ビジネスパーソンインタビュー
寂しいのに、近くに人がいると「うぜえ」
都合がいい「ファミリー」を作るべき。“弱みだらけ”の青木真也が語る「孤独と付き合う方法」
新R25編集部
人にはさまざまな「弱み」があります。容姿、頭脳や、どうしても直せない悪癖…。生まれついての“人より苦手なこと”に落ち込んでいる人もいるのではないでしょうか。
そんな弱みがありながら独自の活躍をしている人たちに、「弱みとの付き合い方」「弱みをどうやって強みに変えたのか」をきいた8月特集「弱みは強み」。
このたび大好評にお応えして、連載化することとなりました!
ということで今回は、こんな強そうな人に話をきいてみました…!
【青木真也(あおき・しんや)】1983年生まれ。静岡県出身。早稲田大学柔道部在籍中に、格闘家としてデビュー。第8代修斗世界ウェルター級王者。第2代ONE世界ライト級王者。第2代DREAMライト級王者。著書に『空気を読んではいけない』(幻冬舎)、『ストロング本能』(KADOKAWA)など
青木真也さん。世間的なイメージは、総合格闘技の世界で戦う「強い人」。
しかし、彼がさまざまなメディアで書いているコラムを目にすると、「内面的な弱さ」を吐露しているような文章が散見されるのです。
“バカサバイバー”の異名を持つ現役格闘家は、どのような「弱み」を抱えているのか? 話を深掘ってみると、青木選手の「結婚観」や「ファミリー論」が飛び出してきました。
〈聞き手:天野俊吉(新R25副編集長)〉
弱みだらけの人間だから、人のだらしない部分を見るとうれしい
天野
現役の格闘家に「弱み」というテーマで取材するのは恐縮ですが…
青木さん
いや、いいですよ。俺は本当に弱みだらけの人間ですから。
天野
そうなんですか…?
青木さん
俺、芸能人が不倫で叩かれてるの見るとホッとするんですよね。ベッキーのときとか。
自分が弱くてだらしない人間だから、人のだらしない部分を見るとうれしいんです。お前もそうだよな!って。
天野
全然アスリートらしくない発想。
青木さん
あと、格闘技を見てて、緊張に震えてる選手がいるとすごい勃起しちゃうんですよ。
いきなり危なげな性癖を告白する青木さん
青木さん
宇野薫選手のセコンドについたことがあるんですけど、宇野選手ってすごい完璧なんですよ。家族もちゃんといて、ブランドも持ってて、みんなに尊敬されてる。そんな選手が、試合前に恐怖で震えてたんです。
(※宇野薫…現在44歳、「総合格闘技のパイオニア」と呼ばれるレジェンド選手。ファッションモデルやアパレルショップ経営者としても活躍中)
天野
リングの裏側ではそんな光景があるのか…
青木さん
まさに弱みじゃないですか。それを見て「そうだよな! ノレる!」って超興奮しました。
芸能人もアスリートも、外からは表面的な部分しか見えないから完璧だと勘違いされるんですけど、人間は完璧じゃない。ホンネの部分をもっと見たいっていつも思ってます。
孤独で寂しいのに、誰かが近くにいると「うぜえ」と思ってしまう
天野
では、青木さん自身にはどんな「弱み」があるんでしょうか?
