ビジネスパーソンインタビュー
ふしぎだけど本質的な「お金と人生」の話
「日収たった50円で、僕らは自由に生きていく」ホームレス小谷インタビュー(前編)
新R25編集部
記事提供:FROGGY
インタビュー会場に着くなり、「めっちゃ、おしゃれやなー。ほら、あの壁見てみい! 」と楽しそうな小谷さん。大阪で10年芸人生活を送った後、上京してキングコングの西野亮廣さんの家に転がり込むも、家賃を滞納してホームレスになった。
家なし、定職なし、現金なし。それなのに毎日人と会って、大好きな鮨を食べ、結婚までしちゃった。ふしぎだけど本質的な、「お金と人生」の話を聞こう。
ホームレス生活をSNSで生配信
――小谷さんはかれこれ5年くらい、ホームレスとして家も定職ももたずに生活されているんですよね。
小谷:はい。上京したときにキングコングの西野亮廣さんが居候させてくれたんですが、約束を破って家賃を2ヵ月滞納してしまいました。それで西野さんに「お前はホームレスになったほうがうまくいく」と言われて、家を出たんです。
――ただのホームレスじゃなくて、Twitterやツイキャスなどで日々の生活を発信する「SNSホームレス」です。これは、最初からやっていたんですか?
小谷:そうですね。西野さんから「毎日ちゃんと生配信しいや」と言われて。けど、最初は何を配信してたっけ…。もんちゃん(隣にいる奥さん)のほうがよく覚えてるので、聞いてください。すんません、僕ほんまにクズで。あんまりものがわかってないんです。
もん:私はもともと西野さんに興味があって、Twitterをフォローしていたんです。そしたら、これから小谷って人がホームレスになって、その様子を配信するというのが話題になっていました。
気になって見ていたら、上野に炊き出しに行くとか、寝るための段ボールをもらいに行くとか、実況中継をして盛り上がってるんですよ。そのうち、ツイキャスで「ホームレスクイズ」を始めて。「今日はどこの公園で寝てるでしょう?」とか(笑)。
――(笑)。正解すると、どうなるんですか。
もん:その日に使った段ボールがメッセージ付きで、プレゼントされます。そうやって会った人は、みんな小谷にごはんをごちそうするんですよ。あと、Twitterで貯金の残高と口座を公開して、「今日はこれだけ使った。そろそろお金がない」とか、つぶやいていました。
小谷:そしたら全然知らん人が突然、「昼ごはん代振り込んだるわ」って、結構な額を振り込んでくれたんですよ。その人、すごいっすよね。最高っす! お金はすぐ使いました。
――小谷さんにごはんをおごったり、お金を振り込んだりする人は、何が目的なんでしょうか。
小谷:何なんすかね…。さっぱりわかんない。
もん:「興味」じゃないですか? これから何が起きるんだろうっていう、好奇心(笑)。
50円で「何でも屋」を始める
――ホームレスになってからしばらくして、「BASE(ベイス)」(ウェブ上で、無料でネットショップをオープンできるサービス)を使ってお店を開きますよね。その名も、「(株)住所不定」。小谷さんが1日50円で何でもやるという…。
小谷:最初はふつうにアルバイトしようとしたんです。でも面接で何度も落ちるので、困ったなあと思ってまた西野さんに相談したら、「BASE始めな」って一言。「売るものがない」って言ったら、「自分を売ってみれば?」。
西野さんの同居人のヤン君(タノピコ社長・柳澤康弘氏)も加わって、「値段は安いほうがいい。働き方に見合った価格だと『恩』が生まれないから」とか言うんですけど、何のことだかさっぱりわからない。でも、とにかくその通りにしたんです。
もん:BASEの最低価格は50円。だからその金額で、「何でも屋」が始まったんです。
――どんな依頼があるんですか。
小谷:草刈り、引っ越しの手伝い、ダンスの練習相手、ヌードモデル、何でもありますよ。「話し相手になって」というのも多いですね。会って悩みを聞くんです。仕事辞めたいとか鬱やとか、いろんな生き方があるんやなあと思います。
