ビジネスパーソンインタビュー
身近な人の「つらみ」を聞いてみました
「“嫌われたくない”と“こだわり”が同居してる」新R25編集長が語る“リーダーのつらみ”
新R25編集部
『新R25』の新連載「リーダーのつらみ」…。
さまざまな業界で活躍するリーダーに、“なかなかメンバーには見せられない”悩みやつらさを吐露してもらおうという企画です。
リーダーシップを発揮している人は、ふだんは強い一面しか見せてくれないもの。なかなか聞けない「つらみ」を吐露してほしい人は誰だろう?
1年目の新人編集者・森久保は、こう思いました。
「身近にいるリーダー、新R25編集長の“つらみ”を聞いてみたい!」と。
そこで、通常なら内部の人間に取材することはなかなかないのですが、“新卒卒業試験”の特別編として、編集長にインタビューしてみることにしました。
結果、編集組織のリーダーの、底知れぬ深淵をのぞき込んでしまいました…
〈聞き手=森久保発万(新R25編集部)/文=天野俊吉(新R25副編集長)〉
【渡辺将基(わたなべ・まさき)】1983年生まれ、静岡県出身。2008年、モンスター・ラボに入社。カカクコムを経て、2012年、サイバーエージェントに入社し、社長室に配属される。2017年9月に若手ビジネスパーソン向けメディア『新R25』編集長に就任。服を「ダサい」と言われることが多く、指摘された服はその日のうちにメルカリに出品する(売れない)
編集長が「リーダーとして能力が欠如してる」という理由とは…
森久保
今日はまさきさんの、リーダーならではのつらさについてお聞きしたいんですが…
渡辺
そもそも、自分のことをあんまりリーダーなんて思ってないんだよな…
こんな小さいチームで「編集長」とか言ってるのも正直気恥ずかしいところはあるし。
そうなんですか?
森久保
新卒入社の同期たちは、みんな「オーラがある」「カリスマ」とか言ってますけど…
渡辺
一度もそんなこと言われたことないけど。その子いま連れてきてよ(笑)。
でも、はっきり言ってリーダーとしてはいろんな能力が欠如してると思う。
スケジュールを引いてプロジェクトを推進していくこととか、数字を見ることも超苦手だし。というか、数字に全然興味を持てない。
森久保
リーダーっぽいことはほとんど苦手なんですね…
渡辺
あと何が圧倒的に欠けてるかって、「人をまとめあげる」能力。根本的にあまり人に興味がないから、チームをつくるってことが苦手なのよ。
だから、起業とかもまったく興味ないし、そもそもできないと思う。俺、人を採用する力とかゼロだと思うんだよね。
採用されたこっちの気持ちを考えて発言してほしい
渡辺
「会食」とかも好きじゃないな〜。もちろん好きな人とご飯食べるのは別だけど…
新しい人に会う、いわゆる「会食」って感じの集まりが嫌い。
森久保
なんで嫌いなんですか? 社外の人と交流するって、リーダーならではの役割だと思いますけど…
渡辺
気を遣ってめちゃくちゃ疲れるんだよね。それなのに、会食や飲みの場が何かにつながった経験がまったくない。
ぶっちゃけ俺って、会社でPCさわってる時間が一番好きだからさ。むしろその時間を奪われてるって思っちゃう。
すごい陰キャ発言
渡辺
あと、外に出てワイワイしてばっかりだと「お前、そんなことより自分のサービスや事業はどうなんだよ?」って思われそうだなって考えちゃうんだよね。
森久保
そんな人の目を気にしてるんですか?
渡辺
うん。ただ目立ってるだけの人にはなりたくないっていうか…
こういういろんな人の目に触れる仕事してると、ちゃんと本業で成果出さないとマジでピエロになるから。それは絶対イヤなのよ。
森久保
でも、リーダーが交友関係を広げれば、その人脈が仕事に生きてチームのためになるんじゃないですか?
