ビジネスパーソンインタビュー
チームづくりの決定版『THE TEAM』より
重要なのは“正しい意思決定”じゃない。「チームを幸せにする独裁」のポイント
新R25編集部
「チームには、情熱や信頼が必要だ」
このように、これまでは個人の経験や感覚で語られがちだった「チーム」。
学校でも会社でも、チームづくりについて体系的に学ぶ機会はほとんどないと言っても過言ではありません。
“個人を輝かせる”チームの重要性が増している今こそ、「精神論」や「経験則」ではなく、理論的で再現可能な「法則」でチームを語ることが必要だ。
そんな思いをもって、モチベーションエンジニア・麻野耕司さん(リンクアンドモチベーション取締役)が「成功するチームとは何か」を科学的に解き明かした著書『THE TEAM 5つの法則』より、メンバーの力を最大限に引き出す「チームの法則」の数々をご紹介します。
「みんなで話し合って決める」のデメリットとは?
チームにおける意思決定については、「みんなで話し合って決めるのが良いことだ」と思っている方が多いような印象を持っています。
世界の歴史において、かつては血統によって決まった王様や皇帝、将軍によって治められてきた国の統治システムを、「民主化」によって民衆の手に取り戻してきたからかもしれません。
しかし、「みんなで話し合って決める」合議という意思決定方法の最大のデメリットは、時間がかかるということです。
逆に、リーダーが最終的な意思決定を下すのでも良いですし、領域によって誰か意思決定する人を予め決めておくのでも良いですが、「誰か1人で決める」独裁という意思決定方法は圧倒的に「速さ」を担保することができます。
昨今は環境変化のスピードが速くなり、意思決定に時間がかかることはビジネスにおける致命傷となってしまう状況になってきています。
この数十年の中で、日本企業の時価総額ランキングで上位にランクインしたソフトバンクやファーストリテイリング(ユニクロ)は、孫さんや柳井さんというオーナー経営者がトップダウンでスピーディに意思決定していることも、ビジネスにスピードが求められていることの象徴だと言えるでしょう。
独裁を成功させる「速く」「強い」意思決定
では、独裁という意思決定手法はどのようにすればうまくいくのでしょうか?
独裁というのは決して誰からも情報収集せずに、誰からの意見も聞かずに決めるということではありません。
意思決定者が必要な情報を十分に集め、様々な角度からの意見を聞いた上で決めることは、意思決定の精度を高めるために非常に重要です。
しかし、その上で大切なことは、「良い意思決定」「正しい意思決定」にとらわれすぎずに、「強い意思決定」「速い意思決定」を意思決定者が心がけることです。
今、2つの選択肢からどちらかを選ぶという意思決定をしなければならないとします。
多くの場合、それぞれの選択肢を選ぶメリットの大きさとデメリットの大きさは拮抗しています。
例えば、バレーボール部の練習メニューについて考えてみましょう。
「レシーブ練習よりもスパイク練習が多い方が良い」
というようなメリットとデメリットのどちらが大きいのかについて意見が分かれるようなことにこそ、意思決定が必要になります。
「チームのメンバーができる限りサボらずに練習に来た方が良い」
というような明らかにメリットの方がデメリットよりも大きいようなことは意思決定の対象にすらなりません。
極論を言うと、チームとしての意思決定を迫られるのは、メリットが51%あり、デメリットが49%あるようなことに対してだけだと言っても過言ではありません。
だとすれば、どちらの選択にメリットが51%あり、どちらの選択にメリットが49%しかないのかということを思い悩むよりも、迅速に意思決定した方が良いでしょう。
速く意思決定した分、実行のための時間を稼げるからです。
ソフトバンクの孫さんはファーストチェス理論というものを意思決定時に用いていると言われています。
ファーストチェス理論とは、チェスにおいて「5秒で考えた手」と「30分かけて考えた手」は、実際のところ86%が同じ手なので、できる限り5秒以内に打った方が良いという考え方です。
この考え方をもとに、とにかく速く意思決定をしていると言います。
「良い意思決定をしよう」「正しい意思決定をしよう」と考えるとどうしても時間をかけすぎてしまいますが、意思決定者は前記のような考えを頭に入れ、「強く」「速く」1人で決断する、ということが大切です。
