遠くの大物より「身近な他人」に目を向けよ

「上司にだけ気をつかってない?」DMM亀山会長が教えてくれた、若手に必要な“気づかい”

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カリスマのマナー

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ビジネスパーソンとして日々必要になる「気づかい」。

仕事の場のみならず、飲み会や接待の場でも、多くの人がさまざまな「気づかい」をしています。

ただ、実際に気づかいを受ける側からは「それはむしろ迷惑だ」なんて思うこともあるんだとか。

サイバーエージェントの藤田晋社長も、気づかいに対して「俺のことをエラい人みたいに扱うのはやめてほしい」なんてお話しされていました。
だったら何が正解なんだ!」と思う読者のために、新R25は新連載「カリスマのマナー」を立ち上げました。

業界の大物たちに、「正しい気づかい」について、その答えをはっきりと聞いてきます!

第1回はDMM.comの亀山敬司会長。従業員数4000人以上の大企業DMMグループのトップである亀山会長に、若手に“本当に必要な気づかい”を語っていただきましょう!
【亀山敬司(かめやま・けいし)】合同会社DMM.com会長。19歳時に露天商として手作りアクセサリー販売を手掛け、その後、雀荘やカフェバーなどの経営を経て、レンタルビデオ店を開業。インターネット黎明期であった1998年にはネット配信事業を開始。翌年にデジタルメディアマート(現 合同会社DMM.com)を設立

経営者にとって、社員に気づかわれるのは時間の無駄

福田

福田

超コングロマリット企業のドンとも呼ばれる亀山会長が、“迷惑だ”と感じる「社員の気づかい」はありますか?
亀山会長

亀山会長

気づかいに対して迷惑だと思うことはないけど、「もったいない」と思うことは多いね。

たとえば打ち合わせのあとに、俺を玄関まで見送りにくる社員がいたけど、経営者としてはそんなことしている時間があるならほかの仕事をしてほしい。
福田

福田

まあ…そのほうが合理的ですよね。
亀山会長

亀山会長

今だってこの取材に広報の社員が1人立ち合ってるけど、前に3人くらい来たことがあって。「会長さまの取材だから」って気づかいなら、やめてって感じ。

ほかの2人には別の仕事をしてもらっていたほうが、会社としては得だからね。
亀山会長は自作の顔パネルがあったのですが、(腕が疲れるからと)取材時はあまり使われていませんでした
福田

