ビジネスパーソンインタビュー
数々の企画を立ち上げてきたこの人なら…
「下心をデザインしよう」キンコン西野さんに“若者の投票率を上げる方法”を考えてもらった
新R25編集部
突然ですが、みなさんは投票に行ったことはありますか?政治のことはよくわからないし、毎日はなんだかんだで忙しい。「じつは、一度も行ったことないんだよね…」というR25世代も多いのではないでしょうか。
「若者が選挙に行かない」とはよく言われますが、いったいどうやったら若者が選挙に行くようになるのか…!?企画を立てるのが得意な人に、「若者が選挙に行きたくなる方法」を考えてもらいたい!
そこで今回は、たくさんの若者を巻き込みながら国内最大級のオンラインサロンを運営しているキングコングの西野亮廣さんに、「若者の投票率を上げる方法」を考えてもらいました。
〈聞き手:サノトモキ(ライター)〉
【西野亮廣(にしの・あきひろ)】1980年生まれ。1999年に漫才コンビ「キングコング」を結成。活動はお笑いにとどまらず、絵本の制作、オンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」の運営など、未来を見据えたエンタメを幅広く生み出しつづけている
若者が投票に行かない理由を考えよう
西野さん
あれ、今日ってなんのテーマなんでしたっけ?
取材開始後しばらく、バンクシーと都知事の話しかしてくれなかった西野さん。自由か
サノ
今日は西野さんに、「若者の投票率を上げる方法」を考えていただきたいんです…!
「ロクな政治家がいない」とか「よくわからないなら入れないほうがマシ」とか、投票に行かない理由っていろいろあると思うんですけど、なんだかどれもしっくりこなくて。
西野さんは、“若者が投票に行かない理由”ってなんだと思いますか?
西野さん
なんでしょうねー?
でも、何か決定的な「行かない理由」があるっていうよりは、「行く理由がない」のほうが近い気がしません?
サノ
どういうことですか…?
西野さん
たとえば、「投票所がすげーインスタ映えする」とか、「受付がその地域のミス○○、ミスター○○」とかだったら、若者にとっても行く理由が生まれると思うんですよ。
でも今って、投票に行く理由なんて“正義感”しかないじゃないですか。「日本をよりよい国にしましょう」みたいな。
ようは、若者がわざわざ飲み会やYouTubeを観る時間を削ってまで行きたくなるような理由がないってのが現状だと思いますね。
サノ
それだ…間違いない…
でも、投票したことがある身からすると、「そうやって責任感から逃げてていいのかよ!」と言いたくなってしまう気持ちもあります。
西野さん
わかりますよ。でもね、人って「正しさ」じゃ動かないんですよ。
ボクら人間はどうしたって、「正しいこと」よりも「楽しいこと」に流れるんで。
西野さん
現に、何十年も「イジメやめようぜ!」と言われてるのにイジメはなくなっていないし、何度「ゴミを捨てるな!」と言われたってハロウィンの夜は毎年ゴミだらけになる。
どれだけ正しくて立派な目的があっても、「正しいことしようぜ」で人を惹きつけるのってめちゃくちゃ難しいんですよね。
まずはそこを受け入れて、「投票に行きましょう!」以外の方法を考えることを出発点にするほうがいいと思います。
サノ
なるほど…!
でも、“興味がなかったはずのこと”に若者を巻き込むって、めちゃくちゃハードル高いですよね…。どうすればいいんでしょうか?
西野さん
そこはもう、「下心をどうデザインしてあげるか」に尽きるんじゃないですかね。
サノ
下心!?
