ビジネスパーソンインタビュー
究極の「使われやすい人」になりたい
「自分のなかの“闇”にヒントがあった」紗倉まなが“売れた理由”を本人に聞いてみた
新R25編集部
「なぜあの人は売れているのだろう?」
芸能人だけではなく、同じ職種の人間に対してもこのような感情を抱いたことはありませんか?
人気があって仕事が任される人には、一体どのような思考や戦略があるのでしょうか。
今回インタビューするのは、AV女優の紗倉まなさん。
ライバル女優も多く、また、コンテンツ産業は厳しいといわれるなか、紗倉さんは一体どうしてここまでの人気を獲得できたのでしょう?
今回は業界内での自分の価値の上げ方や、会社でも使える仕事の心構えについてたっぷりと聞いてきました!
〈聞き手:ライター・田中さやか〉
【紗倉まな(さくら・まな)】高等専門学校の土木科出身。2011年にイメージビデオデビュー、翌年2月にAVデビューし、SOD大賞2012では最優秀女優賞、優秀女優賞、最優秀セル作品賞、最優秀ノンパッケージ作品賞など6冠を達成。著書『最低。』は実写映画化もされ、多彩な活動を見せている
デビュー当時は「トップAV女優になりたい!」という野心はなかった
田中
紗倉さんがAVデビューしたのは2012年。その年に「SOD大賞2012」で最優秀女優賞など6つの賞を獲って、トップ女優の座をつかみました。
デビュー当時から「トップAV女優になる!」という気持ちを抱いていたんですか?
紗倉さん
いえ、初めはまったく考えてなかったんです。
私は単純に「AV女優」という職業に興味があっただけなので、業界に入れただけで満足していました。
だから、そもそも賞があることも、ほかの女優さんの名前も知らなかったんです。
田中
野心などもなかったのでしょうか?
紗倉さん
デビューして半年経過したころ、アワードやAVの売れ行きなど、自分の評価や成績が可視化できることを知ったんです。
そこで「やるからには上を目指したい!」と、自分のハングリー精神が芽生えてきました。
「工場萌え」「赤いつなぎ」が紗倉まなのポジションのヒントに
紗倉さん
私は高等専門学校の環境都市工学科に通っていたので、最初「工場萌え」という肩書きで売り出されていたんですよ(笑)。
田中
「工場萌え」…AV女優としてはあまり見ない肩書きですよね。
紗倉さん
そうですよね。
当時はモデルっぽい子やキラキラしたかわいい子が多く、いわゆるお菓子系アイドル(1990年代に流行したグラビアアイドルの総称)や「元CA」「元アナウンサー」といった売り出し方が多かったんです。
だから「工場萌えって売れるの…!?」って悩んだ時期もありました。
でも、結果としてはこれがよかったんです。
田中
どういうことでしょう?
紗倉さん
たとえば、ほかの女優さんとイベントに出たとき、私だけ赤いつなぎを着せられたことがあって。
まわりがキラキラした服を着ているなか、私だけなぜか作業着。だから、「何この子?」とめちゃくちゃ注目されるんです(笑)。
「あれ? まわりにはかわいい服を着た子がいるのに、みんな私のことを見ている。AV業界で工場萌えとかつなぎって変だと思ってたけど、このジャンルだったら目立つことができるかも?」と、自分のポジションを見つけた気がしましたね。
田中
違和感を持たせることで、逆に差別化できたってことか!
紗倉さん
はい。それに、「工場萌え」というオリジナリティのある肩書きだったことで、検索したときにすぐに私の名前が出てくるのも、興味を持ってもらえるきっかけになったのかもしれません。
AV業界は「闇」があると売れる。“庇護欲”アピールで一気に抜きん出た
田中
そこからほかの女優さんたちとの差をつけるためにどんなことをしたんですか?
紗倉さん
当時は意識していませんでしたが、今思えば「庇護(ひご)欲」がポイントだったのかもしれません。
田中
庇護欲とは…!?
紗倉さん
アダルト界隈のファンの方々は、子どもを見守るような…父親目線で見てくださる方が多いんですよ。
だから、「なんでこんな子がAVデビューしちゃったの?」「この子騙されていない?大丈夫?」と心配してくださることも多くて。
で、当時デビューしたての私は、その方々からの支持をいただくことができました。
田中
父親目線…
紗倉さん側から何かアクションを起こしたことはあったのでしょうか?
