ビジネスパーソンインタビュー

キーワードは休みの“分散“。働き方改革よりも大事な「休み方改革」──星野佳路×青野慶久

「ゴールデンウィークは地域別に分けて取るべき」

キーワードは休みの“分散“。働き方改革よりも大事な「休み方改革」──星野佳路×青野慶久

新R25編集部

2018/01/17

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記事提供:サイボウズ式

「残業代がなくなるのは困る」「自由な時間が増えても特にしたいことがない」

「働き方改革」で残業削減が声高に叫ばれる昨今。働く時間が減り、プライベートはより充実し、みんながハッピーになるはず…が、どうも肯定的な意見ばかりではないようです。

なぜ「働き方改革」はこんなにもネガティブにとらえられているのか。「働き方改革」はもっと楽しく進められないのか。そんな問いについて、星野リゾート代表の星野佳路さんとサイボウズ代表取締役社長の青野慶久が語り合いました。

労働時間を減らすことより「休んだ実感」を持てる日を増やすことが大切

青野慶久

今日の対談のテーマは「働き方改革、楽しくないのはなぜだろう?」です。

星野佳路

いいテーマですね。

青野慶久

今の「働き方改革」の流れは、「とにかく残業を減らせ」。しかし働く人々は、必ずしもそれを歓迎していない。やり方が画一的で楽しめていない人が多い印象です。星野さんはどうお考えですか?

星野佳路

たぶん根本的なやり方が間違っていると思うんですよ。わたしは「働き方改革」よりも「休み方改革」のほうが大事だと考えています。

青野慶久

「休み方改革」ですか。

星野佳路

はい。今は「労働時間を減らす」ことがテーマになっていますが、それよりも休みをちゃんと“実感”することのほうが大事だと思うんです。

「自分は今日、しっかり休んだ、ゆっくりしたな」と。具体的には、休みをもっと分散して取らないといけない。この「分散」が、とても大事なキーワードです。

星野佳路(ほしの・よしはる)さん。星野リゾート代表。1960年、長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、アメリカのコーネル大学ホテル経営大学院修士課程へ。1991年に先代より会社を引き継ぎ、星野温泉(現在の星野リゾート)社長に就任。国内外30以上のリゾートや旅館を運営し、2016年に「星のや東京」、2017年には「星のやバリ」を開業。

青野慶久

どういうことでしょうか。

星野佳路

今は祝日が決まっていて、休みの日がみんないっしょでしょう。人気の場所に行こうとすると混んでいて、遠くに移動しようとすると道が渋滞していたり、そもそも予約でいっぱいだったりしますよね。

青野慶久

ゴールデンウィークやシルバーウィーク、お盆、年末年始ですよね。宿泊施設の料金や交通費も高くなってしまう。

星野佳路

そう。休みは4日あるけど旅費が高いから2日しか旅行に行けないとか、渋滞にはまって何時間もクルマの中にいたとか、空港で長い列に並ぶとか、休みを存分に満喫できていないんですよ。

青野慶久

確かに、みんなでいっせいに休むのをやめれば解決しますよね。

星野佳路

分散したほうが、安くて空いているわけですから満足度も高くなるでしょう。「ちゃんと休んでいる」実感が持ちやすい。

やみくもに休みの日数を増やすよりも、休んだ実感を持てる日を増やすことのほうがよっぽど大切だと考えています。

プレミアムフライデーは間違い、ゴールデンウィークは地域別に分けて取るべき

青野慶久

休みを分散させることが大事なら、プレミアムフライデーで「月末金曜日はみんな15時に帰りましょう!」とやっているのは、星野さんの考えとは逆ですか?

星野佳路

完全に逆ですね。休みの集中をさらに煽るだけです。同じ意味で、わたしは「ゴールデンウィークは地域別に分けて取るべき」と提唱しています。

青野慶久

日本中で同じ時期に休むのではなく、地域ごとに休みの日をずらそうと。

星野佳路

反対する人がいるんですけど、理由を聞くとおもしろくて。自動車関連企業だと「部品メーカーが東北で、組み立ては東海地方。休みがずれたら大変じゃないか」と言うわけです。

でも、「部品の何割が海外製ですか? 海外の休日は日本と同じですか?」と聞くと、「5、6割は海外製だが、そこは事前に計画に組み込まれていて問題はない」と言うんです。

