ビジネスパーソンインタビュー

4月から有給休暇が義務化! 取得必須日数や消滅期限について弁護士に聞いてきた

「日本人は頑張りすぎです!」

4月から有給休暇が義務化! 取得必須日数や消滅期限について弁護士に聞いてきた

新R25編集部

2019/01/29

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「有給を取ってゆっくりしたいな〜!」

…と思いつつ、現実は日々の仕事に忙殺されたり、上司になかなか言い出せずに取れない、という方も多いのではないでしょうか。そんななか「有給休暇」が、2019年の春に法律で義務化されるそう。

ただでさえ正確に制度を理解できてなかったのに、法律の改正でどこが変わるんだろうか…

ということで、今回はアディーレ法律事務所の中西弁護士に、

・有給休暇についての基本的な仕組み

・日数に関する決まり

・有給休暇義務化で変わる部分

・申請理由は必須なのか

・パートでも取得できるのか

などについて、くわしく話を聞いてきました!

〈聞き手:ライター・松本紋芽〉

【中西博亮(なかにし・ひろあき)】弁護士・弁護士法人 アディーレ法律事務所、東京弁護士会所属。2012年に岡山大学法学部を、2014年に岡山大学法科大学院を卒業。残業代請求など、労働問題に詳しい。スポーツ好きで、体力自慢! 依頼者のためにいつでも全力投球な弁護士

有給休暇とは「賃金が支払われる休暇」。労働者が「リフレッシュ」するための権利

ライター・松本

そもそも「有給」って正確には何なんですか?

中西弁護士

有給休暇とは、半年間以上働いた人に付与される賃金が支払われる休暇日のことで、いわば「仕事を休む権利」です。

労働基準法とは別に、会社の就業規則(労働条件について、事業所ごとに決められているもの)にもよりますが、通常は、休んだらその日の分の賃金が給料から引かれてしまいますよね?

ライター・松本

まぁ働いていないのでそうなりますよね…

中西弁護士

でも、やっぱり人間ですから、病気などで仕方なく休んでしまうこともあるじゃないですか。それで生活が厳しくなってしまうのは、あんまりですよね。

だから、少は休んでも給料が減らないようにしよう、働きつづけるために適度な休養をとってもらおう、ということで「有給休暇」が生まれたんです。

適度なリフレッシュって、仕事を続けるうえで大切じゃないですか。僕も仕事休みたいですもん!!(笑)

今日も働かせてすみません

ライター・松本

なるほど、有給って労働者のことを思って作られた制度だったんですね…!

条件を満たせば、パートやアルバイトにも有給休暇が付与される

ライター・松本

正社員は有給をもらえるイメージがあるんですが、アルバイトなどの雇用形態でも付与されるのでしょうか?

中西弁護士

有給休暇は、雇用契約を結んだすべての労働者に与えられるものです。

先ほど話したように、半年以上は働いていないといけませんが、正社員はもちろん、パートアルバイトでももらえる場合がありますよ!

ライター・松本

パートやアルバイトの人ももらえるんですか!? 学生時代、取った覚えがないですね…

中西弁護士

ただ、以下のような基本条件があります。

✔ 入社日から
6カ月
以上、継続して働いている
✔ 会社で決められた労働日の
8割
以上、出勤している

ライター・松本

あぁ、たしかにこれだと、週2日働いているアルバイトの方とかは厳しそうですね。

中西弁護士

でも、週2日しか働いてなくても、条件によっては取れる場合があります。

ライター・松本

そうなんですか? そのあたりもくわしく教えてください!

勤務日数や勤続年数によって、付与される有給休暇日数が変わる

中西弁護士

まず、パートやアルバイトの場合、法律では、仮に週に1日の勤務だとしても、半年以上働けば1日分は有給休暇がもらえるということになっています。

厚生労働省「有給休暇ハンドブック」より

週所定労働時間(企業と労働者の間で決められている、1週間の労働時間)が30時間未満のアルバイトやパートタイム労働者には、勤務日数に応じて上記のように有給が付与されます。

ライター・松本

なるほど。少ない勤務日数でも有給をとる権利はちゃんとあるんですね!

では、フルタイムの人の場合は、どのくらい有給がもらえるんですか?

中西弁護士

フルタイムの人には、入社して半年後に最低でも10日の有給休暇日数が付与される規定になっています。

そして、さらにもう1年、つまり入社して1年半後には11日分もらえるようになります。

ライター・松本

1年半で21日分たまるってことですね!

ということは、勤続年数が1年増えるごとに、もらえる有給が前年に比べて1日ずつ増えていくんですか?

中西弁護士

いや、もっと増えますね。6年半後には最低でも20日もらえるようになります。

厚生労働省「有給休暇ハンドブック」より

半年以上連続で勤務し、会社で決められた労働日の8割以上に出勤した労働者には、最低10日付与されます。その後は継続勤務年数が1年増えるごとに、上記の日数が与えられます。

ライター・松本

えっ、 20日以上! 繰り越しされた分とあわせて連続でとったら、約1カ月休めるじゃないですか!!

