ビジネスパーソンインタビュー
「情報源として信頼されたい」
アダルト雑誌って誰が買うの? ベテラン編集者が語る意外な需要と仕事の矜持
新R25編集部
まず初めに謝罪しておきます。女性のみなさま、不快だったらすみません。今回は“男性向けアダルト雑誌”がテーマです。
アダルトコンテンツは「男性にとってなくてはならないもの」として人類とともに進歩しており、現代はVRでアダルト動画を見られる時代。
しかし、こんなに動画全盛の時代なのに、コンビニには依然として“アダルト雑誌”が売られている…。あれって誰が買うの?
R25世代の男性からしたら馴染みがなく、“斜陽”といわてしまうこともあるアダルト雑誌業界で頑張っているビジネスマンに、話を聞いてみたい。
ということで、『月刊DMM』編集長の大木テングーさんに取材しました!
【大木テングー】有限会社サイバーキッズで『月刊DMM』編集長を務めている
編集部・葛上
よろしくお願いいたします! いやあ、アダルト雑誌界隈で取材を受けてくださる方がなかなか見つからず、苦労しました。まずは大木さんのカンタンなプロフィールを教えていただけますか?
大木さん
はい。この業界には1997年からいます。当時は求人情報誌から応募をして編プロ(雑誌や書籍の制作を請け負う会社)に入りました。雑誌が作りたかったんです。
入った会社がたまたまアダルト雑誌を作っていて、そのまま自分もアダルト専門になった…という感じですね。元から「エロが作りたいです!」と熱意を持って業界に入った人とはちょっと違うかもしれません。
編集部・葛上
そうなんですね。指輪をされていますが、ご結婚されているんですか?
大木さん
はい。妻も仕事のことは知っています。
編集部・葛上
失礼かもしれませんが、奥さんはイヤがりませんか…?
大木さん
あまりないですね。というのも、『月刊DMM』は編集が僕ひとりで、執筆は信頼できるライターさんに依頼しているんですよ。
だから仕事として触るのは進行管理用のエクセルだったりするので、家で作業していても問題ないような仕事内容なんです(笑)。
編集部・葛上
なるほど。この業界の方は、ご家族には秘密にしているのかなあと勝手に想像してました。
大木さん
そういうイメージありますよね。でもうちでは全く気にしていません。
『月刊DMM』はAV情報誌。動画の素材を使えるから制作のコスパがいい
編集部・葛上
大木さんがつくっていらっしゃる『月刊DMM』はどんな雑誌なんですか?
大木さん
カンタンにいえばAV情報誌です。AVメーカーさんから画像の素材をお借りして、つくっています。
編集部・葛上
いわゆる“エロ本”のイメージとは少し違いますね。
大木さん
コンビニで流通しているような「エロ本」とは少し違いますね。
うちの場合はDVD販売店での流通がメインです。母体がアダルト流通会社で、AVと一緒に店に卸してもらっているので、ほぼ100パーセント置いてもらえてるのが強みです。
編集部・葛上
100パーセント!それはすごいですね。
大木さん
そして値段も300円台なので、DVDを買う人にとっては負担が少ないですよね。
DVDを買うついでに『月刊DMM』も手に取ってもらい、そこに紹介されているDVDを買うついでに次号も買って…というサイクルが生まれています。
編集部・葛上
コンビニ置いてあるような、いわゆる「エロ本」も手がけられていたんですか?
大木さん
そうですね。10年以上前につくっていたのは、編集部で女の子をキャスティングして撮影するような「エロ本」でした。
今は、情報誌をつくっているような感覚です。
編集部・葛上
業界的にもそのようなものが増えているのでしょうか?
大木さん
今、エロ本業界はこの形式のものがほとんどですね。AVメーカーから画像や動画などの素材を借りて,誌面や付録のDVDを構成すると。
要は作り手にとってコスパがいいんですよ。すでにある素材を切り貼りすれば,エロ本を作るのはそれほど難しくない。
編集部・葛上
確かにそうですよね。自分たちで女の子を探すところからやっていたら、時間もお金もかかりそう…
大木さん
ただ、情報誌はほかにほとんどありません。
今あるエロ本は、AVメーカーから借りる素材で単に“ヌケる本”を作っているだけですね。例えば熟女なら熟女AVを集めた本を作って、熟女好きの人がそれを鑑賞するために買うと。
編集部・葛上
なるほど。『月刊DMM』はどのように違うのでしょう?
大木さん
AV業界全体を俯瞰して、新人や新メーカーの紹介をしたり、これから人気の出そうな女優を取材したりしています。
つまりAVファンが、AVを買う時の手助けになるような情報を提供しているんです。
女優にファンがつくようになり“テーマ型”のつくり方をやめた
編集部・葛上
そんななかでの「雑誌づくりのこだわり」を伺いたいです!
