ビジネスパーソンインタビュー
倒産寸前で「もうしんどい、限界だ」と弱音を吐いたら、逆に業績が回復した

塩田元規著『ハートドリブン』より

倒産寸前で「もうしんどい、限界だ」と弱音を吐いたら、逆に業績が回復した

新R25編集部

2019/10/05

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ビジネスの世界においては「合理的な思考」こそが正とされ、個人的な「感情」は二の次にされることがほとんど。

しかし、『八月のシンデレラナイン』をはじめとしたヒットゲームを次々と世に送り出しているアカツキ社のCEO・塩田元規さんは「これからの時代は、ハートやつながりといった目に見えない“内面”が中心になる」と主張しています。

アカツキの売上高は281億円。塩田さん自身がまさに、「感情」を優先するマネジメントでも成果を上げられる、と証明しています。

そんな塩田さんが自身の人生から導き出した哲学を書き記したのが書籍『ハートドリブン』。

同書から、アカツキの成長を支える独自哲学を3記事でお届けします。

心も体も会社も壊れる寸前までいった

順調に見えたアカツキ3期目に、僕は大きな失敗をしてしまう。自分の人生の中で、最も苦しい1年だったと思う。

その頃、ゲームの市場環境はガラケーのモバイルゲームから、スマホのモバイルアプリゲームにシフトしていた時期で、僕らアカツキはその市場の変化に賭けて大きな投資をしていた。

その中で、組織の悪化と大きな損失が生まれて、初めて、キャッシュがなくなる可能性が現実的になってきた。僕らは約5億円の借入をして、僕個人がそのうち3億円の連帯保証人になった。

「5億円を返済するのはすごい大変だ。これで、事業が失敗したら、3億円が僕個人の借金だ。失敗したら、本気で首を吊る可能性すらあるな」と、初めて倒産自分の死がリアルに頭に浮かんだ。

悪いことはまだまだ続く。

この年、創業1年目にジョインしてくれたメンバー8人のうち4人がアカツキを退職した。

立ち上げ当初は狭いオフィスで雑魚寝して、まさに同じ釜の飯を食べていたけど、人が増え20〜30人規模になってくると、どうしてもお互いの距離ができてしまう。

彼らは僕と哲朗(アカツキ創業者・香田哲朗さん)のことが好きで、僕らが困っているから助けに来てくれたメンバーだった。

だから、僕と距離が離れていくと、とにかく寂しくなっていったけれども、当時のアカツキは、寂しいという感情を表現できる空気ではなかった。

ポジティブな感情はシェアできるけど、ネガティブな感情はまだシェアしにくい空気だったと思う。そして僕にもそれを許す器がなかった。

だから、僕自身も辞めていくメンバーの感情に気づかなかった。

仲の良かったメンバーが離れていって、組織の雰囲気もどんどん悪くなって、会社のキャッシュもやばい。自分が大切にしようと頑張ったものが、どんどん壊れていく

なんとかしようと必死でもがくけど、どうしていいのかわからない。

本当に闇の中にいるようだった。

僕の体も限界に来ていて、会社で椅子に座っている時も、ずっと心臓が痛かった。

常に下痢で、病院でもらった一番強い下痢止めの薬を飲んでも止まらなかったし、夜中に家に帰るとストレスで一人で泣きながら吐いていた。

思考は嘘がつけるけど、体には全てが表れていた。

僕はこんな時こそポジティブシンキングしかないと必死に思い込み、「ピンチはチャンス」と言い続けた。自分自身にも、メンバーにも言い続けた。

僕もメンバーも、なんとか無理やりにでもモチベーションを上げようとしていた。

自分も人も言葉でコントロールしようとしていた。

それは、悲しみ、つらさという感情を切り離すことだった。

だけど、心の奥底にいる小さな僕は叫んでいた。「もう限界だ、これ以上は無理だ。背負えない。助けてくれ」と。

僕の思考の中には、観念のモンスターがいた。

それは僕にこうささやいていた。「人に弱みを見せちゃダメだ。自分が強くないと、周りはついてこない」。

思考の中のモンスターは、つらさを人に見せることを許さなかった。

責任は自分がとる、自分がなんとかするしかない、そしてなんとかできない自分には価値がない、と僕を縛っていた。

僕はメンバーに頼ることも、弱音を吐くことも、できなかった。

愛によって心が開く。踏み出す勇気をもらえる

しんどそうにしている僕を見て、勝屋夫妻(アカツキ社外取締役 勝屋 久さん夫妻)が僕の話を聞いてくれた。

メンバーの前では、僕は常にかっこつけていたけど、勝屋夫妻の前では、弱音が吐けた。「もうしんどい、限界だ」って言って、彼らの前で泣いた。

その時、(勝屋)祐子さんから、

「元ちゃん、いつも世界を幸せにするとか、周りを幸せにするって言ってるけど、その世界の中に元ちゃんは入っているの?自分も幸せにする対象に入れてもいいんだよ。元ちゃんも幸せになっていいんだよ

