ビジネスパーソンインタビュー

「地震の前兆」はどこまでが本当? ウワサの真偽や最新の予測方法を専門家に聞いてきた

「地震は予測できます」

「地震の前兆」はどこまでが本当? ウワサの真偽や最新の予測方法を専門家に聞いてきた

新R25編集部

2019/01/29

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台風、雷、火山の噴火…日本で生きる我々にはさまざまな「自然災害」のリスクがありますが、そのなかでも最も被害が大きい災害のひとつが「地震」。

そんな地震が起きる前には「動物が異常行動を起こす」「体調不良」「異常気象」「電波時計の誤作動」など、数々の不可解な前兆があるとの情報もあります

もしも、いつ、どこで地震が起きるのかを確実に予測できたのなら。

そんな一抹の期待を胸に、地震の前兆現象を捉えて地震を予測する「MEGA地震予測」を運営する「JESEA 地震科学探査機構」の戸を叩くことに。

果たして、世の中で言われている「地震の前兆」というのはどこまでが本当なのか。そして、最新の地震予測の研究はどこまで進んでいるのか。

機構会長である東京大学名誉教授・村井俊治さんにくわしくお話を聞いてきました。

〈聞き手=葛上洋平(新R25編集部)/文=いしかわゆき(新R25編集部)〉

【村井俊治(むらい・しゅんじ)】1939年生まれ。東京大学名誉教授(測量工学)。公益社団法人日本測量協会前会長。(株)地震科学探査機構(JESEA)取締役会長。2000年の定年退官まで、東京大学生産技術研究所教授を務める。現在、メールマガジンとスマホアプリにて、“地震の前兆現象を捉えて地震を予測する”「MEGA地震予測」を配信中

「地震の前兆」のウワサはどこまでが正しい?「動物の異常行動」などの真偽とは

葛上

まず、世の中で言われている「地震の前兆」のウワサの真偽を確かめたいです。

調べてみると、下記のような前兆があると言われていますが、これらはどこまでが本当なのでしょうか?

・ハムスターや犬、カラスなど動物の異常行動

・空や雲の状態の異常(震源の直上で太陽が歪んで見えるなど)

・体調不良(めまい・吐き気など)

・猛暑などの異常気象

・電波時計の誤作動

村井教授

結論として、全部「ウソではない」けれど、全部「正しい」とも言えないです

…どういうこと?

村井教授

はじめに主張しておきたいのが、これらの数値として明確なデータがない「科学的根拠」のないものは、私たちははっきりと「正しい」と言えません

ただ、事象としての報告は多数あるので、決して否定はしません。

葛上

研究は進められているけれど、やはり説明しづらい事象というのは多いんですね。

村井教授

雲や風の動きである程度の予測ができる気象とは少し違い、地震にはさまざまな要因が複雑に絡み合っており、残念ながらまだ人知の及ばない部分があります。

あくまで可能性としてですが、ひとつずつ説明していきますね。

村井教授

まず、動物の異常行動に関しては、科学的根拠はないけれど起こりえます。同様に、人間における体調不良も多々報告されているので、本能的に危険を察知する敏感なセンサーを有する人や生物には十分ありえる現象といえるでしょう。

次に、異常気象や「太陽が歪んで見える」などに関しては、事実として「発光現象」の目撃は報告されています。また、台風や地崩れの後などは地震が起こりやすい傾向にもあります。

そして、電波時計の誤作動に関してですが、「地震の前には異常な電磁波が伝搬する」という科学的根拠があるので、電波時計が誤作動を起こすことは十分にありえると言えるでしょう。

葛上

なるほど、そうするとこれらのウワサのなかで科学的根拠に基づいて説明ができるのは「電磁波」しかないんですね。

他に科学的根拠があるものでいうと、どのような前兆があるんですか?

村井教授

地殻の異常変動、電離園の乱れ、異常な気温変動、インフラサウンドの伝搬、などの前兆が見られます。

葛上

インフラサウンド…電離圏…

村井教授

インフラサウンドとは、大気中を伝播する人間には聴こえない低周波の音波、耳に聞こえない地鳴りのようなものですね。

電離圏というのは、地球のまわりにある大気上層部の分子や原子が、紫外線やエックス線などにより電離した領域のことです。

…と言ってもちょっと難しいですよね!

葛上

私たちの目には見えないものばかりなんですね。

やっぱり人間が察知できる範囲だけで地震を予測するのは厳しいのか…

村井教授

でも、目には見えなくても、電磁波や音波、気温などのさまざまな要因を観測することで、地震を予測できるようになってきているんですよ。

くわしく説明していきますね!

地震は複数のデータを観測することで予測する

村井さん

とにかく、地震の原因を突き止めるには地震の前に起きる前兆を観測するしかない

機関によってさまざまな予測方法があると思いますが、残念ながら公的に進められている観測だと、せいぜい地上から3000メートル地下まで穴を掘って地層を調べる「ボーリング調査」をする程度。

地震というのは、通常10~50キロメートル位の地下で起きているのに、3000メートルの穴ですよ。それはもはや地表ですよね

「3000メートルは地表」

村井さん

他にも、過去の地震記録を分析しているところもありますが、地震は「5年ごとに起きます」なんて周期が決まりきっているものでもありません。

また、地震によって起きる「断層」を分析することもありますけど、断層って地震の「結果」として起きる地面のズレなので、そこから「未来」を導き出すことはできないんですよ

葛上

なるほど。では、スマートフォンから警報がなる「緊急地震速報」はどうやって予測をしているんですか?

