ビジネスパーソンインタビュー
SNSの「相対的剥奪」も関係している
“自分探し”よりも“自分づくり”を。「本当にここが自分のいるべき場所なのか病」への処方箋
新R25編集部
「寝てない自慢をする先輩」「飲み会で昔話をする上司」「すぐに折れてしまう新入社員」…などなど、職場にはたくさんの“はたらく問題”があふれかえっています。
そんな職場の問題や働き方改革に切り込んだ、新木曜ドラマ『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日)が2019年1月よりスタート。
杉咲花さん演じる派遣社員の的場中(アタル)が、占いの力を使ってまわりの正社員たちが抱える悩みを解決していくお仕事コメディードラマです。
今回は新R25の期間限定連載として、同ドラマとVoicyで配信中の番組「職場の治療室」のコラボ企画が実現!
カリスマ産業医の大室正志さんと組織人事コンサルタントの麻野耕司さんが、『ハケン占い師アタル』を観ながら、ドラマに登場するビジネスパーソンの悩みに効く処方箋を見出していきます。
第3話で語っていただいたのは、「自分のいるべき場所は本当にここなのか?と考えてしまう病」について。
志尊淳さん演じる、新入社員の品川一真は、勤務先のイベント会社で直属の上司・上野からパワハラを受ける毎日。
思い描いていた社会人生活とは違う日々に耐えるなか、「声優になる」という夢をつかみかけている彼女、そして大学の演劇サークルで一緒だった仲間たちのリア充ぶりに我慢ができず、ついに会社へ退職届を提出します。
SNSが「このままこの会社で働いていていいのか?」と悩んでしまう原因に!?
志尊淳さん演じる品川一真
麻野さん
「このままこの会社で働いていていいのかな?」とか「転職したほうがいいのかな?」とか悩みながら働いている人ってけっこう多いと思うんですよね。
大室さん
第3話のパターンは、今どきのビジネスパーソンにとって非常にあるあるな話だったんじゃないでしょうか。
ドラマの冒頭で描かれていた、「朝起きたらSNSを見て、大学の同級生の姿を見る」ってまさに今の若者の典型ですよ。
今回の悩みは、SNSによる「相対的剥奪」が原因のひとつかなと思っています。
麻野さん
「相対的剥奪」ってどういう意味ですか?
大室さん
たとえば、女性からボールペンをプレゼントしてもらったとします。
とてもうれしくて、「ありがとう」と伝えるじゃないですか。そしたら今度は隣の人が、同じ女性から、自分がもらったモノよりも高価な万年筆をもらっていたとします。
ついさっきまで「ありがとう」って思っていたけど、「あれ?」ってなるでしょ?
麻野さん
たしかに。隣の人よりも下に見られている気がして、ちょっとイヤな気分になりますね。
大室さん
そうでしょう? でも、自分は何も変わっていないんですよ。なんだったら、ボールペンをもらったからうれしいはず。
それなのに、隣の人が自分よりいいモノをもらっているのを見ると、その差額分損した気分になる。つまり、プレゼントをもらってるのに、奪われている気になってしまうんです。
これが、「相対的剥奪」です。
大室さん
「世界で最も幸せな国ランキング」がありますけど、中南米の国ってわりと上位にいるじゃないですか。
麻野さん
日本人からしたら、貧しくて社会問題を多く抱えている地域というイメージがありますけどね。
大室さん
そうですよね。じゃあなんで幸福度が高いのか?というと、たとえばコロンビアだったら、貧富の差がありすぎて、富裕層と貧困層の街が完全にわかれているんですよ。
自分と同じような暮らししか見えないんですよね。自分よりいい暮らしをしている人の存在を知らなければ、比べることもないじゃないですか。
麻野さん
そうか、今回はSNSを見て、自分よりいい暮らしをしている人をたくさん目にするから、勝手に自分の幸福度が下がっている…ということですね?
