ビジネスパーソンインタビュー
「“本当はビールが飲みたい”に向き合いました」
“うまさの追求”って何したの? 売れまくりな「本麒麟」開発の舞台裏を聞いてきた
新R25編集部
ネーミングからして、社運がかかってそうなオーラが漂うキリンビールの新ジャンル「本麒麟」。事実、2018年3月の発売からわずか3カ月で驚異の出荷本数1億本(※350ml缶換算)を突破したのだとか!
SNSではその美味しさに驚く声が多く見られるけれど、そのウラにはどんなヒミツが? 編集長の渡辺が「本麒麟」の担当者に話を聞いてきました。
お話をうかがったのは、キリンビール マーケティング部の永井勝也さん。「本麒麟」のパッケージに負けない真っ赤なブルゾンのインパクトに気合いを感じる!
店舗で飛ぶように売れていくのを見て、「今までとは違う」とヒットを確信
編集長・渡辺
発売約3カ月で1億本を突破のニュースを拝見しました。
半年で1億本突破を目指していたということなので、想定の2倍のペース。すごい売れ行きですね!
永井さん
はい。今は製造工場を増やして製造を追いつかせるのに必死です。嬉しい悲鳴ではありますが…
編集長・渡辺
発売してすぐに「これはいける!」という手応えはありましたか?
永井さん
そうですね、手応えは感じていました。
私どもは、発売したらまずスーパーなど取り扱い店舗の立ち上げ(商品陳列や販促ツールの設置など)の応援に行くんですけど、そこで陳列したそばから飛ぶように売れていくのを目の当たりにして、「これは今までとは違う」と。
編集長・渡辺
そこまで好調だと、社内のテンションは相当上がったんじゃないですか?
永井さん
今までにない売れ行きに、社内はかなり盛り上がっていました。
ただ、予測の数倍売れたことで、翌週末には製造が追いつかない状況になり、ゆっくり喜んでいられる余裕はなかったです(笑)。
満を持して送り出した「本麒麟」が飛ぶように売れる様子を嬉しそうに語る永井さん
「本当はビールが飲みたい…」消費者の本音に正面から向き合ったプロジェクト
編集長・渡辺
「本麒麟」というネーミングや「うまさ」をストレートに打ち出したCMなど、“ど真ん中”なPRが印象的ですが、やはり今回は社内でも肝入りなプロジェクトとして始まったんでしょうか?
永井さん
はい。ビール類は「ビール」「発泡酒」「新ジャンル(第3のビール)」の3つに分かれていますが、なかでも「新ジャンル」が家庭用の約6割を占めているのが現状です。
ただ、日頃から新ジャンルを飲んでいる方にインタビューして聞いていると、「本当はビールが飲みたいけれど…」という本音が出るんです。経済的な理由から現在は新ジャンルを選んでいる方が非常に多いことがわかってきました。
「我慢せず、おいしいビールを日々気持ちよく飲みたい」。まだ強く満たされてないこの欲求に応えることは、メーカーの使命だと考えました。
編集長・渡辺
なるほど。
永井さん
さらに調査を進めていくと、新ジャンルを選ぶ方の多くは、「コク」や「飲みごたえ」のあるビールらしい本格的なうまさを求めていることが分かりました。
そういう声に応えるには、これまでのように「新ジャンルのなかでどういう商品をつくろうか」ではなく、「カテゴリーを超えた美味しさの追求」が必要でした。
今回のプロジェクトはそこに真正面から向き合おう、キリンの最高品質を目指してつくろう、ということでスタートしたんです。
写真提供:キリンビール
「うまさ」や「コク」の追求って…実際にどんなことしてるの?
編集長・渡辺
しかし、消費者が求める「うまさ」や「コク」というのは、抽象的な概念のように感じます。
それを追求するには、具体的にどういう作業が必要なんでしょうか?
永井さん
ビールらしい「コク」というのは、ひとことで言うと「ビールとしての味わいの濃さ」だと捉えています。
またそれを分解していくと、麦のうまみだけではなく、苦味も欠かせないことに行き着きます。
そして、苦味の効いた質の高い「コク」をより引き立たせるためには、その周辺にある「雑味」を取り除いていく作業が非常に大事になってきます。
編集長・渡辺
なるほど。ちなみに、雑味が残ってしまうとどういう味になるんですか?
