ビジネスパーソンインタビュー
「人間はどんどん思考停止して、ゾンビみたいになる」光本勇介が描く未来予想図

話題の“価格自由”本『実験思考』の内容を一部公開

「人間はどんどん思考停止して、ゾンビみたいになる」光本勇介が描く未来予想図

新R25編集部

2019/05/23

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最短2分でオンラインストアがつくれるサービス「STORES.jp」、目の前のアイテムが一瞬で現金に変わるアプリ「CASH」、あと払い専用の旅行代理店アプリ「TRAVEL Now」など、あの堀江(貴文)さんも舌を巻く発想力で世間を驚かせるサービスを次々と生み出す起業家・光本勇介さん

電子版を0円、紙の書籍を原価の390円(税抜)で流通させ、Webサイトで自由な金額を課金してもらうという前代未聞の売り方で話題となっている著書『実験思考』より、光本さんの頭のなかを覗くことができる4本の記事を連日公開でお届けします。

お金以外のあらゆるモノに価値が付く

これまでモノは、単に「モノ」として扱われることがほとんどでした。しかし、今後は「モノもお金」という時代になっていきます。

つまり、モノにも価値が認められるようになり、お金の代わりにモノで払ったり、お金を介さなくてもモノとモノで取引できたりするようになっていきます。

お金以外のあらゆるモノに価値が付いてきているのがいまで、今後はさらにそういう傾向は加速していくと思っています。

たとえば吉野家の牛丼を食べに行って、会計をするときに「お金じゃなくて自分の時間で払います」とか「この本で払います」と言えるようになる。

冗談っぽく聞こえるでしょうが、ぼくは本当にそういう時代が来ると思っています。

いまは「タイムバンク」でも「VALU」でも、価値を交換するときにいったん「お金」を介していますが、その介在もいらなくなるということです。

もしタイムバンクと吉野家が提携したら、時間で決済が可能になるでしょう。牛丼1杯が「ぼくの場合は10秒だよね」「堀江貴文さんの場合は1秒」というぐあいです。

昨年、池袋のパルコで「リアル店舗版CASH」をやりました。古い服やカバンを持って行くと、店員がパシャッと写真を撮ります。すると「4500円です」などと言われて、そのぶんの買い物ができるというものです。いわば現代版の「物々交換」です。

物々交換というと廃れていく決済手段だと思われがちですが、一周回ってまたやって来ると思っています。

根っこにあるのはテクノロジーです。技術によって、物々交換がすごくスムーズにできるようになっていくのです。

「価値のグーグル翻訳」を作りたい

世の中はどんどん複雑になっていきます。情報もあふれていくし、さまざまなモノやサービスがあふれていく。「価値」という観点でも、便利になる一方ですごく複雑になっていきます。

いま「お金」は、紙幣や硬貨などの物体です。物体だからわかりやすい。しかし今後、お金以外のモノにも価値が付くことによって、どんどん複雑になっていくのです。

なぜ複雑かというと、モノに対して「これは1000円です」と言うためには1000円の根拠となる査定軸というか、リテラシーが必要だからです。

「これは200円です」「あなたの時間は30秒あたり1万5000円です」など、あらゆるモノに価値が付く。そのための査定軸が必要になります。

「これは1000円です」ということを受け入れるためには納得できる材料が必要でしょう。ただ一般の人がその査定軸を持つことは難しいはずです。

ぼくらは、その査定をしてくれる「価値の翻訳サービス」みたいなものを作りたいと思っています。グーグル翻訳は日本語の「リンゴ」を英語の「Apple」に換えてくれますが、それの価値バージョンです。

たとえばCASHのように、モノの写真を撮った瞬間、「これは1000円です」と表示されるようなアプリはできないか。もしくは、目の前のモノと同じ価値のモノが表示される。