「いや、それは違う」
渡辺
特に自分の場合、そこは「先に仕事」なの、絶対。
仕事で成果が出て声をかけてもらって、その相手と食事に行って仲良くなることはあるよ。
けど、いきなりご飯食べてどうこうなることはないと思ってるんだよね。
「会食文化」に警鐘を鳴らす編集長
マネジメントが苦手なリーダーは、「空気をつくれる人」になればいい
森久保
話を聞いてると、全然リーダー向きじゃない人のような気がするんですが…
渡辺
そうだよ。
ただ、最近はそんな自分でもリーダーとしてバリューを発揮できることがあるかもしれない、と思いはじめたことがあって…
森久保
なんですか?
渡辺
「組織の空気をつくる」こと。
いい空気感を組織に波及させられるんだったら、プレイヤー的な動きでもリーダーとしての役割を果たしてるのかなって思うようになったんだよね。
森久保
空気感をつくる、か…
渡辺
自分のリーダーとしての生命線は、「期待感」だと思ってるんだよね。苦しい局面でも、この人なら大逆転の一打を打ってくれるんじゃないかっていう。
その“期待できる空気感”をつくって、まわりに広げていく。
渡辺
堀江(貴文)さんが「ノウハウっていうのは言語化できないもの、マニュアルにできないものを指すんだ」って言ってたことがあるじゃん。あれ、まさにそうだなと思って。
組織に大切なのはマニュアルじゃなくて、そこに流れてる空気とか文化なんだよね。どんなやり方でもいいから、それをつくれる人でありたいとは思ってる。
ようやく編集長がいいこと喋りはじめてくれた…
森久保
そんなふうに、「期待感」を感じさせて空気をつくり出せる人になるにはどうしたらいいんですか?
渡辺
苦しい場面でチャンスをモノにするっていう実績を積むしかないよね。
そのひと振りが組織に波及するぐらいのビッグプレーをするしかない。
森久保
自分でやってみせる以外にも、組織の空気をつくるためにしてることってありますか?
渡辺
あとは、ツイッターとかVoicyで発信することかなぁ。
森久保
どういうことですか?
渡辺
あれ、半分くらいは会社のメンバーに向けて言ってるんだよね。
「自分の考えをメンバーに伝える」って、直接言ったりすると青臭い感じになっちゃうじゃん。だから、SNSを使って間接的にメンバーに届けようっていう。
森久保
へぇ〜! そうだったのか…
まったく怒らない編集長。その理由は「妙なメタ認知」
森久保
部下と直接コミュニケーションを取るときは、意識してることってありますか?
渡辺
さっきも言ったけど、「上司」「部下」みたいな関係は気恥ずかしいんだよね。
みんなと友だちみたいな感覚で仕事したいって思ってるから。
森久保
友だちって…
部下を評価する立場にいるわけじゃないですか?
渡辺
まぁ、友だちとして評価する感じだよね(笑)。
森久保
(それはダメだろ)
渡辺
でもたまに、圧力がすごい人っているじゃん。すぐ怒ったりとか。
俺はゼッタイにそれできないんだよね。
森久保
たしかに、まさきさんが怒ってるところを見たことないかもしれません…
なんで怒らないんですか?
渡辺
俺、怒ってる人見るとすごい傲慢だなって思うんだよね。
森久保
傲慢?
渡辺
怒るってことは、「自分には絶対非がない」って思ってるわけじゃん。
メンバーがやったことで何かしらの不快感を覚えることもなくはないけど、「でも俺も悪いところあるしな」って1ミリでも思った瞬間、怒る気がまったくなくなる。
全力で怒ってる人ってたぶんそんなこと微塵も思ってないわけだから、この人は客観性を欠いてるなって思っちゃう。
森久保
すごい俯瞰して見てるんだな…
でも、リーダーなら立場上怒らなきゃいけないときもあると思うんですけど、そういうときはどうするんですか?