大室さん
そうです。つまり、解決手段のひとつとして、「SNSを見ない」っていうのもありなんですよ。
麻野さん
なるほどね。たしかにみんながSNSにあげているのって「いいところ」が多いですもんね。
それを見ていると、「みんな、自分よりもいい仕事をしているんじゃないか」「自分よりもプライベートが充実しているんじゃないか」って感じるのも当然かもしれませんね。
大室さん
SNSのおかげでいろんな人とつながれるようになったけど、その副作用として「比べる」対象がたくさん見えるようになった。
その結果、「オレは本当にここにいていいのかな?」といった悩みが生まれるわけです。
まずは「自分探し」よりも「自分づくり」をするべき
麻野さん
先ほど、大室さんが話した「オレは本当にここにいていいのかな?」の悩みは、まさに若いビジネスパーソンが陥りがちな悩みだと思います。
ただ同時に、「青い鳥症候群」にかかる人も多いんですよ。
就職して、「ここは自分の働くべき場所じゃない」と感じて転職する。でも、転職先でもまた「ここは違うんじゃないか?」と思いはじめて転職する…。そんな感じでどんどん転職していくけど、「幸せの青い鳥」が一向に見つからないって人が意外と多いんですよね。
ボクは職場や仕事が嫌だったら辞めればいいと思うし、どんどん転職すればいいと思っています。
でも、「青い鳥症候群」にかかっている人は、まず先に「自分づくり」をしないといけないなと感じているんですよね。
麻野さん
では、「自分づくり」とは何か?という話に移りますが、第3話でフィーチャーされている品川くんの場合、「これは自分のやりたい仕事じゃない」と思っているけど、実は「やれることが少ないから仕事が面白くない」という可能性もあると思うんです。
大室さん
まだ新入社員だからね。
麻野さん
まさに。よく自転車にたとえて話すんですけど、自転車って補助輪を外して練習しはじめたときは、全然おもしろくないじゃないですか。
でも、何度も練習して乗れるようになると、そこではじめて自分の力でどこかにたどり着ける喜びだったり、風を切って走る気持ち良さといった「自転車の楽しさ」を味わえるようになるんです。
大室さん
うんうん。仕事の本当の楽しさに気づく前に、辞めてしまう若者の理由はここにありますね。
麻野さん
そうです。
つまり、仕事ができるようになるまで続けてみることってすごく大事だなと思っていて。そうすると「意外とこの仕事面白いな」って思えることも多いんじゃないかな。
この仕事で自分のできることを理解していき、自分のポジションを確立していくことが「自分づくり」なんですよ。
「とりあえず3年は働いた方がいい」も危険。 適職を見極める「石の上にもn年」理論
大室さん
「自分づくり」のために仕事を続けるのも大切ですよね。
ただ一方で、残念ながら世の中にはどうみてもブラックな会社っていうのもあります。
麻野さん
あるある(笑)。
大室さん
ボクはよく過重労働の方にお会いするんだけど、そういった人たちって、視野が狭くなっているんですよ。
客観的に見たら、「あなたなら今の会社を辞めて転職したとしても、どこでも活躍できるよ」って感じるのに、本人の主観では「ボクはこの会社を辞めてしまったら後がないんです」という心理に陥ってしまっている。
麻野さん
「自分にはこの仕事は向いているのか?」「自分にはこの仕事をやっていけるのか?」などを見極められるラインがほしいですよね。
大室さん
自転車に乗れるようになるまでに必要な練習時間が大体決まっているように、仕事ができるようになるまでの期間も決まっていると思うんです。
ただ、業界や業種にとってそれはバラバラですよね。そこでボクが提案しているのは、「石の上にもn年」という言葉です。
「石の上にも3年」じゃないですが、仕事ごとに「このくらいやってダメだったら、どこか違うところを見つけるのもありなんじゃないか?」という基準って、どの仕事にもあるじゃないですか。
麻野さん
それは面白いですね。見極めるためのガイドラインは必要だと思います。
「ここまでは我慢したほうが合理的だけど、これ以上やっても面白くなかったら我慢しないほうがいい」みたいなガイドラインがあると、自分でも判断しやすくなりますよね。
「本当にここが自分のいるべき場所なのか病」に対する処方箋
麻野さん
では、「本当にここが自分のいるべき場所なのか?」という病に対して、ボクと大室さんから処方箋を出していきたいと思います。
ボクは、「『自分探し』ではなく、まずは『自分づくり』をしてみよう」です。
自己分析をもとにした「自分探し」が最近流行っていますが、そもそも自分を解釈できる材料が少なければ自己分析もできません。
品川くんみたいな新入社員だったら、まずはいろいろ挑戦して経験を積んでみる。
会社のなかで自分のポジションを確立する「自分づくり」をしたあとに自己分析をしたほうがいいのではないかと思います。
大室さん
ボクもその通りだと思います。「自分づくり」の意識はとても大切ですよね。
付け加えるとするならば、ブラックな環境で働いている場合は、視野がせまくなってしまいがちなので、「自分づくり」という意識にプラスして、ボクからは「心に『石の上にもn年』を」という処方箋を送りたいと思います。
〈構成・文=小野瀬わかな(@wakana522)/編集=福田啄也(@fkd1111)〉
次回の放送は2019年2月7日(木)よる9時から!
「職場の治療室 大室正志×麻野耕司」はVoicyでも配信中!
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