ビジネスパーソンインタビュー
「名監督たちの障害への眼差しがヒントになった」
「最初の5分だけは話し上手になるべき」乙武洋匡が語る“本当の聞き上手”になる方法
新R25編集部
「仕事でもプライベートでも、“聞き上手”であれ」
…なんて言葉は、もう飽きるほど耳にしてきた方も多いはず。「聞く力」の大切さは、今やビジネスパーソンなら誰もが知る常識です。
でも、「聞き上手」って、そう簡単になれなくないですか?
「聞き役に回っておけばいい」みたいなシンプルなものじゃないし、一度うまくいった聞き方も相手が違えば全然気持ちよく話してもらえなかったりするし…できているつもりでも、うまくいかないことがたくさんある気がします。
そこで今回は、キングコング西野亮廣さんをして「1対1コミュニケーションの天才」と言わしめた乙武洋匡さんに、「ほんとうの聞き上手って…なんぞや?」というお話を伺ってきました。
〈聞き手:ライター・サノトモキ〉
【乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)】1976年、東京都生まれ。大学在学中に出版した『五体不満足』は累計600万部を超えるベストセラーに。卒業後はスポーツライター、小学校教諭、東京都教育委員などを経験
サノ
乙武さん、僕、わりと「聞き上手」と評価してもらえることが多いんですけど、じつは「話してもらえるとき」と「話してもらえないとき」の差がめちゃくちゃあるんです。
だから今日は、僕みたいな「聞き上手もどき」には何が足りていないのか教えてほしくて…
乙武さん
「聞き上手もどき」(笑)。
それじゃあまずは、「そもそも話し手には、大きく2つのタイプがある」という話から始めましょうか。
話し手には、「中心タイプ」と「隅っこタイプ」がいる
乙武さん
1対1のコミュニケーションというのは、話し手がいつも輪の中心で注目を集めている「中心タイプ」か、みんなの輪から少し離れて隅にいがちな「隅っこタイプ」かによって、話の聞き方がまったく変わってくるんです。
どっちのタイプになるかはそれまでの対人関係が大きく影響していて、それぞれにはそれぞれの「聞き出しにくさ」があります。
サノ
ああ、なんだかわかる気がします。
乙武さん
まず、普段あまり注目される機会の少ない「隅っこタイプ」の人は、聞き手の“態度”によって話せるか話せないかが大きく左右されるんです。
乙武さん
31歳から3年間教員をやったとき、めったに私の仕事に口出しをしなかったはずの母に、「ほっといてもあなたのまわりに集まってくる元気な子たちはいる。大事なのは、そこで集まってこれない子たちにどう接するかよ」と言われたことがあって。
どういうことだろうと思っていたんですけど、「隅っこタイプ」の子どもは私のところに集まってこないどころか、相手から興味をもたれることに慣れていないから、1対1で話そうとしても「ホントは僕になんて興味ないでしょ…」と思ってしまって、うまく心を開けない。
だから、私がなんとか歩み寄って、「興味があること」を一生懸命伝えないといけなかったんです。
サノ
「興味があること」を伝える、か…
乙武さんは普段どうやって、「隅っこタイプ」の方に歩み寄っているのでしょうか?
乙武さん
僕の場合は、意識的に“ダメな自分”をさらけだしちゃいますね。
人って、自分の弱点や醜いところはできるだけ知られたくないから、「私はちゃんとした人です」って仮面をつけて喋ろうとするじゃないですか。
でも、だからこそ、そんな“ダメな自分”を正直に見せると、「ここまで素を見せてくれるなら、ホントに自分に興味があるのかも…」と感じてもらいやすい気がしていて。
サノ
たしかに、本当にダメなところを知ると、心の距離って一気に近づきますよね!
