ビジネスパーソンインタビュー

この2つさえあれば誰でもいい。“20年後が見える”ジャニー喜多川の「人の見抜き方」

霜田明寛著『ジャニーズは努力が9割』より

この2つさえあれば誰でもいい。“20年後が見える”ジャニー喜多川の「人の見抜き方」

新R25編集部

2019/08/20

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数多くの男性アイドルグループを生み出すジャニーズ事務所

創業者のジャニー喜多川さんがプロデュースしたタレントたちは、アイドルとしてはもちろん、映画やドラマなどで輝きを放ち、日本のエンタメを牽引する存在となっています。

ジャニーズに魅せられた「元祖ジャニヲタ男子」の霜田明寛さんは、著書『ジャニーズは努力が9割』(新潮新書)のなかで、ジャニーズ事務所について以下のように語っています。

ジャニー喜多川とジャニーズJr.たちの関係を見ていくと、育成者としてのジャニー喜多川の偉大さと、彼が作った人を成長させる仕組みの強さが見えてきます

霜田さんが分析する、日本を代表するアイドルを生み出してきたジャニー喜多川さんの採用力育成力とは? 同書のなかから、この2つを抜粋してお届けします。

日本で最も優秀な採用担当者

ジャニー喜多川が優れているのは、とにかくまずは“人を見抜く目”でしょう。

1962年の創業から、半世紀以上にわたる繁栄の基礎となっているのが、ジャニー喜多川の“人を見抜く能力”です。

例えば、『金田一少年の事件簿』や『暗殺教室』など、今や多くのドラマや映画の主演を飾るHey!Say!JUMPの山田涼介

オーディション当時は、まだ、まあるい顔のかわいい素朴な小学生の男の子でした。

正直ここまでのスター性を持った青年になるということは、なかなか気づくことができないでしょう。

他にも、V6の岡田准一が、オーディションで初めてテレビに出た時は、文字通りほっぺの赤い男の子でしたし、KAT-TUNの上田竜也は、ジュニアの時期には、ファンからすらも「サル」というあだ名をつけられていた…といった“スタート時点”の彼らは、その時点ではスターとは形容しづらい存在でした。

しかし、ジャニー喜多川は、そんな彼らを選び、スターにしていきました。

いわばジャニー喜多川は、「日本一優秀な採用担当者」でもあるのです。

その最大の理由は、“未来を見通すことができるから”。

超能力のような表現ですが、芸能界でも一般企業でも、採用する側に最も必要な能力は、この未来を見通す能力である、というところは同じです。

なぜ未来を見通す能力が必要なのか。企業の採用担当者などがよく語る、人を選ぶ難しさは、その人物が“今どうなのか”だけではなく“今後どうなるのか”を見抜かねばならない点です。

現時点のその人との面接で、5年後、10年後のその人を予想して採用することが求められます。

「5年後、思ったほど成長しなかった」とか、「もっと伸びる人物だと思ってたけど、そうでもなかった」なんて、予想が外れることはよくある話です。

もちろん他人の未来の姿なんて、そう簡単に予想できるものではありません。

さらにジャニーズの場合は、そこに、「成長期の男子のルックス」という極めて不確定な要素が加わります。

しかし、ジャニー喜多川の目は確か。山下智久は彼がこう言っているのを聞いたことがあるといいます。

僕には20年後の顔が見えるんだよ(*1)」

将来の変化を、見通しているジャニー喜多川。傍から見たら、普通の男の子に見える少年たちでも、自らの目で未来を予想し、選抜をしています。

ジャニーとドラッカーの共通点

いったい、ジャニー喜多川はジュニアを選ぶ時、はたまたジュニアからデビューするグループのメンバーを選ぶ時、どんなところを見ているのでしょう。

ジュニアのオーディションでは、ダンス審査があるので、ダンスの技術を見ていると思いきや、どうやらそうではないようです。

ジャニー喜多川はジュニアの選抜基準を自身でこう語っています。

「踊りのうまい下手は関係ない。うまく踊れるなら、レッスンに出る必要がないでしょう。それよりも、人間性。やる気があって、人間的にすばらしければ、誰でもいいんです(*2)」

