ビジネスパーソンインタビュー
菅原洋平著『超すぐやる!』より
「締め切り間際になって焦って作業をした」は、ずぼらな性格によるものではありません
新R25編集部
急ぎで資料をつくらないといけないのに、全然作業が進まない。
1週間前から依頼されていたことに、上司から指摘されて思い出した。
このようなミスの原因はなんだと思いますか?
脳のリハビリを専門にしている作業療法士・菅原洋平さんは、脳のワーキングメモリ不足だと言います。
ワーキングメモリをトレーニングすれば、注意不足によるミスを減らしたり、仕事の効率をあげたりすることが可能。
普段の生活のなかでワーキングメモリを活性化させる方法が書かれた菅原さんの著書『超すぐやる!』から、「ダメなビジネスパーソン」から卒業するための3記事をお届けします。
なぜ、時間がありすぎると、かえって仕事がはかどらないのか
「時間があるな」と思ったときほど集中できなかったり、ぎりぎりまで手をつけず締め切り間際になってから焦って作業をしたという経験、あなたはありませんか?
実は、このような「物事への取り組み方」は、ずぼらな性格によって起こっているのではありません。
脳がちょっとした「計算ミス」をしているのです。
脳には、何かの課題を与えられるとその課題に対して、時間と達成できる度合いを見積もる機能があります。
時間があるのに、はかどらなかったりぎりぎりになってしまったりするのは、この機能をうまく活かせていないということです。
とくに、普段から時間に追われる生活をしていると、この計算能力は弱まってしまうことがわかっています。
そんなときに私たちがすべきなのは、まとまった時間を確保することではありません。
時間を正確に見積もる脳の働きを、高めることなのです。
「流れとしての時間」を司る働きをしているのがワーキングメモリです。
ワーキングメモリをうまく働かせることで、未来の時間を正しく見積もり、予定を忘れることなく、スムーズにこなしていくことができるます。
本記事では、ちょっとしたトレーニングによって、脳の「時間を見積もる能力」を高めていきましょう。
誰にとっても1日は24時間ですが、その過ごし方によって、その時間の有意義さには大きな開きが出てしまうものです。
反対にいえば、ワーキングメモリを鍛え、時間の管理能力を身につければ、与えられた時間を有意義に使うことができるようになります。
私たちは、いつでも未来について考えすぎている
時間を見積もる能力は、未来について考える力です。
ところで、私たちは1日のうちどのくらいの時間、未来について考えていると思いますか?
このことを調査した研究では、平均して1日に59個の未来(予定も含む)について考えていたそうです。
仮に1日に起きて活動しているのが16時間だとすると、16分に1回は未来について思考している、ということになります。
この頻度の高さは、ちょっと驚きですよね。
でも、こんなに考えている割には、なかなか予定通りに物事が運んでいないような気がします。
いったいそれはなぜなのでしょうか。
この「未来の思考」ですが、考えるタイミングに注目してみると、何かの作業に集中しているときではなく、注意を必要としない作業や単純作業のときに、意図せず浮かんでいることが多いようです。
ぼんやりしているときに、ふと未来のことを考える…というのはなんとなくイメージ通りですよね(裏返すと、16分に1回のペースで集中が途切れている、とも言えそうです)。
これだけの頻度で未来について考えているわけですから、予定を忘れていたり時間の見積もりを誤るのは、思い出す頻度のせいではありません。
問題は、思い出している「記憶の精度」です。
時間をうまく使えないと感じたときは、「記憶の精度」が低下してしまっているのです。
未来の思考はどうやって構築されるか
私たちは未来について考えるとき、まず大まかな構造を最初に思い浮かべ、そこに肉付けするように考えているとされています。
これは、「構築的エピソードシミュレーション仮説」という考え方です。
たとえば、新しい資格を取るために、講座に通うことにしました。
初日の説明会に行くとして、まず頭の中では、「駅まで歩いて行って、今日は〇〇線に乗って、〇〇駅はたぶんすごく混んでいるからちょっと早めに着くようにして…」と情報を組み合わせていきます。
はい、ここでちょっとストップ!
今お話ししたように、あなたは未来の予定を考えますか?
