ビジネスパーソンインタビュー
異端の起業家の「遊び」論
「『漫画でわかるキングダム』を作るべき」けんすうと考える“遊びはしんどい”の解決法
新R25編集部
「これからは、遊びが仕事になる時代だ」。
『多動力』(堀江貴文著、幻冬舎刊)をはじめ、売れているビジネス書にはこんなことが書かれていることが多い。
しかし同時に、「最近の若者は遊ばない」なんて言われることも…。もしかして、「遊びを仕事にする」は限られた一部の人にしかできない特権なのでしょうか…!?
昨日公開の前編に引き続き、後編では、起業家・けんすうさんに動画やオンラインサロン、漫画など、さまざまな遊びコンテンツを分析していただきました。
〈聞き手=長谷川リョー〉
【けんすう(古川健介)】1981年生まれ。19才で学生コミュニティ「ミルクカフェ」を立ち上げ、大学在学中にネット企業の社長に就任。2006年、リクルートに入社。2009年に退職し、nanapi代表取締役に就任。2018年にはアル株式会社を設立し、2019年1月に漫画情報Webサービス『アル』をリリース
【聞き手:長谷川リョー(はせがわ・りょー)】1990年生まれ。株式会社モメンタム・ホース代表取締役/編集者。新卒でリクルートホールディングスに入社後、2016年に独立。ビジネス・テクノロジー領域を中心に数多くのベンチャー経営者や最先端で活躍する研究者やクリエイターへ取材・執筆を重ねる。『SENSORS』編集長、『FastGrow』CCO。編集協力に『10年後の仕事図鑑』(堀江貴文、落合陽一共著 SBクリエイティブ)、『日本進化論』(落合陽一著 SBクリエイティブ)、『THE TEAM』(麻野耕司著 幻冬舎)など
“最近の若者は遊ばない”と言われるけど…「遊ぶって、じつはしんどいこと」
長谷川
最近の若者が、「あまり遊んでない」と言われることについて、どう思いますか? 「遊び方がわからない」みたいな意見もあるようですが…
けんすうさん
若者は、暇なときは何をしてるんですか?
長谷川
僕のまわりだと「YouTube」や「Netflix」、「Amazonプライム・ビデオ」とかの動画を観てる人が多いですね。
でも不思議なのが、そういう人たちに「暇なときなにしてるの?」と聞くと「なにもしてない」って言うんです。掘り下げていくと「ボーッとYouTube見てた」と答えるんですけど…
けんすうさん
動画を見ることに対する、うしろめたさがあるのかな?
長谷川
「生産的な活動ができてないこと」に、うしろめたさを感じてしまうんじゃないかなと思うんです。
けんすうさん
なるほど。それで言うと、最近「遊ぶことって、じつはしんどい」ということを考えていて。
遊ぶのが、しんどい…? そうなんですか?
けんすうさん
動画コンテンツだと、最近ではAbemaTVが面白いと思ってるんです。
テレビのバラエティでやっているような、ある意味“しょうもない”企画をわざわざ「ネットで放送する」ことにすごく意味があると思ってます。
観てて、「しんどさ」がないんですよ。
長谷川
ひろゆきさんはAbemaTVに対して「内容が地上波テレビのバラエティ番組とバッティングしてるし、いつ見てもいいような企画だから失敗する」と批判的でしたけど…
けんすうさん
そこがいいんですよ! もちろん、良質な映像作品を観るのも楽しいけど、「ちゃんと観なきゃ」っていう「しんどさ」を感じることがあって。
その点、テレビ的な「どうでもいい話題」を提供してくれる番組は安心できるし、ボーッと眺められるのでラク。ボーッと見られる「番組」って今までネット上にはなかったので、革新的だなと思ってます。
長谷川
なるほど…。コンテンツの消費という「遊び」にもしんどさを感じる人が出てくるのかもしれないですね。
けんすうさん
コンテンツを選ぶとき、「しんどさの回避」を基準にする人は、最近増えてるんじゃないかなと思ってます。
たとえば、いま流行っている『キングダム』を読みたい気持ちはあるけど「55巻もあるから読む気がしない」っていう人、いませんか?
