ビジネスパーソンインタビュー
篠原信著『上司1年生の教科書』より
“ほめる”のではなく“面白がる”。部下を能動的にさせる声がけのポイント
新R25編集部
入社年次が上がるにつれて増えてくるのが「後輩への指導」。
「後輩との上手い接し方がわからない」「部下が自分から動いてくれないから、結局疲れる」といった悩みは、先輩になったばかりの人に共通するあるあるです。
その悩み対して、「関わり方を間違えると、後輩を『指示待ち人間』にしてしまう可能性がある」と答えるのは農業研究者・篠原信(まこと)さん。
篠原さんは「私の周りには、『指示待ち人間』が1人もいない」と言います。
自身が考えた人材育成方法をツイッターに投稿したところ、大きな反響を呼んだことで書籍化。
著書『上司1年生の教科書』から、後輩や部下の育て方に悩む人向けに、2本の記事をお届けします。
部下をほめずに育てる
「ほめて育てる」という言葉がある一方で、「ほめるとつけあがる」という指摘もある。
ほめられるとやる気が出て、もっと頑張るようになり、成長を促せるからほめるようにしよう、というのが前者の考え。
ほめると「俺はすごいんだ」と勘違いが始まり、努力をしなくなったくせに傲慢になって言うことを聞かなくなり、成長が止まってしまうから、ほめないほうがいいんだ、というのが後者の考え。
さて、どちらが正しいのだろう?
実はどちらも正しいと思う。
ほめるとやる気が出て努力するようにもなるし、自己認識だけが肥大化して傲慢になり、成長が止まってしまうこともある。
矛盾しているように見えるが、どちらにもなり得る。
実は、両者はほめるところが違っている。
前者は「よく頑張ったね」とか「ここのところ、上手にやったね」と、“工夫や努力・苦労”をほめる。
後者は「100点なんてすごいね」「こんな成績、過去に誰もあげたことがないよ」と本人ではなく、“結果”をほめている。
前者はその人の「内部」に起きたことをほめているのに対し、後者はその人の「外部」で起きた結果をほめている。
前者のほめられ方をすると「もし同じようなことが起きたら、同じ工夫をもっと上手にやってみよう」「まだ今回のやり方は稚拙だったから、もう少し工夫を加えよう」と、改善を試みようとする。
工夫したこと自体をほめられてうれしくなり、もっと工夫をして驚かせてやりたい、と思うからだ。
後者のほめられ方をすると、過去の成績を笠に着て今を正当化しようとする。
昆虫のように鎧を身にまとった「外骨格」を作ってしまい、ナイーブな内面を守ろうと見栄を張るようになる。
「俺は本気を出せばすごい」「まだ本気になっていないだけ」と、過去の栄光にすがり、努力しなくなってしまう。
だから、ほめるのだとすれば結果や成果といったその人の「外側のこと」ではなく、 工夫や苦労、努力といったその人の「内面」のことをほめるほうが、次につながる。
ただ、「ほめる」という言葉をどちらも使うものだから、やや紛らわしい。
そこで私は「面白がる」という言葉を使っている。
その人がそのときどんな工夫をしたか、どんな苦労をしたのか、それをどうやって乗り越えたのか、その工夫や努力を面白がったり、驚嘆したりする。
たとえば、とても素晴らしい絵を描く人がいたとして、「この絵、値段が100万円だって」「へえ、すごいねえ」と、外形的なことで感心されてもその画家はちっともうれしくないだろう。
ひどい言い方になるが、俗っぽいほめ方だ、と感じてしまう。
それよりは「私は絵のことがちっとも分からないんですけど、なんでこの鳥はこんなにも雄々しく羽ばたいているように見えるんでしょうか」と尋ねれば、それを描くのにどんな工夫を凝らしたか、うれしくなって説明してくれるかもしれない。
努力した人にとって、一番印象に残っているのは、自分の心の中で起きたことなのだ。
どうしよう、うまくいかない、と悩んだ時間。
苦しんで苦しんでもがいた時間。
そしてようやく、うまくいく工夫を見つけられた瞬間。