紗倉さん
イベントではもちろん明るく振る舞いますが、ブログでは本音を吐露するような少しダークな文章を書いていました。
自分の弱くてもろい部分をさらけ出して、自分の陰と陽の二面性を隠さず、きちんと出していこうと考えたんです。
「紗倉まなって病んでね?(笑)」と言われることもありますが、それも本当の私なので。
田中
でも、自分の心の内や弱い部分をさらすのって、「メンヘラかよ…」ってマイナスに働く気もするのですが…
紗倉さん
そうでもないみたいです。
AV業界において、「闇」は有利に働くこともあります。
急に中二病みたいなことを言いはじめました
田中
闇が有利に働く…?
紗倉さん
私もデビュー当初は明るくてかわいいキラキラしたキャラクターのほうがいいと思っていたんですが、それだけが正解ではありませんでした。
たとえば「自分が応援しなくても、誰かが応援するだろう」と思われてしまったり。すごく難しいですよね。
田中
アイドル業界と近しいものがありますね…
紗倉さん
当時、「AVは少し闇があったほうが売れるよ」と業界の方に教えてもらったことがあって。
私は病みやすくて情緒不安定な性格だったんですが、「自分の弱さや脆さは武器にしていいんだ!」と、この言葉に救いを感じました。
田中
弱い部分をさらけ出すと、逆に応援されるんですね。
紗倉さん
そうかもしれませんね。
もちろん、ブログでも暗い文章を書いて、イベントで会ったときも暗い対応…なんて状態じゃいけません。
私は、明暗のスイッチをちゃんと入れ替えることで、自分の心の構造や奥行きを見てもらった上で、応援してもらいたいと思いました。
それが自分のキャラクターとうまくフィットしたやり方だったんだと思います。
受賞するまではあくまで“基本編”。自分が主体的にトップになれていない
田中
その後「SOD大賞2012」で6冠を達成。「スカパー!アダルト放送大賞2013」で新人女優賞を受賞されています。
ご自身のなかのハングリー精神は満たされたのではないでしょうか?
紗倉さん
いえ、受賞したことはとてもうれしかったんですけど、次は「自分はどうしたらいいだろう?」という壁にぶち当たりました。
田中
というと?
紗倉さん
それまでは自分に与えられた仕事、求められる役割に対して全力で応える、というスタンスだったんですよ。
まずは量をこなすことが、一番だと思っていました。
ただ、それらの仕事って、今までの女優さんがやってきた、いわば“お下がり”みたいなモノも多かったんです。
過去の女優さんたちが、30年以上かけて築きあげてきたAV文化を自分も踏襲している、という感覚でした。
田中
なるほど。では、そこから次はどうしようと思ったんですか?
紗倉さん
受賞したという肩書きを使って、自分にしかできない仕事をしようと決めたんです。
だから、受賞するまで頑張るのが「基本編」。そこからは「応用編」に入ったな、とそのとき感じました。
田中
「応用編」…とても紗倉さんらしい表現です…
それで、現在はご自身で書籍を執筆したり、コラムを書いたりと活動の幅を広げて、紗倉さんにしかできないことをやっているんですね!
自分が無理しない市場をねらう。小さな“市場”が時代のトップになった
田中
今回、紗倉さんがトップレベルになれた理由から、何かビジネスマンたちが活躍するヒントを得られないか? と思っています。
紗倉さんは、なぜここまでご自身が売れたのだと思いますか?
紗倉さん
うーん…私の場合、自分の気質やタイミング、仕事との相性がよかったんだと思います。
トップを狙っていたというより、ニッチなキャラクターで頑張っていたら、自分のいた市場がフィーチャーされた、という感覚ですね。
田中
そうしてニッチがトップになっていった、と?
紗倉さん
はい。小さい市場で頑張っていたら、その市場が気づいたら業界で「それもアリかもしれない」と認めてもらえるようになりました。
そもそも私のキャラは、意識が高くなくて、友達もいなくて、暗い(笑)。とてもじゃないけど、「王道の人気女優!」という路線からは外れています。
でも、その「暗い・病んでいる」というキャラクター性が時代のニーズに合ったのかな? と思っています。
田中
なるほど…「王道路線で頑張りたい!」とはならなかったのはなぜでしょうか?
紗倉さん
「自分が5年間続けても辛くないスタンスでいよう」ということを意識しているからです。
本当はキラキラしているキャラクターに惹かれる部分もありましたが、それはすごく背伸びをする必要がありました。
でもそれって毎日続けるのは苦痛じゃないですか。だったら無理に演じなくてもいいスタンスを続けるほうがいいな、と。
紗倉さん
自分がどのキャラクターでいけばいいのか、というのは、見つけるのが難しくて迷走しがちです。
たとえば会話をするときの一人称を「私」にするか「僕」にするか、ブログで書く文章の語尾を「です・ます」にするか「だ・である」にするかなど、キャラクターは自分普段の振る舞いにも影響してくると思うんです。
だからキャラクターが定まっていないと、何も動きだせないんですよね。私も同じ悩みを抱えたので、とてもよくわかります。
田中
自分のキャラクター…「自分が何者か分からない」と思っている人も多いなか、それを見極めるにはどうすればいいのでしょうか?