青木さん
個人的なことから言うと、私生活が破綻してるんですよね。
※青木さんは現在家族と別居中で一人暮らしとのこと
青木さん
これまでの人生、基本ずっと孤独なんですよ。
自分の弱みは、孤独で寂しいのに、近くに誰かがいると「うぜえ」って思ってしまう…ってところですね。どうしようもないヤツなんです。
天野
それはすごく苦しいですね…。でも、共感する人も多いと思います。
青木さん
そういう人に言えるのは「人との付き合いは、間合いが大事だ」ってこと。
格闘技的に言うと、間合いとは“距離と角度”なんですけど、距離を詰めすぎるとよくないです。
自分もよく距離を詰めようとしてしまったり、近づきすぎて「うぜえ」と思ってしまったりの繰り返しなんですけど。
天野
なるほど…
青木さん
問題なのは、「孤独」と「うぜえ」の間でうまくバランスが取れてるような社会の制度がないことだと思うんですよね。
たとえば結婚って、1人の女性とだけ距離を詰めなきゃいけない制度でしょ。それは絶対「うぜえ」ってなってしまう。
「恋愛部門」「セックス部門」「喋る部門」みたいに、いろんな人と間合いを詰めていきたいと思うのは自然なことですよ。でも、今の社会制度だと許されないですよね。
結婚制度を格闘技で解説できるのは青木さんぐらいのものでしょう
天野
社会制度に対していろいろ思うところがあるんですね。
青木さん
俺らは制度や社会的圧力のせいで、だいぶ窮屈にさせられてると思う。
別居するとき、「1人になったら孤独を感じるんじゃないか」って躊躇してたんです。その一歩を踏み出すのがすごく怖かった。
長州力の名言「またぐなよ!」みたいな感じで…
天野
(プロレスくわしくないから全然ピンと来ない…)
「またぐなよ!」=2000年、大仁田厚が練習中の長州力のもとを訪れ「電流爆破マッチ」を申し込むための嘆願書を手渡そうとした際、長州が「(フェンスを)またぐなよ!」と連呼したという名言(調べました。プロレスファンの皆様、間違ってたらご指摘ください)
青木さん
「1人で生きるのは寂しいことだ」ってよく聞かされてるから、孤独へのフェンスをまたぐのが怖いわけ。
でも、またいでしまえばどうってことなかった。
誰もが自由にフェンスをまたぐようになったら今の社会制度が崩壊しちゃうから、“抑止力”として「またぐなよ!」「またいだら怖いんだぞ」って窮屈な教育をされてると思うんですよね。
「35歳過ぎると、孤独とうまく付き合えるようになる」という理由とは?
青木さん
ただ、35歳をすぎると孤独とうまく付き合えるようになってきますね。
自分のまわりにちょうどいいメンバーが集まるようになります。
天野
なぜ35歳すぎるとラクになるんですか?
青木さん
22歳で大学卒業したときって「一斉スタート」じゃないですか。横並びの集団が形成されてるから、自分をまわりと比べざるを得ない。だから就活とか新人時代ってツライですよね。
そこから数年すると「第1集団」「第2集団」みたいに、グループができてくる。これも自分が上位集団に入れてないとツライですね。
天野
まさにR25世代が感じる息苦しさだと思います。
青木さん
自分は格闘家だったので、若いときは「トップ集団」にいたわけです。
でも今36歳になってみると、ちがう業界の同世代が伸びてきて、どんどん自分を抜いていく。最初走ってたのとは全然ちがう道を走るヤツもいる。
そうなったときにはじめて、友達ができるんです。競争が完全にバラバラになったからこそ、わかりあえる人ができる。最近すごく思いますね。
青木真也が見つけた“孤独の解決策”。「俺たちはファミリーだ」
天野
そんなふうに「孤独」を強く感じている青木さんですが、仲間の格闘家や友人たちに対して、「俺たちはファミリーだ」っていう言葉をよく使うじゃないですか。この言葉がすごく気になってて。
青木さん
「俺たちはファミリーだ」って、超いい言葉じゃないですか?
「ファミリー」の定義が何かというと、「都合がいい関係」ってことなんですよ。
青木さん
別に一緒に住んでるわけじゃないし、何かに縛られてる関係でもない。
でも、「こいつは自分と思想を同じくしている」という仲間と「俺たちはファミリーだ」って思えてれば、何か困ったときに手を差し伸べあえるんです。
天野
「思想を同じくしている」…
青木さんと“ファミリー”は、どんな思想を持ってるんですか?
青木さん
「何かを頑張りつづける」ってことですよね。仕事とか、ボロボロになるまでやってて、みんな私生活はどうしようもない人間ばっかり。
お互い何かを求めてるわけじゃないし、何もしてくれなくてもいい。それでもファミリーがいることで心の安定があれば戦える。
“一緒に住んでるだけの名ばかり家族”とは真逆です。
天野
ファミリーから助けられた経験もあるんでしょうか?
青木さん
そうですね。2017年の11月に、はじめて格闘技で連敗したんです。引退しようか、っていうところまで深く考えて落ち込みました。
試合後に一緒にメシ食ってたのが三浦崇宏(=株式会社GO代表。クリエイティブディレクター、PRプランナーとして、話題になる広告を多数手がける)なんですけど。
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新R25でも多数取材させていただいている三浦さん。青木さんとは公私ともに仲良くされているとか
青木さん
三浦がスゴイのは、こっちが自分のキャリアとかいろいろ考えてるのに、「青木さん、(現役を)やりましょう!」とだけ言ってきたところ。
一切なんの根拠もないし、すごい自分勝手な話なんだよ(笑)。
でも、その一言に背中を押されて「じゃあ、やるか」って思えた。自分一人だったら、そう思えなかったかもしれない。根拠がなくても信じられる。それこそ「ファミリー」の意味だよね。
天野
なるほど…まさに家族的な存在になってるんですね。
逆に青木さんがファミリーのために何かすることもあるんですか?
