「ヨットは無風じゃ動かない」
誹謗中傷の嵐にも「それが何か?」アパホテル社長が語る“不幸にならない人”のルール
新R25編集部
記事提供:Woman type
うまくいかないことが続くと、気づけば「私なんて…」とクヨクヨしてしまいがち。世の中には仕事もプライベートでも輝く“キラキラ女子”がいっぱいいるようだけど、とても自分はあんなふうにはなれない…。そう卑屈になってしまうときがある。
でも、この人の話を聞いていたら、何だかクヨクヨしてばかりの自分がとてもバカらしく思えてくる。
アパホテル社長・元谷芙美子さん。お馴染みの同社広告でよく見るトレードマークの帽子を頭に乗せて元気いっぱいに話す姿は、とてもキラキラしている。
【元谷 芙美子(もとや・ふみこ)】福井県出身。高校卒業後、福井信用金庫に入社。営業として活躍した後、元谷外志雄氏と知り合い、結婚。71年、夫が起業した信金開発株式会社(現:アパ株式会社)に入社。94年、アパホテル株式会社取締役社長に就任。自ら広告塔となってメディアに登場し、アパホテルの認知度向上に貢献。以降、順調に成長を続け、2018年2月現在、アパホテルネットワークの部屋数は74,000室を超える。著書に『強運 ピンチをチャンスに変える実践法』(SBクリエイティブ)などがある
これまで女性社長としてさまざまな逆境に直面してきたはずの元谷さん。だけど、そんな苦労はどこ吹く風。「毎日幸せで怖いくらいよ!」と満面の笑みを浮かべる。
収益率世界一を誇るアパホテルを牽引する彼女の姿に、毎日が今よりもっと楽しくなる無敵の“ポジティブマインド”を見た。
私には、「破れた夢」も「逆境」も全くない
私ね、今までの人生で挫折したとか大変だったなんて思ったこと、一度もないんです。もちろん、過去にはいろいろな経験をしてきましたよ。
例えば高校3年生のとき。福井の進学校に通っていた私は、卒業したら東京の大学に行って、学校の先生になるのが夢でした。でも、印刷工場の工場長をしていた父が体を悪くして、私は地元の信用金庫に就職することに。
人から見れば、これは挫折と言えるのかもしれません。けれど、私は自分が置かれた状況を「まぁそれもいいじゃない」と割り切って楽しむことにしました。
大学には行ってみたかったけれど、きっとこちらの道に行けばもっと明るい未来が待っているんだって、前向きに気持ちを切り替えて。そしたら人間万事塞翁が馬(にんげんばんじさいおうがうま)ね。
一見すると不幸なできことが、幸せへとつながっているということは往々にしてあるもの。その後、就職した先で今の主人と出会って、何の間違いかお嫁にもらってくれて(笑)、こうして今に繋がる人生を歩むことになりました。
そして今、愛すべき家族に、社員に、大勢の素敵な人たちに囲まれて胸を張って「幸せだ」と言える毎日を送っている。
だからまず皆さんにお伝えしたいことは、人生いろんなことが起こるけど、決して逆境と考えるべきじゃないということ。必ずその先の未来に希望が待っている。まずはそう信じてみると道が開けていくと思います。
ひどい誹謗中傷だって気にしない。だって、私に会えばあなたもきっと私が好きになる
だいたい人生なんてものは、いつも予想外のことが起きるもの。私だって自分が社長になるなんて考えてもいなかった。
でも、アパホテルが開業して10年という節目のタイミングで主人から社長を任されて。そのとき私はグループ社員一同の前でこう宣言しました。「私はホテル業界のジャンヌ・ダルクになります!」って。
そのときのアパホテルはまだ全国展開する前の北陸にある小さなホテル会社で、経営はいつも赤字スレスレ。だから、私のこの発言を聞いた皆は「何を言ってるんだ、この人は…?」っていうぽかんとした顔をしてた(笑)。拍手なんて一切なし。会場はシーンと静まり返っていたのを覚えています。
でも、私は必ずできると信じて疑わなかった。そのために取った戦略は、私が広告塔になること。当時、海外では経営者が自分の顔を新聞などに大きく出し、会社のことを語るのは当たり前でした。
けれど、日本のトップは皆サラリーマン社長で有名な大企業であっても社長の「顔」が見えてこない。消費者にとっては誰が社長で、誰が責任を持っている人かなんて全然分からないんですよ。それは今もほとんど変わっていない。
でも、私はもっと透明性の高い経営がしたいと思って、自分が顔を出して広告に出ることを選びました。
それも、ただ出ただけじゃ面白くない。せっかくの女性社長ですから、華やかさと聡明さがあった方がいいと思ったんです。けれど、自分の容姿に正直自信はない(笑)。
だから、知性や品性をプラスしようと思って、今みたいに大好きなお帽子をかぶって広告に出ることにしたんです。
日経新聞の一面に「私が社長です」ってドーンと出てね。そうしたらもう、誹謗中傷の嵐が始まりました。「公共の福祉に反する!」なんて書かれた手紙ももらいましたよ(笑)。
私は手元に届いた手紙に全部目を通し、こうお返事をしました。「ご意見ありがとうございます。よろしければぜひ私に会いに来てください。そうしたら、きっと好きになっていただけると思います」って、宿泊券を添えてね(笑)。
私からすれば、こんなの大チャンスですよ。人によっては、知らない人からあれこれ容姿を叩かれたりしたら心が折れてしまうかもしれません。でも、私は最初から「素敵な社長さんだ」なんて称賛してもらえるとは思っていなかった。
広告塔なんだから、見てもらって話題になったら大成功。クレームだって反響の一つです。むしろ何も言われないのが一番ダメでしょう? そう腹をくくっていました。
だからね、私、自分が美人じゃなくて良かったって思ってるの。だって、きっと私が美人社長だったら、誰もこんなに覚えてはくれなかったでしょうから(笑)。
覚えておいてください。ヨットは無風じゃ動かない。逆風でもいいから風が吹けば、ジグザグしながらも前に進める。人生は、アゲインストの風が吹いてもいいの。追い風でも逆風でもいいから、上手く操舵していけばいいんです。
大丈夫。大丈夫。あなたは絶対に大丈夫よ!!
