ビジネスパーソンインタビュー
“人を褒めるテクニック”を心理学者に聞いたら、「そんなものはない」と一刀両断された

人を褒めるのって大事だけど、うまく褒められない…

“人を褒めるテクニック”を心理学者に聞いたら、「そんなものはない」と一刀両断された

新R25編集部

2018/11/26

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最近「褒める」力が試されているような気がしませんか?

企業のなかには「褒め会」と言って時間を設け、お互いに褒めあう時間を設ける取り組みをしているところがあったり、人をうまく褒めるための本が売れていたり、セミナーが開催されたりしています。

人を褒めることがいいことなのはわかります。でも、人を褒めるって結構むずかしくないですか…!?

「ウソ臭い」と思われたり、なんだか恥ずかしくなって言葉を濁してしまったり。

というわけで今回は、「上手に人を褒めるテクニック」を心理学者の内藤誼人先生に聞いてきました。

〈聞き手:いしかわゆき(新R25編集部)〉

【内藤誼人(ないとう・よしひと)】心理学者、立正大学心理学部客員教授。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程修了。ビジネス心理学の第一人者として、実践的な応用法に力を注いでいる。著書に『人たらしのブラック心理術』『人前で緊張しない人はウラでズルいことやっていた』など

褒めテクなんてない。言うか、言わないか

いしかわ

最近「褒め力」の需要が高まっている気がするのですが、人のことをどう褒めたらいいのかイマイチわからなくて…。いい「褒めテク」があれば教えていただきたいです!

内藤先生

え、テクニックなんてないですよ?

取材終了

いしかわ

そ、そんな…!!

内藤先生

褒め方なんてね、ぶっちゃけなんでもいいんです。褒めること自体に意味があるんですから。

いしかわ

褒めることに意味がある…

内藤先生

そう。まず「言うこと」が重要。「言うか、言わないか」の二択しかないんです。

でも、これができる人が意外と少ない。心のなかで「すごいなぁ」と思っていても、言わなきゃ意味がないのに、みんな照れ臭くなって結局言わないんです。

これってすごくもったいない!! だって、褒められてうれしくない人なんていないんですよ。というのも、「褒める」という行為は、言葉で相手の身体をさすっているのと同じなんです。

いしかわ

言葉で身体をさする…?

内藤先生

動物でも、母親が赤ちゃんを撫でたり、猿が毛づくろいをしたりしますよね。あの行為を「グルーミング」といって、相手を気持ちよくさせる行為なんですが、「褒め言葉」は「声で相手を思いやる」ボーカルグルーミングなんです。

だから、「褒め言葉」というと、相手を持ち上げるような言葉を想像しがちですが、「がんばれ」っていう勇気づけの言葉や「お疲れ様」ってねぎらいの言葉もぜんぶ褒め言葉なんですよ。

いしかわ

確かに、優しい言葉をかけられるとうれしい気持ちになりますね。

でも、言葉によって効果が違うとかないんですか? 何かこう、言い方とか…

内藤先生

いや、ぶっちゃけなんでもいいです。

企画をぶち壊してくる内藤先生

内藤先生

セリフや条件をいろいろ変えて、褒められた人の心理状態を調べてみた実験があるんですが、結論、セリフはなんでもいいんです。

いしかわ

極端な話、「すご~い!」みたいな単純なものでもいいんですか…!?

内藤先生

最高ですね!!

逆に、褒めるのが苦手な人がいろいろ考えて褒められなくなるほうが、意味がないですよね。

いしかわ

うっ…肝に銘じます…

褒めるポイントがない人には「期待」をかけろ

いしかわ

とはいえ、残念ながら「褒めるポイントがない人」もいたりするじゃないですか。

そんな人はどうやって褒めればいいんですかね?

内藤先生

ポイントは、「未来のこと」を褒めることですね。

今の状態を無理やり褒めるんじゃなくて、自分自身がその人にどういうふうになってほしいのか、「期待」をこめて褒めるんです。

たとえば、仕事が速くなってほしい人には、「あなたは絶対に仕事が速くなると思う!」と言うふうに、褒めてください。

いしかわ

えぇ、根拠がないじゃないですか…

内藤先生

でも、仕事が速くならない根拠もないじゃないですか。実際、「ピグマリオン効果」といって、言いつづけていたら本当になるという現象があるんです。

「ノロマ!」と言えば本当にノロマになっちゃうし、「仕事が速い!」と言えば本当に仕事が速くなる。

いしかわ

なるほど。でも、いきなり「あなたは仕事が速くなる!」と言われても、言われた本人は「なんで?」と疑問に思っちゃいません?

内藤先生

根拠なんてあってもなくてもかまいません。何を言ったって、相手はそれを信じてくれるんですから。

ウソだろうと思うかもしれませんが、実はバーナム効果という心理用語があって、断定的に「あなたは○○だ!」と言われれば、なんとなく「そうかな?」と思ってしまう傾向にあるんです。

「そうじ好きの人は子育てがうまい」と言われたら、なんとなくそういう気がしてきません?