「下心の大義名分」を用意すれば、人は動く
西野さん
10代とか20代の人って、ほぼほぼ「下心」で動いてると思うんですよ。お笑いでも音楽でもなんでもいいですけど、取っ掛かりってたいていは下心だったはず。
ボクが投票に行きはじめたのだって、投票行かずに「あの政治家ってさあ」とか言ってるようなダサいやつになりたくなかったからで、入口はほぼファッションみたいなもんでしたし。
サノ
(百理あるな…)
西野さん
ボクのオンラインサロンでも、下心を動機に人が集まることってすごく多いんです。
たとえば、オンラインサロンでイベントの設営・撤収作業のスタッフを募集することがあるんですけど、これ、有料なんですよ。つまりメンバーはわざわざお金を払って、ソファを運んだり、いろんな仕事をしたりするわけです。
西野さん
そこだけ聞くと完全にブラックだと思うんですけど、本人たちはめっちゃ楽しそうなんですよ。
それって、その場で出会ったメンバーとめちゃくちゃ仲良くなれるってのがけっこう大きい気がしていて。
街中でナンパする勇気なんてほとんどの人がないと思うんですけど、この現場では「ソファ一緒に運ぼうぜ」みたいに声をかけないと仕事にならないから、結果的に下手な合コンとか婚活より断然仲良くなるんですね。
サノ
ああ、文化祭とかもそうだったかも…!
話しかけるきっかけがいっぱいあるから、ふだん話せなかった人とも一気に仲良くなれた気がします。
西野さん
だからボクは、人を集めて何かするときは「いかに下心の大義名分を用意してあげるか」をめちゃめちゃ意識してます。
たとえば、「DJバス」っていう企画(車窓から見える景色に合わせて音楽を流すバスツアー)をやったときは、チケットを「定員30人」って売るんじゃなく、「男15枚・女15枚」って明記して販売しました。「メンバーの半分は異性だぞ」って暗に伝えてるんですね。
でも、あくまでも「音楽が好きだから興味をもった」という大義名分があるから、参加者は自分の下心を隠しながら参加できる。
こうやって下心の大義名分が用意されているだけで、参加率ってめっちゃ上がるんです。
サノ
イベント自体に下心を匂わせつつ、参加者同士の下心は上手に隠してあげるわけですね。
西野さん
で、ここが肝心なんですけど、入口は下心だったかもしれないけど、いざ始まってみると夜景に観入ちゃったりするもんなんですよ。
たとえばタバコだって、最初はおいしさなんて全然わからないけど、「なんかモテそうだから」と吸いはじめて、だんだんクセになる。
投票もそれと同じで、いったんは「下心」みたいな理由で人を集めたほうがいいと思うんですよね。「正しさ」を入口にしちゃうと、ほんとに選挙に興味ある人しか来ないから。
人は、「動機がひとつだけ」では動かない…!?
西野さん
あと、人を集めたかったら、そのイベントだけじゃなくきちんと1日をコーディネートしてあげることも大事です。
サノ
1日をコーディネートする?
西野さん
たとえば…サノさん、湯布院って行ったことあります?
サノ
…? 大分の有名な温泉地ですよね。いつかは行ってみたいですけど、まだ行ったことないです。
西野さん
ですよね? 「湯布院にはとてもいい温泉がある」と知ってるのに、温泉だけではなかなか行かないんですよ。
でも、もし湯布院の近くで友だちの結婚式があったら、「じゃあ前泊して温泉泊まってから出席するか!」ってなりません?
サノ
たしかに…!
西野さん
つまり、人はひとつの動機だけでは行動しにくいんですよ。
だからこそ、そこに足を運ぶ目的をふたつ以上セットで用意してあげることがものすごく大事なんです。
「なんばグランド花月」はなぜ満員なのか?
西野さん
たとえば、吉本の劇場って全国10カ所くらいあるんですけど、常に満員の劇場って大阪のなんばグランド花月くらいなんですよ。
サノ
あっ、そうなんですね。やっぱり本場だから…?
