ビジネスパーソンインタビュー
正看護師もロリータモデルも、好きだから両方諦めない。それが私の「はたらく Well-being」

「私にとって、ふたつの仕事を持つことが最適だった」

正看護師もロリータモデルも、好きだから両方諦めない。それが私の「はたらく Well-being」

新R25編集部

連載

「“はたらくWell-being”を考えよう」

Sponsored by パーソルホールディングス株式会社

2023/07/25

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リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。

現場ではたらくビジネスパーソンのなかには、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはずです。

そこで、パーソルグループ×新R25のコラボでお送りする本連載では、「はたらくWell-being(ウェルビーイング)を考えよう」と題し、「令和の新しいはたらき方」を応援するとともに、さまざまな人のはたらき方や価値観を通して、ビジネスパーソン一人ひとりが今もこれからも「幸せにはたらく」ための考え方のヒントを探していきます。

今回ご紹介するのは、ロリータモデルと正看護師、ふたつの仕事を両立している青木美沙子さんです。

「複業」という概念は今でこそ一般的になりつつありますが、それを20年前から続けている青木さん。国内外からロリータのカリスマと呼ばれながらも、正看護師の仕事を続けるのは、なぜなのでしょうか。

無意識に縛られがちな世の中のしがらみを解く、彼女の幸せの感じ方を聞きます。

雑誌の読者モデルがきっかけでロリータファッションと出会い、まとうだけでお姫様のような気分に浸れる世界観に惚れ込む。所有するロリータ服は1千着を超える。好きなものを貫くというメッセージを発信し続け、2023年には40歳を記念して自身の半生を綴った『まっすぐロリータ道』(光文社)を出版

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ロリータモデルと正看護師を両立して20年

――(編集部)正看護師とロリータモデル、青木さんはもう20年近くふたつの職業を両立されているとのことですが、それぞれ目指したきっかけを教えてください!

青木さん

看護師の仕事はテレビドラマがきっかけで出会い、中学生のころには将来の夢と決めていました。

1日でも早く看護師になりたくて、猛勉強の末、当時まだ数少なかった看護科のある高校に進学。その後看護の短期大学へと進み、20歳で国家資格を取りました。看護師のキャリアのはじまりは大学病院からでしたね。

――(編集部)高校から専門的な勉強を! どういったところに憧れたんですか?

青木さん

手に職を持ち、お金を稼げるプロフェッショナル」であるところに憧れたんだと思います。

はたらく女性として身近な存在だった母の影響もありますが、ライフステージの変化があっても長く働ける職業がいいな、という思いもありましたね。

中学生の私にとっては、女性がはたらくうえで社会的信用があり、お給料もいい仕事=看護師というイメージだったのだと思います。

――(編集部)かなり現実的な進路の決め方! もうひとつのロリータモデルは、いつから始めたんですか?

青木さん

ロリータモデルは、高校からはじめた読者モデルの活動がきっかけです。

高校に入学すると周囲の同級生たちが一気におしゃれに目覚めはじめて、私も触発されて『KERA』や『Zipper』といった、いわゆる青文字系雑誌を読み漁るようになりました。

当時はインフルエンサーという概念はなく、「読者モデル」全盛期。

女の子たちがモデルとしてトレンドの服を身にまとい、誌面で活躍する姿に憧れ、自分もなりたい!と思い、毎月原宿にあるモデルスカウトの聖地と呼ばれるスポットへ通いました。

      お姫様のような第一印象と裏腹に、目標へのコミットがガチ…

――(編集部)スカウトされるために原宿に!?

青木さん

1年ほど経ったころ、『KERA』の編集部の方に声をかけてもらい、ついに読者モデルデビューしました。

撮影の一環でロリータ服を着させてもらったことが、私自身のファッションの転機であり、ロリータモデルになるきっかけとなりました

――(編集部)行動力がすごいなと思ったんですけど、自分ならできる!みたいな自信を持っていたんですか?

青木さん

いえ、まったく(笑)。

むしろ、学生時代は苦手なことが多くて「自分には何も特技がない」と思い続けてきたので、「人とは違う何かを手に入れたい」という欲求が強かったんだと思います。

――(編集部)人とは違う何か。

青木さん

もともと私は、まわりの目がすごく気になるし、影響を受けやすい性格なんです。学生時代は成績に順位がつくなど、目に見えてわかる評価を受けることも多いですから、誰かと比べて落ち込むことも多くて。

何か自分だけのものを見つけて、人生の主役を自分に戻す力を身につけたかったんでしょうね。ロリータ服を着たときに自分がお姫様になれたような気がして、その感動とともに、ロリータファッションが大好きになり、これだ!と思いました。

それが原動力となったと同時に、一度決めたら最速で辿り着きたい性格が、活きたんだと思います(笑)。

        人とは違う何かとして、「ロリータ」を手に入れた青木さん

ひとつの人生でふたつのやりたいことを追ってはいけない?