長谷川
いますね…!
僕も最近『キングダム』の実写映画を観たんですけど、すごく面白くて。「『キングダム』の感動を2時間で感じられるなら、もう映画でいいじゃん」と思ってました。
けんすうさん
そうそう。今の時代、「55巻読め!」とだけ突きつけるのはあまりユーザーフレンドリーじゃない。
たとえばですけど、短時間で『キングダム』のエッセンスを感じることのできる「漫画でわかるキングダム」みたいなものを作れば、それを入り口に興味を持ってもらえるとは思うんです。
長谷川
「漫画でわかる」シリーズが漫画を解説しはじめる時代になるのか…
けんすうさん
時間の奪い合いが起きている時代なので、「安心できる型」や「エッセンスを抽出して、簡略化した入り口」を作って間口を広げるやり方は、これから増えていくのかなぁと思ってます。
オンラインサロンは、「自分で遊べない人」のためにあるのかもしれない
長谷川
さきほど「生産的ではないことに後ろめたさを感じる人が一定数いる」とお話ししましたが、そういった需要に答えているのがオンラインサロンだと思うんです。
けんすうさん
そうですね。入ってるだけで「生産性のあることをしている」と思えるという。
長谷川
オンラインサロンは「可処分時間の奪い合い」のなかで生まれた特殊なビジネスだなぁと思っているのですが、けんすうさんはどのように感じていますか?
けんすうさん
僕は、オンラインサロンは「野球チームを応援する」みたいな機能があると思ってます。
けんすうさん
ちゃんと野球で遊ぶことはけっこうしんどいじゃないですか。暑いし疲れるし。
そこで、オンラインサロンに入れば、自分自身は何もしなくても主催者を間近で応援することができる。
「野球を自分でプレーはしないけど、観るのは好き」っていう人がたくさんいるじゃないですか。それと同じ感じになると思うんですよね。
長谷川
たしかに…。自分で野球をやるとなると大変だけど、スター選手がプレーしてるのを観るだけなら楽ですもんね。
けんすうさん
そうなんですよ。僕、最近はゲームするのもちょっとしんどくて、あんまりできなくなってるんです。
そういう“遊べない”人が多いからこそ、ゲーム実況動画とか、e-sportsの人気が出てくるだろうなと思うんです。
長谷川
オンラインサロンが人気になるのも、それらと同じ流れなんですね…
けんすうさん
そう、たとえば箕輪厚介さん(幻冬舎のスター編集者)のサロン「箕輪編集室」は、いち編集者だった箕輪さんが、急に歌手になったりする急展開を「近くで見られる」ことがなによりのバリューですよね。
けんすうさん
これからの時代、インフルエンサーや編集者に対しても、「そのプレーを応援して楽しみたい」って人たちがどんどん増えてくると思うんです。
箕輪さんが歌手になったり、前田裕二さん(SHOWROOM代表取締役社長)が書籍を100万部売ろうとしたり…。いろんなプロジェクトを「当事者意識を持って応援できる場所」として、オンラインサロンは機能していくと思っています。
応援されるスタープレイヤーは、「漫画の主人公っぽい」
けんすうさん
最近の箕輪さんはすごいですよね。いろいろ面白そうな景色を見せてくれそうな期待感があります。
僕的には、どこまで計算で「歌手・箕輪★狂介」をやってるのかが気になりますね。
長谷川
計算?