西野さん
というよりも、なんばグランド花月ってUSJとかミナミみたいな魅力的なコンテンツがまわりにたくさんあるから、大阪観光のスケジュールにめちゃくちゃ組み込みやすいんですよね。
たこ焼き食べて、お笑い観て、夜は飲み屋街で串カツ…みたいな流れができてるから、自然と行ける。
コンテンツだけ、スターが出るだけで人が集まるのであれば、新宿のルミネtheよしもとはいつも満員のはずなんですよ。
マンパワーで呼んでも劇場は埋まらないけど、1日のコーディネートがデザインできていれば人が集まるんですね。
サノ
参加のハードルを下げるには、コンテンツの魅力を高めるだけじゃなく、まわりを固める必要があるんですね。目から鱗です…
西野さんご自身も、何かのイベントで1日コーディネートされた実例とかはあるんですか?
西野さん
あります、あります!
ハウステンボスに「1日、お客さんを増やしてほしい」って頼まれたことがあるんです。でもハウステンボスって長崎なんで東京からはまあまあ遠いし、「あれ、ハウステンボスに人を集めるってけっこう大変だぞ」と思ったんですね。
でも、そこで「じゃあ、夜ハウステンボスの運河沿いを貸し切って、そこでお酒飲めるってしたらどう?」って提案したら、急に予約が入りだして。
サノ
へええ! 面白いなあ。
西野さん
そう考えると、やっぱ投票単体で人呼ぶなんて到底無理っすね! ハウステンボスと湯布院ですら苦戦してるんですから(笑)。
西野さんが考える、「若者の投票率を上げるアイデア」は…!?
サノ
では、「下心のデザイン」と「1日のトータルコーディネート」を活かして若者の投票率を上げるとすると、具体的にどんなことができそうでしょうか?
西野さん
そうっすねー……
西野さん
「20代は18~19時に投票してください」とか?
サノ
んん…? つまり、時間を指定することで…?
西野さん
世代ごとに時間を決めちゃえば、「投票所に行けば絶対同じ街の同世代の人に会える」ようになる。
成人式とか、それに近い部分があるじゃないですか。式の内容を楽しみに行くというよりは、同じ時間、同じ場所に同世代が集まってるってわかってるから参加するわけですよね。
サノ
なるほどーーーー! 天才ーーーー!!
自分だったら、絶対女の子にいいとこ見せようと政治のことちょっと勉強していきますもん。自然と政治にくわしくなれそう。
西野さん
投票所の場所を自由に決められるなら、飲み屋街とか、若者がそのまま流れ込みたくなるスポットの近くに投票所を設置するとか。
場所が体育館みたいにある程度固定されてるなら、臨時で何かを開催しても面白いですね。
「投票所で同級生と会って、そのまま近くの飲み屋街とか、ラブ…いや、これは怒られるか…」
西野さん
ボク個人でできるとしたら、投票所の隣に自分の絵の展示、「えんとつ町のプペル 光る絵本展」の会場を作って、投票券を入場券代わりにして誰でも入れるようにしたいな。
サノ
投票券が入場券になる! 最高ですね。
西野さん
投票所自体も、照明つけたり音楽流したりして、もっと楽しくて行きたくなる空間にしたらいいと思いますね。
「えー、なにこの投票所! 撮っちゃお!」みたいな。無味乾燥とした味気ない空間じゃそそられないですもんね。
サノ
…調べてみたら、投票所は公務員の方が休日に設営することもあるみたいです…!
西野さん
それはちょっと楽しくなさそうですね~。
そんな公務員の人たちが、「めっちゃ楽しい投票所を作りたい」とか言ってクラウドファンディングしてたら応援したくなりますけどね。
いやー、選挙のアイデア、面白いなあ! 1回何かやってみたいな。
ぜひやってみてほしいです! ありがとうございました!
今回の取材で出たアイデア自体は、もちろん実際に実現するにはいろいろな壁もあると思いますが、興味がない若者を巻き込むためのヒントは、西野さんの言葉のなかにたくさん散りばめられており、取材中何度もヒザを打ちました。
「正しいことしよう」で人を動かそうとすること、世の中にはたくさんあると思います。もちろんそれで解決するのが一番理想かもしれませんが、それでは叶わなかったとき、ルールで縛ったり危機感を煽ったりするのではなく、楽しく明るいアイデア提案できるような人間になっていきたいなと思いました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=長谷英史〉
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