でも実際は、これを消化することなく、忙しく働きつづけなきゃいけない人が多いんだろうなぁ…

労働の闇に思いを馳せた瞬間、一時の沈黙が流れる

中西弁護士

本当にそうなんですよ…!日本人はがんばりすぎです。厚生労働省の平成30年度の調査結果によると、現状の有給取得率は51.1%です。

ブラジルやフランス、スペインなどが100%で世界1位なのに対し、日本はその半分しか有給を取得できていないんですよ。

絶望的な状況…

ライター・松本

ぜ、全然休めていないじゃないですか…!

中西弁護士

そうなんです。でも、そういう労働者が多いからこそ、しっかり有給休暇の権利を使ってもらうように、2019年の春から法律が改正されるんです。

有給休暇義務化で、年間5日以上の消化を会社が指示するように

ライター・松本

法改正の内容を、具体的に教えてください。

中西弁護士

2019年の4月1日から、有給休暇の消化が義務化されます。正式名称は年次有給休暇の時季指定義務」といいます。

要するに、10日以上の有給休暇が付与される方には、1年間で5日以上、有給休暇を消化してもらわなければならなくなるんです。そのために会社は、取得の時季を指定することになります。

厚労省リーフレットより

ライター・松本

ついに有給休暇が強制に! 制度化までしないとみんな休まないんですね…

でも、休みを期限付きで勝手に取らされるというのも、自由がきかない感じがしますけど…

中西弁護士

そういった側面もあるかもしれませんが、たとえばすでに5日分消化してる労働者は、さらに有給休暇を取らされることはありません。

残りの5日分は、自由に申請できるものとして確保されます。

「年次有給休暇の時季指定義務」の内容

厚生労働省「年次有給休暇の時季指定義務」より

※たとえば、有給休暇を10日付与されている労働者が、2日分の有給休暇を取得もしくは申請済みの場合は、残り3日分の消化を義務とするよう。

ライター・松本

なるほど、5日分は強制的に取らなくちゃいけないけど、残りは自由に使えるんですね。よかった〜!

義務に違反した会社は「30万円以下の罰金」を支払う。でもどうやってバレるの?

ライター・松本

これで少しでもリフレッシュできる人が増えたらいいですけど、実際、5日以上有給をとってなくても、世間にバレないんじゃないんですか?

正直、“悪い企業”なんかはごまかせてしまうのでは…

中西弁護士

大企業だと、労働基準監督署(以下、労基署)が入ってチェックすることがあります。

そこで労働者が5日以上消化していないことがわかれば、刑事罰として30万円以下の罰金を支払わなければなりません。

ライター・松本

なるほど…でもすごく安直な考えをすると、大企業にとっては30万円以下の罰金なんて大した額ではない気もするんですが。

中西弁護士

実は罰金以上にリスクなのは、労基署から目をつけられてしまうことなんです。

それ以降は念入りにチェックが入るかもしれませんし、それにともなって対応する時間も必要になりますから、企業としてはすごく嫌だと思いますよ。

ライター・松本

なるほど。だから拒否をせずに義務を守るだろうってことなんですね。

では、大企業「以外」はどうなんでしょうか?

中西弁護士

中小企業庁の調べによると、中小企業は全国に350万社以上(※2018年11月30日時点)あるので、労基署が定期的にチェックするっていうのはなかなか難しいですね。

中小企業では違反が見つかりにくい…?

中西弁護士

ただ、少なくとも何かしらの事件が起きたときや労働者が告発したときにはチェックが入りますし、責任者を呼んで現状を聞くことになります。

ライター・松本

そこでも、責任者が「うちはちゃんとやってます」ってごまかせてしまえる気がしますが…(疑いの目)

中西弁護士

ケースバイケースではありますが、まず労働者を含めて事情聴取をするのに加えて、記録を確認することになるはずです。

あとは、労働者の有給休暇の記録を3年間は帳簿で保管しておかなければならない決まりもあるので、それを見ればごまかしようがありませんよね。

ライター・松本

やはりそういう決まりもあるんですね。

中西弁護士

そうですね。ただ、やはり労働者が「自分から声をあげる」ようにしないと、労基署もなかなか動けないと思います。

なので、もし不当な状況があったら、証拠と共に声をあげるようにしてください。

どうしても大企業が優先されがちなので…

有給休暇の申請時に「理由」の記入は必須ではない

ライター・松本

ここまで法律の改正点などを伺いましたが、そのほかにも有給について、素朴な疑問がいくつかありまして…

申請の欄に「理由」を書くところがあるじゃないですか。あれって必要なんですか?

中西弁護士

いりません!

ライター・松本

ですよね! これまで「私用のため」しか書いたことないですし、意味ないんじゃないかって思ってました。

では、理由がはっきりとしていないからといって「拒否」をされることもなさそうですね。

中西弁護士

そうですね、有給休暇は申請をすれば原則取れると言う決まりなので基本的に拒否をする権利はありません。

ただ、一方で、会社として「有給休暇の時季を変更してください」と言う権利はあるんですよ。

あくまで例外ではあるんですけど、「この日に休まれたら事業が回らなくなる」という場合には、会社から理由を聞かれることがあります。

ライター・松本

なるほど。変更について言われるだけで、「有給を取ってはいけない」という意味ではないんですね!

