ビジネスパーソンインタビュー
自信を喪失し、公務員になろうとした過去も…
“落ちない”秘訣は毎日つける「25項目の通信簿」。プロゲーマーときどが語るメンタル安定法
新R25編集部
近年盛り上がるe-Sports界において、存在感を放つ“東大卒”のプロゲーマー、ときどさん。
世界最大級の大会「Evolution Championship Series」での優勝経験を含め、数々のタイトルを獲得しており順風満帆に見えますが、過去には「大学院で自信を喪失し、公務員になろうとしていた」「トッププレイヤー集団から置いていかれ、勝てなくなってしまった」という大きな挫折を経験したといいます。
今回は、ときどさんが挫折を味わったことで学んだ“メンタルを安定させる方法”を、うかがいました。
〈聞き手=小沢あや〉
【ときど】1985年生まれ。沖縄県出身。東京大学卒業後、東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻に進むも、中退してプロゲーマーとなる。2017年、世界最大の格闘ゲーム大会「EVO2017」に参加し、「ストリートファイター5部門」で優勝。「ときど」というニックネームの由来は『ザ・キング・オブ・ファイターズ‘98』で「飛んで、キックして、どうしたぁ!」という連続技ばかり使っていたことから。著書に『努力2.0』(ダイヤモンド社)など
ときど流メンタルコントロール①「“記録”することで、不調の原因を特定する」
小沢
今日は、ときどさんが考える“メンタルを安定させる方法”を聞きたいです!
ときどさん
おお~、了解です!
すごくフランクなときどさん。光り輝く数々のトロフィーがまぶしいです
ときどさん
僕、毎朝“昨日一日の自分”を振り返る「通信簿」をつけてるんですよね。
小沢
通信簿…! しかも毎朝ですか?
どんなことを書くんでしょうか。
ときどさん
「睡眠時間」「食事の回数」「脈拍」みたいな身体の基本的なことから、「感動した回数」「幸せ度」というメンタルの部分まで、25項目をチェックしてノートに記入してます。
1~10の10段階評価にして、前日どうだったかを振り返りながら書くんです。
こちらがそのノート。細かい字で毎日記入されていることがわかります
小沢
25項目も!
ときどさん
「今日、なぜか調子が悪かったな」という日ってあるじゃないですか。でも、不調の原因ってなかなかわからないですよね。
毎日の行動ログをつけると、負けや不調の理由が“振り返り”できるんです。「昨日は筋トレをやりすぎてる。だから疲労が出てるのか」とか「食事をあまりとれてない」とか。
小沢
技術以外の敗因がわかるようになるんですね。
ときどさん
そうです。そして、不調の理由と原因を知ることは、「メンタルを安定させること」につながる。
「理由がわからない不調」って、すごく不安になるんですよ。でも、通信簿をつけていれば「あっ、なんだ、原因はこんなことか」ってわかる。原因がわかるだけで、メンタル不良の8~9割は解決します。
さすが、説明が理路整然
小沢
なるほど…。いつから「通信簿」をつけはじめたんですか?
ときどさん
3年前くらいですね。
僕はプロゲーマーになってずっと順風満帆なわけではないんです。全然勝てない時期もあって、2013年の試合では、『ストリートファイター4』で6-1と大勝しているところから逆転負けしてしまった。「EVO2014」ではベスト32にも残れなかった。その後はスランプに陥ってしまって…
そんなタイミングで、『メンタル・タフネス』(ベストセラーズ)という本を勧められたんです。スポーツ心理学の名著で、これを参考に通信簿をつけてみることにしました。
ときど流メンタルコントロール②「練習と本番の環境を近づける」
小沢
社会人が仕事でメンタルの強さを問われる場面というと、営業やプレゼンなどの“本番”でプレッシャーがかかるシーンがありますよね。
ときどさんは、大会本番でプレッシャーを感じたりしないんでしょうか?
ときどさん
もともとは、プレッシャーってあんまり感じなかったんですよ。
それが、賞金1500万の試合に出たときに、急に緊張しちゃって…(笑)。
「大会の空気が全然違いましたからね~!」
ときどさん
それまではせいぜい、賞金100万円だったんです。それがいきなり1500万円ですから…
「いやあ、金じゃないっすよ!」とか言ってたんですけど、あっ全然違うな、と(笑)。
小沢
人生変わっちゃう額ですもんね。そういう極度の緊張下で、メンタルを安定させる方法はありますか?