青野慶久

おかしな話ですね(笑)。海外とは休みやルールが違ってもやりとりできるのに、国内はだめだと。

星野佳路

銀行も「祝日が違うと、引き落としや振り込みの手数料が違うから大変」と言うんですが、そこもプログラムで設定しておけば解決できますよね。

なんとなく不安なだけで、いざスタートすれば、うまくいくはずなんですよ。

青野慶久

「ルールを変えることがなんとなく不安」っていうの、ありますよね。

星野佳路

経済的視点から考えても、いっせいに休みを取ることは、メリットよりもロスのほうが大きいというのが私の持論です。

星野リゾートにとっても、休みを分散してくれれば、施設利用者の満足度も高くなるし、新たな時期の需要にもつながる。

青野慶久

ピークを分散させると、施設を効率よく使えるんですね。

星野佳路

弊社の話だけではなく、例えば昼食の時間もそうですよね。都市部は12時~13時の1時間に多くの人がランチを食べることになっている。

でも、昼食を取る時間を11時~、12時~、13時~と分けるだけで、必要なキャパシティは3分の1でよくなるはず。すごくもったいないことをしているなと思います。

青野慶久

通勤電車もそうですね。朝、通勤のピークに合わせてたくさんの電車を走らせるのは大変です。乗客にとっても、蒸し暑い中ぎゅうぎゅうにされて、特に夏場はそれだけで朝から疲れてしまう。

サイボウズではいっそのこと定時出勤を廃止にしようか、と言っているぐらいです。

星野佳路

電車でぎゅうぎゅう詰めにされるストレスや、疲労による経済的損失はすごく大きいはず。やはり、さまざまなピークをずらし、分散させていくことが大事です。昼食や通勤の時間をずらすのもひとつの「働き方改革」だと思います。

ちなみに、東京にある星野リゾートの本社オフィスも機能を「分散」させているんですよ。この部屋は、平日は会議室として使用していますが、土日はブライダルの説明会会場や、新卒リクルートの会社説明会に使っています。

それぞれの需要のある時間や曜日が分散しているので、すごく効率がいいんです。

平日は農作業、土日はブライダル。日本に眠る「地域×働き方改革」の可能性

星野佳路

働き方改革だって、日本全国一律にしなくても、地域ごとに違っていてもいいんじゃないですかね。

沖縄と北海道では条件がまったく違いますし、弊社に関係あるところでいうと、例えば観光シーズンが違う。せっかく、日本ほど地方ごとに観光地としての魅力が分かれている国ってめずらしいのに。

青野慶久

え、そうなんですか? むしろ画一的なのかと思っていました。

星野佳路

国土が南北に縦長な分、北と南では気候もだいぶ違います。地域ごとに食べものや言葉、歴史、文化がこれだけ違う国って、なかなかないですよ。

青野慶久

そうか。確かに、山側か海側か、日本海側か太平洋側かでもだいぶ変わってきますね。

星野佳路

星野リゾートの社員も地域ごとに特色があって、季節によって働き方も変わります。「スキーが趣味なので、冬はウインターリゾートの雪山で働きたい!」とか「実家が農家なので繁忙期は手伝いたい」とか。

すると、例えば、平日は農作業をやって、土日だけブライダルの手伝いに来てもらうこともできる。また、春先から秋口にかけてのブライダルや農作業の繁忙シーズンと、冬から春にかけてのウインターリゾートの繁忙期は、見事にずれるわけです。そんな風に、季節ごとに働く場所を変える契約の正社員もたくさんいるんですよ。

青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し、離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得している。2011年からは、事業のクラウド化を推進。総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)。

青野慶久

星野リゾートさんと言えば、社員のマルチタスクオペレーション(※注1)が有名ですが、そこまで許容されているんですね。おもしろい。

注1:マルチタスクタスクオペレーション=1人の社員が、1日の業務時間の中で、フロント、清掃、レストラン業務などを兼務しながら少数精鋭で働くシステム

星野佳路

気候や条件の違う働く場所が複数あれば、さまざまな趣味や事情をもつ社員たちが活躍しやすい。社員も好きなことができるし、会社としても毎年違うスタッフを雇って一から教育というような採用費も教育コストもかけずに済む。お互いにメリットがあるわけです。

青野慶久

働く場所を一カ所だけと考えるとそこの季節だけしか関係ありませんが、日本全国に働く場所があると考えると趣味の幅も広がるし、生き方も変わりそうです。

星野佳路

星野リゾートの社員は、いろいろな趣味を持っていますよ。スキーをやる人もいれば、サーフィンが好きな人もいるし、渓流釣りをしたい人もいるし、山登りをしたい人もいる。つくづく、日本って地域ごとにいろいろ魅力があるなと感じます。

青野慶久

日本全国にいろいろな観光資源があって、見どころの季節もそれぞれ違うんだから、みんなが同じタイミングで長期休みを取るなんてもったいないですね。

星野佳路

そうなんです。さらに、日本は交通インフラもすごくいい条件が整っているんですよ。飛行場だけで約100施設ありますから。

今は東京と大阪などの一部を除くと、キャパが余っていてもったいない。せっかく莫大なお金を投資して造ったわけですから、活用したいですね。

青野慶久

飛行場にも集中が起きていると。そこでもやはり、改革のキーワードは「分散」ですね。

個人ができる「働き方改革」。まずは休みを計画するところから

青野慶久

「働き方改革」や「休み方改革」について、個人ができることって何でしょうか?

