ビジネスパーソンインタビュー

「“アイデアキラー”はいらない」老舗雑誌を立て直した編集長・松田紀子が語る組織改革術

変化しない組織を変えるにはどうすれば?

「“アイデアキラー”はいらない」老舗雑誌を立て直した編集長・松田紀子が語る組織改革術

新R25編集部

2020/01/21

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ネット上では、“新しい働き方”を推進するイケてる企業の情報が、日々発信されています。

生産性高く、自由に働くビジネスパーソンを見て、うらやましく思う一方で、「自分の会社は旧態依然としているから無理」「どうせ変われない」と感じている人もいるのでは?

過去の成功体験に依存して、変化しない組織を変えるにはどうすればいいのか?

今回そんなお話をお伺いしたのは、松田紀子さん。

1987年から続く料理雑誌『レタスクラブ』の編集長に2016年から就任し、「発行部数前年度比143%UP」「料理情報誌実売1位」を達成するなど、輝かしい実績を叩き出した話題のリーダーです。

創刊から約30年つづく“老舗”組織を、どうやって変革したのか? 松田さんの語る、“体当たり”かつ実践的な改革手法をお楽しみください!

〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉

【松田紀子(まつだ・のりこ)】1973年生まれ。長崎県出身。1997年、リクルート九州支社に入社。旅行雑誌『じゃらん』の編集を手掛け、2000年にメディアファクトリーに入社。2011年には「コミックエッセイ編集グループ」編集長、2016年からは雑誌『レタスクラブ』編集長を兼任。2019年からはファンベースカンパニーに所属

組織変革術①ふたつの「共有」で、メンバーの自信に火をつける

天野

今日は、“旧態依然とした組織”を活性化する方法を聞きにきました。

松田さん

なるほど~。私が編集長として入った当時の『レタスクラブ』も、まさに旧態依然とした組織でしたね。

天野

入ったころは、どんな雰囲気でしたか?

松田さん

とにかくシーンとしてて活気がなかったです。最初に出た会議が、メンバーが企画を提案する場だったんですけど、1人ずつ順番に立って、紙の企画書に書かれた内容を読み上げるんですよ。

それに対して、誰も一言も意見を言わない。読み上げたら「スッ…」って座って、無言のまま次の人の番が始まるんです

それはお通夜だが…多くの会社でありそうです

天野

めちゃくちゃ想像できますが…そういう空気を変えるために、まずどんなことをしたんでしょうか?

松田さん

「自分たちが変わらなければいけないという事実」を共有しました

危機的状況だからこそ変化が必要なんだ、という前提を、みんなで共有することが大事ですね。

松田さん

メンバーは何をやっても成果がなかなか出ないから、どんどん自信がなくなっている状態でした。ですから、そのねじれて眠っていたやる気に火をつけなきゃと思ったんです。

天野

どうやってやる気に火をつけたんですか?

松田さん

これも「共有」なんですが…「その仕事をやって得られるものの楽しさ」を共有するようにしました。

クライアントが喜んでくれたり、いい評判が立ってたりするときに、リーダーから率先してその話題を共有する。私たちの仕事は、こんな価値を生み出しているんですよ、と口に出すんですね。

天野

なるほど。でも、「外から来たやつに正論を言われて、面白くない」みたいな反発もあったんじゃないですか?

松田さん

ありましたけど、割と無視してましたね。気にしてもしょうがないので。

あっ、この人はメンタルがすごく強い人だ

組織変革術②仕組みを変え、文化を変える

松田さん

そうやってメンバーにやる気と自信を取り戻してもらう土台をつくったら、次は“仕組みを変えて文化を変える”ことをやりました。

天野

文化を変える…

松田さん

先ほど言った「企画書読み上げ」文化はすぐやめるようにしました。つまらないし時間の無駄だから。

それで、次にやったのは「アイデアキラー」な文化を排除することです。

天野

アイデアキラー?

松田さん

他人のアイデアを“殺す”ことが、無意識のうちにクセになっている人です。

天野

め、めちゃくちゃいる…!

