ビジネスパーソンインタビュー
「日本が世界に勝てるものを見つけた」植物工場で世界の名だたる企業から200億の資金調達を達成したOishii Farm 古賀大貴が使命を見つけられたワケ

20年かけてたどり着いた“はたらくWell-being”

「日本が世界に勝てるものを見つけた」植物工場で世界の名だたる企業から200億の資金調達を達成したOishii Farm 古賀大貴が使命を見つけられたワケ

新R25編集部

連載

「“はたらくWell-being”を考えよう」

Sponsored by パーソルホールディングス株式会社

2024/05/10

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リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。

現場ではたらくビジネスパーソンの中には、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。

そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。

「はたらくWell-being」とは、はたらくことを通してその人自身が感じる幸せや満足感のこと。それを測るための3つの質問があります。

①あなたは、日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか?

②自分の仕事は、人々の生活をよりよくすることにつながっていると思いますか?

③自分の仕事や働き方は、多くの選択肢の中から、あなたが選べる状態ですか?

3つの質問すべてに「YES」と答えられる人は「はたらくWell-being」が高いと言えます。「“はたらくWell-being”を考えよう」では、日々、充実感を持ってはたらく方々へのインタビューを通して、幸せにはたらくためのヒントを探します。

今回紹介するのは、アメリカでいちごの植物工場を運営するOishii Farmの古賀大貴さんです。

最先端技術を搭載した植物工場をニューヨーク近郊に建て、日本の高品質いちごの安定生産に成功。1パッケージ6粒で50ドル(現在のレート150円で7,500円)のプレミアムラインで発売開始し、ニューヨークの三つ星レストランに選ばれたことをきっかけにOishiiブランドを確立。現在は価格を1/5に下げ、大手高級スーパー「ホールフーズ」などで販売しています。

2024年米国大手メディア、ファスト・カンパニーが選ぶ「もっともイノベーティブな企業」の1つに選出されたほか、2024年4月にはTED(Technology Entertainment Design)にも登壇するなど、今アメリカで注目を集めるスタートアップ企業の創業者です。

2024年2月、日本の名だたる大企業も投資先に名を連ねる200億の資金調達を発表したOishii Farmは、まさに日本発の世界産業を築く道をまっしぐら。

なぜ、日本の農業で世界に誇るビジネスチャンスを見つけたのか? 幼いころから探し求めた使命感の見つけ方を聞きました。

1986年東京生まれ。少年時代を欧米で過ごし、中学生で帰国。2009年に慶應義塾大学を卒業。コンサルティングファームを経て、UC バークレーでMBA を取得。在学中の2016年に「Oishii Farm」を設立し、日本人として初めて、同大学最大のアクセラレーターであるLAUNCHで優勝。2017年から米ニューヨーク近郊に植物工場を構え、日本品種の高品質ないちご、トマトを展開する。日本発の技術を基盤に、農業の課題解決に挑戦している

成功の尺度を「お金」で図ったら、人生がもったいないかもしれない

飯室

まず、Oishii Farmの事業について教えてください!

古賀さん

はい。Oishii Farmはニューヨークでいちごとトマトの植物工場を運営しているスタートアップ企業です。

植物工場というのは完全室内で農作物を育てられる施設のこと。

太陽光を一切使わずにLEDを使ったり、空調によって環境をコントロールしたりすることで、自然環境に左右されず安定して農作物を育てられます。

古賀さん

実は植物工場に関して、日本は1970年代から研究を重ねており、その技術力は世界でもトップレベルなんです。

植物工場をアメリカに建て、日本のいちごを、日本の気候を再現した環境でつくって販売しています。

飯室

なぜ、アメリカでOishii Farmのいちごが話題になったのですか?

古賀さん

アメリカのいちごは酸味の強いものが多く、僕らが持つ「甘い」イメージをアメリカ人は持っていないんです。

日本のいちごは世界一美味しいと言われているほど実は希少なもので、アメリカ人にとっては「こんなに甘いいちごは食べたことない」と衝撃を受けるほど。

今までは日本のいちごは日本の気候のなかでしか育たないと言われていたので、アメリカでの販売は難しかったのですが、現地に植物工場を建てることによって日本と同じ気候を再現できるようになり、安定した供給ができるようになりました

飯室

慶應義塾大学を卒業、コンサルティングファーム、UC バークレーでMBAを取得。そして、アメリカで注目されるスタートアップ起業のCEO…

ご経歴がキラキラすぎて恐縮しているのですが、やはり新卒のころから「いつか起業して、世界に大きなインパクトを与えるぞ!」みたいな気持ちを持って、はたらいてこられたのですか?