いしかわ

確かに…よくわからないけど納得しちゃうかも…

内藤先生

でも、そうじと子育てにどういう関係があるのか、根拠なんてなにもないじゃないですか?

自分がそう思ったらそう言えばいいんですよ、「食べるのが速いやつは仕事ができる!」とか、何でもいいんです。

大事なのは、「それっぽく」聞こえることです。

いしかわ

なるほど。

ちなみに、相手のことをある程度わかっている場合はそういう褒め方ができるかもしれませんが、初対面で相手の性格がよくわからない人をいい感じに褒めるにはどうすればいいんですか?

内藤先生

そういうときは、「あなたは優しそうな人ですね」というふんわりとした表現を使うと良いですよ。

「~そう」ってあくまで自分の主観で、別に嘘も本当もないんで。

いしかわ

そんなあいまいな感じでいいのか…

内藤先生

僕、今日はじめてお会いした時から、いしかわさんは話しやすそうな人だな、って思ってたんですよ。

いしかわ

えっ、本当ですか!? うれしい~!!

…あ、本当だ。普通に喜んでしまいました。人間って意外とちょろいな。

人を褒められない人はマインドセットができていない

いしかわ

うーん、でも言葉もなんでもいい、褒め方もなんでもいい、ってなると、結局「人をうまく褒められない」人って何なんですかね。

内藤先生

褒めるときに大事なのって、その人の「マインドセット」なんですよね。

なんでもケチをつける人は人を褒められないですよ。そういう人って人の粗探しばっかりするんで(笑)。

だからまず、不満や愚痴を言わない、そういうマインドセットをするところから始めないとダメなんです。

自分がポジティブじゃないと相手にポジティブな言葉なんてかけられないじゃないですか。失恋で傷心状態の人が人のことなんか褒められますか!?

いしかわ

それは確かに無理だ!!(笑)

…でも、先生は「褒めること」が仕事でもあったりするじゃないですか。

そんなメンタルがやられている状態でも、相手を褒めたい場合はどうすればいいんですか?

内藤先生

僕は「スーパーカリスマ心理学者」というマインドセットができていますから、たとえ夫婦喧嘩直後だろうが、人のことを褒められます。

褒め上手になるということは、俳優になることなんです。

いしかわ

俳優…?

内藤先生

冒頭で人を褒めるときに大切なのはセリフじゃない、と言いましたよね。

じゃあ何が大切かって言ったら、「褒めていること」がちゃんと相手に伝わることなんです。

つまり、どれだけ感情を込めて話せるようになるのか、ということ。

日本人はそもそも、感情を表に出すのがヘタな人が多いんですよ。無表情で声に抑揚がないまま褒めても、意味がないどころかちょっと怖いじゃないですか!

いしかわ

確かに…! セリフはなんでもいいけど、感情をのせることが大事なんですね。

内藤先生

そう。「あなたを褒めています!!」というのを大げさなくらい全面に出すこと。

オーバーにやりすぎると、わざとらしくないか?と悩む人もいるかもしれませんが、オーバーだろうが何だろうが伝わればいいんです。

「褒めるのが苦手」という人は、ちょっと冗談っぽく、あえて大げさにすることで恥ずかしさも軽減されるのでオススメです。

いしかわ

なるほど。それでもめちゃくちゃ感情表現が苦手な人はどうすれば良いですか?

カッ!!

内藤先生

目を大きく見開きましょう。「ウワァ」という時の顔を作るんですね。

サプライズでびっくりするみたいな、そういう場面をイメージして、それを鏡で何回か練習すれば誰でもできるようになります。

人は目を見て話すので、目をちょっと見開くだけでも「驚き」が相手に伝わるんですよ。

いしかわ

驚く表情を作る…って聞けば聞くほど俳優みたいじゃないですか!!

内藤先生

そう、俳優なんですよ!! ただ、俳優だって最初から感情が込められるわけじゃない。たくさん稽古を重ねて、感情を表情や声にのせられるようになっていきますよね。

だから、私たちも同じようにそれが自動的にできるようになるには、とにかく量をこなすしかないんです。

そうすれば、褒め方なんて考えなくても、勝手にうまくなっちゃうんです!

いしかわ

なるほど。褒めているうちに褒め上手になるんだ!!

内藤先生

褒めるのに「嘘」とか「本当」なんてないんですよ。

口をついて出た言葉が、本当に相手に刺さる褒め言葉ですからね。

いしかわ

なんだか「褒める」のハードルがぐんと下がった気がします。ありがとうございました!

「がんばって褒めなきゃ…」と美辞麗句を並べることに必死になっていましたが、実は「褒める」ことにテクニックはなく、とてもシンプルなものでした。

褒めるのが苦手で、つい言葉を探しては飲み込んでしまう人も、まずは「すごい!!」と目を見開いて伝えてみるところから始めてみてください。

どんなに稚拙な言葉だって、「感情を込めて」伝えれば、相手は喜んでくれるはず。

〈取材・文・撮影=いしかわゆき(@milkprincess17)〉

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