ビジネスパーソンインタビュー
野球を純粋に楽しみ、考える。
超大物選手たちと共演できるのはなぜ!? 野球YouTuber・クーニンの「直アポ」戦略
新R25編集部
ここ数年、子どもの「将来なりたい職業ランキング」で上位に定着しつつあるYouTuber。ニッチなジャンルで活動する人も多く、“野球YouTuber”として活躍しているクーニンさんもそのひとり!
月間動画再生数は1500万、チャンネル登録者数は約35万人と、多くの人に動画が見られていますが、驚きなのはその内容。
ダルビッシュ有、田中将大、大谷翔平という超スター選手と一緒にトレーニングし、その内容を動画にアップしているのです。
大物選手とのコラボは、どのようにして実現したのか…?
もともとウェブディレクターだったという彼が、どのようにしてここまでのメディアを運営するに至ったのか、その裏側について語っていただきました。
〈聞き手=森ユースケ〉
【クーニン】ウェブディレクターとして働くかたわら、野球YouTuberとして“クーニンTV”を運営。ダルビッシュ有やマイク・トラウトなどのトッププロとの共演を果たし、自身も草野球チームを率いて年間80試合以上を戦っている
スター選手には「直営業」で食らいつく
森
クーニンさんといえば、豪華なプロ選手とのコラボ動画が有名ですが、これって何かコネクションがあったんでしょうか…!?
クーニン
いや、公式ウェブサイトの問い合わせから連絡してみたり、“直”ばっかりですよ。
連絡する際は、自分で作った「クーニンTV」のメディアガイドを、あわせてメールで送ります。
本業でもメディア運営を行ってまして、社長から「代理店ははさまず、直アポ、直販営業で顧客の生のニーズを受け取ろう」と言われつづけていて、その精神でやっていました。
※メディアガイド=雑誌やWebメディアが、自社の情報や特徴などをまとめた資料のこと。広告業界用語
森
めちゃくちゃビジネスマン…
こちらがその資料!
森
クーニンさんがスター選手と動画でコラボすることのきっかけとなったダルビッシュ選手もそうなんですか?
クーニン
ダルビッシュさんの件は、実はYouTubeを始める3年くらい前、当時自分がサイトづくりの勉強がてら運営していたウェブメディアで「トレーニング内容を紹介したいので取材させてください」と依頼していたんです。
そのときすぐには返信がありませんでしたが、ダルビッシュさんが自身のトレーニングを広く公開するとなったタイミングで、「トレーニングにきませんか?」と連絡をいただきました。
それが忘れもしない2016年11月です。取材で沖縄にいたのですが、打ち上げで泡盛を飲んで酔った状態のときに、スマホに通知が来たんです。「ちゃんと本人ですのでご安心ください」と。
衝撃すぎる通知
クーニン
酔っていたこともあり、最初は「あれ、夢かな」って思いました(笑)。
森
すごい…!
それで、田中将大(ニューヨーク・ヤンキース)、大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)、ダルビッシュ有(シカゴ・カブス)…という豪華メンバーのトレーニングを、クーニンさんが取材することになった、と。
超豪華…!
クーニン
感謝しかないですね。当時、ダルビッシュさんのトレーニングはマスコミも知らず、大手キー局からの取材依頼も受けていなかったようで、自分が誰よりも早くトレーニングの内容を知ることができました。
「クーニンさんのように純粋に野球がうまくなりたいという方に最初に体験してもらって、伝えてもらえるとうれしいです」というお言葉をいただき、身が引き締まったのを覚えています。
「OBに聞く名門校の練習シリーズ」の動画を見て、自分に興味を持っていただけたようで…。すごくうれしかったです。
森
名門校のOBですか。
クーニン
智弁和歌山、明徳義塾、花咲徳栄などの名門校OBたちを取材して、動画にしていったものです。
森
正直、めちゃくちゃマニアックですね。
クーニン
僕自身、「野球がうまい方たちはどんな練習をしているのか?」ということに興味がありまして。
それは、僕と同じく普通の公立校で野球をした人なら誰もが見たい内容なのではと思っていました。そんな動画をダルビッシュさんも見てくださって、面白いと思っていただいたようです。
ただのウェブディレクターが、上司にすすめられてはじめた
森
そもそも、YouTubeで動画をアップしはじめたきっかけはなんだったんですか?
クーニン
IT企業でウェブディレクターとして働いていて、部署異動した先のオーストラリア人の上司が、日本の文化を紹介するYouTubeをやっていたんです。その当時で、チャンネル登録者数が2000人くらいいましたね。
その上司が、“競う相手”がほしかったようで、「クーニンもYouTubeやりなよ」と誘っていただいて、始めることになりました。どちらかというと、上司との付き合いで仕方なく始めたかたちだったんです。
森
今のように人気YouTuberになるとは思ってなかったわけですよね?
クーニン
今も人気とは思っていないですが…当時は「動画メディアが流行ってくるのではないか」という風潮があって、会社としても動画メディアに先行投資する動きがありましたので、個人的にYouTubeをやっておくのも仕事に役立つと思い、挑戦することにしました。
森
最初はどんな動画をアップしていたんですか?