渡辺
どうしようもない。ただただ苦手。
今言った“妙なメタ認知”が働いてしまって怒れないから、「メンバーとガンガンぶつかって強固な関係性をつくる」みたいなこともできる気がしない。
新人が言うのもなんですが、それは若干頼りないです
“嫌われたく”ないと“こだわり”が共存した結果、「最悪の朝令暮改」をしてしまう
渡辺
昔の上司に「リーダーの仕事はメンバーに忖度することじゃなく、成果を出すことだ」って言われたことがあるんだけど、どうしても人に強く言えないんだよね。
森久保
そうなんですか…
渡辺
てか、こうやって「人に嫌われたくない」と思ってるリーダーってやばくない?
自分でも冷静にリーダー失格すぎると思う。俺ならこんなヤツの下で働きたくないわ…
ちょっとつらそう…
渡辺
リーダーには人に忖度せず、朝令暮改できる力も絶対必要なのよ。
社長(藤田晋)も人としては柔らかい印象だけど、いざというときは物事を強引に進められる力があるわけで。俺はそれができないんだよね…
森久保
なるほど…でもそういう人、少なくない気もします。
渡辺
ただ、ここでひとつやっかいなことがあって。
森久保
なんですか?
渡辺
俺って、「嫌われたくない」と「こだわりが強い」が同居してるのよ。
渡辺
モノづくりになると、自分でもちょっと頭おかしいなと思うくらい異常なこだわりが出てしまう。
でも根底には「嫌われたくない」という気持ちがあるから、「ここまで細かいこと言ったらイヤだろうな…」とか考えちゃって、メンバーのアウトプットが微妙だなと思っても、その場では一旦OKを出しちゃったりするんだよね。
森久保
悩んだ末にちょっとした妥協を。
渡辺
そう。でも結局あとになって“こだわり”がぶり返してきて、「やっぱりこうしたい…」って言っちゃうわけ。
そうするとメンバーは「えっ、なんで今さら言うんですか!?」ってなる。
渡辺
結局、最悪の朝令暮改をしてしまうという…
「あとからでも、言わないよりは言ったほうがいいよな」って必死に自分を肯定してるけど、どう考えても先に言うのが一番いいよね。わかってるんだけどさ…
森久保
(この人…ぶっちゃけめんどくさいな…)
「これに関しては本当に毎回謝罪の気持ちしかない」だそうです
「怒らない」「大物にグイグイいける」キャラはすべて演じている…?
渡辺
結局、客観視とかメタ認知がヘンに強すぎると思うんだよね。
「こうありたい」と思うイメージのために、何かを演じてる感覚がずっとあるっていうのかな…
渡辺
よく俺のインタビュー記事を見た人に「よくあんなに大物にグイグイいけますよね」「すごいサイコパスですよね」とか言われるけど、全然ピンとこないもん。
だって、あれはまったく素じゃないから。
森久保
ホリエモンみたいな大物にもツッコめるキャラを演じてると。
渡辺
うん。さっき「会食に興味がない」って言ったけど、それもやっぱり「会食ばっかり行って、本業に打ち込んでない」って見られたくないみたいな気持ちが強いからじゃん。
いつも昼飯はデスクで食べてるんだけど、それもストイックっぽく見られたいって思ってるからだし。
え…?
渡辺
怒らないっていうのも、メタ認知のたまものだしね。
だから、俺のことを本当の意味で「やさしい」とか「器がでかい」って思ってる人がいたら、全部間違い。
全部そういうふうに思われたくてやってるだけ。
森久保
えっ…
渡辺
よくメンバーが、「まさきさんはすごいフレンドリーな上司ですよね」とか言ってくれるじゃん。あれも戦略通りだから。
森久保
こわ…
渡辺
そういうふうに立ち振る舞ってるうちに、最近はもう本当の自分がわからなくなってきてるかも(笑)。
森久保
こわいですって!
渡辺
ていうか、今この瞬間ですらそうだからね。
「自分の弱みを見せられる器が大きい人」って思われたいと思って話してるから。
もうダメだ…めちゃくちゃ気持ち悪い…
渡辺
「こんな本心まで言えちゃうんだ!」って。
ほら、どんどん書いてくれよ。ゼッタイこの話書いてくれ!