――もんちゃんと出会ったのも、50円の依頼がきっかけですよね。
もん:Twitterを見てたら、友達がホームレス小谷と写真に写ってた。そんな簡単に会えるんだ! と思って、私も依頼をしたんです。名古屋に住んでいるので、そこで鬼ごっこしたいってツイートしたら、来てくれました。
それで、鬼ごっこした翌日からも、そのまま一緒にいました。神戸に遊びに行って、それから東京に移動して小谷の友達との飲み会に出て…。
その飲み会の席で、「3日間ずっと一緒にいた」と話したら「そんなに仲いいなら、付き合っちゃえ!」とみんなから言われて。
「付き合うのは嫌だけど、結婚だったら面白いかもねー」と返したら、一瞬しーんとなりました。「本気?」と聞かれて、1時間後には新宿区役所で婚姻届けを出してた(笑)。
小谷:一緒に飲んでた人たちも証人として区役所に来てくれて、盛り上がって記念写真バシャバシャ撮ってたら「そういう場所じゃないんで」って、職員さんにめちゃくちゃ怒られましたね。
――ホームレスになっただけじゃなく、結婚のプロセスもすごいですね。なんか、自分がいろいろ考えすぎている気がして、頭がクラクラしてきました。
お金は最小限、思い出は最大限
小谷:50円依頼で、芸人の卵からの相談も受けたなあ。17歳くらいの男の子。隣にいたもんちゃんが一生懸命「こうしたほうがいいよ」ってアドバイスしてくれて、僕はコーヒー飲んでただけ(笑)。
――深刻な悩みのときは、どういうふうに相手に接するんですか。
小谷:ただ黙って聞いてる。そんで、その人のええところが見つかったら、「それ、ええやん!」「おもろいやーん!」って、ほめまくる。
本当にどうすればいいかわからないときは、「ごめん、ちょっとわからへん」って言います。
――基本、相手を肯定するんですね。そういうところが、小谷さんの周りに人が集まってくる理由なのかな。50円の何でも屋だけでは生活できないと思うんですが、インタビューでは「太った」と答えていらっしゃいますよね。
小谷:依頼してくれた人が、「50円じゃ悪いから」って昼ごはん食べさしてくれて、夜になったら飲みに連れてってくれる。僕は鮨が大好きやから、連れてってもらうのは大体、鮨。
気づいたらこの5年間、毎日のように人に会って頼まれたことやって、おいしいごはん一緒に食べてたら、かなり太ってもうて…。
――ホームレスになって、生活レベルが格段に上がった(笑)。依頼してくれた人に対して、「ごはん食べたい」って自分から言うんですか? それとも、相手が察する?
小谷:別に察するとか、ないですね。ふつうに「ごはん行こうよ!」ってなります。そのときに自分から食べたいものを言う。大体、鮨ですけど。
――遠慮がないというか、人との垣根がめちゃくちゃ低い。
小谷:なんですかねー。この間、東京で歩いてたら女性に声をかけられて、「先日はありがとうございました!」って言うんです。
どうやら、その女性が自転車で転んだときに、僕が「大丈夫っすか?」って助けたみたいなんです。
ぶつかった男の人は無視して行っちゃって、周りの人も何も言わんから、「終わっとるな~、世の中!」と言いながら。
それを覚えてくれてて、「あのときのお礼がしたかったんです!」と言われて、50円もらいました(笑)。
――やっぱり、50円(笑)。ぶつかったのに黙って行っちゃう男性は論外として、遠巻きに見ながら声をかけられなかった人たちの気持ち、わかる気がします。そういうときに助けるって、勇気がいるから。
小谷:そうかなあ。僕ね、人んち行くと、ふつうに冷蔵庫開けるんですよ。「勝手に開けるな」とか怒られても、意識してないからまたやっちゃう。
でね、困ってる人に声かけるのも、冷蔵庫開けるのも、同じなんです(笑)。なんも意識してなくて、ふとやってしまう。
――なるほど…。小谷さんの「人との関係のつくり方」に、お金と人生の本質を考えるヒントがありそうな気がしてきました。次回、さらに突っ込んで聞かせてください!
後編につづく。
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