ビジネスパーソンインタビュー
みんなからもらったお守りが、僕の元気玉
【コラム】“人の想い”と共に生きることで、僕は心が折れそうなときでも強くいられた
新R25編集部
前回のコラムでは、言葉では表現しきれないほどの過酷な治療について綴ってくれた蝦名さん。
今ではSNSやコラムを通して私たちにその経験談を伝えてくれている彼ですが、病が発覚してしばらくは自らの状況を受け入れることができず、ネガティブな気持ちになっていた時期もあったといいます。
今回は、そんな蝦名さんが変わったきっかけと、辛い治療を乗り越えるパワーとなった「人の想い」について書いていただきました。
病気を受け入れられず、偽装投稿をつづける日々
白血病であると診断されてから半年間は、家族と会社の上長、社長など計6名ほど、必要最低限の方にしか病気のことを伝えませんでした。
その理由は、 “過去の自分に戻ろうとしていた”から
当初、僕自身が白血病に関する知識がまったくなかったため、数ヶ月の治療を耐えることさえできれば、白血病を宣告される前と同じ自分に戻れると思っていました。だからこそ、伝えたくなかった。
しかしこれは「誰もが、過去の自分に戻ることはできない」という当たり前の事実に気がついていなかったゆえの考えでした。
健康であっても、歳と共に体力は衰えます。そしてそれは、決して防ぐことはできない。抵抗するのではなく、今の自分を受け入れてあげるしかないんです。
でも、当時僕は病気をなかなか受け入れられず、病気自体をなかったことにしようと考えるのに必死でした。
だから、SNSも偽装投稿をつづける日々。
投稿しなければいいのでは、と思う方もいるかもしれませんが、元来超がつくほど人たらしな僕。なのに、1年以上誰とも会わず、SNSも投稿しないというのはさすがに周囲に怪しまれるのではないかと思ったのです。
そこで、過去に撮影した自分の写真を投稿し、元気に過ごしているフリをしていました。
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生きつづける決意表明をするため、すべてをさらけ出した
誰にも病気のことを伝えていなかった時期は、友人からLINEや電話で連絡が来ても、「ちょっと体調が優れなくて」と返事を濁していました。
けれど、自分の状態を隠しつづけることによる罪悪感は、想像していたよりも苦しいものです。今まで、何事にも素直に向き合ことを大切にしてきた僕にとって、“嘘をつく”ということは、次第に大きなストレスになっていきました。
そんな僕が、自分の状態をこうして発信できるようになったきっかけは、余命宣告です。
あと、3ヶ月しか生きられない。そう告げられた時に真っ先に考えたのは、未来のこと。
僕の目標は、これから先どんなことになろうが、大切な人の未来を見つづけるために、そして他の人のために生きつづけること。これが自分の目標なのであれば、治療でむくんだ顔、抜けてしまった髪、それらを隠すのではなく、素直にさらけ出して、「みんなのために生きる」と決意表明をすべきではないか?
そうして、ようやく決心ができたのです。
いざSNSへの投稿をはじめてみると、予想以上に「頑張れ」「勇気をもらってる!」とコメントをいただき、「こんな自分でも、少しは人の役に立っているのかも」と感じられるようになっていきました。
こうして、病気を隠していた罪悪感からも解放され、余命宣告されたという事実も、徐々に受け入れられるようになっていったのです。
無菌室からでも“人のために生きる”ことはできる
SHOWROOM代表の前田がよく口にしていた“常にアウトプットを意識して行動しろ”という言葉。
闘病中、僕はまさにこの「インプット(自分が経験)したことを、アウトプットする(他者に伝える)重要性」について考えるようになりました。それは、自分の経験のアップデートでもあります。
たとえ無菌室という隔離された環境であっても、SNSでアウトプットすれば誰かに希望を与えることができる。
かつて、俳優時代にCMやドラマに出演した僕に家族や友人が「えびちゃんの活躍に、元気をもらってるよ!」と言ってくれていたときのように。SHOWROOMでのたくさんのオーディションを企画して、夢を持っている方のために仕事をしていたときのように。
自分の軸である“人のために生きる”という目的さえ見失わなければ、いかなる環境でも強く生きることが可能なんだと気付いたのです。
「人と人が時間を共有すること」の尊さに気付いた
こんなポジティブ思考を持っている僕でも、心が折れそうになるときはありました。
それでも、どうして強く生きられるようになったのか。それは、人の温かい想いをたくさん受け取ることができたからです。
僕自身の体調によって、限られた少ない面会時間にも関わらず、直接会いに来てくれた友人、会社の人、先輩方。そんな人たちの想いが“絶対に生きる”という活力へとつながっていました。
みんな誰しも、自分が主人公の24時間を持っています。それを毎日、仕事、趣味、睡眠、家族や大切な人のために使っていく。
そんな24時間の何かを犠牲にして、大切な時間を使ってまで僕に会いに来てくれたという気持ちが嬉しくて。
僕は、人と人が同じ空間で同じ時間を共有することの尊さに気がついたのです。
特に感動したのは、キングコングの西野亮廣さんとホームレス芸人の小谷さんが面会にきてくださったときのこと。
キッカケは、僕が白血病と闘っているということを、前田がもともと親交のあったお二人に伝えてくれたことでした。
それを聞いたお二人は、「すぐ会いに行きます」と言って、翌日には新幹線で東京から関西の僕の元へ飛んできてくれたのです。
「蝦名さんが復活したら、あんなことやこんなことを一緒にやりましょう!」
そう言って僕を勇気づけてくれた西野さんと小谷さん。その言葉は、僕に生きるための希望を与えてくれました。
こうして、前田から西野さん、小谷さんと温かい想いの連鎖が広まることで、僕は幸せな気持ちになり、勇気を持てるようになっていく。
それはとても素敵なことで、僕も3名のように“温かい想いを繋いでいける人間になりたい”と思うようになりました。
人の温かい想いと共に生きることで、僕は強くいられた
“想い”ということでもう一つお話すると、たくさんの方からもらったお守りも、僕を救ってくれました。
その人がお守りを買うために費やしてくれた大切な時間や大切なお金。そして僕を「病から救いたい」と願ってくれる気持ち。それらを想像しているうちに、病気になる前は気にしたこともなかった“お守り”が、強烈なパワーを持つ元気玉に変わっていったのです。
人は、温かい “想い”に最高の価値を感じる。そして、強くいるためには、温かい想いと共に生きることが大切なんだ。
絶望の淵ではじめてそのことに気付いた僕は、辛い治療を乗り切るために、身の回りの必需品を “想い”へと変換していきました。
たとえば、病院内で履く靴、毎日使う石鹸、水、コップなど。これらすべてを(自分で買うのではなく)いただいたお見舞いで購入させていただきました。
こうすれば、どれだけ足が痛くても、みんなの想いと共に歩ける。
口内が血だらけで激痛だとしても、水を飲むことができる。1日に何十回もする手洗いうがいも苦にならない。
「人は1人では生きていけない」
そんなこと、わかっていたつもりでした。でも、病気になる前は“つもり”でしかなかった。
でも今の僕は、心の底から「人を強くするのは人の想い」だと言い切ることができます。
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本当に嬉しかった会社のメンバーからの応援メッセージ
常に人の想いを感じること。それは、「自分は一人じゃない。みんなの想いと共に闘っているんだ」とポジティブなパワーが湧いてくる、僕にとって最高の思考法でした。
〈編集・構成=宮内麻希(@haribo1126)〉
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