「頼むぞ! 書けよ!」
森久保
やめてください!!!
このリーダーには、自分がどう見られたいかしかないのか…
リーダーは孤独でいい。それを肯定してくれた名言とは
渡辺
ただマジメな話、ずっとそんな感じで、人と深く関わってないから、若干の孤独感はあるんだよな。
急にそんなマジメな顔をしないでください
渡辺
俺、唯一の好きな言葉が「憂鬱でなければ仕事じゃない」。
“孤独で憂鬱な状態がリーダーとしては正しいんだ”って肯定してくれる気がするんだよね。
森久保
やはりリーダーは孤独なものなんですね…
渡辺
そう、ひとりで決断しなきゃいけない場面がすごくあるからね。
森久保
まさきさんって、人に相談することってあるんですか?
渡辺
いや、それはないね。
というか、誰かに何かを相談したいと思ったことがない。
そんな人間いますか…?
森久保
新卒のときとかは…?
渡辺
だから、ないんだってば。何を相談することがあるの?
森久保
やっぱりこの人…こわすぎる…!!!
リーダーの深すぎる闇をのぞいてしまいました
メタ認知が強すぎるがゆえに、自分の本当のキャラがわからなくなる…。
こわいと思いますが、多くのメンバーの目にさらされるリーダーって、そういう心情があるのかもしれませんね…。
「マネジメントができないリーダーは、自分で空気感をつくり出せばいい」というのは、編集長が身をもって実践している教えでした。マネジメントに悩んでいる人は、そんなスタイルを試してみるのもいいかもしれません!
〈取材=森久保発万(@vneck_now)/文=天野俊吉(@amanop)/撮影=福田啄也(@fkd1111)〉
リーダーのつらみ
「仲良くないけど、ロケバスでずっと喋ってる」団長安田が“リーダーはつらくない”と語る理由
新R25編集部
「褒められたいなら、二番手以降にいてください」ROLANDが語るトップの苦しみと意外なリーダー論
新R25編集部
「リーダーは“前に立つ人“だから、社員の顔が見えない」GO三浦崇宏が語る“リーダーのつらみ”
新R25編集部
「“嫌われたくない”と“こだわり”が同居してる」新R25編集長が語る“リーダーのつらみ”
新R25編集部
「“全部自分の責任です”っていうリーダーを、俺は信用しない」TAKUROが語るリーダーの哲学
新R25編集部
ビジネスパーソンインタビュー
またスゴいことを始めた前澤さんに「スケールの大きい人になる方法」を聞いたら、重たい宿題を出されてしまいました
新R25編集部
【不満も希望もないから燃えられない…】“悟っちゃってる”Z世代の悩みに共感する箕輪厚介さんが「幸せになる3つの方法」を伝授してくれた
新R25編集部
「実家のお店がなくなるのは悲しい… 家業を継ぐか迷ってます」実家のスーパーを全国区にした大山皓生さんに相談したら、感動的なアドバイスをいただきました
新R25編集部
「俯瞰するって、むしろ大人ではない」“エンタメ鑑賞タスク化してる問題”に佐渡島庸平が一石
新R25編集部
社内にたった一人で“違和感”を口にできるか?「BPaaS」推進するkubell桐谷豪が語るコミットの本質
新R25編集部
【仕事なくなる?そんなにすごい?】“AIがずっとしっくりこない”悩みへのけんすうさんの回答が超ハラオチ
新R25編集部
情報はインターネットがベスト、という考えに異を唱える。学生発信「金沢シーサイドFM」の挑戦
新R25編集部
いろんな仕事をこなす「ゼネラリスト」は目立てない? サイバーエージェント2年目社員の悩みにUUUM創業者が喝
新R25編集部
スモールビジネスの課題“3つの分断”に挑む。freeeによるプロダクト開発の基盤「統合flow」を発表
新R25編集部