紗倉さん
ひとつの手段としては、理想を諦めることがおすすめです(笑)。
理想の自分のために無理するのは、なんていうか、高いヒールを履いて靴ずれをしている感覚なんじゃないでしょうか。
逆に、現実の自分ができることや長年続けられる「これだ!」というものは、あらかじめ自分のなかにあるものだったりする。
田中
ヒントは案外自分のなかに眠っている、と?
紗倉さん
そうです!
私の場合は、高専の環境都市工学科にいたことから、「工場萌え」という肩書を与えられて、さらに「暗い」「友達がいない」といったキャラクターはもともと自分が持っていたものです。
たとえそれが小さい市場でも、自分にハマるキャラクターや“動き方”があると、その後が大きく違ってきますよね。
「究極の使われやすい人間になる」トップAV女優の仕事のルール
田中
最後に紗倉さんが目指しているところを教えていただけますか?
紗倉さん
究極の「使われやすい人間」になることです。
紗倉さん
これは私がデビューしたときからの仕事のテーマなんですが、誰かに自分を使ってもらいたい、という思いが強いんですよ。
田中
つまり、他者から求められる人材ってことですよね。すごくシンプルなように感じますが、そうなるためにはどうすればいいのでしょうか?
紗倉さん
そのひとつの方法が「賞を獲る」ということだったんだと思います。
私が賞を獲れば、事務所は私を売り出しやすくなる。そういう冠があることで、誰かから求められる機会も必然的に増えるんじゃないかなと考えました。
田中
たしかに、「受賞した」というのはいい宣伝事項になりますもんね。
紗倉さん
その上でまずは「どんな仕事も受ける」という姿勢がすごく大事かなと思っています。
肩書きもちゃんと持っていて、しかも相手の無茶ぶりにも気持ちよく応えられる人ってすごく使いやすくないですか?
田中
それは間違いないです。なんでもお願いしたくなります。
紗倉さん
だから、依頼された仕事はなるべく断らない。
自分のプライドを尊重して仕事を選んでいては、相手は仕事を依頼しづらくなります。
「こんな仕事を依頼したら、紗倉さん嫌がるかもしれないからやめておこう」と思われるのってすごくもったいないと思うんですよ。
なんて献身的な人なのでしょう…
田中
ただ、普通の読者が紗倉さんのようになるのって、かなりハードルが高いように感じます。
肩書きなどを持つイメージも湧かないですし…
紗倉さん
それならせめて、相手にとって「働きやすい相手」とは何か?というのを意識すればいいと思います。
連絡のやりとりをスムーズに行ったり、いい雰囲気で仕事ができるようにしたり、無茶なお願いに少しだけ対応してみたり…と、自分本位にならない行動をとってみるのがいいかもしれません。
田中
うっ…たしかにスケジュールを決めるとか、連絡を取るタイミングとか、自分中心に動いていますね。
紗倉さん
私は同じ現場にもう一度呼ばれなかったときは「相手の二―ズに応えられなかった…!悔しい…!」とひそかに悲しんでいます(笑)。そこだけはすごく大事にしている部分なので。
とにかく相手にとって「やりやすい人」になれているのか? そのイメージをちゃんと持つことは、誰にでもできると思います。
田中
ここまで紗倉さんのインタビューを聞いていて、どんな質問にも丁寧に受け答えをしてくださるので、私もまたお願いしたいと思いました…!
これが紗倉さんいう究極の「使われやすい人」なんですね。
紗倉さん
ありがとうございます(笑)。
この姿勢をもっと貫いて、「紗倉まなとしての仕事をやりきった!」というところに達するまでは、どんなことにも挑戦しつづけたいですね。
インタビュー中、終始丁寧な対応をしてくださった紗倉さん。
これだけ人気になっても「使われやすい人間であること」を忘れない、謙虚な姿勢に驚きました。
「小さい市場がフィーチャーされたから売れた!」とおっしゃいますが、そこには紗倉さんが自分自身ととことん向き合い、努力を重ねた結果があるからだと思います。
これからどんな“応用編”で私たちを魅了してくれるのか楽しみです!
〈取材・文=田中さやか(@natvco)/編集=福田啄也(@fkd1111)/撮影=森カズシゲ〉
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