星野佳路

みんなもっと能動的に休むべきだと思います。いつ、何日休んで、休みの間に何をするのか、どこへ行くのか考えて、休みの計画を立てるべきだと。

星野リゾートの社員は、ベースの勤務体系はシフト制です。同じルールの中で、1度に20日ぐらい連続した長期休暇を取る社員もいれば、「休みにくい」となかなか休まない社員もいる。その違いは、本人が主体的に休みを計画しているかどうかだと感じます

青野慶久

休暇を計画的に取れるかどうか。星野さん自身も、年間60日は世界各国でスキーをしているんですよね。どうやって休んでいるんですか?

星野佳路

とにかく、半年ごとのスキーの計画を立ててしまうんですよ。例えば、1、2月は日本の雪が一番いいので、日本で滑る。3月になると、日本の花粉症がツラくなるのでヨーロッパに行って滑る。7月は中旬過ぎると南半球の雪質が安定してくるので、ニュージーランドやオーストラリアで滑る。

ニュージーランドと日本では3時間の時差がありますから、朝から夕方4時まで滑ると、日本時間の午後1時。そこからオンラインで定例会議に参加するわけです。

青野慶久

時差まで考慮した完璧なスケジューリングですね(笑)。

星野佳路

今は、仕事よりスキーの優先順位が高いですから(笑)。仕事は70歳過ぎてもできるかもしれませんが、スキーは足腰がしっかりしている今のうちしかできない。

わたしが死ぬときに「もっと仕事をすればよかった」という後悔はしない自信があるんです。でも、「もっとスキーをやっておけばよかった」という後悔は必ずすると思う。だから、スキーのためにスケジュールを組んでいます。

休暇の計画、権限移譲を通じて、自分の仕事の価値はどこにあるかを考える

青野慶久

休暇を取るコツは、とにかく休みのスケジュールを決めてしまうことだと。日本人は仕事や勉強の計画はよく立ててきたかもしれないですが、「休みの計画」は確かに考えない人が多いかもしれません。

星野佳路

あとは、権限委譲ですね。仕事を人に任せるようになりました。これが、会社にとってもいいことだったと考えています。

以前は業務を抱えこんで、全部自分が見なくてはいけないと思っていました。結果的に休みを削ってでも仕事をしてしまうわけです。

青野慶久

なるほど。

星野佳路

そこで、まずは自分の働き方改革として、「本当に自分にしかできないことは何か」を真剣に考えました。わたしが経営者として星野リゾートにいることの付加価値はどの部分なのか。その部分に集中して、それ以外は思い切って人に任せていくようにしました。

今やっている仕事の中にも、きっと人に任せられるものがあるはず。もっと権限委譲は進めていきたいですね。

青野慶久

休みを主体的に計画的に取ることが、自分の仕事の価値について真剣に考えるきっかけになったんですね。

星野佳路

今、国が「残業を削減しなさい」って言ってますが、無理やり残業させられている人ばかりじゃないと思うんですよ。残業しないことを怒られる時代でもない。会社は「残業は減らせ」と言っている。それなのに、なんとなく自ら残業しちゃっている人もいると思うんです。

青野慶久

そうかもしれません。

星野佳路

国が強制的にルールを守らせないとならないような体質の企業が一部あるにしても、多くの人は、自分次第で休みを取ったり、労働時間を短くしたりできるはず

画一的なルールで外から無理やり削ろうとしているから、ひずみが生じたり、生産性が上がらなかったりしている。

青野慶久

「働き方」と「休み方」はあくまでもひとつの車の両輪ですね。片方だけをやろうとしてもバランスが悪くなってしまう。

ただ、なかには「自由な時間にやりたいことがなくて仕事するしかない」という人もいますが、そんな人はどうすればいいと思いますか?

星野佳路

みんなスキーを始めるといいですよ(笑)。

青野慶久

ははは(笑)。星野さんをそこまで魅了するスキーの魅力って何ですか?

星野佳路

いろいろありますが、いちばんは非日常の世界に身を置く解放感ですね。リフト券を買うだけで、標高2000メートルまで簡単に行ける。日本各地の素晴らしい雪山を楽しめる。特に、昔やってた人は、もう一回始めるといいと思いますよ。

青野慶久

空いているときに行くと、まただいぶ印象が違うんでしょうね。

星野佳路

先日雪山で出会った人が、「年間200日は滑っている」と言うんです。それを聞いた瞬間「わたしは年間60日しか滑っていない、まだまだだ!」と思いました(笑)。もっとスキーをするために、次の休みを計画しなきゃいけませんね。

ライター:玉寄麻衣+ノオト/カメラマン:小野奈那子

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