ビジネスパーソンインタビュー

【無料試し読み】橋下徹『実行力』

大阪の大改革を成し遂げたリーダー論

【無料試し読み】橋下徹『実行力』

新R25編集部

2019/08/02

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組織におけるリーダーの役割とは?

その答えは人によってバラバラです。

今回は、38歳で大阪府知事に就任した橋下徹さんの新著『実行力』から、橋下さんの考えるリーダーのあり方についての記事をお届け。

大阪府庁1万人・大阪市役所3万8千人の職員、組織、そして国をも動かし、結果を出してきた秘訣に迫ります。

部下との人間関係なんか気にするな。僕が信頼されるために組織に与えた「最初の衝撃」

部下との人間関係なんか気にするな

部下との人間関係づくりが大事とよく言われます。

とりわけ、マネジメントをする立場になって、部下との人間関係に頭を悩ませる人は多いようです。

僕は、38歳で、外部からいきなり大阪府庁という巨大組織のトップになりました。そんななかで人間関係を築いていくのは、簡単なことではありませんでした。

中央官庁でも国会議員が大臣として数千人の組織のトップに就きますが、容易には人間関係は築けないと思います。むしろ、きちんと人間関係を築けるケースのほうが例外ではないと僕は見ています。

人間関係を気にしすぎると、部下に「いい上司」と思われたいという気持ちが強くなってしまいます。

部下と飲みに行って話を聞いたり、相談に乗ったりすることが、一般的には関係づくりの王道とされています。それもいいのかもしれませんが、飲み会で部下との人間関係がうまくいったとしても、仕事で実績を上げなければ、「あの上司は、いい人だね」で終わってしまいます。

やはり職場の上下関係である以上、仕事を成し遂げる関係でなければなりません。

人間関係のことを気にしすぎるよりも、初めから「部下との人間関係づくりは難しいもの」と思って接したほうが、気持ちがラクになると思います。

僕は、大阪府庁でも大阪市役所でも、職員たちと散々対立しました。「別に嫌われたっていい。死ぬわけじゃないし」というふうに、ある意味で開き直っていました。

「知事を辞めたら、もう付き合わなくてもいいんだし」というくらいにドライに割り切って、いい人間関係を作ることよりも、仕事をやり遂げようと考えていました。

後述しますが、リーダーの役割は「部下ができないこと」をやり遂げること。

そうした姿を見せれば、多少は信頼してもらえるだろう。そうやってあまり重く考えなければ、人間関係に悩まなくてすみます。

「部下ができないこと」をするのが、リーダーの役割

弱冠38歳で府知事に就任した僕は、まず「自分の役割は『部下ができないこと』を実行すること」と決め、副知事以下の職員が絶対にできないことをやろうと考えました。

それを実行することによって、少しでも信頼してもらうしかありません。

知事の任期は4年。スピード感を持ってやらないと、4年間などあっという間に過ぎてしまいます。

「部下ができないこと」と言っても、ちまちましたことでは、組織にインパクトを与えることはできません。

部下がこれまで「絶対にできない」と思っていたこと、部下にとっての長年の懸案、こうしたものを解決することによって、「最初の衝撃」を与えることが、重要だと考えたのです。

マキャベリも名著『君主論』において、「統治者は最初に衝撃的な大事業を行なうべき」という意味のことを語っていますね。

着任当初、大阪府は「地方負担金」で悩まされていた

当時、府庁の職員たちの積年の不満は「国直轄事業の地方負担金」の問題でした。

地方負担金とは、国が公共事業として大きい国道やトンネルを作るときに、地方自治体にその負担を求める仕組みのことです。

国土交通省から請求書が回ってきて、「〇億円支払え」という感じです。請求書には内訳も何も書かれていません。

職員から見せてもらって驚きました。「これ、いったいゼロがいくつなん?」と聞いて数えたら、ゼロが10個くらい(笑)。数百億円という金額でした。

国の直轄事業の地方負担金があまりにも一方的すぎるということは、1959年くらいから問題になっていました。

国の仕事だから、国が全部資金を出すべきだ」というのが地方の主張。全国の首長や地方公務員が国に不満を持っていましたが、地方サイドが声をあげても、国は「聞く耳持たず」で、知らん顔。