村井さん

あれは予測ではなく、地震そのものを検知しています

地震が起きるときは、まず速度の速い縦波(P波)が先に伝搬し、その後に遅い横波(S波)が伝搬します。「緊急地震速報」は、P波が来た時に配信される仕組みになっています。

ただし、震源地が遠ければP波とS波に多少の時間差はありますが、近いときは数秒しか猶予がありません。

葛上

数秒しかなかったら手の打ちどころがないですね…せいぜい身構えることしかできなさそう。

では、村井教授の「MEGA地震予測」の場合は、どのように予測をおこなっているんですか?

村井さん

主に取り組んでいるのは「地象リモートセンシング」による地震予測です。

主に、以下の4つのデータを中心に観測しています。

1. GNSS観測による地殻変動(数カ月〜半年前に観測)

2. 擬似的な気温の異常変動(10日〜2週間前に観測)

3. インフラサウンドの異常波形変動(10日〜2週間前に観測)

4. 電離圏を通過するGNSS搬送波の異常な乱れ(4〜5日前に観測)

葛上

また難しい用語たちが…!

ひとつずつくわしく教えてください!

地震の予測データ1:GNSS観測による地殻変動(数ヶ月〜半年前に観測)

提供画像

村井教授

まず「GNSS」とは、「Global Navigation Satellite System」のことで、簡単に言えば、GPSのことです

地震が起きる数週間前から数カ月前には必ず地殻変動が起こるので、測位衛星を使って、地面の座標の動きを計測しているんですよ。

たとえば葛上さんが新幹線に乗っていたとして、自分の乗ってる新幹線が何メートル動いたかってわかりますか?

葛上

うーん、わからないですね…

村井教授

同じように、地上でいくら頑張っても地面の動きはわからないので、人工衛星から座標の動きを見ているんです

地上から2万キロの高さから、数センチを1/10億の精度ではかり、小さな異常をチェックしています。

地震の予測データ2:気象庁が観測した気温データの異常変動(10日〜2週間前に観測)

提供画像

村井教授

また、大きな地震の約2週間くらい前には、気温の異常変化が観測されることがわかっています

というのも、地震前には異常な電磁波の乱れが起き、気象庁が使っている電気式温度計にも影響して、計測温度が乱れるんですね。

葛上

本当だ、一部分だけグラフが異常に波打っていますね。

村井教授

たとえば、真夜中など気温が安定している時間帯に10分感覚で2度以上の気温の異常変化が見られたら、ひとつの地震の前兆だと言えると思います。

地震の予測データ3:超低周音波の異常(10日〜2週間前に観測)

提供画像

村井教授

私たちの耳では聴き取れない超低周波(0.0004〜0.001Hz)の音波が地球を駆け巡ることも明らかになっています。

このノイズに「宝物」があるんです

葛上

ノイズのような音波でも、地震予測にとってはとても大切なデータなんですね。

地震の予測データ4:電離圏を通過する電波の異常な乱れ(4〜5日前に観測)

提供画像

村井教授

そして、これも同じくGNSS(人工衛星)を使ったデータになります。

地震の4〜5日前に地上約300kmの帯域にある電離圏に異変が生じ、GNSSから発信される電波が受信機に到達するまでの時間に、異常な遅延が起きるんですよ。

葛上

地震の前にはさまざまな地象の異変が起きるんですね…

最新の地震予測の精度はどのくらい?

葛上

ちなみに、これらのデータを使った地震予測の精度はどのくらいなんですか?

村井教授

「MEGA地震予測」では「捕捉率」(※)という定義で約85%で捕捉できています。

※捕捉の定義=震度5弱以上の地震の6カ月内にデータの異常を感知した確率

葛上

約85%も予測できるんですね!

村井教授

…ただ、残念ながら「いつ起きるか」という精度がまだ低いのが弱点です。

先ほども説明した通り、方程式のようにひとつの事象から答えが引き出せるわけではないので、ひとつのデータの値が異常だったとしても、確実に起きるとは断言できないんですよ。

葛上

やはり地震は複雑な事象なんですね。

村井教授

ただ、確実に言えるのは「データはウソをつかない」ということ。

近い将来、約1週間以内の大きな地震が予測できる早期警報システム「Earthquake Early warning system」を発表するべく、日々研究に励んでいます。

日本は、いつ地震が起きてもおかしくないですからね。

葛上

「いつ起きてもおかしくない」というのは理解しつつ、なんとなく「来ないんじゃないか」と思いながら過ごしてしまっているので考えを改めます…

村井教授

たしかに、若い人たちは「地震なんて起きないんじゃないか」と楽観的に過ごす傾向が強いです

私たちがやっている「MEGA地震予測」もまだ時間的精度が低く、「全然当たらない」「ウソっぱちだ」と言われることもあります。

でも時間的精度は低くても、「MEGA地震予測」を見て「どこにひずみがたまっているかを知っていつか必ず地震が来る」という事実を意識すると、日々の過ごし方は変わってくると思いますよ。

葛上

今の時点では「確実に当たる」のをアテにするのではなく、地震そのものを意識することが大切ということですね。

村井教授

私たちは興味本位だけで研究しているわけじゃない。多くの命を守るための地震予測ですからね

まだまだ謎の多い「地震」ですが、医師が病気を診断するようにさまざまなデータから異常を観測することで、予測するのは決して不可能ではないでしょう。

とはいえ地震の前兆は、日々データとにらめっこをして、やっと見つけられるようなわずかなもの。

村井教授が開発中の「早期警報システム」を心待ちにしながら、日々「地震はいつ起きてもおかしくない」という危機感を頭の片隅に置いておきたいものです。

〈取材・編集=葛上洋平(@s1greg0k0t1)/文・撮影=いしかわゆき(@milkprincess17)〉

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