――(編集部)高校生から始めたモデルと看護師の仕事、両方を続けて20年。これってすごいキャリアですよね。この両立は最初から思い描いていたものですか?

青木さん

いえいえ、まさか。読者モデルはあくまで学生時代のみの活動で、かわいいお洋服をたくさん着られる最高のアルバイトのような認識でした。

当時モデルを仕事にできたのは、ほんの一握りの人たち。

たとえ読者モデルとして人気が出て、雑誌の表紙を飾れたとしても、生活できるほどの収入を得るのはかなり難しかったので、仕事にすることは考えていませんでしたね。

        「読者モデルは世代交代するもの、という認識でした」

――(編集部)モデルと読者モデルには、そういった違いが。

青木さん

他の読者モデルの子たちも、学生を卒業したら終わりにして就職する、という子たちが多かった気がします。

――(編集部)とすると、青木さんであれば仕事はあくまで看護師、という感じですか?

青木さん

そうですね。

だから私も学生時代を終えたら看護師になって、モデルという楽しいお仕事もロリータファッションも、捨てなきゃいけないものだと思っていました。

――(編集部)捨てる?

青木さん

そもそも、看護師という仕事は命に関わる職業ですから、ヘアカラーやメイク・ネイルを含めたファッションに関する制約はたくさんあります。

短期大学に入ると本格的な実習も始まり、読者モデルとしておしゃれをしたい気持ちと、看護師になるために我慢しなければという気持ちがせめぎ合っていました。

ということは、看護師になったら必然的にかわいい洋服を着て、お姫様のように扱ってもらえるモデルはできなくなるということだなと感じて。

「両方やってみたいけれど、どちらかを犠牲にしなければならない」でも、「もったいないな」「やりたいなー」って思っていました。

――(編集部)読者モデルという夢を叶えたのに、他の夢のために捨ててしまうのは、確かにもったいない。

青木さん

でも、少し前の価値観だと仕事に就く=永久就職みたいな風潮、ありませんでしたか?

一度看護師になったのなら極めるまで続けることが真面目に生きる道、みたいな。

――(編集部)そのしがらみ、どうやって乗り越えたんですか?

青木さん

卒業という節目を作らずに読者モデルを続けていたら、案外続けられたんですよ。大学病院での日々は忙しかったですが、看護師は夜勤という勤め方があるので、タイミングがあえば夜勤明けに撮影に行けました。

何より、ロリータ服は高額なので学生時代はなかなか手が出なかったのですが、看護師のお給料のおかげで購入できるようになり、ロリータファッションをどんどん極めていくことにもなりました。

看護師であるからこそ、ロリータモデルも続けられる状況になったんです。

――(編集部)看護師だからこそ、両立ができた!

青木さん

看護師は、常に生死と隣り合わせで日々神経を研ぎ澄ます仕事です。

休日に大好きなロリータファッションに身を包むことで、またモデルというまったく違うお仕事をすることで、日々の重圧から離れて、自分を休ませてあげられる手段が持てるようになりました

好きなものをただ好きだと言いたい

――(編集部)ふたつあるからこそ、バランスが取れる。そういう仕事の仕方もあるんですね。

青木さん

もちろん大変なこともたくさんありますが、私が幸せにはたらいていくためには、ふたつの仕事を持つことが最適だった、ということですよね。

――(編集部)お仕事の割合は、どのような感じで変化しているんですか?

青木さん

大学病院時代は看護師がメインで、休日にロリータモデルをしていました。

ですが、2009年に外務省のポップカルチャー発信使(通称:カワイイ大使)に任命していただいてからは、バランスが大きく変わりましたね。

日本の文化としてロリータファッションを広めるために、海外での活動がはじまり、そのタイミングで大学病院を辞め、訪問看護師になりました。

訪問看護師とは病院ではたらくのではなく、患者さんのご自宅を1人で訪問してケアを施す働き方です。1日に8〜10件を回る、肉体的にはハードな仕事ですが、大学病院での経験を活かして患者さん一人ひとりに合った看護ができます。

チームに属さない分、働き方の自由度が上がり、ロリータモデルのお仕事とのバランスが取りやすくなりました

最近ではSNSが発達したおかげでモデルに限らず、ロリータ文化を発信するインフルエンサーとしての活動が増えてきて、ロリータ関連が9、看護師が1くらいです。

――(編集部)真逆になったんですね!