僕は地方負担金のことを知って、「これはおかしいんじゃないか」と思いました。

大阪の改革を進めるうえで国とは色々な喧嘩をしましたが、国に設置された、外部有識者委員からなる地方分権改革推進委員会に出席したときに地方負担金についても声をあげました。

とはいっても、委員会で普通に発言したくらいでは、無視されるだけ。メディアにメッセージを乗せて世論を大きく動かさないと、国は相手にしてくれません

僕は「これは、ぼったくりバーじゃないか。こんなもんは、支払いを拒否する」と、国ととことん喧嘩をする宣言をしました。

すると、メディアが飛びついて、連日のように小難しい地方負担金の行政制度の話を報道してくれました。

地方行政のマニアックな話ですが、メディアが盛んに取り上げたため永田町の政界でも関心を集めました。

2009年、民主党に政権が交代するかという総選挙を控えている時期でした。

部下ができない仕事をやり遂げたことで信頼感を醸成

1959年以降、全国知事会がずっと見直しの申し入れをしていましたが、見向きもされなかった案件です。

全国知事会は普段特定の政党を支持することはありませんが、国会議員を動かさないと国は相手にしてくれませんので、今回はチャンスと見て、政党にプレッシャーをかけるべく、各政党幹部を呼んで討論会を開きました。

選挙前でメディアでもこの負担金問題を大きく取り上げてくれていましたから、各党ともに「地方負担金を見直す」と言わざるをえない状況になり、自民党も民主党も見直しを約束してくれました。

もうこうなると、どちらの政党が勝っても何らかの動きがあるはずです。結局、民主党が選挙に勝って政権を取り、地方負担金を見直してくれることになりました

大阪府の職員にとって、国直轄事業の地方負担金の見直しは長年の念願でした。

これまで絶対に見直しができないと言われていた地方負担金の見直しに僕がチャレンジし、実際にそれを実現したことで、府庁の現場の職員が僕の話により聞く耳を持ってくれるようになったと思います。

部下ができない仕事をやり遂げたことに対する信頼感の醸成ですね。

これまでのチームのメンバーが、絶対にできなかったことをやる。

それがリーダーと部下の信頼関係の土台です。

組織にとって“一番嫌なこと”を打ち出す。リーダーに求められるビジョンの掲げ方

衰退傾向のある組織に効く“逆張り”のビジョン

リーダーになったとき、すでに自分のビジョンを持っている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、僕の講演などでは、「では、自身のビジョンはどうやったら作れるのでしょう?」といった質問がよく飛んできます。

僕の持論のひとつは、「逆張りの法則」です。

組織がうまく回っているときには、あえてリーダー・トップが新しい画期的なビジョンを打ち出す必要はありません。

簡単に言えば、うまくいっているのであれば、それをそのまま進めていけばいいだけで、リーダー・トップが口を出していらんことをしないほうがいいのです。

しかし今の時代、今までの方針をそのまま続けていけばいいという組織は少ないでしょう。衰退傾向が出ている組織のほうが多いのではないでしょうか。

そのときにこそ必要なものがリーダー・トップの方針・ビジョンであって、「逆張りの法則」が効いてくるのです。

2008年の大阪は行き詰まっていた

僕が2008年に知事になったときに、大阪は経済的に低迷してうまくいっていませんでした。

そこで、僕は「現状が悪いのであれば、まずはこれまでの方針の全否定から入ろう」と思いました。

これが、先ほど述べた「逆張りの法則」です。これまでと逆のことをやることがただちに正しい正解になるとは限りませんが、今までがダメだったのなら、やってみる価値はあります。

逆張りというのは、組織にとって「一番嫌なこと」です。

自分たちのやってきたことを否定されるのですから。当然、OBの顔もちらつきます。ゆえに、逆張りの方針を打ち出せるのは、トップだけです。

僕は、組織内で反発を受けるのを覚悟して、低迷する大阪を逆張りの方針で変えようと考えました。

それまでの大阪の方針は、大きく分けて二つありました。一つは大阪府域内での「産めよ増やせよ」というもの。府内の人口を増やす、府内の企業を増やすという方針です。

もう一つの方針は、府内にある中小企業の技術力を守っていくというものです。大きくまとめるとこの二つに集約されます。

大阪は、高度成長時代から今にいたるまで、「産めよ増やせよ」のやり方を続けてきて、高度成長期が終わりそれが行き詰まっても、誰も変えることができませんでした。

そうして、大阪は徐々に衰退していったのです。

大阪府庁の職員たちはみな、「産めよ増やせよ」、「中小企業の技術保護」を2つの柱として一生懸命に行政をやってきましたので、それを否定することなどできません。逆張りにするということは、自分たちの間違いを認めることであり、OBが間違っていたと言うようなものです。

