ビジネスパーソンインタビュー
年賀状は、ビジネスパーソンの“きっかけツール”になる
「一筆の“微差”が “雲泥の差”を生む」スペースマーケット社長が「年賀状」を薦めるワケ
新R25編集部
効率化が重視され、ビジネスでも即時的なチャットツールを取り入れる企業が多い昨今。
「非効率的は悪だ」という論調もある一方で、あえてひと手間かけたコミュニケーションを重視しているビジネスパーソンもいます。
その1人が、さまざまなスペースをシェアできるプラットフォーム「スペースマーケット」を運営する株式会社スペースマーケット代表の、重松大輔さんです。
ビジネスシーンで手紙や年賀状を活用しているという重松さんに、「手書きのコミュニケーション」ならではの魅力を伺いました。
【重松大輔(しげまつ・だいすけ)】1976年千葉県生まれ。千葉東高校、早稲田大学法学部卒。 2000年NTT東日本入社。主に法人営業企画、プロモーションなどを担当。 2006年、株式会社フォトクリエイトに参画。 一貫して新規事業、広報、採用に従事。国内外企業とのアライアンス実績多数。 2013年7月東証マザーズ上場を経験。2014年1月、株式会社スペースマーケットを創業。お寺、野球場、古民家、オフィスの会議室、お化け屋敷などユニークなレンタルスペースのマーケットプレイスを展開。2016年1月、シェアリングエコノミーの普及と業界の健全な発展を目指す一般社団法人シェアリングエコノミー協会を設立し代表理事に就任
〈聞き手=いちかわあかね〉
今の時代だからこそ、“意外性”が大事になってくる
いちかわ
重松さんは仕事をしていくうえで「手紙」を大切にされていると伺いましたが、そう考えるようになったきっかけはなんだったんですか?
重松さん
手紙によって、なかなか決まらなかった案件が即決したことがあったんです。
重松さん
前職で営業をしていたとき、いくら担当者に話しても、決裁権が社長にあったために、話がまったく進まない案件がありました。
そこで思いついたのが、手紙で直接社長へのアプローチすること。結果的に翌日には連絡が来て、半年以上かかっていた案件が即決したんです。
いちかわ
そんな魔法みたいな話が…!
重松さん
それ以降、手紙は「この案件は絶対成約させたい!」など、ここぞというときにクライアントに送ってきました。
重松さん
この経験から、書類を送ったり、私が何か郵送でコミュニケーションするときには、手書きで一言添えることを心がけています。
いちかわ
すごく大変そうですが、手間をかけてまで「手書き」にこだわるのはなぜですか?
重松さん
手書きのコミュニケーションって、人の温もりが伝わるんです。言葉の内容はもちろん、その字体からも人柄が伝わるじゃないですか。
重松さん
「人間性が伝わる」というメリットは、手書きならではなんです。だからこそ、たとえ汚い字やくせ字でも、手書きにはこだわりたいと思っています。
いちかわ
なるほど。とはいえ、「今どきそんなことしなくても」と感じてしまう若手ビジネスパーソンも多いはずだと思うんですが…
重松さん
いやいや、「だからこそ」ですよ。
重松さん
今の時代、ビジネスパーソンとして頭角をあらわすには、ある程度の“極端さ”が必要。
コミュニケーションに関しても、まわりよりよっぽど最先端をいくか、逆張りによる意外性を狙うか…じゃないと意味がないと思うんですね。そのなかで「手書き」は、特別な努力や技能を必要としないのに意外性を狙えるツールなんです。
いちかわ
たしかに。手紙をもらう機会が少ないからこそ、送ってくれた人は印象に残りそうですね。
重松さん
年賀状なら年に1回、手紙にしても年に数回送ることで「また一緒に仕事したいな」と思ってもらえるきっかけになるかもしれません。
年賀状は、ある種の「きっかけづくりツール」になる
重松さん
ただ、そもそも僕が「手書き」や「温もり」の力を実感したルーツは、小学生のころから書いていた「年賀状」にあると思います。
いちかわ
…!?
重松さん
僕は小学生のころ、年賀状にあえて「光陰矢の如しですね」とか小難しいことを書いていたんです。
それが友達や親たちの間で話題になったんですよ。「何この子、面白い!」みたいな感じで(笑)。
それで、「(手書きの)年賀状にはインパクトがあるぞ」と気がついたんです(笑)。
どういう子どもだったんですか
いちかわ
それで、自然とビジネスでも活用されるようになったと。
ちなみに、今はどれぐらい年賀状を出されているんでしょうか?