永井さん
新ジャンルを飲んだ印象として「美味しいんだけど後味がちょっと…」「いろんな味がする」という声をお客様からいただくことがあります。
これは雑味が残っていることが一因として考えられます。
そのため「本麒麟」では、当社伝統の低温熟成期間を1.5倍に伸ばし丁寧に雑味を取り除くことで、調和のとれた、より質の高い「コク」が感じられるようにつくっています。
編集長・渡辺
かなり手間がかかっているんですね。でも、その分製造コストはかさみますよね?
永井さん
そうですね。新ジャンルはプレミアムビールなどと違い、ボリュームを求められるカテゴリーなので、本来であれば製造期間を短くして効率よく出荷することが必要です。
ですが、「本麒麟」が目指す「苦味の効いたコク」を実現するには長期低温熟成は欠かせない、ということで社内を説得しました。
「長期低温熟成」はパッケージでも大きく打ち出されているアピールポイント
風味を左右する「ホップ」は“投入方法”にもこだわった
編集長・渡辺
製法のほかに、苦味や香りの決め手となる「ホップ」にもこだわったと聞いています。
永井さん
はい。ホップは「キリンラガービール」と同じドイツ産のヘルスブルッカーホップを一部使用しています。
爽やかな香り・上質な苦みが特徴で、喉にグッとくるコクを引き立てるのに最適です。
編集長・渡辺
そこに至るまでに何種類ぐらいのホップを試したんですか?
永井さん
数十種類は試しましたが、最終的にはヘルスブルッカーホップを軸に、複数のホップを使用しています。
さらには種類だけでなく、ホップの組み合わせ・量・投入方法も試行錯誤を繰り返しました。
写真提供:キリンビール
編集長・渡辺
何を目指してそこまで試行錯誤されたんでしょうか?
永井さん
ビールらしい上質な苦味がありながら、強すぎず、飲んだ後には苦さが残らない。そんな味わいを目指しました。
開発の途中で消費者テストをしてみると、食事と合わせてデイリーに楽しみたい方には「苦味が強すぎると飲みにくい」という意見もあったんです。
苦味が効いたコクは大事なんだけれど、後口はすっきりさせる…このバランスを取るのに相当苦労しましたね。
編集長・渡辺
そこまでこだわっているとは…
絶妙なバランスがキモなんですね。
「飲みごたえ」を追求し、アルコール度数は高めの6%に設定
編集長・渡辺
ほかにもこだわったポイントはありますか?
永井さん
「飲みごたえ」ですね。
いまのトレンドでは、「1缶でどれだけ満足できるか」も重視されていますので。
編集長・渡辺
…?「飲みごたえ」は「コク」とは違う概念なんでしょうか?
コク? 飲みごたえ? …ニュアンスの違いに混乱する渡辺
永井さん
「味のボリューム」と言ったほうが分かりやすいかもしれません。
「コク」は「味わいの濃さ」の話、「飲みごたえ」は「味のボリューム」の話で、飲んだ後の満足感につながります。
アルコール感を高めることで「飲みごたえ」につながり、結果「1缶でも満足できる」となるわけです。
編集長・渡辺
なるほど!「本麒麟」のアルコール度数は6%ということですが…
永井さん
通常のビール類は5%くらいのものが多いですが、今回は議論の末、飲みごたえを重視して6%に設定しました。
編集長・渡辺
たしかに、アルコール度数が高いと満足度は高くなりますね。
とはいえ、高すぎるとゴクゴク気持ちよく飲めなくなるし、ここも絶妙なバランスが重要なんですね…
永井さん
はい。最後まで悩んだポイントでしたが、発売後に飲んだ方から「今までにない満足度がある」と評価いただけて、6%にして良かったと思っています。
編集長・渡辺
そういったこだわりが、確実に実を結んでいますよね。
SNSでは、いい意味で完全に「ビール」だと思っているような投稿も多数見かけました。
永井さん
私たちはカテゴリーを超えた美味しさを目指して開発してきたので、嬉しい限りです。
味だけじゃない。“赤”のパッケージとネーミングにも込められたキリンのこだわり
キリンのコーポレートカラーを採用した真っ赤なパッケージ。商品名同様、これぞキリン!と言わんばかりの堂々とした佇まい
編集長・渡辺
3ヶ月で1億本突破した要因としては、パッケージへのこだわりもありそうですね。
国産のビール類で「赤」のキーカラーは珍しい気がします。
永井さん
今回は、今までにない本格的な美味しさを期待させるパッケージにしたいと考え、デザインでは「新しさ」に加えて「キリンらしさ」を大事にしました。
そこで、キリンデザインの特徴であるシンプルさ・正統感・品質感を踏襲し、キリンのコーポレートカラー“赤”をキーカラーとして採用しました。
