

「僕ね、結局ポンコツなヤツが好きなんですよ(笑)」
「仲良くないけど、ロケバスでずっと喋ってる」団長安田が“リーダーはつらくない”と語る理由
新R25編集部
『新R25』の連載「リーダーのつらみ」。
さまざまな業界で活躍するリーダーに、“なかなかメンバーには見せられない”悩みやつらさを吐露してもらおうという企画です。
今回「つらみ」を吐露してもらうのは、お笑いトリオ・安田大サーカスを率いる団長安田さん。
【団長安田(だんちょうやすだ)】1974年生まれ。2001年、アイドル志望のクロちゃん、元力士のHIROとともに安田大サーカスを結成。『エンタの神様』(日本テレビ系)などのネタ番組で大ブレイクを果たし、2004年には「第25回ABCお笑い新人グランプリ審査員特別賞」を受賞。現在はトライアスロン世界選手権出場を目指し、毎日トレーニング中
当時、お笑いのことを何も知らない元力士のHIROさんとアイドル志望のクロちゃんに、ゼロから芸を叩き込まなければならなかったという団長安田さん…
「クズキャラ」として名高いクロちゃんはじめ、猛獣2人を飼いならすリーダーとしていったいどんな「つらみ」を抱えているのでしょうか…?
〈聞き手=福田啄也〉
「アイドル漫才師」を探していたはずが、やってきたのは…?

福田
団長は27歳のときに安田大サーカスを結成されていますが、そもそもこの謎メンバーはどうやって集められたんですか?

団長安田さん
マネージャーがクロちゃんとHIROを連れてきたんですよ。
当時はキングコング、ロザン、オズボーンみたいなアイドル漫才師が多くて…背の高いイケメンを探していたところに見つけたのがあの2人だったみたいです。
全然違うやないかい

団長安田さん
まあたしかに俺より背が高い(笑)。
クロちゃんは「アイドルユニット組ましたる」と、HIROは「ハンバーグ食わしたる」と言われてびっくりドンキーに連れてこられたみたいです。

福田
めっちゃ嘘じゃないですか。

団長安田さん
僕も「話がちゃうがな!」と思いましたよ。漫才がしたくて入ったのに、こんなんで漫才できるわけないって。
でも、僕のなかではもう最後やろなと思ってた。当時芸歴的にはもう10年ぐらいで、もうこいつらに頼るしかないと。2人を見て、「インパクトがあるし、もしかしたら売れるかも?」とは思ったんで。
だから、一個一個作っていかなあかんなと思って、とにかくネタを仕込むところから始めました。

福田
でも、2人ともほぼ素人同然だし、やる気もなかったんですよね…?
スムーズに稽古できたんですか?

団長安田さん
最初のネタ決めのときは、そりゃ揉めたし殴…
20年前の話ですし、団長のギャグかもしれません…

団長安田さん
HIROが稽古に来なくて「入院してた」って言うから「どこの病院や」って聞いたら、ありもしない病院平気で言う。
クロちゃんは僕がネタ書いてて遅刻したときに、「ネタ書いている人が偉いんすかあ?」とか言うから。「そうじゃ、偉いんじゃ!」って(笑)。
ネタ覚えられへんから「単語帳に書いて覚えてこい」、言うタイミングもわからんから「俺が背中を叩いたら喋れ」ってところから出発です。

福田
ストレス溜まりそう…

団長安田さん
溜まりますね。
ちゃんとあいさつもできないから、「あいさつになってへんのじゃボケェ」と怒ったり。いまだにクセで「あいさつせぇよちゃんと」っていうのが2人へのあいさつになってますからね。
「俺、お前らと同じクラスになっても、喋りもしない」

福田
そんな奔放すぎる2人と仲良くするために、気をつけていたことはあるんですか?

団長安田さん
ストレートに、「仲良くしてくれ」って言いました。
「俺、お前らと同じクラスになっても、たぶん喋らんと思う。やけど、こうなって一緒になったからにはもう仲良くせざるを得ないから、仲良くする努力をしましょう」って。

団長安田さん
「気が合う仲間でやりました」ならいいんですけど、気が合わない仲間が3人そろっちゃったもんで。
よく芸人で、小学校からずっと仲良くやってきた歴史がある人たちっているじゃないですか。ダウンタウンさんとか。
でも俺たちには絆も歴史もないから、喋らんとかありえない。「イヤでも喋れ、喧嘩はあれどちゃんと会話しないと勝てるわけがないから」って言いました。

福田
2人は聞き入れてくれたんですか?

団長安田さん
最初は「何言うてるん」みたいな顔で見てましたけど、今はわかってくれてるんじゃないですかね。
3人とも仲良くないけど、努力はしているのでロケ車でもずっと喋ってますもん。

福田
へええ!
それはめっちゃ素敵なお話。

団長安田さん
3人でかなり努力してきましたから。
ネタができていようがなかろうが、週2回は絶対集まると決めてました。廊下や道端でうだうだ喋るだけでもいい。そのなかからネタが生まれることもあるんで。
ネタ覚えられるまで、ずっと付き合ったりもしましたね。クロちゃんと、仕事終わって2時間喋りながら歩いて帰るとかよくありましたよ。
ちゃんといいエピソード出てきた、よかった

