ビジネスパーソンインタビュー
「楽しい記憶で1日を終わらせる」を習慣化
SNSの批判とはどう向き合えばいい? ノンスタ井上が常にポジティブでいられる理由
新R25編集部
ポジティブ芸人として知られるNON STYLEの井上裕介さん。
SNSでどんな誹謗中傷に対しても、そのポジティブな切り返しには舌を巻くほど。
これが伝説の「ポジティブ返し」
でも、井上さんのこれまでを振り返ると、ポジティブじゃいられない時期もあったはず。
そんな瞬間をどう乗り越えたのか、実際に話を聞いてみることにしました。
この企画は、聞きづらいことにも丁寧に答えてくれた井上さんのおかげで成り立っています。
ぜひ最後まで読んで、井上さんのポジティブな優しさを感じてください。
〈聞き手=福田啄也(新R25編集部)〉
福田
ということで、「井上さんがネガティブになった瞬間」についてききにきました。
井上さん
なんでもきいてください。何を言われてもしっかりとお答えします。
【井上裕介(いのうえ・ゆうすけ)】1980年生まれ。大阪府大阪市出身。2000年に石田明とお笑いコンビ「NON STYLE」を結成。2008年「M-1グランプリ」優勝してからは、「ナルシストキャラ」「ポジティブキャラ」で注目を集める
「ブサイクいじり」でも笑ってくれる人がいればいい
福田
まず「吉本ブサイクランキング」で1位を取ったとき、ネガティブになりませんでしたか?
容姿をいじられてかなりショックだと思うんですけど…
井上さん
僕には「笑いのためならば容姿をいじられても気にしない」という信念があるんですよ。
僕が「ブサイクだ!」って言われることで、誰かが笑ってくれるならばそれでいい、というスタンスですね。
福田
なるほど…プライベートで容姿をいじられてショックを受けたことは?
井上さん
あります。
高校生のとき、大阪駅前のパン屋でアルバイトをしていたんです。
そのときはすごく視力が悪かったから、いつも目を細めて見ていて。それで、先輩から「目つきが悪いから、普通に話しているだけでも怖い」って言われました。
自分が普通にしているだけで、相手を怖がらせてしまうこともあるんだなと。
今はレーシックをして治ったそうです
井上さん
でも、その人から「目を細めるのを直すのは難しいから、せめてずっとニコニコしたら?」ってアドバイスもされたんです。
そこで意識的に口角を上げるようにしたら、自然と感情も明るくなるんですよね。そのクセが今も染みついています。
それがこの笑顔
ツイッターで何を言われても、五感で感じてないから気にしない
福田
じゃあツイッターで「おはよう」とつぶやいたら、「お前は一生目覚めんな」と言われたときはどうです?
実際に井上さんに送られてきた悪口ですが…落ち込むことはなかったんですか?
井上さん
Twitterで言われることは、所詮文字でしかないですからね。その発言を直接言われているわけではないので、特に傷つきはしないです。
むしろ僕に対してレスポンスしてくれるってことは、僕に興味があるってわかるからうれしいでしょ。
これに対しても余裕の回答
福田
さすがの「ポジティブ返し」ですね…悪口を言われたら、怒ってもよかったのに。
井上さん
「ポジティブ返し」のきっかけは、当時、一般の方とケンカしていた芸能人が多かったからなんですよ。
僕のところにも誹謗中傷のメッセージがたくさん届きましたけど、それに対して楽しく表現しようって考えたんですよね。
福田
そのスタンスがどんどん注目を浴びて、ポジティブキャラが確立されていったのか…
「自分ひとりで頑張らないと」気が張っていた2016年
福田
では…
2016年に事故を起こしてしまったときは、ポジティブでいられたのでしょうか…?
※井上さんは2016年12月11日、自身が運転する車がタクシーに接触する事故を起こし、これを受けて活動を約3カ月間自粛していました。2017年3月6日に不起訴処分となり、3月31日に芸能復帰ライブを開いています
井上さん
これは多くの方にご迷惑をおかけしたので…ポジティブとかネガティブとかで回答できる話ではありません。
福田
そうですよね…
当時の心境をはどのようなものだったのでしょうか?
井上さん
事故を起こす前、すごくピリピリしていたんですよ。
相方の石田(明)が結婚して幸せをつかんでいて、その一方で自分は…?と、無意識に比べてしまっていました。
だから「相方よりも仕事で幸せになってやるぞ」と生き急いでいたんだと思います。
福田
当時の井上さんはほぼ毎日テレビに出られていた印象です。
2015年に発売された日めくりカレンダー『まいにち、ポジティヴ!』もかなり反響がありましたし。
井上さん
そうですね。僕のポジティブなキャラクター性が注目されて、いろんなメディアが取り上げてくださいました。
たくさんの方が僕に期待してくれて、その勢いに乗り遅れないようにしなければって焦りもあったんです。
とにかくがむしゃらに働いていて、毎日必死にしがみついていました。
自粛中に会った先輩たちからの叱咤激励
井上さん
事故があってからは、約3カ月は活動を自粛しました。
そのとき、僕のことを気にかけてくださる人がまわりにたくさんいることに気づけたんです。
福田
事故を起こしてしまったあとの相方・石田さんのコメントは、かなりグッときました。
「井上の人生は俺の人生でもあるから、これからまた1から、また笑ってもらえるように頑張ろう」という発言は優しさにあふれていましたね…
井上さん
そうですね。石田以外にもいろんな先輩から声をかけてもらいました。
ご飯を食べているときには、「お前、腕が全然衰えてないやん! もうちょっと錆びといてくれよ!!」と言ってくれることもありましたね。
関西の先輩方のフォローは素敵だなあ…
井上さん
さらにある先輩からは、「裕介、落ち込むのは今じゃないぞ」と言われたんです。
福田
今じゃない…?