古賀さん

中学生のころから漠然と「日本人に生まれたからには、日本のもので世界をアッと言わせたい!」という気持ちはありました。

でも28歳で農業に巡り合うまでは、「何でアッと言わせるのか?」の答えが見つからなくて、自分の強みや日本の勝ち筋を探し続けていましたね。

飯室

今のご活躍を見て、「日本の農業技術を世界に認められるビジネスにした、特別な人だ」みたいな印象を、持ってしまっていました...!

古賀さん

そんなことはないです。そもそも、僕にとってこれまでの人生は思い通りにならないことがほとんど

大学進学も大学生活でのゼミの選択も、MBAの受験のときも…何かを選択するときにはことごとく第一志望が通らない人生だなと思っていました(笑)。

飯室

そもそも、中学生ですでに「日本人として」は、かなり大きな野望を掲げられた印象を受けますが、それはなぜですか?

古賀さん

幼少期のころ、両親の仕事の関係で海外に住んでいたのですが、通っていたインターナショナルスクールには50カ国以上から生徒が来ていましたが、日本を知らない友達はいなかったんですよね。

アニメをはじめ、電化製品や自動車製品など、彼らの生活のなかに日本のコンテンツや技術が浸透していて、「日本」そのものに良い印象を持っていてくれていた。

幼いながらに、自分が日本人であることに誇りを持てました。

飯室

そして、中学生になるタイミングで帰国されたんですよね。

古賀さん

ところが、帰国してみると僕らの世代はいわゆる「失われた20年」の真っ只中。「昔の日本はすごかった」という言葉を大人たちから聞き続けて、今の日本は良くないと言われているかのような。

世界から見た日本は誇れるものがたくさんあったのに、いざ日本に住んでみると自分たちがその誇りを感じられていない。そのギャップにもどかしさを感じるようになって、だから中学生のときに「いつか、日本のもので世界を驚かせてやるぞ!」と思うようになったんです。

双方を知っていたら、確かにもどかしい...

古賀さん

「日本人として何かやりたい」と強い思いを抱いたまま成長し、大学時代にスタンフォード大学に短期留学するものの、そもそもパッションも思考の深さも世界のレベルは高すぎて、自分との差を感じるばかりでした。

この人たちと互角に肩を並べられる自分にならなければ、世界に出なければ」と、焦りだけが募りましたね。

飯室

そんななかで、就職活動は日本で?

古賀さん

そうなんです。大きな目標はあっても具体的にやりたいことが明確ではなかったので、まずは日本で社会人としての基礎を身につけてからMBA留学に行こうという計画だけを立てて、就職活動に臨みました。

飯室

なんというか、未来を描く力がすごいですね。

古賀さん

いえ、そんなこともないんです(笑)。当時は何も持っていないのに、夢ばかり大きい状態。

大学時代はいわゆる「意識高い系」で、周りのみんなが憧れるものに憧れましたし、就職活動では肩書きや給料の高さも会社を受けるうえでの大きな指針になりました。

その結果、みんなと同じように商社・証券会社・コンサルを受けまくりましたよ。

飯室

そのなかで、新卒ではコンサルティング業界に進まれていますね。

古賀さん

コンサルティング業界に入ったのは、日本のさまざまな産業に携われるという理由も大きかったんです。

やっぱり、「何か」を見つけたいという気持ちはあったので、「自分がパッションを持って取り組める事業は何か?」を探そうと思いました。

飯室

就職してからも、探し続けられる環境を選んだんですね。コンサルティング時代は、花形である製薬チームに所属し活躍されていたと拝見しました。

その後28歳でMBA留学に行かれていますが、「このままコンサルで頂点を目指そう!」みたいな選択肢はなかったんですか?

古賀さん

社会に出てみて初めて、僕の場合は肩書きやお給料の多さが、自らを満たすことにはつながらないと気がついたんです。

(せっかく手に入れたのに!?)

飯室

と言うと?

古賀さん

もともと、いろんな産業を見たいという気持ちで入社しているので昇格には興味が薄かったですし、同僚や先輩たちが「給料が増えたらあの車を買いたい」 「憧れの時計を買った」と喜んで話しているのを見て、自分にはそういう欲求が生まれないなと気がついて。

どんどん稼いでお金を増やしていくことは、仕事へのモチベーションにならなかったんですね。

飯室

(価値観は本当に多様だ...)