有給休暇は、やむを得ない理由があればさかのぼって(事後)申請してもOK

ライター・松本

あとはたとえば、風邪で急遽休んだ日があるとして、それを後日「有給」としてさかのぼって申請してもいいんですか?

中西弁護士

有給は原則として、事前に申請する決まりになっていますが、会社の就業規則には、「やむを得ない場合には事後申請でもいい」という規定もよくあります。

さすがに、体調悪いから有給とりたいけど、わざわざ一回会社に来て申請出す…なんて現実的じゃないでしょう?(笑)

ライター・松本

たしかに…

あと、通院とかで午前中だけ休みにしたいときもあるじゃないですか。午前だけ休んで、午後の分を別の日にしてもいいんですか?

中西弁護士

それについても会社の規定次第ですね。くわしい人に聞いたり、就業規則を確認したりするといいと思います。

ライター・松本

じゃあ、会社の規定によって、けっこうフレキシブルに有給がとれる可能性があるんですね!

中西弁護士

はい、基本的には労働者を守る制度なので。申請をすれば有給は取れる、というのが原則です。

有給休暇を消化しきれない場合、会社に「買取」してもらえるケースもある

ライター・松本

ちなみに、有給がたくさんたまってしまい、消化しきれないときはどうすればいいんですかね?

その分をお金にかえられたらベストなんですけど…

中西弁護士

「買取」ができる、という話もありますが、会社側の義務ではありません。

なので、してくれたら労働者にとってはラッキー!…というぐらいに考えておくのがよいと思います。

ライター・松本

なるほど、でも逆に買い取ってもらえるケースがあることにびっくりしました!

中西弁護士

特に認められやすい例として、どうしても退職日までに有給消化ができないような状況であれば、買い取ってもらえることがあります。

ライター・松本

会社との話し合いや交渉次第ということなんですね。

中西弁護士

そうなりますね。

有給休暇を使うと給料が減るって本当?

ライター・松本

ちなみに、有給休暇を使うと給料が減る、という噂を聞いたことがあるんですが…

中西弁護士

実は、有給休暇は、下記の3つのうちのいずれかの額を支払えば良いという決まりになっています。

年次有給休暇に対しては、原則として、

①労働基準法で定める平均賃金、

②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金、

③健康保険法に定める標準報酬日額

に相当する金額のいずれかを支払う必要があり、いずれを選択するかについては、就業規則などに明確に規定しておく必要があります。

なお、③による場合は、労使協定を締結する必要があります。

厚生労働省

ライター・松本

えっ、働いた給料がそのままもらえるわけじゃないんですか!?

中西弁護士

通常では②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金が支払われることが多いので、「給料が減る」ことはありません。

ただし、会社の就業規則によっては①や③の場合もあり、そうするといつもより給料が少なく支払われている場合もあるかもしれません。

当然ですが、会社が勝手に手当を控除することは出来ませんよ!

ライター・松本

なるほど…安心しました。いずれにせよ、会社の就業規則をチェックするのが大事なんですね!

有給休暇の消滅期限は2年間。自分で期限を意識して消化しよう

中西弁護士

ただ、基本的に有給休暇は消滅期限があるので、それまでにきっちり消化してリフレッシュしてもらいたいです。

ライター・松本

消滅期限…?

中西弁護士

有給休暇には、与えられてから2年間で権利が消失する「時効」のようなルールがあるんです。

ライター・松本

大事にとっておいたのに消えちゃうんですか?

中西弁護士

そうです。だからちゃんと申請しないと損しちゃいます。

たとえば、2019年の7月に取得した有給休暇は、2021年の6月30日までに使い切らないと消滅します。

ライター・松本

も、もったいない!

中西弁護士

しかも「あなたの有給はこの日になくなるよ」なんて教えてくれる人はいないでしょうから、気付いたときにはもう消えているっていう…

ライター・松本

じゃあ本当に、自分で気付いて行動するしかないんですね。

中西弁護士

はい。だからこそ、制度を理解してちゃんと休んでもらいたいです。

まずは自分の有給がどのくらい残っているのかを計算し、そしてその期限を確認してください。義務化されて会社に働きかけられる前に、ぜひ自分で休養日を設定して、しっかりリフレッシュしてほしいです。

日本人は本当にがんばりすぎですから…!

苦しみながら働く労働者に少しでも休んでもらいたい、望まない長時間労働が少しでも改善されたら…と熱く語ってくださった中西弁護士。

有給休暇は、条件を満たした人なら誰しもが行使できる権利だということ。そして、より多くの消化に向けて法改正されるということがわかりました。

自分が持っている権利を最大限使って、少しでも自分の理想とする働き方ができるようにしたいですね。

〈取材・文=松本紋芽(@Sta_iM)/編集・撮影=いしかわゆき(@milkprincess17)〉

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