クーニン
はじめは、いろんなYouTuberさんの上げる動画をマネしました。
パラパラ炒飯の作り方や、阿波おどりに参加したときの動画、吉祥寺のグルメ紹介、ゲーム実況…などいろいろやりましたが、再生回数は10とかで…
クーニンさんがパラパラ炒飯を…
クーニン
3カ月で約100本の動画を作ったとき、ネタも尽きてきたので「自分が興味を持って取り組めることは何か」とあらためて振り返ったとき、野球がありました。大好きな野球のことならアイデアは無数に出てくると。
野球グラブの手入れ方法を紹介する動画を作ろうと思ったのですが、すでにYouTube上にはそういった動画がありました。ただ、演者が顔出ししてやっている動画はなかったので、自分は顔出しをして、もっとわかりやすくすべての工程や使う道具を紹介しようと思いました。
それが、いつもの再生数より10倍以上の反響があったんです。
ここから野球YouTuberの道へ。ちなみに、人気野球マンガ『MAJOR』の作者・満田拓也先生も、クーニンさんの動画を作画の参考にしているとのこと!
動画には「ニュース」と「ロングテール」の見られ方がある
クーニン
チャンネルが成長した要因として、テーマを野球にしぼったことがよかったと思いますが、他にも工夫をしていました。
森
といいますと?
クーニン
会社でも常日頃言われている「PDCA」をたくさん回すことを意識して動画作りをしました。その結果、徐々にチャンネル登録者数も増えていったんです。
森
そのノウハウ、具体的に教えてください!
クーニン
動画の内容によって、「ニュース系」と「ロングテール系」のものがあると気付いたんです。
「グラブの型付」などの動画は初動で爆発的な再生数は出ないものの、検索の多い動画なので1年後でも比較的視聴されるコンテンツでした。
逆に「トライアウト(戦力外通告を受けた選手などが、もう一度プロ入りすることを目指して、各球団のスカウトの前でプレーするテスト)の結果発表」などの動画は速報性が高く、初動はすごく良いのですが、1年後の再生はほぼ皆無。
この2つの特性を持つコンテンツが存在するので、配信しようとしている動画がどちらに該当するのか、皆さんが探しやすいタイトルは何なのか?を考えて投稿するようになりました。
なるほど…
クーニン
ちなみに、ロングテールで圧倒的にずっと見ていただいている動画があるんです。
森
なんですか!?
クーニン
「ホームラン動画」です。
打者の最高の結果であるホームランって、どうやら皆さん定期的に見たくなるようなんです。
草野球の大会で打ったホームラン動画は、初動もよく、長いスパンで検索もされてずっと見ていただいてますね。
森
おもしろい! 焚き火の動画が人気なのと似たような感じなんですかね。
「そうかもしれませんね」
著名人とつながるコツってあるの?
森
ダルビッシュさんとの出会いは、ネット社会だからこそ実現したと思います。
ネットで“良いつながり”を築くためのコツはありますか?
クーニン
相手ありきのことですので、それが100パーセントいいとは言えませんが、とにかく丁寧に対応することと、表現が難しいですが、あまり“乗っかる”ような態度が出ないように意識しています。
その方の「良さ」を自分が感じた視点で紹介したいので、“乗っかる”のではなく、取材する方の新しい魅力を発見して動画にしたいと思っています。
クーニン
SNSやYouTubeは、投稿する内容に必ず個性が出ますよね。それをチェックしていれば、自分との相性がよくわかると思います。
何かを発信したら、「好き嫌い」は必ず出てきますので、そのなかでも失敗を恐れず、自分の伝えたいメッセージをしっかり発信することで、興味を抱いてもらえると思っています。
森
たしかにそうですね。
クーニン
あと自分は、「クーニンTV」はメディア、運営している自分はメディアマンだと思っています。
取材させていただいた方と自ら写真撮影をする、ということもあまりありません。内心めちゃくちゃ撮りたいので、いつも後悔しているんですが…(笑)。
クーニン
先日、川崎宗則さんとお会いする機会をいただいたんですが、「動画が面白いから、会って野球の話をしたい」と言っていただいて。練習も一緒にさせていただきました。
森
自然発生的にチャンスがどんどん広がってるんですね…
クーニン
“野球が好きで楽しんでいる感じ”が、伝っているみたいなんです。
有名人とつながりたいとかそういう気持ちより、野球を楽しむ姿のほうが重要なんだと思いますね。
クーニンさんが「若い人たちに伝えたい」と考えることとは?
森
クーニンさんが発信を続ける理由や、視聴者に伝えたいことを教えていただけますか?
クーニン
野球を通じて、伝えたいことがあって。
それは「自分の頭で情報を整理して考えてみよう」ということなんです。
森
自分の頭で…
クーニン
スキルアップ系の動画が好評でうれしい限りなんですが、コメントを見ていると、多くの人が「即効性」をとにかく期待しているように思います。
たとえば、中村紀洋(元近鉄バファローズなど)さんにご出演いただいた動画で、「ダウンスイング」を極端にやってみるという指導があったんですが、それを見て「アッパースイングとどっちがいいですか」「ダウンスイングはダメなんじゃないですか」などの反応がありまして。
そういうときは、まずは一度やってみて、どう感じるのか、なぜそういう指導があるのか?を自分なりに考えてみてほしいと思うんです。
立ち上がってスイングを見せてくれるクーニンさん
クーニン
中村さんは、僕が速い球に対応しきれてないのを見て、その感覚のズレを修正するために大げさにダウンスイングするように指導してくれたわけです。
それを見て、「ダウンスイングを勧めてる。そうすればいいのか」と受け取るのではなく、一度トライして、考えてみてほしいんです。
森
文脈や状況を理解してほしいと。
クーニン
仕事でも一緒ですよね。何も考えずに同じ失敗を繰り返したり、「前任者がこうやってたので」と思考停止してしまったりする若い人が、けっこういると思うんです。
動画の見方を少し変えると、仕事や就活などにも使える「頭を使った」考え方が身につくと思うので、ぜひそういう視点で見ていただきたいですね。
〈取材・文=森ユースケ(@mori_yusuke)〉
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