天下のジャニーズ事務所の選抜基準が“やる気”と“人間的にすばらしい”だけで、「誰でもいい」とは驚きです。

一般企業では、採用基準に「コミュニケーション能力が高く、創造性があり…」などと細かく条件をつけるところもある中で、これは一見、曖昧な基準にも思えます。

しかし実は、こうしたジャニーの選抜基準と「経営の神様」と呼ばれるドラッカーの説く組織論は驚くほど一致するのです。

ドラッカーはその著書『マネジメント』で、「人事に関わる決定は、真摯さこそ唯一絶対の条件」といい、「真摯さを絶対視して初めてまともな組織といえる」とまで言っています。

これはまさにジャニー喜多川の言う「人間的にすばらしい」と同じで、それがあれば「誰でもいい」というのも、真摯さの絶対視に他ならないでしょう。

さらに、ドラッカーは「組織の目的は、凡人をして非凡なことを行わせることにある」と言っており、ここまでくると、普通の少年たちをスターにして“特別なこと”を成し遂げさせてきた、ジャニーズ事務所のために作られた言葉なのではないか、と思うほどです。

ジャニー流・人間性の見抜き方

ジャニー喜多川の言う「人間性とやる気」は、実際の現場ではどう判断されているのでしょうか。

まずは、ジュニアの選抜の段階。そのオーディションでは、主に人間性をジャッジしているようです。

1990年代半ばには、1カ月に約1万通は送られてきていたという履歴書を、ジャニーは自らの手で見るといいます(*3)。

夜にパッパッパッだけど、送られてきた履歴書は全部、自分で開けて、自分で見ます。これだけは何十年やっているけど、人の手を借りたことはない(*1)」

そして、オーディションは基本的に突然開催されます。

「スケジュールが空いた時、時間がもったいないからオーディションをやろうと、急にやるんです。突然速達で報せが行くから、受ける方も大変じゃないかな(*2」」

突然、ということは、受ける側もオーディションを受ける予定を最優先しなければいけないということ。

オーディションのみならず、ジュニアには突然の「YOU来ちゃいなよ」はよくあることで、それに対応できるかどうかで、“やる気”を判別しているのかもしれません。

そして、オーディション本番。ジャニーは最初から自分がジャニー喜多川である、と名乗ることをしません。

開始前に自分ひとりで椅子を並べていたり、ジュースを配ったりすることもあるといいます。

「オーディションに来た子は、ボクのこと知らない。『ダサいかっこうして、なんだ、あのおやじ』と思ってる。子どもたちは『いつになったらオーディションやるんだよ』と。

じゃあ、これからオーディションやります』と言うと『えー』って感じ。ジャニーとわかって急に『はい、そうです』。こういう裏表のあるのはだめですよ、子どもだから特に。あとで機嫌とりにきたりする子もいますが、何を考えているのか(*3)」

重要なのは、人を見て態度を変えないこと。例えば、後にTOKIOのメンバーとなる松岡昌宏。オーディション当時11歳の彼は、ふてぶてしいほどにリラックスしていたといいます。

しかし松岡は、他の子たちが目の前にいる大人がジャニー喜多川だと気づいた瞬間に、姿勢を正したりする中、態度を全く変えませんでした。それを、ジャニー喜多川は見逃さなかったのです(*1)。

「人を見て、態度を変えるような子は駄目なんです。どこにいても子供は自然じゃなきゃいけない(*1)」

このように、まずはジュニアの選抜の段階で、やる気と人間性をジャッジしているのです。

「頑張るのは当たり前」

ジャニー喜多川が重視するのは、「やる気と人間性」である。そのことが読み取れるエピソードを紹介します。

堂本剛は、ジャニー喜多川に、怒られたことが一度だけあるといいます。それは、先輩のコンサートにジュニアとして登場し、ステージ上でコメントを求められた時のこと。

「元気に頑張ります!」と言う剛。特に珍しくない、多くのアイドルが言うであろう定型的なコメントです。しかしその後、ステージ裏にジャニー喜多川がやってきて、剛を怒ったのです。

頑張るのは当たり前だよ!

