安くて早いのウラには、緻密な戦略がありました。

“安かろう悪かろう”じゃない。QBハウスが「安くて早い」を実現できる秘密

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低価格志向が広まり、なんでも安く手に入るのが当たり前の世の中になってきた。でも、何気なく手に取るその商品のウラ側には、“安かろう悪かろう”ではない知られざる企業努力があるのだ。
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※記事公開後の2019年2月より、通常価格が税込1200円へ値上げされると発表されました。記事内の情報は2017年11月時点のものです。

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駅の改札内や繁華街で【ヘアカット10分1000円】の青い看板を見かけたことはないだろうか。その正体は国内カット専門店としてトップシェアを誇る「QBハウス」だ。
QBハウスの売りは、1080円という安さ10分でカットを済ませられるという手軽さ。2017年11月1日現在、国内に534の拠点を持ち、120店舗を展開する海外事業も好調。日本最大級の顧客満足度調査JCSIの「生活関連サービス部門」においては、「顧客満足度」「知覚価値」「ロイヤルティ」の3部門で1位を獲得した

なぜ低コスト、短時間で客を満足させられているのだろう? 運営会社のキュービーネット株式会社事業推進室の平山貴之さんに話を聞いた。

本当にカットに必要な時間は10分! 「一般美容院の4倍」の回転率を誇る秘密は、独自の散髪器具にあった

「実は、普通の美容院でもカットに要する時間は10〜15分程度。しかし、美容院の施術は平均60分ほどかかります。カット以外の45分は洗髪やマッサージ、そして雑誌を眺めている待ち時間なんです。QBハウスは『本当に必要な10分』だけを追求しています」

一般的な美容院では1日12人前後を施術するのに対し、QBハウスのスタッフは約4倍の40〜50人もの客をさばいてみせる。そのため客単価は低くても問題ないのだ。

この“驚異の時短”が実現できている秘密は、タイムロスを徹底的に省くための独自の散髪器具にある。

なかでも時短に貢献しているのは「エアウォッシャー」という器具だ。 これは散髪後に頭に残った髪を一気に吸い上げて取り除くもので、通常20〜30分はかかるシャンプー&ブローの時間を数十秒へ一気に短縮。水道代とシャンプー代も節約することに成功した。
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必要な道具がすべて揃った「システムユニット」は、美容師が最小限の動きでカットできるよう緻密に設計

洗髪の時間を省く「エアウォッシャー」に加えて、“本当に必要な10分”での施術を可能にするのが、「1席に1台」備えられているシステムユニットだ。カットに必要な道具一式に加え、他店では「1店舗に1つ」がポピュラーな紫外線消毒器、客の上着や荷物を預かるクローゼットまで完備している。

さらには配置も計算づくで、棚と鏡の角度は「139.68度」に統一しているとか。

「スタッフ全員にアンケートをとり、美容師が最小限の動作でカットできる角度を算出しました。手を伸ばしたところにすぐに道具があるため、普通の美容室よりも施術に関する一連の動作時間が短縮されます。現在、システムユニットは5世代目。PDCAを回し、バージョンアップを繰り返しています」
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散髪後の掃除もあっという間。システムユニットの下にホウキで髪を集めてノズルを引くと、爽快に吸い上げてくれる。掃除にかかる数十秒さえ許さない徹底ぶりだ。

骨格を理解した独自のカット理論に加え、具体的なカウンセリングにより最短の工程でカットできる

…しかし、ひとつ疑問が。

雑誌に載っているような複雑そうな髪型をオーダーされても、本当に10分で仕上げられるものなのだろうか?

「大丈夫です。そもそも、一般的な美容室において複雑な髪型を完成させるのに時間がかかるのは、頭全体をブロックで分けて徐々に完成形へと近づけるから。私たちは人間の骨格に基づくカット理論を深めているので、途中経過を細かく確認せずにカットの完成形が見えます

もう少し詳しいところまで聞きたかったのだが、カットの工程は企業秘密とのこと…。
ツーブロックヘアもこの通り!
また、この最短のカットを支えているのは、わずか1分で済ませるカウンセリングにもあるよう。QBハウスでは、「スッキリさせますか?」といった抽象的なイメージを聞く質問はしない

「耳を出す/出さない」、もし出すなら「刈り上げるのか/耳にかかる程度か」さらには「刈りあげるなら何ミリにするか」など、細かいところまで聞くという。最終的な長さ・毛量を徹底的なヒアリングで把握したら、一気にカットしていく。

時短カットならではの出店戦略。鏡を見たあとを狙う、常識外れの“トイレ横”店舗も!

そして、こうした時短戦略はこれまでの常識を覆すような出店場所を実現した。

「今でこそ当たり前の光景になりましたが、QBハウスが初の駅ナカ店をオープンした20年前はかなり異端視されました。しかし、駅はもっとも人が行き交う場所。店舗自体が看板となり、PR効果も高いと見込んでいました」

パイオニアとして市場を開拓するなかで、駅やショッピングモール内でも集客効果の高い“ホットスポット”を見つけてきた。

「たとえば、トイレ付近への出店鏡を見て『髪が伸びてきたからそろそろ切ろうか』と思った直後に、QBハウスが目に飛び込むようにしているわけです。カットに1時間もかかったら無理ですが、私たちは10分で済ませられるので、そんな隙間時間にも入り込める。ちょっと空いた時間に視覚へ飛び込んで来店心理を誘導する『提案型出店』は、私たちの得意とするところですね」
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徹底的にムダをなくしつつ、独自のマーケティングを追求するQBハウス。安さを生かして月に2回のカットでお気に入りの髪型を保つ…なんて使い方はいかがだろう?

〈取材・文=佐藤宇紘 協力=柚木ヒトシ〉