AIなどの技術を使えばできるはずです。これができれば、漁師はとれたマグロの写真を撮って和牛に換えることができます。

「世の中では、これとこれはだいたい同じ価値ですよ」とサジェスト(示唆)してあげられるのです。

このサジェストは絶対的なものではないかもしれません。ある種の「決め打ち」です。

でも、「BANKが言うならそうだろう」と思ってもらえればいいのです。グーグル翻訳だって同じでしょう。文章を入れて翻訳が出てきて、「まぁ、グーグルが翻訳してくれるのなら、だいたい通じるだろう」と思うはずです。

いま、LINE PayやPayPayなど、各社が「決済」の覇権をとることに必死になっていますが、決済の手段もデジタルに限らず、もっといろいろ増えていくのではないかと考えています。

「物々交換」だって「決済」です。今後、いろんな手段が出てくるでしょう。

「思考停止」の時代になっていく

ぼくは今後、どんどん「思考停止」の時代になっていくと考えています。よって、「どれだけ思考停止させたまま、サービスを提供できるか」というのはすごく意識しています。

いわば「人間がゾンビみたいになる」ということです。確実にそうなります。誰かが「あっちだ!」と言えば、何も考えずに動くというようなサービスが流行るはずです。

脳を使わなくても生きていける時代がやってきます。そもそも人間はめんどくさがりやです。より便利なモノが生まれると、かならずそちらに流れます。

たとえば昔は、CDやDVDをレンタルしてきて家で楽しむことが普通でした。しかし、iTunesやNetflixなどが登場し、パソコン上で、オンラインで楽しめるようになったら、わざわざレンタルしに行く人は激減しました。

それもたった数年で、これだけの変化が起こったのです。

人間はどんどんアクションしなくなります。たったワンクリック、検索すらしなくなっていくのです。

レシピの業界も、かつては「クックパッド」が圧倒的に強いサービスでした。ただ、クックパッドは、レシピを見たところで思考しないと作れません。読んで、理解して、想像して、再現しなければいけない。

そのうち「クラシル」などの動画レシピサイトが登場し、多くのユーザーに利用され始めました。なぜこんなに支持されるかというと、「思考停止」したまま動画をマネさえすれば料理ができるからです。

いろんな業界にトッププレイヤーがいてサービスを提供していますが、ほとんどは思考を使わないとそのサービスを受けられません。

そこでそれらのサービスを「思考停止したまま」提供できるように作り替えたら、絶対に業界の構図を塗り替えられるはずだと考えています。

たとえば、お腹が空いたら「食べログ」を見るでしょう。ただ、食べログも見るとお店がいっぱい並んでいて、ジャンルや、場所、価格帯を選ぶなど、それなりにめんどくさいわけです。

「ランチに何を食べればいいのか」をいつも考えるのはめんどくさい。

だからぼくは「お腹空いた!」と思ったら「ランチ」というボタンを押して、自動的に「今日はラーメンを食べてください」と言われたいのです。

アプリにはだいたいの予算やNGの食材だけをあらかじめ入れておきます。そうすると勝手に選んでくれるのです。

そのうちラーメン屋さんを探すのも、めんどくさくなります。アプリは「エレベーターで下りてください」「まっすぐ行ってください」「右に曲がってください」「そこで食べてください」と誘導してくれます。

アプリに言われるままに食べる。ゾンビのようでイヤだなと思うかもしれませんが、絶対にそういう時代になっていきます。

これは、旅行にも応用できるでしょう。アプリを立ち上げるとルーレットが回って「ハワイ」と出る。ワンタップで旅行の手続きが完了し、勝手に連れて行ってもらえる。

そんな時代はすぐ目の前にやってきています。

よくも悪くも、世の中は圧倒的に便利になってきていて、消費者は思考を巡らせるのがめんどくさい人であふれてきています。

どれだけ頭を使わないで、いままでの世の中を再現できるか。ぼくはいつもそこを意識しているのです。

「衣食住」は無料になる

最近は、AIの会社が上場したり、ものすごい時価総額が付いたりするケースが増えています。

このあいだ上場した、あるAIの会社の社長の発言がすごくおもしろいなと思いました。

ぼくたちは世の中の仕事をなくしたい」と言っていたのです。「ぼくたちが作るAIによって人から仕事を奪うんじゃなく、ぼくたちのAIに仕事をやってもらって、新しい価値をみんなに提供していきたい」と。