その時、幼い剛の中に「そうか、頑張るのは当たり前なのか」という印象が強烈に残ったのだといいます。それから、後にも先にも、ジャニー喜多川が剛を怒ったことはありません(*4)。

こんなエピソードもあります。97年、KinKi KidsがCDデビュー直前の春のことです。デビュー前とはいえ、その年の夏にデビューすることになる2人の人気はすでに沸騰している時期でした。

そんなある日、剛が歌番組の収録を終えた時のこと。汗をびっしょりかいた剛のもとに、スタッフが大勢やってきて、うちわを持って扇ぎます。

ジャニー喜多川はそれを「あ、ごめん、剛には手がある。自分でやるから」と止めたのでした。

ジャニーは「一番こわいのは、周りがちやほやしすぎること。(中略)スター扱いしてるだけのジェスチャーなんだよ。あんなの大嫌いなんだ(*3)」と語ります。

人気が出ても、人間性が壊れないように意図するジャニー喜多川の配慮がうかがえます。

また、ジュニアのメンバーがテレビ局の人に挨拶をしなかったときに「ユーに10あげるから1返しなさい」と怒られた(*5)と言われたのもこれに類するものでしょう。

自分は、チャンスや環境を全て与える。だから、最低限、挨拶はしろ…という、この教え。

こうしたエピソードもやはり、ジャニー喜多川がやる気と人間性を重視していることを現しています。

さらにジャニー喜多川が怒るときの“名言”に、「YOU、もう新鮮じゃないよ!(*6)」という言葉があったと国分太一は振り返ります。

10代の頃の中居正広は、ライブでのトークの際、ひとつの話がウケると嬉しくなり、同じ話を繰り返していたそうです。

するとジャニー喜多川は、「同じことを繰り返さないで。違うことを考えながら積み重ねなさい(*7)」と叱ったそうです。

これもまた、「YOU、新鮮じゃないよ!」につながる教えでしょう。

褒めて伸びる人、けなして伸びる人を見分ける

ちなみに堂本剛が、人生でこの一度しかジャニー喜多川に怒られたことがなく、いつも褒められる一方で、堂本光一は「ユー、ヤバいよ」しか言われた記憶がないといいます(*8)。

育成者というと、誰にでも平等に分け隔てなく接するのが理想、と捉えられがちですが、ジャニー喜多川はそうではないのです。堂本光一はその意図をこう分析します。

「事務所のタレントに対して、“褒めて伸びる子・けなして伸びる子”というのもはっきり見分けているような気がします(*8)」

光一と同じく、けなされ側にいるのは、意外にも、少年隊の東山紀之です。

東山はジャニーズに入った頃を振り返り、「ジャニーさんほど威圧感がなく、優しい大人にはこれまで会ったことがない」と言いながらも、「エンターテインメントを極めるという点においては、ジャニーさんほど厳しい人もいない」と語っています。

デビュー前はよく「歌、聞いてられないよ」「ヒガシ、やばいよ」「なに、あれ?」などと言われたそうです。そのジャニーとの日々を東山はこう振り返ります。

「涙が出るほど悔しい思いを重ねながら、僕は仕事に『本腰を入れる』とはどういうことかを少しずつ知る(*9)」

また、NEWSの加藤シゲアキはライブで振付を間違えた人のことをジャニー喜多川はよく褒めていた、と語ります。

失敗を褒めてくれるってことが、すごくいろんな自信につながっていった(*10)」

このようにジャニー喜多川は、叱責したり褒めたりして、プロとしての自覚を彼らに促していくのです。

才能で輝いているんじゃない。ジャニーズタレントの努力を学ぼう

日本中にその名が知れ渡っているジャニーズタレント。

その位置を手に入れるため、彼らは幼い頃から努力することを求められてきました。

ジャニーズは努力が9割』では「中居正広」「木村拓哉」「長瀬智也」「国分太一」「岡田准一」「井ノ原快彦」「堂本剛」「堂本光一」「櫻井翔」「大野智」「滝沢秀明」「風間俊介」「村上信五」「亀梨和也」「伊野尾慧」「中島健人」の16人の努力を深掘りしています。

みんなが知っているアイドルの知られざる努力論。それはきっとビジネスマンにも参考になることが多いはずです。

取材協力/参照資料

*1:TBS「A-Studio」2019年4月5日放送
*2:「Views」1995年8月号
*3:「AERA」1997年3月24日号
*4:フジテレビ『新堂本兄弟』2012年7月22日放送
*5:「MyoJo」2015年5月号
*6:TBS『ビビット』2019年7月11日放送
*7:テレビ朝日『中居正広のニュースな会』2019年7月13日放送
*8:「日経エンタテインメント!」2016年4月号
*9:東山紀之『カワサキ・キッド』(2010年6月、朝日新聞出版)
*10:TBS『ビビット』2019年7月12日放送

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