青木さん
それは俺が格闘技をする理由にもつながるんだけど。俺が戦うことで、何かにしばられてしんどい人、窮屈に生きてる人に勇気を与えられると思ってます。
こんなに孤独で、しばられてない、“蛇の道”からやってきた俺がなんとか勝つことで、人の感情を揺さぶったり勇気を与えたりするのが、俺がやりたいことですね。
格闘技で「打たれ強いヤツが勝負に弱い」のはなぜ?
青木さん
でも、格闘技の部分でも「弱み」ばっかりで。
たとえば俺、中学高校の柔道部時代から王道の技が苦手だったんです。「寝技」ばっかりやってて、「そんなの柔道じゃない」って否定されつづけてきました。
天野
「寝技は邪道」っていう暗黙のルールがあるんですか?
青木さん
めちゃくちゃありますね。「大外刈りと内股をやらなきゃホンモノじゃない」みたいな。
でも「自分が勝つ道はこれだし、勝てばいいんでしょ」ってずっと思ってた。そのおかげで、技の“流行”にあまり左右されなくなったと思ってます。
天野
ほかにも、選手としての弱みはありますか?
青木さん
体が大きくないし、運動能力もそこまで高くない。
あとは「怖がり」なこと。試合のときは毎回、「やりたくない、もう帰りたい」って思ってます。
こんなめちゃくちゃガタイがいい人でも「怖い」って思うのか…
青木さん
でも、自分が弱いことを知っていることは「強み」なんです。
天野
どういうことですか?
青木さん
打たれ強いやつって勝負に弱いんですよ。
「打たれても大丈夫」って思ってると用心しないから、致命的な一打をもらってしまう。
僕はもらうのが怖いから、めちゃくちゃ間合いを考えてるんです。
天野
ビジネスの世界でもそうかもしれません…
自分のことを「打たれ強い」と思ってると、気付かないうちにメンタルを病んでしまったり。
青木さん
強くならなくても、勝てばいいんです。
100回戦ったら99回負けるぐらい弱くてもいい。勝てる「1回」を最初に持ってきて、あとは戦わなければ“勝利”なんです。
自分が勝てる1回をどうやって最初に持ってくるのか?それを考え抜くのが、どんな世界であっても使える「勝つ方法」だと思います。
モチベーションは、お金でも名誉でもない
天野
今日の取材で聞いているだけでも、何回も「怖い」という話が出てきました。それなのに戦いつづけられるのはなぜなんでしょうか?
今の青木さんのモチベーションってどこにあるんでしょうか。たとえばお金とか名誉とか…
青木さん
名誉欲はないです。「昔○○に勝った」みたいな戦績とかもどうでもいいですもん。
俺、家にベルトとかトロフィー飾ってる選手の感覚が理解できない。
見たかったら画像検索すればいいと思っちゃう。ジャマだからpdfでくれないかなっていつも思います。
ベルトをpdfで授与。そんなミニマリストな大会イヤです
青木さん
「金持ってるぞ」みたいな格好をしたいわけでもない。
俺は、格闘家とロックミュージシャンが格好いい理由は同じだと思ってて。
天野
なんですか?
青木さん
どんなに金持ってるヤツでも、格闘技とか音楽とかアートとか、“芸”を持ってるヤツには敵わないってことです。
なるほど…
青木さん
ごく普通の服を着ていても、パッとリングに上がればいつでも戦って勝てる。
そういうふうに、自由かつ格好よく生きていたい、っていうのが、今の自分のモチベーションですかね。
今でもたまに地元の静岡に帰り、柔道を教えたりのんびり過ごしたりしているという青木さん。
周囲の目は必ずしも好意的なだけではないようです。
「やっぱり田舎なんで、いい歳してフラフラしてる俺みたいなのがいると『君は何をやっている人なの?』ってよくきかれるんです。でも、それでいい。そういう社会的な圧力を受け流して、孤独で自由に、のうのうと生きていたいです」。
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=池田博美(@hiromi_ike)〉
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