ビジネスパーソンインタビュー
大事なのは“内省”と“見える化”。「謝罪」を成長のチャンスに変える方法

謝罪のプロが伝授する『謝罪の極意』より

大事なのは“内省”と“見える化”。「謝罪」を成長のチャンスに変える方法

新R25編集部

2019/06/30

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どんなビジネスマンにとっても憂鬱な「謝罪」。

クライアントからなんと言われるのか」「今後の付き合いはどうなってしまうのか」と考えるだけて気が重くなりますよね。

そんな謝罪訪問をいくどとなくこなした、謝罪のプロがいます。

それが、日本マイクロソフトの最高品質責任者(CQO)として、585回もの謝罪訪問を経験した越川慎司さん

自著『謝罪の極意』では、その経験から学んだ「相手に伝わるコミュニケーション術」「関係者を巻き込んで複雑な課題を解決する方法」について書いています。

そのなかで気になったのは「謝罪はピンチではなく、自分を成長させるチャンス」という言葉。謝罪を通して成長するメソッドの一部をお届けします。

謝罪には個人と会社の目線がある

可能であれば誰もが避けたい謝罪訪問という仕事ですが、どういう気持ちで臨むべきなのでしょうか。

個人の目線では顧客のことを考えて問題を解決し、達成感を得て成長することが理想です。

怖さやストレスを感じることもありますが、複雑な問題を乗り越えれば自信がつき、格別の達成感を味わうことができます。

一方的な伝達ではなく、顧客と対話する高度なコミュニケーション能力も高まります。

最後までトラブルに対応し解決できれば、以前より顧客と良好な関係を構築し、自分の成果につなげられるでしょう。

そして社員全員が自分たちの給料は顧客からいただいているということを、忘れてはいけません。

私は自分自身の成長を実感し、働きがいを感じることもできました。

「IQ」が高い人より「EQ」や「JQ」が高い人を目指す

自分を成長させるために目指すべきは「EQ」(Emotional Intelligence Quotient=心の知能指数)が高い人です。

広く知られている「IQ」(Intelligence Quotient=知能指数)の対義語として使われることが多く“ハートの力”と言われることもあります。

ちなみに「EQが高い」というのは、次のようなことを指します。

 ・「この人のためなら…」と思われる存在

 ・人を巻き込むのも説得するのも上手い

 ・コミュニケーションに長けている

 ・性別、年代、部門で隔たりをつくらない

 ・多様性を持っている

『謝罪の極意:頭を下げて売上を上げるビジネスメソッド』

より多くの人を巻き込んで複雑な課題を解決するためには、共感してくれる人を増やし、志をひとつにして進む必要があります。

どんなに豊富な経験を積んで専門性が高くて頭が良くても、利己心が大きいだけでは人が集まりません。

もちろん「IQが高い=知識があるだけ」ということではありません。

しかし、何よりも自己中心の考えから距離を置き「正しいことを正しくやる」という正義感を持って、あるべき社会を実現させようとする「EQの高い人」のほうが、人は集まりやすいのです。

EQの高い人は、組織の壁を越えた協働作業を取りまとめるのが得意です。

オーケストラでいえば指揮者に当たります。トラブル対応のような緊迫した状況では、さまざまなミッションを持った人を束ねて短期間で解決していかないといけません。

謝罪訪問のプロセスを進めるにあたり、EQの高さは必要不可欠といえます

今後はEQを超えた能力も求められます。マッキンゼーとボストンコンサルティングのシニアアドバイザーを務めた名和高司氏(一橋大学大学院客員教授)が著書『コンサルを超える問題解決と価値創造の全技法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)で紹介している「JQ」という能力です。