でも僕、「話しにくいことを話してもらう=聞き上手」みたいに思ってる節があって、自分のダメなところは話さず、相手のダメなところを引き出すことばかりに躍起になっちゃってるときあるな…
乙武さん
それだとうまくいかないことが多いんですよね。「隅っこタイプ」の人を相手にするときは、むしろはじめは徹底的に話し手にまわって、「自分のダメさをさらすこと」を優先したほうがいい。
その順序じゃなきゃ、信頼してもらえるはずがないんですよね。
「聞き上手」とはいいつつも、最初の5分、「この人になら喋っていいな」と思わせる“話し手”になるというのが、僕が大事にしてることかもしれません。
乙武さん
でも、そういう「隅っこタイプ」の方と打ち解けられたときって、本当にうれしいですよねえ!
僕ね、飲み会みたいな大人数の人がいる場に行くと、みんなに囲まれてわーっと喋って注目を集めてる「中心タイプ」の人より、お酒注いだり注文したりたくさん気配りしてるけど、輪にはあんまり入ってこれない「隅っこタイプ」の人のほうが…
サノ
圧倒的に気になっちゃうんですよね!?? 僕もまっったく同じです!
乙武さん
会話が盛り上がりにくい「隅っこタイプ」の人と2、3時間がっつりコミュニケーションをとって、その人に「ああ、今日ここに来てよかったな」と思って帰ってもらいたいっていうのが、僕にとっていっちばんテンションの上がるコミュニケーションなんですよ。
サノ
うわもう、それも完全に同じだ… 普段はなかなか自分の気持ちを言葉にできない人が、僕と時間を重ねたことで言葉にできたのだとしたら、「僕も生まれてきた甲斐があった!」と思えるくらいうれしいんですよね!わかる!
感情がたかぶり思わず握手を求める筆者。この感覚を共有できたの、乙武さんが初めてだったんだもの
乙武さん
さて次に…一見話を聞くのが簡単そうな「中心タイプ」の人。これも意外と話が盛り上がらないときってあるんですよね。
「中心タイプ」には、“叩かれ尽くした扉”がある
サノ
言われてみるとたしかに、他のグループの中心でめちゃくちゃ楽しそうにおしゃべりしていた人と、いざ自分が1対1で話してみたら、なんだかとても退屈そうにされちゃうことあります…
乙武さん
それはね、叩いてる扉が違うんですよ。
僕も人の話を聞くときは、どの扉を叩いたら心を開いてくれるのかを常に考えているんですけど、「中心タイプ」の人には“叩かれ尽くした扉”があるんです。
「叩かれ尽くした扉」。めちゃ大事なお話が聞けそうな響き
乙武さん
この前、大人数で焼肉を食べたとき、一人めっちゃ有名なイケメン俳優さんがいたんです。やっぱりみんなその方とお話したいし、友達になりたい。
そこで、もともと友達だった僕のところに1人が来て、「●●さんと仲良くなりたいんだけど、『あの作品よかった』とか『あの役がよかった』とか、どの作品について話したらいいかな?」と聞かれて。
サノ
なんと答えたんですか?
乙武さん
「役者のお仕事の話はしないほうがいいと思いますよ」と答えました。なぜなら、僕もしょっちゅう「『五体不満足(乙武さんの著書)』、読みました!」と言ってもらうんですけど、ありがたいことは大前提として、もう本当にいっつも言われていることなんで「ありがとうございます」しか出てこないし、今さら話したいこともそんなに浮かばないので、「またこの話か…」と感じてしまう気持ちがよくわかるんですよね。
だから、「●●さんはお仕事以外の社会的な活動もされてるので、そういう話したら『知ってくれてるんだ!』と盛り上がると思いますよ」ってアドバイスをしました。
乙武さん
まあ結局、本人を目の前にしたらテンション上がって「あれ観ました~~!」って言っちゃって、全然盛り上がらずに帰ってきたんですけどね(笑)。
「中心タイプ」の人気者は人と話す機会も多いし、「この扉しょっちゅうノックされるんだよな…」ってうんざりする定番の質問がわりとあったりするから、お話好きなはずなのに扉を開けてもらえなかったり、開けてもすぐ閉められちゃったりするんです。
「中心タイプ」の人を相手にするときはとくに、「あっ、そこ叩いてくれるの!?」と思ってもらえるような扉をいかにして見つけるかが大事だと思います。
“心を開いてくれる扉”は、「相手が自分をどう見ているか」を観察して見つける
サノ
でも、どうやって“心を開いてくれる扉”を見つければいいんでしょうか…?