私の人生最大のアゲインストと言えば、2007年1月に起きた耐震強度不足のニュースを思い出す人も多いと思います。
アパグループが所有する京都市内の2棟のホテルが耐震強度の基準値を満たしていない、ということでメディアでも騒ぎになりました。しかも当初は偽装と報じられ、お客さまからの信頼も揺らぐ事態に。
だけど、私たちは決して悪いことは何もしていないということだけは神に誓って言えました。だからこそ、ご予約くださったお客さまにお詫びの会見を開き、問題を指摘された建築士が携わったホテルは全てすみやかに休業し、検証に入ったのです。
けれど、世間の動揺は大きく、銀行からは借入金を返済してほしいと言われました。その額は、ざっと300億円。
こうお話しすると、絶体絶命の大ピンチと思われるかもしれませんね。でも、これもその逆です。翌年、リーマンショックが起こり、不動産の価値が大暴落。借入金を返済するために、所有していた土地をちょうど全部売り払ったところだったので、私たちはその損害を免れたどころか、分譲するマンションのプロジェクト資金まですべて返し終えたので、後からマンションの販売代金が入ってきて、手元に潤沢な資金が残りました。
土地が値下がりした今こそ仕入れのチャンス。そこで、皇居を取り巻く都心3区をはじめ東京都心部で土地を70カ所ほど購入し、次々とホテルを建設していきました。結果的に、あの07年の大ピンチが、今のアパグループの大躍進をもたらしたのです。
だからこう考えると、やっぱりピンチではなかったのね。むしろ私たちにとっては、とてもラッキーにつながった。人生はいつもそう。悪いことさえしなければ、必ずいつか良いことが起きる。
挫けそうになったとき、勇気が出るおまじないの言葉は、「絶対大丈夫」。私はいつも「大丈夫、大丈夫、絶対大丈夫!」って口癖のように言っています。「命まではとられん!」って腹を決めていれば、何だって平気です。
自分を信じる気持ちは税金ゼロ!「運」は自分で勝ち取っていく
こんなお話しばかりしていると、私のことをとんでもないプラス思考の人間だって思うでしょうね。ええ、その通りです(笑)。だってプラス思考って大事ですよ。なんたってパワーが湧きますから。
私は美人じゃないし、すごく賢いってわけでもない。でも、パワーは唯一の取り柄です。コンビニのご飯だっていいから何か食べて自分がエンジンさえかければいくらでも力は出てくるものなんだから、武器にしないのは損ですよ。
プラス思考の秘訣は、思い込み。 親がお金持ちじゃないとか、東大を出ていないとか、ダメなところばかり数えて生きるより、自分の良いことを数えて生きた方が絶対モチベーションが上がるじゃない。
それに、思い込むことは税金ゼロ。タダですよ。自分は運がいいんだって、信じ込んでみてください。
私がここまでお話してきたことを、「単にいろんなラッキーが重なっただけ」と思う人もいるかもしれませんね。だけど、断言できることは、幸運は待っていても転がってくるものじゃないということ。
運という字は、「しんにょう」に「軍」と書きます。「軍」とは、戦のことです。つまり、「運」は自分で戦って勝ち取るものなんです。
じゃあ誰と戦うのか? 世の中? 周りの人? いいえ、違います。自分自身です。
他人と戦って勝ったって楽しくないでしょう。人と比べてばかりいるそんな小さな自分、早く捨てちゃいなさい。それよりも自分自身に戦って勝ち続ける人生の方がよっぽど楽しい。
自分を信じて、常に自分と戦い続けるんです。他人を信用するのはリスクがあるけど、自分を信じるのは簡単。
だって、自分は自分を見捨てることなんてできないから。幸せに生きる鍵は、いつだって自分の手の中にある。そのことに気づいた瞬間、あなたの人生はきっともっと楽しくなりますよ!
〈取材・文=横川良明 撮影=竹井俊晴〉
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