大木さん
大きめなところでいうと、僕が編集長になってから“テーマ型”のつくり方をやめました。
編集部・葛上
ん? 多くの雑誌は「今月号はこのテーマ」と決めてつくるものというイメージがありますが…
大木さん
もちろん以前は「巨乳特集」みたいなことをやっていました。けれど、業界の流れとしてはあまり得策ではないな、と考えました。
編集部・葛上
どういうことでしょう?
大木さん
2000年ぐらいまではAVメーカーやシリーズにファンがついていたんですよ。
もちろんそれがなくなったわけではありませんが、今は「女優にファンがつく」ことが多いんです。
編集部・葛上
確かに、最近はテレビやSNSでもよく見かけますしね。
大木さん
今は裸を見られるのが恥ずかしくないという女の子も増えてきて、握手会やDVDの手渡しイベントなどで、より女優とファンがコミュニケーションをとれるようになってきました。
というのもあって、テーマ型のつくり方はやめて女優中心の構成に変えました。
編集部・葛上
もう少し具体的に教えていただけますか?
大木さん
表紙を見ていただくとわかりやすいかもしれませんね。
編集部・葛上
本当だ、女優さんの名前ばかりが並んでいますね!
鼻の下が伸びるのを抑え、必死で平静を装っている
大木さん
はい。こうやっていろんな女優を扱って、表紙でも女優名を見せることで、各女優さんのファンに手に取ってもらおう、という狙いです。
アップの画像は情報量が少ないから、表紙には使わない
編集部・葛上
ほかにも、手に取ってもらうための仕掛けはありますか?
大木さん
顔のアップ写真を表紙にすると売れないので、使わないようにしています。
編集部・葛上
そうなんですか?
大木さん
アップだけだと情報が少なすぎます。この業界においては、女優がどんな体つきをしているのかなど、顔だけではわからないセクシーさを伝えてあげたほうが興味を持ってもらいやすいんですよ。
編集部・葛上
なるほど。
たしかに全身が写っている。それにしてもJカップってスゴすぎないか? ABCDE…もはやよくわからない。
大木さん
全身を見せたほうがいいのは別に珍しいことではなくて、ファッション誌なんかも一緒ですよね。
頭から足までのコーディネートを見せることで、どんな世界観の雑誌なのかがわかる、みたいな。
文字だらけのページが意外に人気。新作情報が一元化されていることが価値
編集部・葛上
いろんなページがありますが、特に人気のページってあるんですか?
記事に出せるかわかりませんけど(笑)。
大木さん
そうですね、意外にこのページがすごく人気なんですよ。
思ったより地味なページが出てきた
編集部・葛上
ん…? DVDのタイトルリストですね。こんな文字だらけのページが人気なんですか?
大木さん
そうなんです。僕もこのページはいらないと思って廃止したことがあるんですが、苦情がたくさんきました。なぜ需要があるんだと思います?
編集部・葛上
え~、わかりません…
大木さん
ひとつは、このように毎月たくさん出ている新作の情報がまとまって見られるものが、ネット上にはほとんどないからです。あったとしても、メーカーごとに分かれてしまっています。
もうひとつは、ネットを使っていない高齢の読者にとっては、この「新作情報」がとても貴重だからなんです。「ここが唯一の情報源だ」という声も多くもらいました。
編集部・葛上
なるほど!
大木さん
若い人の感覚からすれば、アダルトサイトでお気に入りの女優名やフレーズで検索すれば、好みのAVのパッケージやサンプルがいくらでも見られるじゃないですか。
でも、雑誌のこの文字列から内容を想像して、DVDを買っている人もいるんだと。苦情を受けて、それを実感しましたね。
大木さんの使命は「ネットを使わない人にも信頼できる情報を届けたい」
大木さん
この経験もあり、「現代の日本でインターネットを使わない人がどれくらいいるのか」ということを考えることが多くなりました。
正確なデータはわかりませんが、日本の人口約1億3000万人のうち、100人に1人がネットを使わないとしたら、130万人。
その半分の男性だと想定すると65万人。その人たちが必要だと思ってくれる限りは、この雑誌の意義はあるんじゃないかと思うんですよ。
編集部・葛上
65万人…決してバカにできない人数ですね。そこに使命感があるんですね。
大木さん
使命感というとちょっとカッコつけすぎな気もしますが、陽の当たりづらい人にきちんと向き合いたいです。
編集部・葛上
それでは最後に、大木さんのお仕事へのこだわりを、一言で教えていただけますか?
大木さん
今の話と近いですが、「カタく作っていきたい」ということですかね。
AVの情報なんて…と言われるかもしれませんが、この雑誌を読んで、手に取るDVDを検討してくれている方がいるなら、「情報源として信頼されたい」と。それがこだわりですかね。
世の中にはいろんな人がいる。当然ネットを使わずに情報を摂取する人もいるわけで、そんな人たちのニーズに応えて、信頼性の高い情報を届ける大木さんの仕事の矜持には胸を打たれました。
ほとんど読んだことなかったけど、たまには雑誌もチェックしてみようかな…。
〈取材・文=葛上洋平(@s1greg0k0t1)/撮影=福田啄也(@fkd1111)〉
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