ビジネスパーソンインタビュー

人にイヤがられない指摘の仕方は? 古舘伊知郎「ダンスに誘うように切り出しましょう」

古舘伊知郎著『言葉は凝縮するほど、強くなる』より

人にイヤがられない指摘の仕方は? 古舘伊知郎「ダンスに誘うように切り出しましょう」

新R25編集部

2019/08/08

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人と話していると、「今の言葉に対して、うまく返すことができなかったな…」と思うことがありますよね。

自分がとっさに発した一言で気まずくなることもあるし、もし上司や取引先が相手だとしたら、その一言でピンチに陥る可能性もあります。

『報道ステーション』(テレビ朝日)のメインキャスターを12年間務め、現在はフリーのアナウンサーとして活躍する古舘伊知郎さんは、そんな気まずさやピンチを何度も切り抜けてきました。

新著『言葉は凝縮するほど、強くなる』には、とっさに切り返すときに使える「一点突破の凝縮ワード」や、シチュエーションごとの会話術など、古舘さんの経験にもとづくノウハウがまとめられてます。

その著書のなかから、ビジネスマンの日常会話で役立つ「とっさにうまく切り返す力」「言いにくいことをスルっと伝える力」の2記事をお届けします。

切り上げ力

相手の話が長くて、途中で打ち切りたい

でも、話の途中で割って入ったら絶対に不快な思いをさせてしまう。そんなとき、どうやって幕引きすればいいのでしょうか。

「早く終わらないかなぁ」と、腕時計なり、部屋の壁掛け時計なりをチラチラ見る人がいますが、これは、本来、非常に失礼な行為です。

相手に気づかれないようにさりげなく時計を見ているつもりだとしても、100%バレていると思った方がいいです。人は、他人の目線には超敏感だからです。

ただし、本当に、次の待ち合わせに間に合わなくなるから時間を確認しなければならないこともあります。そのときは、

ちょっとすみません。時間だけ確認させてください

と正直に言って時計を見ればいいと思います。

これで相手も、「そろそろ切り上げないといけないかな?」と思い始めますから、自然に幕引きできる可能性が高まります。

ただ、「時間がないので…」を、話をさえぎる言い訳にするのは極力避けたいところです。相手からすれば、

「時間がないなら、そんなときに会うなよ」

と思いますからね。

おじさんの長い話を見事にぶった切る方法

長くなりそうな話を切り上げるのが上手いな、すごいなと思ったのは、坂上忍さんです。

ダウンタウンと彼がMCで、お酒を飲みながらトークする番組『ダウンタウンなう』の「本音でハシゴ酒」というコーナーに僕がゲスト出演したときもそうでした。

フリップで、

古舘さんは、自分の娘さんの披露宴の司会をしたらしいですね

と話題をふられたんです。

「そうなんだよ。『いよいよ宴も後半のクライマックスでございます。今まで育てていただいた感謝の思いを花束贈呈に託します。金屏風に位置をとった双方のご両親様…おっと、新婦の父、ワンテンポ遅れてここに到着です』と、良い感じになった話の途中で…」

はい! オッケーです!

と打ち切られたのです。

おじさんの長広舌を見事にぶった切ってくれたのです。

まったく腹は立ちません。

むしろ、面白いな、すごいなと思いましたよ。坂上さんは、話を切る天才だと思います。

これ、忘年会の二次会なら応用がきくと思います。

誰かの話が長かったら、

はい! オッケーです!

とばっさり切ってしまいます。宴会ですし、どっと笑いに変わるのではないでしょうか。

社内会議であまりにも話の長い上司がいたら、そこでも「はい! オッケーです!」と使いたいところですが、ちょっとリスキー。場をわきまえて使うべきですね。

Shall we dance 力

時間にルーズな友達に苦言を呈したい。

そんなとき、どんなふうに話しかけますか?

「ごめんね。こんなこと言ったら気を悪くするかもしれないけど…」

と前置きして話し始める人がいますが、相手としては、

だったら、言わないでよ

と思うかもしれません。

こうした“謝罪の先出し”は相手に引かれます。そりゃそうです。

これから100%イヤなことを言われると身構えなければならず、かといって拒否権はないも同然なので聞くしかないからです。

こんなとき、どう切り出せば良いのでしょうか。

僕は、「ちょっと感じたことを言ってもいいかな?」と、相手の同意を求めてから話し始めると良いのではないかと思います。

相手の気を悪くすると決めつけるのではなく、ただ、自分の気持ちを伝える感覚。聞くも聞かないも相手の自由です。

まるでダンスに誘うように切り出す

ごめんね。でもね」と謝罪の先出しをしてから話すのは、謝っているため一見、謙虚なふるまいに見えますが、「おイヤかもしれませんけど、聞いてくれませんか」と言っているわけですから、完全に“自分ファースト”です。

謝りながら、結局は「俺の話を聞け」と言っている。だから相手にイヤがられるのです。

ビジネスシーンでも、「すみません。失礼かとは思いますが、時間もありませんしね。端的に言いますよ…」と相手の同意も得ずにダーッとしゃべり出す人がいると思いますが、これも謝罪の先出しと同じ身勝手さがあります。

一方、「ちょっと感じたことを言っていいかな?」は、相手が「いいよ」と言ったら話すし、「イヤだ」と言ったら引き下がるため“相手ファースト”の要素が強くなります。

Shall we dance?