井上さん
「芸人の世界で落ち込むのは、60歳になったときに仕事がなかったとき。たとえ今、仕事ができなくても、ちゃんと認めてもらえるように頑張り続けるべきだ。60歳になって、そのときダメだったら落ち込め」と。
その言葉には救われましたね。
こんな質問にもちゃんと答えてくださって、ありがとうございます
井上さん
それに事故の相手の方からも、「井上さんの謝罪の気持ちは十分伝わりました。なので、早く劇場やテレビで漫才している姿を私に見せてください。それでまた私のことを笑わせてください」という温かいお言葉をいただきました。
まわりの方の優しい声があって、落ち込んで停滞するのは違うな、前に進まないとな、と思えたんです。
事実の“核”を理解しないと批判はできない
福田
その事故があったことで、ご自身の心境になにか変化はありましたか?
井上さん
あえて言うならば、SNSの批判に感情を左右される必要はないって気づきました。
福田
というと?
井上さん
不祥事や事件があったら、そこにいたった理由があるわけじゃないですか。
なぜそんな行為をしてしまったのか、その行為は故意なのか? 事故なのか?
SNSでは、そういうことを“理解しないで”批判してくる人がほとんどだと思ったんですよ。
結局、事実の外側しか見ていない。
井上さん
もちろん反省はしなければいけませんし、経緯を理解している人からの批判は重く受け止めます。
でも、事実の外側だけしか見てない人からの批判で、自分がネガティブになってしまうのは違うなと思ったんですよ。
「SNSに重きを置くのは間違っている」井上さんが伝えたいこと
井上さん
批判に関して言うならば、最近のSNSでは一般人も批判の対象になりますよね。
福田
そうですね。自己発信できる反面、みんなに監視されている気がします。
井上さん
そうです。それに人からのリアクションに期待しすぎている。
写真映えするものを投稿して、その投稿に「いいね」がつかないと悩む…とか小さい話ですよ。
僕のところにも「どうしたら井上さんのようにたくさん『いいね』がつく投稿ができますか」って相談が来ますけど、本当はまず実生活を充実させるべきじゃないですか。
井上さん
ここ数年で、SNSがきっかけで自殺してしまう人がいると知りました。
その話がショックで、今回『SNSをポジティヴに楽しむための30の習慣』(ヨシモトブックス)という書籍を出そうと思ったんです。
「みんなSNSにとらわれすぎているぞ」ということを伝えるために。
福田
たしかに書籍のなかで、「SNSに振り回されすぎるな」ってことを書かれていますね。
そんなきっかけだったとは…
井上さん
本来なら人生を楽しむためのツールです。
でも、それに人生の重きをおいて苦しむのは間違っている。
SNSとの距離感をしっかり保って、みんながポジティブに生きれるようになればいいなという想いがあります。
「みんなが笑顔でいられる社会にしたいんですよ」
「毎日ポジティブ」の原点は親戚の死がきっかけ
福田
話していると、井上さんがポジティブだって言われる理由がわかった気がします。
きっと、どんなこともポジティブに変換できる脳があるんですね。
井上さん
僕だってもちろんネガティブになることはありますからね。
ただ、ポジティブでいるために“嫌なこと”を次の日に持ち越さないってことは意識しています。
福田
具体的にどんなことをするんですか?
井上さん
たとえば仕事で失敗したら、寝る前の1時間で誰かとご飯食べたり、誰かと話したりして、楽しい記憶で1日を終わらせる。
僕はこれを習慣化しているんですよ。
福田
それを意識するようになったきっかけがあるんですか?
井上さん
高校生のときに、親戚のおじさんが若くして亡くなったんです。しかも突発的に。
そのときの僕は、将来のこともまともに考えてないし、みんな当たり前のように人生を謳歌するものだと思ってた。
でも、「人生って突然終わることあるんだ」ってハッとしたんですよね。
福田
なるほど…その感覚って人の死を目の当たりにしないと気づかないんですよね…
井上さん
そう。おじさんの死を見て、「今日が最後になってもいい」と思える生き方をしたいなと思うようになりました。
その感覚がずっと心のどこかにあるから、「僕はポジティブであろう」と意識できるんですよね。
死ぬまでポジティブでいるために、今日をポジティブに終わらせる。
これが僕のポジティブの秘訣です。
聞かれたら嫌であろう質問に対しても、しっかりと考えて回答してくれた井上さん。
この記事を書いているとき、井上さんは「ポジティブ」というよりも、すごく素直な人なんだと気づきました。
インタビュー中の雑談で、「芸人になってよかったことは、人を笑わせてみんながハッピーになったこと」なんて恥ずかしげもなく言えるのは、その素直さがあるからこそ。
ポジティブになる…と意識するのは難しいかもしれませんが、まずは思ったことを素直に言えるようになることが、井上さんのようなポジティブ思考への近道なのかもしれません。
〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉
井上さんの新著『SNSをポジティヴに楽しむための30の習慣』が発売
毎日、SNSで誹謗中傷のコメントが届く井上さん。
でもそんな彼が傷つかず、空気清浄機のようにポジティブに変換してきた彼のSNSとの付き合い方を伝授してくれます。
ポジティブによるポジティブに生きるための指南書をぜひチェックしてみてください!
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