古賀さん

「60歳の自分が仕事人生を振り返ったときに、満足するのか」と考えたときに、しなそうだな、と。

そうすると、やっぱり自分が思い切りパッションを傾けられるものを見つけないと、人生がもったいないと思えてしまったんです。

やりたいことは足を運んで見つけた

飯室

はたらいて得られるものはお金以外にもいろいろありますが、自分にとってどれがモチベーションの源泉となるのかを知っておくのは、はたらく環境を選ぶ上でも大切なんですね。

そこから、どう今のお仕事にたどりついたんですか?

古賀さん

コンサルでの仕事を通じてさまざまな業界を知れたので、興味を持った業界のことは業務外でも自分なりに調べたり、その道の人に会ったりしてみて、新たなビジネスチャンスはあるか? 自分が使命感を持って関われるものか?を調べました。

20業種ほど調べて、数百のビジネスアイディアを考えましたが、ほとんどボツにしてきたと思います。

飯室

そんなに!

古賀さん

最初は農業も、数ある候補のひとつでしかなかったんです。

所属していた会社は当初農業に関わるチームがなかったので、夜間と週末に農業の学校に通い、本当に自分が農業に興味を持てるかを調べました

農業を学んだことで面白さを知り、「これだ!」と見いだせたんですよね。

飯室

自分が興味が持てるかどうかを知るために、学校にまで通ったんですか!

古賀さん

そうです。本当にそれくらい、そのときの自分にはこれといったものが何もなかったんです(笑)。

でも、学校に通ったおかげで、日本の農業は世界的に見ても品質などで差別化されている産業であることがわかりました。

古賀さん

これまでの農業は、大量生産・低価格化のための効率化が求められていました。

しかし、後継者不足や環境の変化など、あらゆる面でこのままの農業の形では続けられなくなることに社会が気づき始め、農業そのものにもサステナビリティという新しい軸が生まれました。

そもそも農業は、なかったら不便になるとかじゃなくて、人間が生きていくなかで絶対になくならない産業じゃないですか。

とすると、これからの農業には激変が求められているのだと気がつき、ワクワクしたことを覚えています。

飯室

数百のビジネスアイディアを経ての、ワクワク!

古賀さん

日本の先端技術を活用して世界市場で勝負する。幼いころに抱いた目標が、やっぱり僕にとってのはたらくモチベーションになりました。

その後、社内で農業チームが立ち上がることになり、率先して異動を申し出ました。

そこで最初に行ったプロジェクトが、大企業が手がける「植物工場」でした。

飯室

なるほど、コンサル時代に植物工場に携わられていたんですね!

古賀さん

日本の植物工場の技術は当時も世界で商用化されてはいて、事業として取り組む企業も多数あったんです。

ただ当時はレタスしか栽培技術がなく、レタスでは味や値段の差別化ができにくいことから、植物工場への資金を投じても利益が出にくいという印象が強かったんですね。

飯室

高い技術があっても、ビジネスとしては確立していなかったんですね。

古賀さん

日本における植物工場の課題を感じながら、MBA留学のタイミングが来て渡米することになりました。

ちょうどその時期に、世界的に異常気象や干ばつが起こるなど、農業を取り巻く環境が急変し始めて...

安定して農業を続けられる植物工場が、急激に世界から求められるようになったんですよね。

「日本が勝つべくして勝てる産業は植物工場だ!と、すべてがつながった気がしました」

飯室

ついに! なにがすごいって、パッションを注げるものを「探し続ける力」!

古賀さん

これまでのインタビューでは格好つけちゃってたので、「まっすぐ農業にたどり着いた」みたいな話し方をしちゃっていたのですが...

てへ

古賀さん

今の場所から過去を振り返っていけばすべてが一本の道になっているだけで、それ以外にも無数の点がありました。

飯室

自分の使命を決めてから動くのではなく、使命を見つけるために興味がありそうだと感じたらまず動く。深く知ることから始めて、ようやくたどり着いたんですね。

心が動いてしまったら、面倒くさくてもまず行動を起こす

飯室

選ぶために、まずは知ることが必要というのはわかるのですが、具体的にはどうしたらいいですか?