そのことのほうが本人の中では、最も人に見てほしい、ほめてほしいところなのだ。
「へえ、そんなにも難しいところなのですね、よく克服されましたね」と賛嘆すると、「この人は分かってくれた」と感じて、うれしくなる。
内面の苦労、工夫に気づいてくれた人には、「自分のことを分かってくれている」と感じるものなのだ。
だから部下の仕事に対しても「へえ、それは面白いねえ」「うわあ、そんなことが あったの」「よくそこでくじけなかったねえ」「どうやって気力を維持できたの」と、工夫を尋ねては面白がる。驚嘆する。
すると、その人の中で工夫することの大切さ、苦労を克服することの面白さに気づく気持ちが生まれてくる。
だから、外側でしかない成果や成績をほめるのではなく、内面をほめよう。
「ほめる」 という言葉は、どこをほめたらよいのか混乱しやすいから、工夫を面白がる、と言い換えよう。
その人の内面に起きたドラマを面白がり、驚嘆すると、その人は工夫、苦労、努力をいとわなくなる。
「ちゃんと私のことを見てくれている」と感じ、工夫することの大切さを再確認できるからだ。
すると、仕事は「工夫するためのステージ」に変わり、仕事自体が工夫するための現場、材料となって楽しくなる。
すると仕事への意欲が生まれてくる。
「ほめる」と部下がつぶれる?
とても素晴らしい成果を部下が出したとする。
当然、上司としては「素晴らしい成果だね」「次も期待しているよ」と期待も込めてほめる。
それで「もっとやってやろう」 とさらに馬力を上げる情熱的なタイプの部下ならそれで問題はないのだけれども、そこまで気の強くない人格の場合、つぶれてしまうことがある。
「今月はたまたま大口で注文してくれる顧客がいたからこの成績だっただけで、来月も同じ成果を出すのは厳しいんだけどな」
「今月はたまたまやる気にあふれていて、連続で徹夜もして頑張ったけど、1カ月も続けたらすっかり疲れてしまった。とてもじゃないけど来月も同じ調子でやったら身が持たない」
そう思っているかもしれない。
しかしほめられもし、期待もされると、できませんとは言いにくい。
そうして翌月も無理を重ねる。
だが、やはり能率が悪くなり、成果が思うように上がらない。
「今月はいまいちだったね。また頑張ってよ」と声をかけられると、プレッシャーがや
むことはない。
先月よりも成果が上がらなかった自分に自己嫌悪し、頑張ろうにも気力が湧かない自分を情けなく思い、無気力なのに無理に無理を重ねて、ついにつぶれてしまう。
成果が出れば、当然上司としてはほめたくなるだろう。
しかし部下の立場から言うと、 その言葉は「同じレベルの成果を毎月たたき出せ」と要求されているように聞こえる。
とても毎月は続けていられないフルパワーの成果だったり、偶然が重なったうえでの好成績を、日常的に求められると感じたとき、部下は苦痛に感じてしまう。
もっと頑張ろう、というより、「ずーっとこんな調子で頑張り続けなきゃいけないの か…」とゲッソリした気分に陥ってしまう。
気分が乗らないと工夫もおろそかになる。
足取りも重くなる。
悪くすると、鬱になって出社拒否になってしまう。
だから部下には、成果ではなく「工夫」を求めるようにしよう。
上司としては結果、成果のほうが気になってしまうものだが、そこはグッとこらえて成果に着目するのではなく、工夫に着目する。
たとえばビックリするほどの営業成績をあげた月があった場合、「こんな数字を出すなんて、前代未聞だねえ」と結果にだけ目を奪われた発言をしないようにする。
それは「また同じ成果をあげてね」と暗にプレッシャーをかけるメッセージになってしまうし、 成果をあげた月と同じように作業しろ、と無理難題を突き付けているように感じさせて しまう。
それでは部下も疲れてしまうし、疲れてしまうと工夫する余裕がないから飽きてしまう。
それより工夫を尋ねよう。
「今月はずいぶんと好成績だったけど、どんな工夫をしたの?」