そう言ってもらった。そして勝屋さんは、僕と一緒に泣いてくれた。

僕はずっと、たとえ自分が死んでも夢を成し遂げなきゃって思い込んでいた。

自分が描いた夢に乗っかってくれたメンバーのためにも、それが僕の責任だし、必要なことだって思っていた。

だから、自分は犠牲になっても、目指す世界を作らなきゃって思っていた。

心臓が痛くても、「成果が出るまで、なんとか生かしてください、その後は望まないから」と、神様に祈っていた。

でも、僕が自己犠牲を払って素晴らしい会社を作ったとして、それでメンバーは本当に喜んでくれるんだろうか。

勝屋夫妻の愛に触れて、僕は自分自身も幸せにしていいんだって思った。

そして、彼らはこう続けてくれた。

「元ちゃんが、つながりのある会社を本当に作りたいって思うんだったら、今日僕たちと分かち合ってくれてるみたいに、自分が苦しいことやつらさをメンバーと勇気を持って分かち合ったらいいよ」

僕の中にいる観念のモンスターは、弱いリーダーを許していなかった。

自分ができていないことを分かち合うなんて、本当に怖いことだった。価値を出していない自分は、生きていちゃいけない存在のように思えていた。

でも、二人の応援と愛のおかげで、僕はそれを分かち合おうという勇気を持てた。

そして、哲朗をはじめ、何人かのメンバーに恐るおそる、少しずつだけど「しんどい、限界だ」と弱音を吐けた。

そしたら、「いや、なんで一人で全部抱え込むんだよ。会社はみんなで作ってるんだろ。みんなで頑張ろうよ」と言ってもらえた。

成果を出せない自分でも、ここにいていいんだなぁって思った。

僕が絶対にダメだと思った「成果が出せない自分」を、みんなは優しく受け入れてくれたんだ。

こうして、自分の内側の葛藤や抵抗を超えたら、自分もだいぶ楽になったし、アカツキのメンバーとももう一歩深くつながれた。結果、組織の雰囲気も良くなってきた

みんなで頑張ろうっていう空気ができて、キャッシュ面はギリギリではあったけど、スマホのネイティブゲームである「サウザンド・メモリーズ」を、なんとか資金が尽きる前にリリースすることができた。そして、それが大きくヒットした。

これだけしんどい3期を越え、ようやくアカツキで初めて大きなヒットゲームを作ることができたんだ。

強くあろうとすることと、弱みを見せないことは違う

僕自身がそうであったように、リーダーは完璧なリーダー像にとらわれやすい。

そもそも完璧なリーダーというものは、あるわけがない。人によってリーダー像は違うし、リーダー像は観念が作った幻想だ。

責任がある立場だから、人より優秀じゃないといけないとか、人に頼ってはいけないとか、弱みを見せたらいけないという観念にとらわれていないだろうか。

そして、自分に無理をさせていないだろうか。でも、

リーダーが無理をしている組織は、メンバーも無理をする。

リーダーが自分の感情を隠していたら、メンバーも感情を隠す。

リーダーが安心・安全を感じていなかったら、メンバーも安心・安全を感じない。

強くあろうとすることと、弱みを見せないことは違う

メンバーは、本当はあなたを助けたいと思っているかもしれない。勇気を持って、リーダー自身が弱みも含めて自分の中にある感情を素直にメンバーと分かち合っていく。

リーダーが、自分の感情を分かち合えば、メンバーも分かち合ってくれる。

お互いに安心・安全な場を作る。リーダーは完璧を求めて自分を犠牲にしなくていい。困ったらみんなと分かち合えばいい

リーダー自身も幸せで、周りも幸せにするというハッピーな在り方は、組織に素晴らしい影響を与える。メンバーも幸せになっていいんだって思える。

仕事を楽しそうにしている父親を見れば、子供も仕事は楽しいんだと思うのと同じように、リーダーの在り方は、メンバーの在り方を変えていく

だから、自分の感情を丁寧に扱おう。自分の時間を持とう。もし、メンバーの前だとかっこつけてしまうのだったら、会社やプロジェクトの外でいい。

メンターと、もしくは安心・安全なコミュニティで自分の本心を分かち合おう。その応援をもらえれば、メンバーとも勇気を持って分かち合える日がくるはずだ。

売り上げ、KPI…ビジネスマンの指標を“否定”する哲学を学ぼう

塩田さんの経験談をもとに、「魂の進化」の重要性をビジネスマンに説く『ハートドリブン』。

担当編集の箕輪厚介さんが「マジで売りたい本ができました!」と太鼓判を押すほどの一冊です。

変化するビジネストレンドの最先端をゆく思考・哲学を吸収して、自身の仕事観をアップデートしましょう!

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