ビジネスパーソンインタビュー

「チームの“いいところ”を共有するリーダーは、士気を下げる」北野唯我が語る“職場の空気”

組織に必要な、3つの「開放性」

「チームの“いいところ”を共有するリーダーは、士気を下げる」北野唯我が語る“職場の空気”

新R25編集部

2019/12/16

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2019年2月、書籍『天才を殺す凡人』を上梓し、その「天才と凡人それぞれの才能を言語化する」という内容が大きな話題を集めた北野唯我さん。

そんな彼の新刊、『OPENNESS(オープネス) 職場の「空気」が結果を決める』が、11月28日に発売となりました。

職場の「空気」がいかにチームパフォーマンスや業績にポジティブな影響を与えるか…を徹底的に解説したこちらの書籍ですが、とくに気になったのは「リーダーが変わればチームは変わる」という趣旨の言葉。

R25世代のビジネスパーソンも、そろそろチームを率いるリーダーになっていく時期。「職場の空気」という観点で見たとき、僕らはいったいどんなリーダーを目指せばよいのか…!?

詳しく聞きに行きました。

〈聞き手=サノトモキ〉

【北野唯我(きたの・ゆいが)】兵庫県出身。神戸大学経営学部卒業後、博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後ボストンコンサルティンググループを経て、2016年にワンキャリアへ参画、執行役員に就任。2019年1月から子会社の代表取締役、社外IT企業の戦略顧問も兼務。デビュー作『転職の思考法』(ダイヤモンド社)が16万部、続く著書『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩むすべての人へ』(日本経済新聞出版社)が10万部とヒット。著者累計30万部を突破した

サノ

というわけで今回は、職場の「空気」から見るリーダー論をお聞きしたくて。

「リーダーを変えればチームが変わる」ってけっこう極論のような気もするんですけど…本当なんでしょうか?

北野さん

僕は職場の「空気」は100%リーダーに責任があると考えているので、言い切っていいと思いますね。

そんなにはっきり言われると、リーダーになるのが怖くなっちゃいます

北野さん

書籍『OPENNESS』では、「風通しのよさ」がいかにチームパフォーマンスを向上させるかを説明してるんですけど、簡単におさらいすると…

僕は、「風通しのよさ」とは、以下の3つのオープネス(開放性)が高い状態であると定義しています。

1.「経営」開放性
…リーダーの戦略や思想が、どれだけメンバーに伝わっているか

2.「情報」開放性
…メンバーが、意思決定に必要な情報を簡単に手に入れられる状態か

3.「自己」開示性
…メンバーが自分の個性や才能を発揮しても、他者から攻撃を受けないと信じられる状態か

北野さん

かみ砕いて言うと、「リーダーがメンバーにとって身近な存在で、考えがクリアに伝わっていること」、「リーダーに質問や確認をする心理的ハードルが低いこと」、「チーム内で、自分の個性や意見を自由に表現できること」。

これら3つの環境が整っていないとチームパフォーマンスはどんどん悪化していくわけですが…

「風通しのよさ」を壊してしまうのは、決まって「あるリーダー」なんですよ。

サノ

あるリーダーとは…?

北野さん

弱さを知らないリーダー」です。

今日は、「弱さを知らないリーダー」がいかにチームのパフォーマンスを下げてしまうかをお話させてください。

「強いリーダー」がチームを崩壊させる…!?

北野さん

リーダーって、大きく「プレイヤータイプ」と「マネジメントタイプ」に分かれますよね。

「チームのトップ営業マン」みたいに、その専門分野での手腕を買われて出世した「プレイヤータイプ」と、専門分野での実力より、経営力やチームマネジメントの手腕を買われて出世した「マネジメントタイプ」。

北野さん

これ、強いて言えばどちらがリーダーとしてふさわしいと思いますか?

サノ

えー難しい…

でも実際、プレイヤータイプの人のほうが出世してる気がします。

北野さん

たしかに、業績重視で考えれば結果を出す「強さ」をもっているプレイヤータイプの人が尊敬を集めがちだし、評価されやすい。

でもリーダーになったときチームパフォーマンスを高められるのは圧倒的にマネジメントタイプの人なんです。

というのも、プレイヤータイプの人は「弱さを知らない人」が多いんですよ。

北野さん

世の中のほとんどの人は「共感性」を軸とした価値観で生きています。

だから、リーダーは尊敬される一方で、「この人も自分と同じ人間なんだ」と思えるような「失敗談」や「弱さ」を積極的に見せていくことが、メンバーを率いるうえでめちゃくちゃ大事なんですよ。

サノ

うわ、それめっちゃわかるかも…!

