ビジネスパーソンインタビュー
「日本人はアメリカで試合することすら難しい」
すでに世界王者だけど… R25世代の星・井上尚弥の全米デビューが注目されたワケ
新R25編集部
9月に全米デビューし、6度目の世界王座防衛に成功したWBO世界スーパーフライ級チャンピオン・井上尚弥。過去にKO負けが一度もなかったアントニオ・ニエベス選手を相手に6ラウンドTKO勝ちし、今後は全階級を通じて最強のボクサーの称号である「パウンド・フォー・パウンド」にも認定されるのではないかという噂もある。
“過去最強の日本人ボクサー”ともいわれている井上だが、今さら「全米デビュー」が騒がれたのはどういうこと?
世界チャンピオンでも集客力がないと「全米デビュー」は難しい。過去防衛戦ができた日本人は3人だけ
西村尚己/アフロスポーツ
井上は1993年生まれ、神奈川県出身の24歳だ
普段ボクシングを見ない人でも分かるように解説してくれたのは、格闘技ジム「FIGHT CLUB 428」を運営する大野海彦さん。
「基本的に日本人ボクサーが世界戦をおこなう場合、日本側が対戦相手を指名し、日本で試合を行います。これはホームで有利に戦いたいという狙いもありますが、スポーツエンターテインメントの本場・アメリカでは、たとえ世界チャンピオンでも選手の人気や知名度、集客力がなければ試合を組んでもらえないという現実もあるんです」
え、「世界一強い」はずのチャンピオンでも!?
「ボクシングは体重ごとに17階級あり、さらに団体も複数存在するため、“世界チャンピオン”の数がとても多いんです。アメリカ、特にプロボクシングの本場といわれるラスベガスで試合を組んでもらえるのは、その中でもごく一部。欧米人に比べて体格が小さく迫力に欠ける日本人が、アメリカのスポーツ界から注目されるのは相当難しいんです。過去にラスベガスで防衛戦を実施できた日本人ボクサーは3人のみで、うち勝利したのは西岡利晃、亀田和毅の2人だけです」
どうやら、日本人がアメリカデビューするだけで相当すごいことらしい。
井上のスゴさはストレートのようなジャブと変幻自在な戦いぶり! 世界戦でサウスポーを試す余裕も
では、井上はなぜ全米デビューできたのか? “怪物”と呼ばれるほどの強烈なパンチ力にくわえ、その変幻自在で多彩な戦いぶりが注目を集めているからだという。
西村尚己/アフロスポーツ
左で強烈なパンチを放つ井上(2017年5月21日WBOスーパーフライ級タイトルマッチ)
たとえば5月21日に日本でおこなわれたリカルド・ロドリゲス戦。3回KOの圧勝で5度目の防衛成功となったこの試合、開始直後は通常の「オーソドックス」(右利きの選手が右でストレートを打つ構え)で戦っていたにもかかわらず、2ラウンド目に入ると、なんと「サウスポー」にチェンジ! 本人は「気持ちの余裕もあったので、今後のためにも試してみようと思った」と余裕すぎるコメントを残している。
ロイター/アフロ
こちらは右で!(2016年12月30日WBOスーパーフライ級タイトルマッチ)
また、井上が所属する大橋ジム・大橋秀行会長は「左のジャブが普通のボクサーの右ストレートぐらい強いんです。相手にしてみたら左のジャブも嫌なので、そこを意識すると今度は右ストレートが来る。かと思えば、ボディも打ってくる。くっついてどうにかしようとすれば右アッパーが来る。僕が自分で戦うと思っても、対策を非常にやりづらい、すごく嫌な選手だと思います」(VICTORY「井上尚弥は、なぜ圧倒的に強いのか? 大橋秀行会長に訊く(前編)」より)と語っている。
最高は1試合300億円! ケタ違いのファイトマネーを生み出すアメリカの『ペイ・パー・ビュー』システム
そもそもアメリカで試合をするメリットはなんなのだろう?
「夢があるのはファイトマネーですね。2015年に行われた“世紀の一戦”メイウェザー対パッキャオ戦は、この1試合の2人のファイトマネーの合計がなんと300億円超え!アメリカでは『ペイ・パー・ビュー』というテレビの視聴制度が一般的で、見たい試合ごとに視聴者が課金する方式となっているため、注目度が上がれば上がるほどファイトマネーも大きくなるんです」
ロイター/アフロ
2015年5月2日に行われた“世紀の一戦”! 300億とは…
ちなみに、日本での世界戦のファイトマネーの相場は3000万~1億円とのこと。これでも十分高いけど、我らが日本のスターには、やはりラスベガスレベルの大金をゲットしてほしい…。
最後に、全米デビュー戦で見事TKO勝利した井上は今後世界的なスターになれるのか、聞いてみた!
「ラスベガスに残るためには、ただ勝つだけでなく、インパクトのある勝ち方をしつづけなければなりません。今までは、残念ながらそういった結果を残せた日本人はいませんでした。しかし、先日の井上選手のTKOは十分にインパクトのある勝ち方。日本人と同じような小柄な体格のパッキャオがスーパースターになったように、井上選手もスター街道を歩む可能性は十分にあるでしょう。もちろん、そのためには世界中から集まる猛者を倒しつづけなければなりませんが、井上選手にはそんな夢のような光景を見せてほしいですね」
R25世代の星・井上尚弥のアメリカでの快進撃から目が離せない!
〈取材・文=黄孟志(かくしごと)〉
ビジネスパーソンインタビュー
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