赤は瓶ビールのラベルなどでも使用してきたキリン伝統の色でありながら、真新しさを感じさせます。これはブランドの資産にもなると考えました。
永井さん
さらには赤の色味にもこだわり、さらにグラデーションをかけることで品質の良さを感じさせる“深紅”に仕上げています。
カラーリングでも「味の深み、上質なコク」を表現したかったんです。
編集長・渡辺
まさに、味とリンクして重厚感と上質感のあるパッケージですね。
永井さん
赤をキーカラーにしているビール類は定番ブランドでは少ないためブランドの目印にもなりますし、進出色(ほかの色と対比すると近くにあるように見える色度、明度の高い暖色系のこと)なので店頭でも目立ちます。
お客様にも見つけていただきやすく、マーケティング的にも有効なんです。
編集長・渡辺
「本麒麟」というネーミングにも、新ジャンルを飛び越えてキリンを代表しているような風格がありますね。
永井さん
新ジャンルに対して、「(ビールと比べて)どこか手を抜いたりしてるんじゃないか?」と思っている方も正直いらっしゃるんですよ。
我々はそのイメージを打破して、「デイリーに飲んでほしい本麒麟だからこそ、妥協せずこだわってつくっているんだ」という姿勢をダイレクトに伝えたかった。
編集長・渡辺
それは伝わってきます。本気の麒麟=「本麒麟」ということですかね?
永井さん
それもありますが、私たちが「本」という言葉を選んだのは物事の「根幹・原点」という意味があるからで、キリンの“ビールづくり”の根幹・こだわりを詰め込んだ商品という想いを込めて「本麒麟」としました。
“キリン”の字にも、キリンの伝統である漢字の「麒麟」を採用することで、より企業姿勢やこだわりを伝えたいと思いました。
編集長・渡辺
なるほど!
SNSで大反響。CMにYOSHIKIを起用した理由とは?
編集長・渡辺
CMもかなり力を入れていますよね。
「ここまでうまいと時代が変わる。」というストレートなキャッチコピーもインパクトがありますが、X JAPANのYOSHIKIさんの起用も意外でした。
これにはどういう狙いがあったのでしょう?
永井さん
本物・本質がわかる方に「本麒麟」を飲んでもらいたいと思ったとき、年始のテレビ番組で、本物を見抜く“一流”として話題になったYOSHIKIさんが浮かびました。
それで今年の3月にブランドアンバサダーに就任いただいたのですが、ご本人がそれをSNSで発表した際にすごい反響がありました。
それに加え、ファンの方々からも要望を多数いただいたこともあって、「これはぜひCMへの出演をお願いしよう」ということになりました。
永井さん
ちなみに、YOSHIKIさんのCMで「YOSHIKIRIN」と言う造語が出てくるんですが、これはファンのみなさんが考えてSNSで広がった言葉なんです。
それで「YOSHIKIRINキャンペーン」も実現させてもらいました。
編集長・渡辺
SNSの話題をいち早くCMに活かすスピード感も、盛り上がりを加速させそうですね。
ちなみに、味に対するYOSHIKIさんのリアルな評価はどうでしたか?
永井さん
開発の背景など詳細を伝えなくても、一口飲まれただけで「パッケージはシンプルな佇まいながら、味わいは洗練されていて、その奥に相当な企業努力を感じる」と言っていただけました。
さらには、その味をYOSHIKIさんらしく「革命的な味わい」や「創造的破壊」という言葉で魅力的に表現いただき、YOSHIKIさんには本当に感謝しています。
編集長・渡辺
ウソをつかないイメージのYOSHIKIさんの太鼓判は説得力がありますね。
…いろいろお話を聞いていたら、つい飲みたくなってきてしまいました。最後に、僕も一杯いただいていいですか?
永井さん
もちろんです、どうぞ!
編集長・渡辺
では、いただきます!
「まさに“革命的な味わい”。これぞ“創造的破壊”だ」YOSHIKIさんをオマージュするも、どうしても薄っぺらくなってしまう渡辺
今回の取材では、新ジャンル市場で消費者が求める真のニーズに真正面から向き合うキリンの気概がひしひしと伝わってきました。
お店で真紅の「本麒麟」が目に飛び込んできたら、ぜひ手に取って同社が追求した“カテゴリーを超えたうまさ”を味わってみよう!
〈取材・文=新R25編集部/撮影=冨永智子〉
コスパの流儀
“うまさの追求”って何したの? 売れまくりな「本麒麟」開発の舞台裏を聞いてきた
新R25編集部
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