青木さん

ほかにも、ロリータブランドさんとのコラボ企画を、毎月複数のブランドさんとおこなっていますし、最近ではまた海外での活動も増えています。

そして先月、40歳の誕生日を機に、自叙伝の出版もさせていただきました。

『まっすぐロリータ道』(光文社)

――(編集部)かなりお忙しそうですが、それでも看護師は続けているんですか?

青木さん

頻度は都度変わりますが、今のところ看護師を辞める気はないです。

――(編集部)それは、なぜですか?正直、ロリータモデルだけだと生活ができないとか...?

青木さん

ありがたいことに、今は十分生活できるんですけど…先ほども言ったように、ふたつあることで青木美沙子が成り立っているから、ですね。

私の場合は、ロリータモデルも看護師の仕事もそれぞれ好きすぎるがゆえに、ひとつの仕事に絞ってしまうとストレスになってしまうんです

――(編集部)好きすぎるがゆえに。

青木さん

ロリータモデルのときは看護師の仕事の大変さを、看護師のときはロリータモデルの仕事の大変さを忘れられるので、両方あることが私の安定剤となっています

右でも左でもなく、真ん中をいく

――(編集部)(ひとつの仕事だけでもいっぱいいっぱいになってしまうわたし...)青木さんが、ふたつの仕事に情熱を持ち続けられる理由は、なんですか?

青木さん

私の場合、悔しさが原動力になっていると思います。

               意外な答えが返ってきた

青木さん

ロリータにはロリータへの、看護師には看護師への偏見があるなと感じていて。

ロリータはあくまで日本発祥のファッションカテゴリのひとつであって、アジア圏やヨーロッパなど海外でもすごく人気のあるもの。

でも、肝心の日本での認知度が低く、まだコスプレの一種という印象が強いんですよね。

このファッションをしていると「どこの星に住んでいるの?」「お菓子が主食なの?」などと聞かれることが本当に多いのですが、私たちはきちんと仕事をしてお金を稼いで、好きなお洋服を買って着ているだけです。

――(編集部)好きなものって、本来は自分の満足のためのものだから、誰かにとやかく言われたくはない...。

青木さん

そうなんです。

でもやっぱり、自分が知らない世界のことには一面だけを見て物を言いたくなる人もいるのかな、と。

青木さん

看護師の仕事もそうで、特にコロナ禍で「医療従事者は大変だ」というイメージが大きく広がったと思います。

たしかに責任ある仕事ではあるけれども、そうではないやりがいを感じられるから続ける人がいるわけです。

手に職の仕事ですし、夜勤だけ看護師をして昼間は違う仕事をするなど、勤務体系にも融通が利きやすい仕事。私はこの仕事が大好きだから、もっと目指す人が増えて欲しいなと思うんです。

――(編集部)どちらも好きな仕事だからこそ、マイナスイメージだけを持たれるのは嫌ですよね。

青木さん

ロリータも看護師も魅力的なのに、なんでみんな知らないの!って思っちゃいます(笑)。

だからこそ、私も発信を頑張って、ロリータや看護師の色々な面を「知ってもらう」ことから広げていけたらなと思っています。

選択にもグラデーションがあっていい

――(編集部)青木さんにとって、「はたらいて笑う」ために必要なことって何ですか?

青木さん

好きなことを自分から諦めないことだと思います。

――(編集部)自分から諦めない。

青木さん

そうなってしまう原因に、選択はひとつにしなければいけないという固定概念があると思います。

私がかつて、看護師かロリータかどちらかを選ばなければと悩んだように、右か左かをはっきりさせる・決めたならその道を貫く、が当たり前だった時代もあります。

だけど、いまは複業も推進されていて、かなり柔軟でいいなって思うんです。

それぞれ集中すべき時期はあるから、仕事にかける比率はそのときどきで違うけれども、右か左かではなくて、その間のグラデーションのなかから選んでもいいのではないでしょうか

――(編集部)こうでなければいけない、と決めてしまうのは、案外自分自身なのかもしれないです。

青木さん

ロリータも同じで、「かわいいけれどわたしにはできない」という方もいます。だけど、何もロリータになると決めたら、365日ロリータでいなければいけないわけではないんですよ。

私はロリータモデルという仕事だから365日着られるだけで、社会で暮らしていくには守るべきTPOがあります。好きなら土日だけ、年に数回楽しむ、でもいいんです。

実際に、そういうロリータさんもとっても多いです。

青木さん

お仕事も、ファッションも、もし好きだと思えるものがあるなら、その気持ちに正直になっていいのではないでしょうか。

そして、その決断を信じて、誰かの目を気にせず自分の好きを貫いて生きていける世の中になったらいいなと願っています。

〈取材・文=飯室 佐世子/撮影=山本真央〉

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