福田
なんだかんだで2人も言うことを聞いてくれるんですね。

団長安田さん
僕はあまり気にしないでガツガツ言うタイプだったんですけど、途中からは言いたいことの半分ぐらいは飲み込むようにしてました。じゃないと、言うことを聞かんと。
気になることが「10」あっても、本当に大事な「3」を聞いてもらうために「7」は言うのを我慢する。
松下幸之助さんの本に「全部言うたら人は大事なときに言うことを聞かない」と書いてあったので、一回やってみたんです。そうしたらよおく言うこと聞くようになりました(笑)。
経営の神様の教えが通じた
「ネタに付き合わしてるような気持ち」だった

団長安田さん
あとは、お金に関してもオープンにするようにしていました。どんな仕事でもギャラも3等分にしたりして。本人たちはあまり気づいてないですけどね。

福田
えっ! でも、2人にも知っててほしくないですか。
「仕事量がどうであれ、俺は3等分してるんだぞ」って。僕は知っててほしいって思っちゃいます…
ちっちゃい男ですみません

団長安田さん
そこはあまり執着がなかったですね。
ただ、どんなに仕事をしても3等分だから、家族ができたときにこれは辛いなぁと思いました。
そしたらクロちゃんが「もう3等分はやめましょう」って言いはじめて。

福田
えっ…団長のために?
クロちゃんめちゃくちゃ仲間想いじゃないですか!

団長安田さん
いや、フタを開けたらクロちゃんがCM決まりかけてて、1人で収入増えそうだったっていう。

福田
さ、最低だ!それでいいんですか!?
「うーん、でも…」

団長安田さん
そもそも2人はネタをやりたくない人なので、自分のなかでは、ネタに付き合わせてるって気持ちもあったんですよねぇ。
なかなか仕事が増えなくて、2人から「親が反対している」と言われたときも、向こうの親を電話で説得したんです。「飯食えるようにするんで」って。
そこに責任を感じる部分もあったので、まあいいかなと。
団長流・嫌われない怒り方

福田
団長は2人に対して結構怒っているみたいですが、メンバーに「怒る」ってすごく難しいと思うんです。
嫌われそうだし気まずくなるし…どんな怒り方をしてきたんですか?
仕事のとき強く言えない男・福田

団長安田さん
相手が言い返せるように、いじるような感覚で怒ってます。
一方的に怒られて、シュンとしたまま帰られるの嫌なんですよ。ここで立ち直って帰ってほしいから。
怒るとクロは泣いてトイレに閉じこもるし、HIROはスネて黙り込むから、とりあえず落ち着くまでじーっと待ちます。そのあとでまたいじるんですよ。「こいつスネるスネる、これ以上言ったらスネる~」って(笑)。

福田
なるほど。

団長安田さん
やっぱり「伝える」のは大事ですよね。
相手ってこっちが思ってもないことを考えてるじゃないですか。生まれてからずっと違う親のもとで違うもん食べて違う友だちと生活してきて、常識や考え方が一緒なわけがない。だから、喋らんとね。
2人には「団長はずっと怒ってる!」とか言われるけど(笑)。
それでも団長安田がリーダーでいられたワケ

福田
最後に、「リーダーは孤独なもの」という方が多いですが、団長は悩みなどがあったとき、どうしていましたか?

団長安田さん
実は、本気でやめようと思ったこともあったんですよ。
テレビに出たらもっと楽しいと思っていたのに、全然楽しくなかったときがあって。仕事があってこんだけやり甲斐がないんだったら、向いてないなぁと思っていました。

福田
そうだったんですね…

団長安田さん
でも、相談とまではいかないけど、2人に「どうしたらええんやろ」ぐらいには話して、一応聞いてもらったっていうのが大きいんですかね。
言えたらさっぱりはするから。
あと、あの2人とはこう…悪口を話しているのが一番いいんですよ。
悪口?

団長安田さん
おっさん3人が仲良くしようと思ったら、仕事関係の悪口を話すのがグッと近づけるんですよ。
共通の愚痴を話して盛り上がって(笑)。すべったときも、そりゃしゃあないなって笑って。それでいいかなって。
だから特に孤独だと思ったこともないし、やっぱりあんまりつらくないんだと思います。

福田
なんだかんだ、お2人の存在にちょっと救われていると。
他にも、2人が団長のために何かをしてくれたこととかないんですか?

団長安田さん
してくれたこと…
…

団長安田さん
…は特にないけど(笑)。
たぶん僕、結局ポンコツなヤツが好きなんですよ。
今僕は大阪で、くすぶってる芸人を集めてユニットライブをやっているんですけど、芸歴10年の子に、HIROとクロにやってきたように教えているんです。
リピートしているというか(笑)、結局それが楽しいんです。だから、つらいとは思わない。

福田
「ポンコツのリーダー」が、団長安田さんのやりがいだと。

団長安田さん
HIRO、クロとは今は月に1~2回会うか会わないかですが、たまにしばきつつ、「勉強しいや」って言いつつ、おのおの好きにやってます。
18年やってて…絆はあるかわからないけど、何を考えているかはわかるから。
プライベートではクロちゃんは呼んでも来ませんけどね(笑)。
ネタも書けない、覚えられない、挨拶もできない、稽古にも来ない…
そんな奔放すぎる2人を立派に育てあげながらも「リーダーはつらくない」と言う団長安田さん。
「今やっているユニットライブは客が5人も入っていないところから始めたんですけど、次は100人規模の劇場でやる予定なんですよ!」と話す姿を見て、きっと安田大サーカスもこんなふうに大きくしていったんだろうなぁ…と思いました。
「怒ってからいじる」技、今度後輩にやってみよう…。
〈取材=福田啄也(@fkd1111)/文=いしかわゆき(@milkprincess17)/編集=サノトモキ(@mlby_sns)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉
団長安田さんのYouTubeチャンネルはこちら!

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