古賀さん

そうですよね、もし今これを読んでいる方が、たとえば3つくらい漠然とでも何かに興味があるとしたら、そのなかからどれか1つに絞ることに時間を割くのではなくて、3つすべて、どうやったら深く知れるかを調べて行動するのがいいと思います。

飯室

3つ、すべて。

古賀さん

それらに関する本を読むのか、詳しい人に会いに行くのか、勉強できる場があるならそこに行くのか。

明日にでも来週にでもすぐに足を踏み入れるのがいいと思います。

飯室

まず足を踏み入れるんですね。

古賀さん

「この業界がいいかな」と考えるよりもまず、打席に立つこと。正直、嗅覚とかないです。

「これだ!」なんて最初は絶対にわからない。ちょっと面白そうだなと自分の興味関心が動いたら面倒くさくても関わりに行く、をひたすらやっていく。

悶々としていても何も生まれないです。

(ごもっとも。やっぱり自分で動かなきゃダメなのか)

飯室

迷ったら、面倒だなと感じる方へ。

古賀さん

僕はMBAでバークレーにいた2年間のなかで起業しているのですが、多くの人がネットワーキングを目的とするMBAにおいて、パーティーには片手で数えられるぐらいしか行っていないんです。

なんせ、始業式にも出ていないくらいで。確か始業式で名前を呼ばれたらしいのですが...

飯室

名前を呼ばれたのに、始業式に出ていなかったんですか(笑)!?

古賀さん

なぜなら同日、バークレーの学生であれば無料で行けるカンファレンスがサンフランシスコで開かれていたんです。

一般参加には10万円かかるカンファレンスでしたが、「学生ボランティアで行くと、無料で参加することができる」と知って、迷わずそっちに行きました。

ちなみに、そこでOishii Farmの最初の投資家と出会っています。こういう小さな決断の連続で今があるんです。

飯室

もしも、あのとき「始業式に出るか」と決断していたら、今とは違う形になっていたかもしれないんですね。

古賀さん

もちろん、もっと良くなった可能性もあるし、今の会社がなかった可能性もあります。

それくらい、未来は不確定なんです。だからこそ、踏み出せる一歩は踏み出す決断をする

おそらく、多くの人はちょっと「いいな」と思っても面倒くさいから行かない、またはみんなが行くから始業式に行くんですよね。

僕が唯一誇れるものがあるとしたら、面倒くさいけどやろうという胆力だけだと思います。

飯室

胆力。

古賀さん

これはもう、優秀か優秀じゃないか、嗅覚があるかないかではなく、どれだけそっちに労力を割けるか? 目の前にちょっとでもチャンスがあるかもしれないと思ったら、成功の確立などを打算的に考えないで全力投球していく力だと思います

飯室

打算的に考えない、これがめちゃくちゃ大事ですね。今の古賀さんにとっての使命感は、何ですか?

古賀さん

「サステナブルに農作物を育てていく」という、農業において人類が抱える問題を、日本の技術で救っていく

そこに使命感を感じています。

幼いころから漠然と思っていた「日本の技術を世界に誇れるものにする」という願いに、長くそれが何かがわからなかったけど、ようやく見つけた気がしました

「日本発」は、まだまだ可能性しかない

飯室

今の古賀さんにとって、日本の農業はどう見えていますか?

古賀さん

日本で農業と聞くと斜陽産業といったイメージがあると思いますが、海外から見た日本ブランドへの信頼はやはり高く、海外の人が日本の作物を受け入れる準備は少しずつ整っていると感じます。

これは単に、戦後50年かけて先人たちが「日本」という圧倒的なブランドを築き上げてきてくれたことを、僕らは享受しているから。

国への信頼も、農作物の美味しさも、日本の技術のレベルの高さも、世界トップレベルであると誇っていいはずです。

あとは、世界に輸出しやすい環境さえ整っていけば、アウトバウンドできる大きなチャンスはまだまだあると感じます。

飯室

農業についての印象が、かなり変わりました。

まだ自分にこれと言ったものを見つけられていない方にも、とても勇気が出るお話だと思います。この記事を読んでいる方々に、メッセージをお願いします。

古賀さん

何よりまず、「日本は捨てたものじゃないよ」と伝えたいです。僕自身、成功したとはまだまだ言えませんが、Oishii Farmがアメリカにおいて植物工場という分野でリードしているスタートアップであることは間違いないです。

僕らは農業や植物工場の領域だったけれど、観光やコンテンツなど、日本の技術が世界の需要を満たす領域はまだまだあるはず。それが何かを見極めて、世界に進出できる会社が増えたらうれしいなと思っています。

格好良く言うなら、人類が抱えている問題を、日本の技術を使って、誰もできなかった形で解決する、みたいなね。

個人的には、20世紀は自動車や製造業が日本を代表していたけれど、「農業といえば日本」と呼ばれる21世紀になったらいいなと願っています

<取材・執筆=飯室 佐世子 / 撮影=曽川 拓哉>

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