で売り切れる分の国産牛だけを仕入れるようにしています。

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そのお肉がこちら。おいしそう…

ほし

たしかに! 使う分量が決まっていれば、仕入れる分量も一定になりますね。

中村さん

そうなんです。閉店時には、冷蔵庫すらも空っぽな状態。

…さらにフードロスの削減は、労働時間を減らすことにもつながるんです。

ほし

え、どういうことですか?

中村さん

1日の営業時間中、14時を過ぎると明日の準備に取りかかります

食材が余らないので片付けもラク。閉店準備がスムーズに終わるので、そのぶん早く帰れます

ほし

めちゃくちゃ画期的だ…!

普通の飲食店だと、日中から明日の仕込みをはじめるのは難しいですよね。

売上を追うことをやめたら、採用がしやすくなった

中村さん

また、佰食屋では誰もが即戦力になるので、採用基準は「今いる従業員のみんなと相性がいいこと」だけです。

ほし

「誰もが即戦力になる」って、どういうことですか?

中村さん

まず、佰食屋のメニューは年中同じです。

同じメニューを毎日100食売り切ることがミッションなので、接客も厨房もマニュアルがいらないくらいシンプルな動き。高度な飲食業での経験もいりません。

中村さん

結果として、佰食屋の従業員はみんなちょっと人と話すのが苦手で、不器用な愛すべき人ばかりです。

毎日黙々と同じ仕事に取り組むのが得意ですし、どんなお客様にも優しくていねいに接してくれます。

ほし

でも一般的には、「毎日同じ仕事を同じように繰り返すのがいいこと」だとは言われていないですよね。

中村さん

そうですね。従業員が思考停止しないように、主体性やアイデアを引き出すビジネス書も多いですし。

だけど、必ずしも「全員がやる気に満ちあふれているのがいいこと」だと私は思わないですし、むしろモチベーションが高すぎる人は採用しません

「モチベーションが高い人」は採用しない…?

ほし

え、どういうことですか?

中村さん

うちは絶対に100食以上は売りません。「こうしたらもっと売れるのに」「もっと稼げるのに」というやる気あふれるアイデアで、今いる従業員を困らせたくないんです。

「たくさん働きたい、稼ぎたい」という意欲を持っている人なら、もっと他の企業で活躍できる。佰食屋では物足りないとも思うので。

ほし

うーん、なるほど…

中村さん

競争社会のなかで食らいついて、頑張れる人だけが「優秀」だなんて私は思いません。むしろ、「コツコツとていねいに、毎日決められたことをしっかりやる」ということが得意な人のほうが、長期的に見たら貢献してくれる場合もある。

佰食屋にとっての仕事ができる人は、そういう人なんです。

「人件費」をかけたら、外国人観光客に大人気になった

ほし

「人を幸せにする仕組み」として、佰食屋が売り上げの上限を設けること以外に挑戦したことはありますか?

中村さん

そうですね、多くの企業がなるべく削ろうと考える「人件費」を、ものすごくかけています

100食に対して、スタッフは約5人です

ほし

え、多いですね!

ひとり当たり20食だけ担当すればいいって…

中村さん

心身のバランスを崩し、休職や退職を考えなければいけない従業員を生む経営者は、怠惰だと思っています。

生産性を優先しすぎて、「全員がフルパワーで働かないと会社が回らない状況」を放置しているわけですから。

中村さん

佰食屋ではその人の能力を見て、20~30%余力が残るくらいを目安に仕事を分配しています

もし急に欠勤が出て4人になってしまった場合も、「1人あたり20食担当」は変えない。1日にお出しする数を80食に減らします。

ほし

スタッフが休んだら売上を減らすんですか!?

そういう日は、ひとりが25食分担当するの普通では?

中村さん

一般企業でも、「休んだ人の分は出勤しているメンバーで負担しあう」のが一般的ですよね。

でも佰食屋のルールは「みんなが平等であること」。

誰かが休んだことによって、なんのメリットもないのに自分の仕事量が増えたら嫌じゃないですか。チーム内にストレスが生まれる。

ほし

「みんなが平等」という“ホワイトさ”によって、どんなメリットが生まれたんでしょうか?

中村さん

「おもてなし」が生まれました。最高のおもてなしをするには、心のゆとりが必要なんです。

ほし

おもてなし…具体的に言うと?

中村さん

海外のお客様への対応準備ができたことです。

従業員のひとりが、「海外からのお客様にも優しい店にしよう」と声をあげたんです。メニューを外国語対応にし、みんながステーキ丼の説明を外国語でできるようになるための勉強会も始まりました。

結果として、佰食屋は海外からのお客様に支持していただけるようになり、今では全体の40%近くが外国人観光客になっています

中村さん

こんなふうに、佰食屋では従業員発信のいろんなサービス向上案が生まれました。

そのアイデアは、「売上を上げること」よりはるかに高次元の「お客様満足度」を上げるものばかり。佰食屋が朝から行列をつくる人気店になれたのは、みんなの心に余裕があったからなんです。

ほし

なるほど…

でも、人気店になっても売り上げ額は変わらないわけですから、給与もずっと上がらないってことですよね?

中村さん

そう思いますよね。じつは各々が成長した分、給与はちゃんと上がるんです

ほし

なんでですか!?