JQは Judgement Quality の略です。問題解決のプロではなく、何が価値なのかを判断できる能力を意味しています。

これが高い人は、顧客にとっての本質的な価値を見いだし、それを提供するために利己主義から距離を置き、正しいことを正しく実行できるのです。

仕事の目的が労働から貢献へと移り変わりつつある世の中で、JQの高い人と提供する価値の本質を理解し、正しいことをしたいという“意識の高い人”は多いと思います。

それぞれ異なる経験と知見を持ち、モチベーションが高い人たちが結集すれば、問題を解決するだけでなく顧客への新たな価値も提供できるでしょう。

謝罪というとマイナスの側面がフォーカスされがちですが、窮地に立たされる状況だからこそ、働くことの本質や仲間と協働することの意義が見えてくるのです

「セルフPDCA」を実践する

過ぎ去った時間を振り返れば、良かった点を評価し、そこからどんな結果が生まれたかを明らかにすることができます。

また、同じ過ちを避けるために、過去の事象から学び取ることもできます。

私が585回の謝罪訪問で学んだのは「内省」という振り返る時間を持つことの大切さでした。

飛行機で10時間かけてシアトルに向かう時は、大抵の場合が大きな課題を抱えていて、来たるべき交渉の強いプレッシャーで、精神的にはいっぱいいっぱいでした。

一方、シアトルから日本に帰国する便では問題が解決していたケースがほとんどで、落ち着いた気分で搭乗することが多かったです。

言い方を変えれば、トラブルを解決しないと帰国できなかったからでもありますが、日本へ向かう帰路はとても幸せな気分でした。

そういう時は精神的にも落ち着いているので、問題の発生原因顧客からの厳しい指摘、そして問題解決のプロセスなどを、リラックスして振り返ることができました。

またこのように「内省」するときに必ずメモを取って、次の行動に生かすようにしてきました。

私の生きがいや働きがいは、達成感を持ち、そして自分の創意工夫によって目的を達成し、それが承認されることです。

それが達成できたのかどうかを確認するために、この「内省」は欠かせません。

「内省」は他人からの承認ではなく、自分の価値観で自らを承認します。

私は臆病なので同じ間違いをして怒られることが怖くて仕方ありません。二度と同じ間違いをしないように振り返って反省し、次の行動に生かしてきました。

臆病な人ほど準備に時間をかけますから、結果的にそれが成果につながったのかもしれません。

社員それぞれが「内省」で得たものを共有する

私は、問題が解決して良好な関係になったあと、どの対応が間違っていて、どの対応がハートを打ったのかを、よく顧客に聞くようにしています。

それによれば、疲れたそぶりや睡眠不足の表情は何ら顧客に響かず、しっかりと自信を持って発言すること、できないことはできないと明言すること、うまくいかなかったことをごまかさずに正直に伝えることなどを評価し、人として信用する材料になったと言ってくれました。

一方、好ましくないと指摘された点もあります。それは「ほかの顧客は」といったキーワードや「本社が」といった他責に聞こえるような言葉を口にしてしまったことでした。

「ほかの顧客は」と言われると、あたかも自分の会社がわがままでクレーマーになっているように感じられることがあったようです。

また、日本法人も米国本社も同じマイクロソフトなのに、別の組織のように切り離して話したことに、違和感を持ったそうです。

私自身の活動ではなく、マイクロソフトに所属する越川の対応だと捉えていたため、快く思われなかったのです。

このようにフィードバックをもらうと、何がNGワードで、何が良かったのかを確認できます。社内や顧客先で振り返る時間を必ず設けてください。

社内関係者で振り返り、うまくいったことを続け、失敗したことをやめれば、その後の成功率が確実に高まっていくはずです。

内省によって得た学びは、あなた自身を大きく成長させるために次の活動に生かすのはもちろん、顧客からの信頼を再構築できたパターンは社内で必ず共有してください。

社員それぞれが「内省」で得たものを共有することは、一から学び始めるよりも格段に効率的かつ効果的です。

このような「内省」によって学んでいくプロセスは、経験学習ともいわれます。

謝罪訪問だけでなく業種や職種を問わず、さまざまなビジネスシーンで応用することができます。

たとえば、皆さんの時間を奪う社内会議や資料作成は「内省」しないと、それらが成功したのか失敗だったのか判定できません。

振り返ることによって無駄だったことがわかり、それをなくしていけば、時間と心の余裕が持てるようになるはずです。

謝罪の成果を「見える化」する

迷惑をかけた顧客の対応を丁寧におこない、結果的に65億円(※)の追加契約をいただいたことは、実にうれしいことでした。しかし、その金額を目指して活動していたわけではありません。

※この65億円にはマイクロソフトを卒業した後に謝罪コンサルタントとして支援して結果的に得られた多額な追加契約も含まれています。

あくまでも私の目標は謝罪による信頼回復や自分の幸せとともに、顧客の成功を支援する「カスタマーサクセス」を遂行することでした。

そのため、腹を割って話せる関係性になれるように対応してきたつもりです。結果として追加契約がついてきたと考えています。

また、謝罪訪問では「しっかりとお詫びすることが自分の成長にもつながる」という考えで、自身を奮い立たせていました。

そんな職務に当たりながらこだわってきたのが、成長の可視化でした。

顧客数はもとより、訪問回数、対応人数、営業担当の稼働時間、売上の推移などの形跡や実績を数字で記録してきました。

そのデータベースにより、これまでの訪問歴と実績などを照らし合わせることで、謝罪は自分の成長につながると納得できるようになったのです。

もちろん、これは自分のためでもあり、所属する会社のためでもあります。

このような定量的な記録は「投資対効果」など、苦労する社内調整の根拠としても活用することができます。

データベースのなかでも、特に社内調整で役立った追跡指標は、以下の7項目になります。

(1)謝罪訪問前の総契約額

(2)謝罪訪問後の契約更新件数

(3)謝罪訪問後1年間の追加契約件数

(4)謝罪訪問後1年間の追加契約額

(5)謝罪訪問後1年間の解約件数

(6)謝罪訪問後1年間のアップセル(高額のサービスにアップグレード)とクロスセル(ほかのサービスも販売)の件数

(7)謝罪訪問後1年間のアップセルとクロスセルによって生まれた売上

『謝罪の極意:頭を下げて売上を上げるビジネスメソッド』

これまでのデータを振り返ると、585回の謝罪訪問のうち、サービスの利用を打ち切る“キャンセル”がたったの1件しかありませんでした。

一方で、謝罪訪問後にビジネスを増やした顧客は29%に上ります。

たとえば、クラウドサービスのような月額サービス(サブスクリプションビジネス)は信頼関係を保ちながら、製品やサービスを使いこなしてもらい、その価値を享受してもらうのが目的です。

しっかりと享受できれば、結果的に追加の契約にもつながります。

このような価値提供のサイクルの一環だと思えば、謝罪訪問は決してネガティブな側面ばかりではありません。

個人レベルではコミュニケーション能力や交渉術、そしてEQやJQといったスキルのアップにつながると考え、謝罪の成果を“見える化”しましょう。

ビジネスで避けられない「謝罪」を糧にしよう

謝罪訪問の目的は頭を下げることではなく、信頼回復自分の幸せのため。

同書には、謝罪訪問の準備から当日の流れ、アフターケアの方法など、再現性のある「謝罪のノウハウ」が詰まっています。

ビジネスマンとして生きていくには、謝罪は避けられないもの。それならばこの『謝罪の極意』を手に取って、あなたの成長のために活かしてみてください。

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