当然のことですが、大阪の方針を決める担当部局は、僕の逆張り方針に猛反発してきました。

僕は、外部有識者の意見も聞きながら、職員たちと話し合いました。

「大阪がかつて良かったときは、2つの柱がうまく効いていた。しかし今、大阪はこんなに衰退している。東京に並ぼうと言いながら、全然並べない。これを何とかしなければいけない

そのような議論を踏まえて、これまでとは逆の道を進んでいくことを受け入れてもらいました。

正しい解になるかどうかはわからないけれども、とりあえずこれまでと真逆のことをやってみようという呼びかけです。

逆張りの方向性として出てきたのが、「中継都市」と「付加価値都市」です。

※「中継都市」と「付加価値都市」の詳細は『実行力』を参照

僕が感心したトランプ大統領のビジョンの打ち出し方

僕が感心したのは、巨大なアメリカ連邦政府組織に対するトランプ大統領の方針・ビジョンの出し方です。

トランプ政権は、2017年末に税制改革法を成立させ、法人税率を35%から21%に引き下げました。その他の大胆な税制改革も実行しました。

安倍政権も法人税率を下げましたが、6~7%下げるのに4~5年かかっています。トランプ政権は、2017年1月に発足して1年も経たないうちに14%もの減税を実現させました。

その起点になったのは、トランプ大統領のA4一枚の指示書(大統領令)です。

優れたリーダー・トップの方針というものは、簡潔で具体的で、「それがあるからこそ組織が動くことができる」というものです。

もし最初の指示で大統領が20枚くらいの紙に細かいことを書いてムニューシン長官に渡していたら、おそらく財務省の現場は手足を縛られてフリーズしてしまったでしょう。

リーダーはそこまで現場のことを把握しているわけではありません。

大統領がいくら指示しても、それが法令に反していたり、他の諸制度との整合性がとれていなかったりということは多々あります。

制度案の中身の詰めは、やはり現場がやらなければなりませんので、現場が判断できる裁量を与えてあげなければなりません。

他方、日本の予算編成でよく出される「メリハリのある予算」「少子高齢化時代の課題に対応できる予算」「将来世代に負担を残さない予算」などという方針では、組織は大改革に踏み出せません。

このような抽象的なスローガンは、ごく当然のことを言っているだけで、これまで組織が踏み出せなかった障壁について、それを乗り越えろ! という指示ではないからです。

小学校時代によく教室の前に掲げてあった「明るく、元気に、助け合いましょう」などという標語と同じです。

これだと結局、例年通りの予算を作らざるをえません。

そうではなく、リーダーの指示がなければ組織が踏み出すことができないその要点を、簡潔に指示するのです

「A4一枚の方針」が政府組織を動かしている

トランプ大統領は、国防・安全保障・関税に関する方針も、まずはA4一枚の紙に具体的かつ簡潔に、それがなければ組織が動くことができないという要点に絞って書き、政府組織に指示を出しています。

そしてこれらについても、大統領は長官などの各閣僚を通じて政府組織の現場とキャッチボールしながら、最終的には分厚い戦略を完成させています。

その戦略をもとにワシントンの巨大なアメリカ政府組織が、これまでの政府の常識的な動き方と異なることを実行している。

つまりトランプ大統領の「A4一枚の方針」が政府組織を動かしているのです。

もちろんその動き方について、また政策の方向性については賛否両論あるでしょうが、トランプ大統領がワシントンの巨大な連邦政府組織を大胆に動かしていることは間違いありません。