「一緒に踊ってくれませんか?」

と会話のダンスにお誘いしている感じでしょうか。

「いいよ」と言われたあとで、「時間にルーズだよね」と相手にとって耳の痛い話を切り出すことになりますが、ここでも、相手が「つい、遅れちゃうんだよね」と言えば、そこからさらにダンスは続きますし、「えー。そういう話は聞きたくない」と言われたら、音楽はストップ。

ダンスはやめればいいだけの話です。

僕は、相手とダンスを踊っているつもりでいながら、結局は自分ばかりしゃべるエアーダンスで空回りし続けて番組を降ろされるという結果につながりました。

Shall we dance? の大切さは身に染みています。

「耳の痛い話をしている」自覚を持つ

ただし、「ちょっと感じたことを言っていいかな?」とShall we dance? に誘う側も、結局は、相手に対する苦言や文句を言うわけですから、「耳の痛い話をしている」自覚はしておいていいと思います。

「私は、こう感じているの」「私は、こう思っているの」と言うのは、相手にとっては「決めつけられている」ことにもつながります。

こちらは「時間にルーズだよね」と思っているけど、相手は、

「3回に1回は確かに遅れるけど、数分遅れるだけじゃん。それを“遅刻魔”と決めつけるなんて」

と不愉快に思うかもしれません。

だから、「自分の感覚では、あなたはちょっと時間にルーズな気がするけど、私の勘違いなのかな」と、頭から否定せず、相手の意見も聞くようにする姿勢を常に持ちたいところです。

交通整備力

友達と話をしていて、オチがどこにあるのか分からない話を延々と聞かされるとかなりストレスがたまります。思わず、

まず結論から言って!

と言いたくなりますが、それではカドが立つだけです。

だいたい話の長い人は、Aの話をしていたはずが、Bへ、Cへ、Dへと枝葉のように分かれていき、話題が取っ散らかっているのです。

だから、それをこちらがやんわり指摘してみます。

すなわち、「すいません。会話が迷子になりました。結局、何の話でしたっけ?」と聞き返し、Aの主題に引き戻してあげたらいいのです。

あるいは、「あんたの言っていることは分からない」とストレートにぶつかっていく田原総一朗話法、すなわち“朝ナマ力”を出動させる方法もあります。

田原総一朗さんが司会の討論番組『朝まで生テレビ!』は、1987年にスタートし、32年目に突入した長寿番組です。

複数のパネラーが出演して討論を繰り広げますが、田原総一朗さんは、しばしばパネラーが話をしている途中で、「あんたの言っていることは分からない!」と言ってさえぎり、別のパネラーに話をふってしまいます。

「あんたの言っていることは長くて分からないよ。戦後の民主主義はダメだと言うけど、なぜダメかを結局言ってないんだから。はい、言って。社会党から」

こんな感じで次につなげているのです。

話の要領を得ずにダラダラしゃべる人を容赦なくシャットアウトできる非常に強力な言葉ですが、これを使うにはコツがあります。

それはその場に、3人以上いるときに使うこと

1対1で「あんたの言っていることは分からない」と言ったら、ケンカを売っているのと同じですからね。

田原さんだって、1対1でこんなこと言わないと思います。

自分にエマージェンシーコールがかかったら?

延々続く、結論のない「ダラダラ話」は、人にされることもありますが自分でもいつしてしまうとも限りません。

しかも、ダラダラ話すと、その長い間に自慢話が潜む確率も高くなります。

「先日引っ越した新築の高層マンションなんだけどさあ、眺めは最高なの。33階だから。新宿の夜景が一望よ。セキュリティーも、しっかりしている。ピッキングにも強いディンプルキーだし。24時間オンラインセキュリティシステムだしね。あとは俺の高所恐怖症がなくなれば……」

高所恐怖症のくせに高層マンションの最上階に引っ越したことで笑いを誘おうとしても、自慢が鼻につく方が勝ると感じる人がいそうです。

自慢が過ぎたな」と自分にエマージェシーコールがかかったら、言うのは、たった一言。

今の完全な自慢!

いったん自慢に気づいたら、「やばいな、やっちゃったな」と凹んでしまいそうですが、そんなのいいからさっさと「完全な自慢!」と言い切ってしまえばいいのです。ごめん、と謝る必要もありません。

あえての自慢!」という空気になれば、こっちのもの。

自慢しているときは、どこかに「ちょっと自分を高く見てくれよ」という気持ちが見え隠れしているもの。

そのままでは相手にドン引きされます。

逆に開き直って、

以上、現場から自慢話でした

と言ってしまえば相手も、

「自分が自慢してること、分かってるんだな」

「まあ、確かに自分も自慢したくなるときがあるもんな」

と思うので、あまりイヤな印象として残らないのです。

この「以上、現場からでした」というフレーズも結構使えます。

笑える話として伝えたいのに、どうにも上手くオチがつけられなかった時に、「現場からは以上です!」と締めるだけで、「あとはスタジオに戻します!」と言わんばかりに相手に会話のバトンを渡せます。

力技で丸く収めるパワーワードですね。

コミュニケーションの切り札となる「一点凝縮ワード」を学ぼう

1977年にテレビ朝日のアナウンサーとして入社してから、40年以上も話し手として活躍する古舘さん。

コミュニケーションの障害になりがちな「言いにくいことを、あえて言わなければならないとき」「この場をうまく切り抜けたいとき」なシチュエーションも、適切な言葉を使えば円滑になると語ります。

言葉は凝縮するほど、強くなる』は、ピンチな状況で何を話せばいいのかわからない、という方のヒントになるはずです。

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