福田

亀山会長自身はあまり「気づかい」されるのが好きではないのでしょうか?
亀山会長

亀山会長

そもそも、会社には俺を気持ちよくさせるためじゃなくて、仕事のために集まってきているんだからさ。

中で気づかいするより、外で稼いできてほしい
福田

福田

実際に気づかってくる社員も多いのでしょうか?
亀山会長

亀山会長

昔からいる社員は、ぜんぜん気づかってくれないね(笑)。

うちの会社の新年会で俺が挨拶しても、誰も聞いてないよ。むしろ俺が「みんなちょっと聞けよ」って文句言ってるくらい。

みんなノビノビと育ってるよ。
DMMの皆さん、聞いてあげてください
亀山会長

亀山会長

一方で他社から転職してきた人は「気づかい」に慣れてるというか、やたらと礼儀正しい人が多いかもね。
福田

福田

前の会社で、礼儀に対して厳しく教えられていたんでしょうね。
亀山会長

亀山会長

彼らの話だと、大きな会社ほど上下関係が厳しいんだって。「んで俺を敬わないんだ!」ってマウント取りにくる上司が多いらしい。

役員全員で社長をお出迎えするとか、直立不動で上司の話を聞くまで慰安会ができないとかね。

だからうちに長くいる社員は、仕事はできるけど大手じゃ通用しないタイプかもな(笑)。

飲み会のヨイショも不要。ツッコんだ会話こそ本当のコミュニケーションになる

福田

福田

ちなみに、亀山さんは接待に対してはどう思っているのでしょうか?
亀山会長

亀山会長

具体的な商談ならともかく、当たりさわりのない話でヨイショされるのは苦手かな。

接待してくる人って「なるほど」とか「そうですね」しか言ってこないのよ。

お互いに時間の無駄かなって思う。
「接待で名刺をもらっても、翌日には誰だか覚えてない」らしいです。
亀山会長

亀山会長

そんなつまんない会話を続けるくらいなら、「その意見は違うと思います」ってもっとツッコんでみてもいいと思う。

そのほうが盛り上がるかも。
福田

福田

もしそれで機嫌を損ねてしまったらどうしたらいいでしょう…?
亀山会長

亀山会長

すぐに謝ればいいんだよ。

失礼しました!!」って(笑)。
写真で伝えられないのが残念ですが、亀山会長はコロコロ表情が変わる気さくな方です。このときも満面の笑み
福田

福田

ええ!それでもちょっと怖いですが…
亀山会長

亀山会長

片桐(孝憲。元DMM.com代表)と出会ったころに一緒に飲んでいたら、酔っ払って「亀山さん、それはわかってませんよ!」って言ってきたことがあって。

俺が「ん? なんで?」って聞き返したら、怒ったのかと勘違いしてすぐに「すいません、失礼しました!!」って、地べたに土下座してきたんだよ。

面白くなって、俺も「こちらこそ失礼しました!」って、土下座し返しちゃったんだけど(笑)。
福田

福田

(どういう状況…?)
亀山会長

亀山会長

片桐みたいに、変に気づかうよりは本音で話して「スベったら土下座する」ぐらい思い切ったほうがいいんじゃないかな。

特に仕事のときは、本音の話が聞きたいからね。

大物に対して特別視する必要はない

福田

福田

ちょっと話が変わるかもしれませんが、僕らみたいな若手は、亀山さんみたいな大物に対してどう接すればいいですか?
亀山会長

亀山会長

逆に君が大物だとしたら、どう接してもらいたいの?
福田

福田

えっ? 自分が大物…?

考えたこともないですね。
亀山会長

亀山会長

そういうときは、相手が大物だろうが小物だろうが「自分がされたいと思う態度」をとればいいんじゃない。

君は若手からは「へへ~!」って、ひれ伏してほしい?
福田

福田

もしそうされたら怖いですね。
亀山会長

亀山会長

つまり、相手が大物だからって特別視する必要はないってこと。

もし自分なら」と想像すればいいだけ。

卑屈になることも、媚を売ることもなくていいと思うよ。
福田

福田

でも、もしそれで相手の機嫌を損ねてしまったら…?
亀山会長

亀山会長

たとえば大物に「俺にタクシーかよ。なんでハイヤー用意してないんだよ!」って怒られたらどうする?
福田

福田

すぐに手配します。
亀山会長

亀山会長

本当はどう思ってる?
福田

福田

めんどくさいです。
亀山会長

亀山会長

だろ?

そんなときには「俺って気づかいができないんだ」って反省する必要はなくて、そんなことで怒る相手のことを「了見の狭いヤツ」って思えばいい。

そいつのことは「小っちゃい者リスト」に入れて、次回から「取り扱い注意」にすればいいね。
福田

福田

下手に向こうの価値観に合わせる必要はないと。
亀山会長

亀山会長

そう。本気で「大物にはハイヤーを用意するものだ」って学ぶ必要はない。

そんなバカな価値観を植え付けたら、もし君がエラくなったら「迎えはハイヤーが当然」みたいな人間になっちゃう。
福田

福田

それは…嫌ですね。
亀山会長

亀山会長

とくに営業職は日頃からお客の無理難題を聞いて「ヨイショ」してることが多いから、部下が上司に気づかいするのも当然ってなりやすい。

俺も気づかってんだから、お前も俺に気づかえ」ってね。

接客に疲れたホステスが、ホストクラブで威張るのと同じだな(笑)。

それより、「俺は気をつかって苦労してるから、後輩には苦労させたくない」ってヤツのほうがカッコいいんじゃない?