ときどさん
逆に、「わざと緊張する」状態を作りますね。
小沢
「わざと緊張する」???
ときどさん
本番って、やっぱり緊張して心拍数が上がる。だから、プレイの前に全力ダッシュして、心拍数を上げておくんです。これは、練習のときから同じことをしてます。
小沢
なるほど! 今度大事な会議の前にダッシュしてみようかな…
「練習時と本番で、モニターとの距離がちがうから緊張するんじゃないか」と、こうやって測るようにしていたこともあるとか
ときど流メンタルコントロール③「“体力”をあなどらない」
小沢
ほかに重視していることはありますか?
ときどさん
“体力”の重要性をあなどらないってことですかね。
僕は約4年間、週3回ジムに通って筋トレを続けてます。
たしかにときどさん、服の上からでもわかるほど筋肉質です
小沢
筋トレにどんな効果があるんでしょうか?
ときどさん
e-Sportsに必要な瞬発力が磨かれるというのがひとつ。
もうひとつは、移動などの“日常の要素”で疲労しなくなることが挙げられます。
「そんなこと」と思うかもしれませんけど、疲労を溜めることで、本来の実力を発揮することってできなくなる。体力があれば疲労による“成果のブレ”がなくなるから、精神的な負担も減らせます。
小沢
体力をつけることで、メンタルの安定も期待できるんですね…!
ときどさん
そうそう。僕は、筋トレの効果を最大化するためにお酒も飲まないし、食事も炭水化物をかなり減らしています。
トレーニングをする以前と比べて、“疲れ切ってしまう”ってことはなくなりましたね。
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筋トレについては、こちらの記事でも詳しく解説しています
ときどが「ルーティンはやぶっていい」と話す理由とは?
小沢
通信簿やジム通いなど、きっちり習慣化してるんですね。
でも、そういうルーティンをつくろうと思っても続かない人って多いですよね…。ときどさんはなぜストイックに継続できるんでしょうか?
ときどさん
別にストイックじゃないんですよ! 僕は、“身の丈”に合ってないことなんてできないと思ってます。
だからこそ、意志の力に頼らない方法を考えたほうがいいんです。
ときどさん
たとえば、さっきお話しした「通信簿」も、「意志の力を使わない」ところがイイんですよ。
「自分の何がダメだったのかを振り返り、分析して…」なんて、ゼロからやろうとしたら面倒くさすぎる。
ノートを常に開いた状態で机の上に置いておいて、起きたらさっと書けるようにしてるだけなんです。
小沢
頑張らなくてもできる状況をきっちりつくる、と。
ときどさん
そして、気が乗らないなと思ったら、ルーティンはどんどんやぶる。
筋トレも無理はしない。今は運動を続けられてますけど、最初は「週1ジム行けたらいいほう」みたいな時期もありました。疲れたら、「意志の力」でムリして続けるんじゃなくて、1回やめちゃいますね。
休んでもいい…だけど、いったん休んでから再度「より意志の力に頼らなくていい習慣」をつくるんです。
小沢
柔軟だ! 「できなかった!」って自分で自分を責めることもないんですね。
ときどさん
そうです。自分を責めるなんて意味ないですよ。
やりたくない気分のときって、原因があるんです。自分の感情ではなく「仕組み」を疑ったほうがいい。
そうやって自分に寛容でいると、他人にも寛容になれます。何か予想できないことが起きても、メンタルを乱されることがなくなるんです。
ときどさん、歴戦のプレイヤーなのに“寛容”な雰囲気があるのはこういう理由なのか…
「上を狙うなら、バランスを取ってはいけない」
小沢
R25世代になると、なんとなく自分の能力がわかってきて“それなり”の環境や仕事で満足してしまいがちなんですが…
ときどさんが、“それなり”で満足しないメンタルを持ち続けられるのはなぜなんでしょうか?