実際にはそんなことを考えているヒマはなく、真っ先にネットで検索するのではないでしょうか。
あるいは、「その場で調べながら行く」という人もいるでしょう。
とりあえず何も準備していなくても、その都度スマホで検索すれば、何も困ることはありません。
そんな便利なアイテムによって、最近はこの未来の思考についての構築と肉付けの機会が、どんどん減ってきています。
機会が減れば、それを支えるワーキングメモリの能力も使われず、使われない能力は徐々に衰えていってしまう、というわけです。
準備せずその場で検索、という行動をとるほど、私たちの「未来を思考する能力」──時間軸で自分の行動をシミュレーションして、それにイメージを重ねて未来の行動に役立てる力──は低下してしまいます。
結果、不測の事態に対する適応力が低下したり、未来を忘れてしまい予定通りにこなせないといったトラブルが引き起こされてしまっているのです。
ネットで得る情報が便利でも、それを活用した結果、自分自身の予定遂行能力を低下させてしまえば、元も子もありません。
情報を検索するのは、あくまでもシミュレーションの精度を上げるため、と位置付けてみましょう。
まずは自分の頭の中で情報を構築し、肉付けしてから、そのサポートとして検索するのです。
このように、情報の扱い方や接し方を自分で決めることもまた、情報を全体の一部として位置付けるための大切なポイントです。
未来のイメージ力を強化する
それでは、未来を詳細にシミュレーションする力は、どのように高めていったらいいのでしょうか?
未来のイメージ力を強化するには、頭のなかで「朝から晩まで」自分を行動させるという方法が効果的です。
頭の中でもう一人の自分を行動させてみて、行動が滞ったところに情報を付け加えてみましょう。
出張や旅行に行くときに試してみるとやりやすいと思います。
朝起きてから、家を出て、どこを通ってどこに行き、誰に会って何を話す…。
頭の中だけで自分を動かしていると、道に迷いそうなところや準備し忘れているものに気がつきます。
そこで情報を肉付けして、イメージをより具体的にしておきましょう。
行動をイメージするだけでも、実際の行動で使われる脳の部位が働きます。
行動(イメージ)が先で、その行動を果たすために情報を使う、という順番で情報に接することで、予定忘れを防ぐことができます。
大事なイベント前には、日常生活をルーチン化する
未来のシミュレーションは、近い未来(たとえば明日)と遠い未来(たとえば1週間後)で、その精度が変わります。
時間的に近いほど具体的に考えることができ、遠いほうが曖昧になります。
これは、遠い未来ほど、その未来が実際に訪れるまでに脳が扱う情報が多く、すべてをまとめ上げるのが難しいからです。
未来の予定までに扱わなければいけない情報の中には、その予定とはまったく関係のないものも含まれます。
では、遠い未来、たとえば3カ月後の特別なイベントを成功させるためには、どうしたらいいのでしょうか?
そんなときは、脳が扱う無関係な情報を減らすことが役立ちます。
日常生活がルーチンになればなるほど、情報の量と種類は減っていきます。
全体の情報の量と種類が減れば、遠い未来でも一貫した情報にまとめ上げやすくなる、というわけです。
コンディションを整えるためにエステに行っておこう、気合が入るように新しいネクタイを買いに行こうなど、新しい段取りや準備が増えてしまうと、イベントに行き着くまでに処理しなければならない情報が増えてしまい、未来のイメージが曖昧になります。
ここぞというイベントで力を発揮するには、そのイベントまでの日常…食事、行く店、着る服、買い物、会う人、作業の順番などをルーチンにしてみましょう。
予測しなければいけないことが減った分だけ、脳はイベントのシミュレーションに力を注げるはずです。
ワーキングメモリを鍛えて仕事の効率をあげよう
記憶力、情報処理力、時間管理力…。
一般的に「地頭のよさ」とされているこれらの能力は、ワーキングメモリを鍛えることですべて底上げできます。
仕事でミスをしてしまい、「自分には才能がない」「この業務に向いてない」と悩んでいる方がいたら、まずはこちらの本を読んでみてはいかがでしょうか。
生活のなかでワーキングメモリを訓練して、「ダメなビジネスパーソン」を卒業しましょう!
ビジネスパーソンインタビュー
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