重松さん
枚数でいうと、多いときで200~300枚くらい出しています。
いちかわ
そんなに!!!
重松さん
多いですかね?(笑)
でも年賀状は、ビジネスにおいて非常に優れたツールなんです。特に営業なら「年賀状を使わない手はない」くらいに思っています。
年賀状の一番の魅力は、なんといっても、接点をつくる「きっかけづくりツール」として使いやすいこと。
重松さん
営業で大切なのは、「きっかけ」を常に活かしながら顧客とコミュニケーションをとり、いい関係性を作ることだと思っています。「きっかけ」の例は、「担当が変わったので」「年末年始のご挨拶に伺いたいので」など、なんでもいいと思います。
年賀状はとてもいい「きっかけ」になるんです。
いちかわ
たしかに。営業って、相手との接点をつくり出すことが重要ですもんね。
重松さん
その通りです。
個人的に、年賀状はかなりコスパがいいと思っています。手書きでコメントを書く時間はたった数秒、料金も1枚たった63円です。それで顧客との接点をつくったり、セルフブランディングできたりすると考えれば、積極的に取り入れてみてもいいと思いますね。
手書きの温もりにこだわる理由。「微差」が最終的には「雲泥の差」になる
いちかわ
最近ではチャットなどで即時的なコミュニケーションが求められることが多くて、手書きが重視されなくなりつつある気がします。
重松さんは、そういったコミュニケーションの使い分けは意識されていますか?
重松さん
「手書き」だけにこだわっていると思われることも多いんですが、そういうわけじゃないんです。
僕は、使えるコミュニケーションツールはすべて使いつつ、相手や目的に合わせて使い分けることが大切だと思います。
いちかわ
使い分ける…
重松さん
SNSなどのコミュニケーションは、拡散性があるし、すぐにインタラクティブなコミュニケーションが可能。
一方で、「手書き」の手紙や年賀状のメリットは、コミュニケーションが「受け手ベース」であることです。
重松さん
当たり前のように感じるかもしれませんが、“相手の好きなタイミングで読める”って、コミュニケーションにおいて非常に重要な要素。「(相手が)自分で時間をコントロールできる」ってことですよね。
ビジネスで電話嫌いな人が多いのも、突然割って入った電話に時間を奪われるからなんですよね。
いちかわ
なるほど、すごくわかります。
重松さん
だからこそ、「受け手ベース」である手書きツールは、コミュニケーションのひとつとして、決してなくならない。
重松さん
とはいえ、「温もりを残す」ことの重要性は、手書きツールもそれ以外も変わりません。相手が喜ぶことを考えて伝えたりすることは、メールやチャットでも常に意識しています。
いちかわ
重松さんがそれほど「温もりを残す」ことを徹底されているのは、なぜなんですか?
重松さん
僕は、「微差」が最終的には「雲泥の差」になると思っているんです。
たとえば、温もりを残すために手書きを添えるとかって、たった数秒でできることじゃないですか。でも、それが相手と会えるか会えないか、さらには受注できるかできないかに大きな影響を与えるわけです。
いちかわ
たった数秒のことが、劇的な差に…!
重松さん
人生って「微差」の積み上げだと思うんですね。手書きに限らず、ちょっとした努力を惜しまないとか、もうひと踏ん張りしてみるとか。
そうやって頑張りつづけられる人が、良い変化を起こしたり、爪痕を残したりできるんじゃないかと思っています。
いちかわ
なるほど…
重松さん
有名な経営者が「残りの0.5%を努力できるかどうかで結果が変わる」という理論を唱えているんです。
もう一歩の踏み込みで圧倒的な差がつくからこそ、たとえ数秒でも「温もりを残す」ことにはこだわりたいですね。
重松さんの主張の裏側には、「微差が大差を生む」という、ビジネスのさまざまな場面で共通するであろう強い信念がありました。
一見すると、少し非効率に見えてしまうこともあるコミュニケーションが、時として思わぬ成功につながることがある…。
そう言われると、今年の年末は、来年からの“大差”を期待して「温もりのあるコミュニケーション」にトライしてみようかな…と思えてきました!
〈取材・文=いちかわあかね(@ichi_0u0)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
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