北野さん

でも、仕事面で常に圧倒的な成果を残してきたプレイヤータイプのリーダーは、自分の「弱さ」に直面した経験が少ないんです。

だから、部下の弱さに対応する能力がなく、チームのモチベーションを崩壊させてしまいがち。

「弱さの価値を知らない人」が上に立ってしまうと、チームの風通しはどんどん悪化していきます。

職場の「オープネス」を下げる3大要素は、強いリーダーによって引き起こされる

北野さん

実際、チームのオープネスを下げる“罠”は、リーダーが「弱さ」を軽視することから発生しがちなんです。

一つ目の罠は、「オーバーサクセスシェア」。

何やらかっこよさげだが、何を言ってるのかはまったくわからない

北野さん

名前の通り、「成功事例だけを過剰にシェアしてしまうこと」です。

たしかに、経営開放性を高めようと思ったらリーダー自らが情報発信量を増やすことは大切なんですが…

「今何がうまくいっているか」「いかにこのチームが成果を出してきたか」など、チームのいいところばかりを共有してしまうリーダーは、かえってオープネスを下げてしまうんです。

サノ

…? メンバーも所属チームに自信を持てていいことだと思いますが…何がダメなんでしょう?

北野さん

ネガティブな報告をしづらくなるからです。

成功報告やポジティブな会話ばかりの職場では、失敗報告のようなネガティブな話題を共有しづらくなります。

弱い部分を見せてはいけないという空気ができて、報告の遅延や隠蔽などの弊害が生まれてしまう。

サノ

ポジティブな雰囲気にしてればいいってわけでもないのか…

北野さん

もう一つの罠は、「ダブルバインド」。これは、「言ってることとやってることが違う」という状況に部下が苦しめられるパターンなんですけど…

ときどき、口では「なんでも質問して」って言ってるのに、めちゃくちゃ聞きにくい雰囲気を醸し出しちゃってる上司っていません?

サノ

い、いるー!!!

明らかに忙しそうだったり、勇気を出して聞いてみたもののイライラしながら対応されちゃったり、めっちゃあるあるです…

北野さん

これも、「弱さ」を共有する価値を理解できていない強いリーダーが悪気なく陥ってしまいがちな罠。

本人はわざと聞きにくい雰囲気にしてるわけでもなく、萎縮してしまう部下たちの「弱さ」を想像できていないだけなんです。

北野さん

「めちゃくちゃ優秀だけど、上司としてはなんだかなあ…」と思われてしまうリーダーに起こっているのは、こういうこと。

メンバーの居心地のよさをデザインするためには、弱さを共有できる「共感性」の高い雰囲気が不可欠なんですけど、強いリーダーは「弱さ」をムダなものとして切り捨ててしまいがち。

だから、優秀なプレイヤーほど、リーダーになったときこの壁にぶつかって葛藤するんです。

長期的に見れば、弱さを知っている人間こそビジネスで成功する

サノ

ビジネスパーソンとして成長するうえでは「弱さ」って少しでも減らしていったほうがいいと思ってたんですけど、そういうわけでもないんですね。

北野さん

僕はむしろ、自分の弱さを知っている人間ほどビジネスでは成功すると思ってます。

北野さん

ビジネスって、何十年もつづいていく「生き残りをかけた戦い」なわけで、勝ち続けることよりも、「死なないこと」「大きく負けないこと」のほうが重要だと思うんですよね。粘り強さというか。

大きな会社で出世していく人はだいたい、めちゃくちゃ人の役に立つ「ウマタイプ」の人か、偉い人にすごくかわいがられる「パンダ」タイプの人だと考えてるんですけど…

組織やチームの生存確率をもっとも高めるのは、繊細で弱いがゆえに危機察知能力を持っている「ウサギ」タイプの人なんです。

●ウマタイプ
…モノを運ぶ役割として人間と共存してきたウマのように、上の人間にとって役に立つ能力をもっていることで出世していく。

●パンダタイプ
…とくに役に立つわけではないが(パンダごめん)、上の人間にかわいがられることで出世していく。

●ウサギタイプ
…視力が弱いぶん鼻と耳による危機察知能力が高いウサギのように、職場の空気の変化、人間の感情変化を素早く察知できる。チームビルディングをはじめ、組織に関するセンスがきわめて高い。