松田さん

新しいアイデアが出たとき、みんな、すぐ「それ前もやりましたけど」と言うんですよね。

だから、会議を始める前にルールとして宣言する

「この会議は、意見を否定するのナシ」「屈託のない意見、大歓迎」というのをルール化してましたね。そうやって、誌面内容もどんどん変えていきました。

天野

実際にどんなところを変えたんでしょうか?

松田さん

「もっと読者に寄り沿って、今の時代に合った内容にしよう」というのが変革の軸でした。『レタスクラブ』は伝統あるメディアだったので、関わっているメンバーは、どんどん知識がついて、読者やユーザーの目線を忘れてしまうんですよ。

私、料理に全然興味がない素人なんです。そういう人でも受け入れる“間口の広さ”を取り戻さないといけないなと。

たとえばあるとき、レシピに「カラザ」って書いてあったんですけど、私わからなくて。「今そんなの知らない人もいるから、書き方変えよう」って言ったんです。

天野

卵の白っぽい、弾力があるところですよね? まあまあみんな知ってる気が…

松田さん

そのときも「みんな知ってますよ」って言われました

だから「みんなって誰? 本当に知ってるの?」って…

すいません…

松田さん

フロア中の女性全員に「カラザって知ってる?」ってきいてまわったんですよ。そしたら3割以下しか知らなかったんですよ!

天野

執念がすごい

松田さん

あと、レシピに「香菜」って書いてあったんです。「香菜」ってわかります?

天野

パクチーですかね?

松田さん

そうそう。2016年だから、もうパクチーが一般的になってたんですよ。

「パクチーに書き換えようよ」って言ったら「ウチのルールでは、昔から“香菜”と表記することになってます」とか言われて。

「読者が混乱するから、絶対変えたほうがいい!と思って変更してもらいました。

「わかりやすさと敷居の低さ」を重視したという松田さん

組織変革術③仲間を巻き込んで、メンバーが自走して変化していくフェーズへ

天野

なるほど…ほかにも、組織を変えるためのコツなどはありますか?

松田さん

組織を変えるときは、「右腕」「左腕」みたいな仲間がいるといいって実感しました。

まずつかまえるべき「右腕」は、人たらしの人。組織を変えることって、敵をつくる可能性があるので、愛嬌があって人に好かれる人が右腕になってくれれば安心です。

次に必要な「左腕」は、自分1人だとワキが甘くなるので、考えたことをきちんと遂行してくれるそつがない人ですね。

松田さん

そうやって少しずつ、自分の考えを体現してくれる仲間を増やしていけば、組織改革は現実的なものになると思います。

そうしたら、あとは“自走してもらう”フェーズ。私も、現場の細かいことには口を出さず、メンバーたちがどんどんいい変化をしているのを頼もしく見ていました。

天野

そうなんですね。でも、松田さんのようなパワフルな方がマネージャー的に“一歩引いて見る”のって難しかったのでは?

松田さん

私、もともとは「マネジメント」することに興味がなかったんですよ。

日本の多くの組織で、“長”になったら自動的にマネジメントの役割がついてくることに懐疑的で

それまでプレイヤーとして人と違うアイデアがあったり、人と違う動き方をしたりするからこそヒットを出せていたのに、編集長になったら「同じような人を育てろ」って言われるじゃないですか。

天野

そこからマインドが変わったきっかけはあったんでしょうか?

松田さん

村山(富市)総理のエピソードを聞いて、「“自分のやり方”でやらせる必要は必ずしもなくて、責任だけ取るっていう働き方もある」ってことに気付いたんですよ。

1994~1996年に総理大臣を務めた人物です

松田さん

1995年に阪神・淡路大震災が起きて、大きな被害が出てしまって総理が批判されたらしいんです。

そのときに、“自分には災害対応の知識はない。ただ、責任を取ることはできる立場だ”というところに立ち返ったそうなんですね。

それで、「法律を変えても何をしてもいい、現場にすべてを任せる」とおっしゃった、というエピソードがあるんです。

天野

へえ~!

松田さん

その話を聞いて、「組織をつくって、引っ張っていく人って、自分がすべてわかっている必要はないんだな」と思って。

弱いところをきちんと立て直したら、あとは現場に任せる、責任は自分がとる、という姿勢でいると、会社の改革もうまくいくと思いますよ!

パワフルかつチャーミングなアドバイス…ありがとうございました!

〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=藤木裕之〉

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