乙武さんも、なかなか扉を見つけられず苦労された経験があるのでしょうか。
乙武さん
もちろん。たとえば、僕は20代の頃サノさんと同じくスポーツライターをやっていて、自分より30歳、40歳も年上の監督さんにお話を聞かなきゃいけなかったんです。
気難しい方も多いし、「ちょっと聞かせてくださいよ!」みたいなテンションで野村克也さんや故・星野仙一さんにインタビューできるわけもなく、どうしたら話してもらえるか何度も考えて。
結局そのときは、それぞれの監督の、私の障害に対する扱い方をヒントにさせてもらったんです。
サノ
障害に対する扱い方…いまいちピンとこないんですが、どういうことでしょう?
乙武さん
それぞれの監督が、障害をもつ私とどう接しているかを考えてみたところ、ざっくり3つのタイプの監督さんがいたんです。
ひとつ目は、障害のある人とどう接したらいいかわからないから、「なるべく話したくない」というオーラを出してくるタイプ。年配の方に多いんですけど、結局、こうやって「話したくない」と決めている方と距離を縮めることは難しかったです。
乙武さん
ふたつ目は、障害があることを含め、僕のパーソナルな部分を見てくださるタイプ。
ジャイアンツの原辰徳監督や中畑清さんなんかがそうで、「ここまでよく頑張ったね」と声をかけてくれたこともあったし、当時からめっちゃフレンドリーに話しかけていただきました。
こういう方は、野球についても「あのとき、選手はどういう気持ちだったと思いますか?」みたいなパーソナルな部分を聞くと、やっぱりすごくよくお話してくださるんです。
サノ
原監督、なんかめちゃくちゃしっくりきます。
乙武さん
最後は、僕の障害を完全にスルーするタイプ。
僕に手足がなかろうが、車椅子で来ようが、ひたすら野球の話だけをしてくれる人。純粋なんです。当時は阪神の監督だった野村克也さんがそうで、「あそこで代打を出したのはなんでですか?」「選手に求めていることは?」みたいな純粋な野球論について聞くと、どんどんお話いただける。
乙武さん
こうやって、僕をどういう眼差しで見ているかを観察することで、彼らがどういう眼差しで野球を見ているかもわかってきたんですよね。
サノ
僕はこれまで、それこそ「野球」とか「映画」とか、「その人が何を見ているか」という“コンテンツ”基準で扉を探しがちだったんですけど、「どういう眼差しで見ているか」という、より相手の本質に迫る視点で考えたことはなかったです。
乙武さん
もちろん、他にもいろんな扉の探し方があると思うので、結局はいろんな人と話して撃沈したり盛り上がったりしながら経験を積んでいくしかないと思います。
一朝一夕で上手になるものじゃないし、相手によって対応も内容も全く変わってくるから、「これさえ気をつければ今日からあなたも聞き上手!」みたいな正解もない。
僕も、とあるパーティーで一瞬だけビル・ゲイツに会ったことがあるんですけど、そのときは緊張しすぎて「握手のときめっちゃ目を見る」くらいしかできなかったですから(笑)。
サノ
そのエピソード、こう言っていいのかわからないですけど、なんかめっちゃ心強いです。
今日は「聞き上手」の世界がまだまだ奥深いことを知れて、ほんとうに勉強になりました。ありがとうございました!
おわりに
じつは今回の取材、開始早々乙武さんから「サノさん、今から私とフリートークをしませんか?」と提案があったんです。
初対面にもかかわらず、気づけば僕は15分かけて自分のこれまでの生い立ちを一生懸命乙武さんに打ち明けていて、「あっこれがホンモノの聞き上手か…」と思い知ってから取材が始まったので、本当に自然な、素直な質問をたくさんぶつけることができました。
乙武さんの「聞き上手の秘訣」、まだまだ底知れぬ奥深さがありそうです…!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/写真=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
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