北野さん

短期的にはライオンや虎のような強い人間に負けたとしても、短命に終わらない長期的な視点を持てることは、ビジネスパーソンとして非常に大きな価値がある

オープネスの変化にいち早く気づくことができるのも、ウサギタイプの人。「弱さ」を知ってる人だけが、組織の致命的なダメージを回避する超重要な役割を担えるんです。

サノ

その言葉で救われる人がどれだけいるだろうか…

北野さん

でも、そんなウサギタイプの人間が若手時代に倒れてしまうのが、「弱さを知らないリーダー」が率いているチーム。

技術的には絶対勝てないし、言ってることも向こうが正しい。そういう状況にいると、「自分がダメなんだ」って思い込んじゃいがちですからね。

サノ

「お前その実力じゃどこいっても無理だよ」みたいな。

これもよく聞く話だ…

北野さん

そういうときは、きちんと逃げたほうがいい

「弱さ」を知る善意あるウサギが悪い組織を逃げ回りながらいいチームのあり方に気づいていくと、まわり回って10年後くらいにすごくいいチームを作れたりすると思うんですよね。

ウサギはあくまでも、長期で勝負すればいい。オープネスの悪化したチームで死んでしまいそうなら、すぐにでも飛び出してしまえばいいんです。

サノ

でも、とはいえどうしてもそのチームで頑張りたい人もいると思うんです。

そういう人はどうすればいいんでしょう?

北野さん

逃げないのであれば、「虎の威を借るウサギ」になるしかないですね。

サノ

虎の威を借る…

北野さん

実力をつけるのか、かわいがられるのか…方法はいくつかあると思いますけど、リーダーに信頼されることで、発言権を獲得するというやり方はあると思います。

そうしたら、二番手として、自分が「弱さ」をマネジメントする立場を目指せばいい

ウサギだって、危機察知能力以外の武器を搭載できるに越したことはないですからね。

どんな天才でも一度は「強い自分」の死を迎える

北野さん

ただ、やっぱり基本的にはリーダーが変わらなくちゃいけないんですけどね。

リーダー自身が自分の弱さや、弱さを知る人を側に置く大切さに気づくことが、職場の「空気」を改善する一番の処方箋です。

サノ

でも、強い人は基本めちゃくちゃ優秀なわけで、「弱さ」の価値に気づくことなんてできるんでしょうか?

北野さん

できます。

というのも、どんなに強い人でも、上に立ったときに弱い人間が出すサインや、ウサギタイプの部下の価値に気づけなければ、リーダーとして一度死ぬからです。

死ぬ…? どういうこと…?

北野さん

チームが崩壊し、業績を上げられなくなり、何でも解決できたはずの自分ひとりの「強さ」ではどうにもならない事態に直面する。

多くの天才にはそうして、「強いだけの自分」の死を迎えるタイミングが訪れるんです。

そのときはじめて自分のなかにウサギを見つけ、弱さの価値を知ることができる。優秀なプレイヤーが圧倒的な強さと繊細な弱さを持つ最高のリーダーになれるのは、そこからです

サノ

さすが唯我さん、すべての人に希望を残してくれる…

北野さん

自分自身が今すぐ弱さの価値を理解できなそうなら、「とりあえずウサギタイプのサブリーダーを立てる」でもいいんですよ。

とにかく、オープネスを向上させチームの「空気」を改善するには、「弱さ」のマネジメントが必要不可欠であると理解できているかが肝心なので。

もし今自分がそういうタイミングにあると感じた人は、ぜひ本を読んでみてほしいですね。

サノ

強い人間も弱い人間も、それだけじゃダメなんだなって心底思うことができました。

今日はありがとうございました!

唯我さんが真剣に語ってくれた、会社の開放的な空気を作る「弱さ」の必要性

なんだか自分の短所のように感じていた「弱さ」も、その弱さから苦しさも、いつかリーダーになるときのためにとっておこうと思える、そんなお話でした。

「オープネスの低い組織から逃げるのも、全然悪いことじゃない。人生は長い戦いですからね」とお話しつつも、空気の悪いチームを作ってしまいがちな「強いリーダー」が変わっていく道筋もきちんと示してくれる唯我さん。

やっぱり、あくまでも「やさしさ」を起点に、すべての人が力を合わせながら幸せに働きつづける社会を目指している素敵な人なんだなあと改めて思いました。

そして、近日中には同時発売となった著書『分断を生むエジソン』についてのインタビュー記事も公開されます! ご期待ください。

〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=池田博美(@hiromi_ike)〉

『OPENNESS 職場の「空気」が結果を決める』絶賛発売中!

11月に発売された書籍『OPENNESS 職場の「空気」が結果を決める』は、発売5日で3.4万部を突破。

「職場の空気がいかにチームパフォーマンスを向上させるか」、「オープネスの悪化を知らせる“合図”とは何か」など、本記事では紹介しきれなかった内容が盛りだくさん。

気になった方は、ぜひぜひチェックしてみてください!

また、「リーダーは弱さを知って1度死に、2度生まれる」というお話は、じつは同時発売の書籍『分断を生むエジソン』にも描かれています。

気になった方はぜひこちらもチェックしてみてください!

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