部下から「たまたま大口で購入してくれるお客さんが現れたからだ、特に工夫はない」という答えがあったとしたら、
「そうか、そういうことがあったのか。それだと、 来月も同じことを期待するのは難しそうだね。ただ、今回の経験を偶然として終わらせるのではなくて、なぜその大口のお客さんが興味を持ってくれたのか、きちんと分析して、次につなげるようにして。すると、偶然だったものがだんだんと必然に変わっていくかもしれないよ」と工夫を促す。
もし、「そういえば…」と、大口の購入をしてもらえたきっかけを思い出して報告してくれたら、「いいね、それ。それを偶然ではなく、必然に持っていくにはどうしたらよいか、もっと工夫を考えてみようか」と、一緒の宿題にしてみるとよいだろう。
「徹夜漬けでなんとかひねり出した成績です」ということであれば「そうか、疲れすぎないようにね」と労をねぎらいつつ、
「無理は続かないよ。何しろ初めてのことで慣れ ないから、時間がかかってしまったのかもしれないけれど、いかに短時間で仕事を済ま せるかということも大事だよ。次の月は長時間働くのではなく、時間当たりの効率を上げる工夫に専念してみてはどうかな」と、工夫を促す。
ビックリするくらいの成果が出たときでも、案外課題は見つかるものだ。
「あそこはこう改善すればそこまで無理をしなくてもできたかな」などの課題がある。
成果を出した こと自体は「よく頑張ったね」や「疲れすぎないようにね」と言って十分に苦労をねぎらいつつ、「もっと要領よく仕事を進めるにはどうしたらよいかを次の課題にして工夫してごらん」と、工夫を求めよう。
その際、同じレベルの成績を出せとは求めないようにしよう。
すると、成果を出さなければならないというプレッシャーから解放されると同時に、まだまだ磨きが足りない技術面の改良をするという「楽しみ」に気づいてもらうことができる。
「実は、もっとこうしたらよかったかな、と思うことは多々あったんです」という答えがあったら、「その工夫、面白いねえ。やってごらんよ。また工夫した結果が出たら、どんな風だったか教えてよ」と、工夫を面白がるようにしよう。
すると、部下も工夫を凝らすことが楽しくなってくる。
工夫を凝らせば凝らすほど、仕事の能率は上がり、仕事への理解も深まる。
理解が深まれば、仕事への意欲も高まる。
「できない」が「できる」に変わる瞬間をいくつも味わってもらえる。
この「結果をほめずに、工夫を尋ね、工夫を面白がる」方法は、能動的に動き始めた
時期の新人にも有効だが、自分の下に配属されてきたベテランの意欲を高めるのにも有
効だ。
部下がどんどん能動的になっていく様を喜びながら、楽しく試行錯誤していってほし
い。
基本的に部下にやってもらう仕事というのは、上司の手のひらの中にあるものでしか
ない。
部下が自分で決めて、自分で選んで、自分で探してきた仕事ではない。
そのため「やらされ感」がどうしても出やすい。
だから、「仕事が終わりました」と報告がある度に、面白い工夫を見つけては「これ、面白いね」と面白がる。
「ここのところ、もうちょっと工夫することは可能かな」と工夫を促す。
どう工夫するのかは、本人になるべく任せる。
すると、部下は「能動感」を持ちやすくなる。
どう料理するかは任されているからだ。
そしてその料理の仕方、工夫を上司が楽しみにしているということが分かると、工夫することが楽しくなる。
それが「能動感」をさらに持ちやすくする。
部下にノルマを課さなくても勝手に成果をあげてくれるようになる。
部下が自然と育つマネジメント法を学ぼう
農業研究者として、作物だけでなく、部下の育て方にも精通していた篠原さん。
『上司1年生の教科書』には、ほかにも「部下を叱るときの注意点」「部下を評価する基準」など、部下に「教えない」育成法を紹介しています。。
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