大物や上司に「ヨイショ」するより、身近な人に「思いやり」の気づかい

亀山会長

亀山会長

それで言えば、サイバーエージェントの藤田(晋)さんは気づかいできるけど、部下に気づかいを求めないのはスゴイよね。

俺はそこまで人間ができてないから、気づかいを求めないけど、相手にもできない。

20代のころからこんな性格だったから、たくさんの大人を怒らせちゃったよ。
福田

福田

そうだったんですね…
亀山会長

亀山会長

うん。それで取引先に会わないほうがいいと思って、50歳まで会社に引きこもってた(笑)
昔はあまりにも社内にこもっていたから、社外から「亀山は本当にいるのか?」とウワサされたそう
亀山会長

亀山会長

そう考えると今までの俺の話は忘れて、藤田さんを見習ったほうがいいな。俺の話を真に受けると嫌われる若者になる(笑)。

俺ができるのは、俺みたいに「気づかい」が苦手な人へのアドバイスになるね。
福田

福田

それをぜひ教えてください!
亀山会長

亀山会長

今まで君が聞いてきた「気づかい」ってのは、上司や大物に対すものだよね。

藤田さんや俺に聞くってことは、「力のある人」や「得な人」に気に入られたいってことでしょ。
福田

福田

…はい。
亀山会長

亀山会長

でも、こんな俺が今までやってこられたのは、苦手な営業を代わりにやってくれる部下がいたからなんだ。

そんな仲間がいれば、気づかいなんてできなくても生きていけるってことかな。

だから、大物や上司ばかり見てないで、仲間に「思いやり」の気づかいができれば、なんとかなるよ。
福田

福田

気づかいを向ける相手が違うと。

でも、どうやったら仲間や後輩のことを思いやれる人になれるんでしょう?
亀山会長

亀山会長

人を思いやるには、自分自身に余裕が必要だよね。
福田

福田

余裕…!
亀山会長

亀山会長

優しい思いがあっても、肉体的にも精神的にも余裕がないと、相手を思いやるゆとりが持てない。

だから、まずは鍛えて強くなること。
亀山会長は今でもジムに通いつづけています
亀山会長

亀山会長

あとは、身近な人の苦労や気持ちを想像してみることかな。同僚や部下だけじゃなく、ガードマンのおっちゃんや、掃除のおばちゃんとかにもね。

遠くの大物より身近な他人。思ってもいない「ヨイショ」より、日ごろの「思いやり」よ。
福田

福田

遠くの大物より身近な他人…若手のときって目上の人と接するばかりで、身近なところが逆に見えていない人は多いと思います。
亀山会長

亀山会長

今時の若手は俺よりぜんぜん気づかいできてると思うよ。

でもそれは、嫌われないようにビビってるだけって気もする。

嫌われないようにビクビク気づかうより、仲間を増やすために気づかってみたら、「気づかい」もけっこう楽しめるんじゃないかな。
福田

福田

そもそも「気づかい」がどういうものかちゃんとわかっていませんでしたね…

今日は勉強になりました!
亀山会長

亀山会長

まあ、今日の俺は心身ともにゆとりがあるから、君にも気づかいができたよ。
福田

福田

え? 気づかいしてくれてたんですか?
亀山会長

亀山会長

気づかいさせないように、気づかっていたのよ(笑)
おそれいります…! ありがとうございました!
上司やクライアントにうまく気づかいできなくても、(ビジネスマンとして)ちゃんとやっていける。俺の存在がその証明だな!」と明朗に語ってくれた亀山さん。

父と子くらいの年が離れていた僕のインタビューにも、真摯に答えてくれました。

そういう目の前の仕事に丁寧に応えることが、気づかいの第一歩なのかもしれない…!

そんなことを教えていただいた取材だった気がします。

〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/撮影=久保田拓人〉