ようするに、仕事はAIにやらせて、ベーシックインカムのようなものを実現したい、 と言っていた。これは「超おもしろい」と思いました。

ロボットやAIは「人から仕事を奪う」という捉え方しかされていません。脅威であり、悪者であると。

ただよく考えてみれば、同じだけの生産性があるのなら、そこで稼げているわけなので、その稼いだお金のシャワーを多くの人に提供することも理論的には可能です。

よって、「働かない世の中」が実現できるのです。

先ほど「言われたまま動けばいい」と言いましたが、究極的には「働かないで生きていける世の中」になるかもしれません。

AIをフル活用したら、農作業も、服作りも、限りなくコスト0円に近づくでしょう。

よって「ベーシックインカムで月10万円」などではなく、「衣食住は無料」という世界も可能になるかもしれません。

エンタメが強くなる

そういう世界になれば、働かない人はどんどん増えていきます。

SHOWROOMの前田裕二さんは「GAFAの次に覇権を獲得するのは誰か」(GAFA:Google、Apple、Facebook、Amazon の4社)というインタビューのなかで 「これまでの可処分時間の奪い合いから、可処分精神の奪い合いになる。心の奪い合いに変わっていくから、エンタメを提供する人が強くなる」という主旨のことを言っていました。

AIやBI(ベーシックインカム)の時代になると、だいたいの衣食住は満ち足ります。後は、心を動かしてくれる存在が求められるから、エンタメ産業が盛り上がるというのです。

働かなくなれば、みんな暇になっていきます。その暇をつぶすためのサービスは人気になるでしょう。昼の3時に仕事を終えて、その後は全部エンタメの時間です。

堀江貴文さんは、ミュージカルをやっている理由を「絶対にみんな暇になるから、能動的にお金を払うのはスポーツか演劇かカラオケくらいになる」とインタビューで言っていました。

フィットネスとしてのスポーツはなくなる

個人的には、フィットネスとしてのスポーツもなくなると思っています。

「スポーツって意味あるの?」と思うのです。ぼくは心から運動が嫌いなのです。

ちなみにぼくが走っているのは体型を維持するためであって、「好きだから」「気持ちいいから」ではありません。

もちろんスポーツが好きな人はいるし、趣味としてやる人はたくさんいるでしょう。スポーツを非難するつもりはまったくありません。

でもぼくは、スポーツ自体はニッチになると思っています。10年でスポーツジムはなくなる(本当はなくなってほしい)とぼくは思っています。

なぜスポーツジムに行くのかというと、健康や体型維持のためです。しかし10年後には、サプリで健康や体型維持ができるようになる。

10年後の子どもは、ジムのランニングマシーンで走っている人の動画を見て「ハムスターみたい」と言って笑うでしょう。「バカじゃないの? ベルトの上で走っててウケる」と。

ただのランニングは、なんのエンタメにもなっていないし、痩せるためにあんなに運動をするのはおかしな話です。痩せる薬も、これだけ医療が発展しているのだから絶対にできるのではないでしょうか。

ここで伝えたいのは、医療技術やテクノロジーの変化の速いいまの時代は、何か一つの商品が発明されるだけで大きな市場がいきなりなくなってしまうということです。

もし本当にスポーツがなくなれば、フィットネスジムやサプリメントなどスポーツ関連産業の相当数が一気に消えます。

どんな市場でもいきなり変化を迫られる可能性があると頭に入れておくといいかもしれません。

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