ときどさん
よく、人の能力を五角形で表したりするじゃないですか。
僕もそれが、“それなり”にバランスが取れたきれいな五角形になればいいかな…と思ってた時期があるんです。
ときどさん
「いろんなゲームでトップ8までに入ってe-Sports界で存在感を出そう」という感じでやってたんですよ。
でも、e-Sportsが話題になって、ゲームごとに本気で取り組んでる人も増えたことで、どんどん勝てなくなってしまったんですね。
じゃあ1つのゲームに絞って勝負しなきゃいけないだろうと、方向性を変えたんです。
小沢
それで『ストリートファイター』シリーズに集中するようになったんですね。
ときどさん
だから、アドバイスとしては「バランスを狙ってはいけない」ってことです。
結局、バランス型になっても誰にも勝てなくなってしまう。レベルの高い世界で戦うのであれば、僕はまずは一点集中を狙う必要があると思います。
努力できるのは、自分の人生に向き合う“踏み絵”を経験したから
ときどさん
まあ、そういったいろいろなことを考えて努力できるのも、結局根底に「ゲームが好き」という譲れない気持ちがあるからですよね。
その気持ちは、“自分は何を大事にして、どういう人生を歩むのか?”という「人生の踏み絵」みたいな状況を経験したから、自分のなかで確かなものにすることができたんです。
小沢
踏み絵??? どんな状況ですか?
ときどさん
僕、中学高校、大学と、「与えられた課題」はだいたいデキる人だったんですよ。
ところが、なんとなくで大学院(東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻)に行ったら、とにかくうまくいかなくて。学校まで行っても、どうしても門をくぐれないような状態までメンタルが落ちちゃったんです。
友だちに「プロゲーマーになりたい」って言っても、「いや、どうやって食っていくんだよ?」ってみんなに反対されて…。それで、すべて諦めて公務員になろうとしたんですね。
小沢
ときどさんが公務員に!
ときどさん
かりそめの姿で社会人をやって、ゲームは趣味としてたしなめばいいか、と。プロゲーマーなんて職業、今よりずっと世間に認められてなかったですし。
でも…
小沢
でも…?
ときどさん
そのとき考えたことは、今でも覚えてます。
10年経って、自分は奥さんや子供がいて、平凡に暮らしてる。夕飯を食いながら、メジャーになったeスポーツがTVで中継されてるのを見てる…。ライバルたちが試合をしてるのを、TVでボーッと観戦してる自分の姿が想像できたんです。
僕、「絶対に耐えられない!!」と思いました。
ときどさん
「じゃあ、世間体に合わせてちゃいけないんだ!」と思って。そこで、“人生に対する自分の意思”に気付くことができたのは大きかったですね。
自分はどうしたいのか。どう生きたいのか。もっと早くそういう人生の決断をする人も多いのかもしれませんが、ヘタに“賢くデキる”せいで、20数年間その「踏み絵」を先延ばししてたんです。
小沢
その「踏み絵経験」があるからこそ、揺るがない軸が持てたんですね。
ときどさん
誤解してほしくないのは、世間体に合わせた選択をすることが必ず悪いと言ってるわけじゃないんです。人にはそれぞれの事情がある。
ただ、自分なりの答えを選択した以上は、その選択を受け入れて、努力しなければいけない。
僕が「ストイック」と言っていただけるんだとしたら、ちゃんと自分の選択を受け入れたことが、その要因になっていると思います。
取材したお部屋には、トップランナー・梅原大吾さん、グラビアアイドル倉持由香さんとの結婚でも話題になったふ~どさんなどがいらっしゃいました! 豪華すぎる!!
世界で戦ってきたときどさんは、「失敗の原因を明らかにして、自分を責めない」コツを教えてくれました。
ときどさんは、重要なときに決断力を使うため、日常から極力「決断」の機会を減らしているそうです。
「僕、普段の生活でも極力『決断』はしません。服も黒い服だけだし、靴も一足だけ。ずっと同じ。『どれ着ようかな』って迷うことがないようにしています」
スティーブ・ジョブズの思想にも通じる“ノーストレス思考”。ぜひマネしてみてください!
まずは私も、社会人でもすぐできる「通信簿」から、習慣づけてみようと思いました。
〈取材・文=小沢あや(@hibicoto)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=飯本貴子(@tako_i)〉
『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』
12月5日、ときどさん初めてのビジネス書『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』が発売となります!
変化の激しい「e-Sports」の世界で結果を出し続けるときどさんの語る「本質的な努力」。ビジネスシーンにも通じる、一流の教えをぜひ手に取ってみてください!
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