中国製品に25%の関税を課すことなどは、官僚の発想では絶対にできないことです。

ワシントンのインテリ・エリートたちは、自由貿易に反する高率の関税によって、中国に対し貿易戦争を仕掛けることなど思いつくことすらできないでしょう。

しかし、大統領が大きな方針を出して、官僚組織に実行するための戦略プランを作らせれば、実行できてしまうのです

僕は大阪府庁1万人、大阪市役所3万8000人の公務員組織を動かすだけでも大変でしたが、トランプ大統領は、ワシントンの巨大な官僚組織を動かして、これまでのアメリカの政治ではありえなかったような政策を実行しているのですから、すごいことだと思います。

物知りになることが目的じゃない。リーダーが習慣にすべき“ニュースの見方”

僕がニュースを見るのは、物知りになるためではない

僕は毎日、主要な新聞5紙などを読み、様々なニュースに対して、「自分はこう考える」という持論を頭の中で構築する作業をしています。

特にニュースから課題を見つけて、それについては自分なりの解決策を考えます。

すべてのニュースに対してできるわけではないですが、めぼしいニュースについては、必ず課題を探り、「自分の意見」を言えるようにしています

単にニュース知識を頭に入れて物知りになるのではなく、自分の意見を必ず付けて持論を言えるようにするのです。これを毎日、毎日、今でもやっています。

学者ではないですから、たとえば歴史問題を考えるときに、世界史の本を一巻から読むというようなことはしていません。

知事・市長という立場も今の法律事務所代表という立場も、組織を運営する実務家ですから、現実の課題を解決しなければならない仕事です。

抽象論ばかり頭の中でこねくり回していても仕方がありません

ゆえに現実のニュースから課題を見つけ出し、その解決策などの持論を組み立てる訓練をするためには、まずは新聞などから入っていきました。

そして、単にニュースに目を通すのではなく、そこから課題・論点を見つけ出すことが非常に重要です。

課題・論点を見つけることができなければ、記事を読んでそのまま現状を追認するだけになります。

改革・変革を実行するのに最も重要なことは課題を見つけ出す力

誰もが気付かない課題を見つけることができて、初めてその解決策である改革案・変革案を考えることができるのです。

どんなニュースについても、自分の持論を言えるようにする

また知事・市長時代は、メディアから意見・見解を求められる可能性があることは、いつも想定していました。

どんなニュースについても、自分の持論を言えるようにしておかないといけません。

こういう事件がありました」「実はこの裏側にはこういう事実があるのです」と伝えるのは、アナウンサーや単純なコメンテーターの役割。新聞記事に書いてあることを読み上げるか、どこからか聞いてきた情報を伝えればいいだけ。

それに対して、意見・見解を求められる人の役割は、そのニュースについての自分なりの意見を言うことです。

自分の知識が足りないと的確なことは言えませんので、そのニュースをめぐって知識が足りないと思うときには、関連する本を読んで勉強します。

知識そのものは、今やインターネットですぐに引っ張ってくることができますので、記憶する必要はありません。

“持論”を積み重ねると、人が気づかない物事が見えるようになってくる

僕は政治家を辞めた今、ニュースなどの時事ネタについて持論を展開することが仕事のひとつになっています。

テレビやインターネット、書籍を通じて持論を述べる機会を与えられていることは非常にありがたいことです。

これには、日々新聞などを読んで持論を組み立てていることが役に立っています。

毎日毎日そうした練習をしていると、どんな話題が出てきても、一定の持論を述べることができるようになります。

そして、このような能力が身についてくると、人が気づかない物事が見えるようになってきます。部下が気づかない問題点は、こうした積み重ねの中で見つけられるようになりました。

さらに持論を組み立てる積み重ねをしていくうちに、だんだんと自分のなかに大きな方向性・ビジョンができてきます。

1冊、2冊の本を読めばビジョンができるというものではありません。毎日、課題を探り出し、考え、持論を組み立て続けていくとビジョンらしきものができてきます

そういう意味で、自分なりのビジョンができるにはある程度の年月がかかると思います。

リーダーが読むべき哲学が詰まった橋下さん著『実行力』

「僕がリーダーとしてこだわってきたことは『実行力』です」

2008年に、いきなり1万人の行政組織のトップに立った橋下さん。

4年という限られた任期で結果を残すために行動した経験から、チームのマネジメント法、組織を動かす思考など、部下を動かすためのリーダー像がわかる1冊です。

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