チームの中で賛成、反対の両方のメンバーが存在すると、時に意思決定者は反対意見を持つメンバーのことを気にしてなかなか決められないという状況が生まれることがあります。
しかし、意思決定者は孤独を恐れず、チームのために迅速に力強く意思決定しなければなりません。
もしもあなたのチームが速く、強い決断に慣れていないのであれば、まずは会議の中で小さな決断を先送りにすることをやめましょう。
「意思決定」という視点で会議をチェックしてみると、「今後検討していきましょう」「あのメンバーに確認して決めます」という形でちょっとした決断を先送りしているものです。
「その場で決める」ことを意識して会議に臨むだけで、チームの意思決定力は格段に上がるはずです。
チームメンバーの理解なしには「独裁」は成功しない
また、意思決定は意思決定そのものよりも、意思決定後に選んだ選択肢をどれくらい着実に実行し、正解にできるかどうかが重要です。
そうすれば51%しかなかったメリットが、60%、70%と増えていくからです。
しかし、多くのチームで、意思決定したことについてメンバーたちが
「本当はこちらの選択肢の方が良かったのではないか」
「なぜ、こちらの選択肢を選んでしまったのか」
というような不満を漏らし、きちんと実行がなされないということが起きています。
意思決定するまでに意思決定者に情報や意見を伝えたり、議論を尽くすことは勿論必要ですが、一度意思決定がなされたのであれば、その意見について「自分は本当はこう思っていた」などと考え、話すことは効果的ではありません。
多くの意思決定には51%のメリットと49%のデメリットがあることを、意思決定者だけでなくチームメンバーが理解し、意思決定者の決断を自分たちの手で正解にする気概が重要です。
独裁による意思決定を成功させるのは、意思決定者だけではなく、その意思決定を実行するチームメンバー全員なのです。
意思決定者は反対や孤立を恐れずに、1人で決めよ。しかし、メンバーは意思決定者を孤独にするな。
チームにおける意思決定をする上でとても大切なことです。
独裁者が持つべき「影響力の源泉」5パターン
ここまでで、
「チームの意思決定の成否はリーダーの決断で決まる」
というのは間違ってはいませんが、
「チームの意思決定の成否は、決断後のメンバーの実行度合いで決まる」
もまた真実だとお伝えしました。
意思決定者以外のメンバーが意思決定に賛同し、実行するかどうかは、「どのような意思決定なのか?」だけではなく、「誰が意思決定者なのか?」にも影響を受けます。
同じことを言われても、Aさんの言うことは聞きたくなるが、Bさんの言うことは聞きたくならない場合、AさんはBさんよりも「影響力」が高い、と言えるでしょう。
では、その「影響力」の源泉はいったい何なのか?
「影響力」には5つの源泉があります。
1つ目は「専門性」。メンバーに「すごい」と思われる技術や知識を持っていること。
2つ目は「返報性」。メンバーに「ありがたい」と思われる支援や関与をしていること。
3つ目は「魅了性」。メンバーに「すてき」と思われる外見的・内面的魅力を有していること。
4つ目は「厳格性」。メンバーに「こわい」と思われる規律や威厳を持っていること。
5つ目は「一貫性」。メンバーに「ぶれない」と思われる方針や態度を持っていること。
チームのメンバーの意思決定への態度は、意思決定者がこれら5つの影響力の源泉を持っているかどうかによって大きく影響をうけます。
「専門性」「返報性」「魅了性」「厳格性」「一貫性」を有したメンバーを意思決定者にする、意思決定者がこれらの影響力の源泉を持てるように自分を成長させる、などにより意思決定にメンバーが賛同・実行してくれるようになり、意思決定の成功確率はあがると言えるでしょう。
※学術的背景に興味がある人はTheory「ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器』」参照。
成功する「チームの法則」もっと知りたい方はこちら!
「自分のチームづくりがいかに整理されていなかったか、情けなくなった。もっと早くこの本に出会えていたら」(元サッカー日本代表監督・岡田武史)
週刊現代「これからの日本を変える経営者50人」にも選ばれた麻野耕司さんが、チームに関するノウハウを惜しげもなく公開している『THE TEAM 5つの法則』。
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