中村さん

たしかに、ずっと1店舗で100食を売っているだけなら、売り上げが大きく上がる見込みはありません。でも佰食屋は現在、京都府内に4店舗と拡大しています。

ほし

店舗拡大か…!

中村さん

事業成長に興味がない私に、お店を増やそうという考えはまったくありませんでした。

けれど年々従業員が成長し、そのポテンシャルがひとつの店舗に収まりきらなくなったんです。

ほし

「ポテンシャルが収まらない」。すごい言葉ですね…

中村さん

また、JR京都伊勢丹でのお弁当販売など、既存の従業員だけで労働時間を増やすことなく販路を拡大できた、という事例もあります。

「事業成長ありき」ではなく、一人ひとりが成長してきたからこそ、売上を伸ばすことができたんです。

ほし

売上を減らそうとしたら、結果的に売上が伸びた」というマジックが起こっている…

中村さん

そうです!

私は、従業員の心身を疲弊させる「売上目標」や「KPI」なんて、邪魔だと思っています

中村さん

そもそも、就業時間内に利益を出せない商品や企画自体がダメなのに、「頑張れ」なんて言うのはおかしい。

私は、業績至上主義が、従業員の幸せにつながるとは思いません。

ほし

(どうしよう、転職したくなってきた)

「頑張れなんて言われたくないし、言いたくない」という思いから生まれた佰食屋

ほし

すでに「売上を上げない」ことの魅力をかなり実感してきているのですが…どうしてこんなビジネスモデルの実現に踏み切れたんでしょうか?

中村さん

「経営者としてどうなの?」と言われるかもしれませんが、私は事業成長には興味がありません。

佰食屋を創業したのは、“幸せな暮らしを実現するため”なんです

ほし

幸せな暮らし?

中村さん

私にとっての幸せな暮らしとは「夕方に家族そろって晩ごはんを食べること」。

はやく100食売り切ったら、はやく帰れるじゃないですか。

100食以上つくったり、夜まで営業したりすれば、たしかに売上は上がるでしょう。でも、労働時間は増えるのに、従業員の給与は上がらない。会社が儲かっても、社員が報われないのはおかしくないですか?

ほし

正論すぎる…

中村さん

売上が落ち込んでいると、多くの組織のマネージャーは「頑張れ」って言いますよね。でも上がっていても、もっと上げるために「頑張れ」って言う。

私は「頑張れ」なんて言われたくないし、言いたくない。だから、仕組みで人を幸せにしようと決めたんです

ほし

売上が落ち込んでも、上がっても「頑張れ」と言われることのしんどさ…。胸に刺さりすぎて泣きそう。

将来への不安は“無知”から来る。自分の幸福には「いくら必要か」計算したことある?

ほし

事業として佰食屋は今すごく順調だと思うのですが、中村さんにとっての最終的なゴールは明確に決まっていたりするんですか?

中村さん

私の夢は、夫と一緒に死を迎えること。安楽死を選ぶことです。

おっと、取材が思わぬ方向に

ほし

…あ、安楽死…

中村さん

人生の終わりは、自分で決めたいんです

夫は13歳年上なので、夫が95歳くらい、私の人生は82歳くらいまで。その間になにを成し遂げたいか、いくら資産があればそれが可能になるのか、ゴールが明確であれば逆算できる。

なので、夫婦で毎年、残りの人生で必要になる金額を計算するようにしています。子どもの教育費、もし大病したときの医療費、家族旅行、その他もろもろすべて。

ほし

そんなことを…!?

ちなみに年収どのくらいあれば、達成できそうなんでしょう?

中村さん

今までの貯金にくわえて、だいたい夫婦あわせて年600万円の収入があれば、無理なくゴールまでたどりつけるってわかりました。

中村さん

みんな「将来が不安だから、とりあえずたくさん稼がないと」って言うんですけど、自分が幸福を感じられる生活には、月々いくらが必要なのか、何歳くらいまで生きたいのか、一度でも計算してみるだけで、不安は大きく解消されると思います。

だいたいでも数字が可視化されれば、やみくもに働きつづける必要はないですから。

ほし

人生の終わりを決めることで、のびのびと生きやすくなるんですね…

考えたこともなかったですし、死を直視することに怖さも感じますが、たしかに一度全部計算してみると見える世界が違うかも。

なんだか、「売上の上限を決めたことで幸福度が上がった」という佰食屋の話と似てますね(笑)。

中村さん

たしかに!

直近の目標としては、佰食屋が実現したこの働き方をどんどんシェアしていきたいです。

中村さん

飲食店だけではなく、他業種の働き方改革としても転用できると思っているので、このノウハウをどこまで広められるかが、私の使命だなと思っています。

超ホワイト企業は、創業者の熱意と愛にあふれていました

「社員の幸せを実現する」という言葉こそよく見かけますが、ここまで完全に仕組み化して有言実行できている企業は、ほとんど存在しないと思います。

中村さんが、ご自身の考え方を広く伝えるために筆をとった『売り上げを、減らそう。』(ライツ社)では、記事で紹介しきれなかった佰食屋の戦略がまとまっています。

いかにして超ホワイト企業が成り立っているのか、もっとくわしく学びたい方は、ぜひ読んでみてください。

〈取材・文=ほしゆき(@yknk_st)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=小財美香子(@3ee_)〉

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