けんすうさん
僕は、編集者としてトップに上り詰めた箕輪さんが、新たな「下積み姿」を見せるためにやってるのが歌手活動だと思ってるんです。それがどこまで計算なのかなと。
編集者としてはもう圧倒的な結果が出てしまったので、成功を積み重ねても、観客としては面白さが減ってるんですよね。逆にいうと、「箕輪さんがセクハラをして落ちぶれる」みたいな楽しみしか残っていないとも言えます。
そういうタイミングで歌手をはじめると、当然0からのスタート。圧倒的な下積みがはじまると、また応援する楽しみが広がるわけですね。
長谷川
成功をおさめた人は、ファンとしてはこれ以上応援する余地がないですもんね。
けんすうさん
人気が出る漫画って、だいたい主人公は最初「下積み」をしてたり、負けてたりするんですけど、どこかで「コイツなら、こんなに負けてる状況から勝てるんじゃないか!?」って思わせる要素が入ってるらしいんです。
長谷川
まさに、今の箕輪さんみたいな。
けんすうさん
彼は今、第1部「編集者編」が終わって、第2部「歌手編」が始まってる状態なんですよ(笑)。
それが単なるアマチュアミュージシャン、というわけではなくて、第1部では一度勝利してるので、第2部でも「きっとコイツはやってくれるんじゃないか?」っていう「勝ち馬感」がすごい。
勝てる可能性が高いので、応援する側の心理的安全性が高いんです。つい応援しちゃいますよね。
「第3部はまた全然別の世界に行って、第4部で『編集者編』に戻ってくる…っていう胸アツ展開がありそうなんですよ」
長谷川
そう思うと、あの絶妙な歌唱力も、ファンを集めている1つの要因なのかもしれないと思うようになってきました…。次回、この連載のゲストが箕輪さんなんですよ(笑)。聞いてきます!
けんすうさんの現在の「遊び」? 「アル」リリースの意図
長谷川
最後に、けんすうさんの「遊び」とも言うべき活動の話も聞かせてください。
けんすうさんは今年の2月に漫画ウェブサービス「アル」をリリースされました。「唯一の趣味」と語る漫画のサービスを立ち上げたのは、なぜなんでしょうか。
けんすうさん
このままだと、漫画が「伝統芸能」になってしまうと思ったんです。
今はファンは多いんですが、子供の人口が減っていっている。
おもに市場が日本だけとなると、ほかにYouTubeやTikTokのような無料のエンタメが多くあるなかで、「昔からあって、大人は好きで、ちょっと高級な趣味だよね」という立ち位置になってしまう可能性があると思いました。
けんすうさん
そんな感じで業界が衰退したら、僕が80歳になったときに面白い作品に出会えなくなっちゃうじゃないですか。
出版社はあくまで「良いコンテンツ」をつくるプロだと思っています。さらに、今あるビジネスモデルは優れているので、ネットにあわせてむやみに無料化したり、モデルを無理に変えるのはあまり意味がないと思っていて。
僕はITの世界で10年以上生きてきて、漫画がめっちゃ好きなので、ITサービスの力を活用して、出版社が今までと同じようによい作品を作っているだけで、ちゃんと収益があがる仕組みを作れればと思っています。
長谷川
業界を変革しなければという使命感もあるんですね…!
けんすうさん
業界自体を変えるというより、「業界が持っている力を、ITの力でサポートしたい」ですね。ディストラプト(破壊)はあまり好きじゃなくて、漫画をより売るための武器を提供する、というイメージです。
でも、やっぱり楽しい部分もありますからね。僕にとっては基本は「遊び」です。
遊びと、業界の利益構造を変えるという仕事が半々ぐらい。ちょうどいい感じなんじゃないですかね(笑)。
というわけで、前後編にわたり、けんすうさんに「遊びと仕事」についてお話をお伺いしました。
正直、ここに書ききれていない幅広いお話が出ていまして、「遊び」というテーマの奥深さを感じております。
新R25ではこれからも、“遊んでる”人たちに、その哲学を聞きにいきます! 次回は本文中にも話題が出た、「箕輪★狂介」さん。
いったいどんな内容になるのか予想もつきませんが…ご期待ください!
〈聞き手=長谷川リョー(@_ryh)/文=半蔵門太郎(@hanzomontaro)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=二條七海(@ryuseicamera)〉
けんすうさんが最近リリースした「アル」をチェック!
アルは「マンガファンの『次に読むマンガが見つからない!』という悩みを解決するために、『みんなでマンガ情報を投稿するサービスを作ろう!』という発想でできたサービス」とのこと。
さっそく参加して遊んでみよう!
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