ビジネスパーソンインタビュー
山の仕事をすべて引き受ける、山の請負人
「2トンの岩?運びますよ!」山での仕事をすべて幸せと捉える、株式会社山屋のWell-beingなはたらき方
新R25編集部
リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。
現場ではたらくビジネスパーソンのなかには「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人も多いはず。
そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。
今回ご紹介するのは、「山に登る仕事全般」を請け負う会社を起業した秋本 真宏さんです。
秋本さんが代表取締役を務める株式会社山屋は、日本中の山に関するプロフェッショナルたちの力を結集し、山に関するあらゆる悩み事を解決する珍しい企業。
資材の運び込みから山一帯の調査、ビデオやスチールの撮影補助など、あらゆる業務に総勢70名の“山の仕事人”が対応します。
「山ではたらきたい」という思いを貫き通して、今までになかった業態を創り出した秋本さんに、大好きな仕事から得られる「はたらくWell-being」について聞きました。
17歳の頃に初体験した登山に感動し、山で生きることを決意。信州大学農学部卒業を経て入社した木材会社を「フィールドワークができない」という理由で1年半後に退職し、山ではたらく人々と触れあうために日本アルプスを踏破。その期間中、多様な山の仕事に触れた経験や出会った人とのつながりを活かし、株式会社山屋を設立。山の仕事人と依頼者を結びつけ新たな可能性を生み出す事業を展開。2023年に『はたらくWell-being AWARDS』受賞
高校時代の経験を機に山で生きるはたらき方を目指す
――(編集部)本日は、よろしくお願いいたします!山好きで起業した方とお伺いしていたので、勝手に屈強な風貌の方を予想してしまっていました。
秋本さん
襟付きのシャツを着て取材を受けるなんて、いつも山で会っている人たちに見られたら「都会に染まったな」って言われちゃうかもしれないです(笑)。
でも今日は、地名に「山」がついている青山での取材なので、ちょっと緊張も和らいでいます!
シャツを着て「都会に染まった」と言われる世界観…
――(編集部)(青「山」に反応するとは、想像以上の山好き……!)では早速、山の仕事を請け負う会社というのはあまり聞き慣れない業態ですが、具体的にどのようなご依頼ができるのでしょうか?
秋本さん
株式会社山屋では「山に登る仕事全般」を請け負っています。
たとえば企業や研究機関が山のなかで調査や作業をおこないたいとなったときに、ルート開拓からはじまり、登山中の荷物運びや山中での施設設営まで、安全に遂行できるよう山の知識を持ったメンバーがサポートをしています。
山のなかの仕事というとあまりイメージが湧かないかもしれないですが、たとえば天気予報の計測は山のなかにある器具でおこなわれているなど、山のなかには生活と紐づいた仕事がたくさんあるんです。
山の仕事を続けていくうちに、段々と信頼してくださる企業も増え、今では山のなかで生物調査や撮影の代行なども請け負うようになりました。
山が好きすぎて山を仕事にしてしまった秋本さん
――(編集部)まさに「山に登る仕事全般」!
秋本さん
僕や山屋のメンバーは山が大好きなので山にいられるだけで幸せですが、そうではない方たちが山で何らかの仕事が発生した場合、恐らくほとんどの方は「山に登るのは億劫だな…」と考えると思うんです。
そもそも登山はあまり身近ではないですし、長時間歩いて疲れるのはイヤだし、慣れないと危険だし、と。それなら、僕たちのように山に登るのが好きな人が作業をお手伝いすれば、お互いWin-Winですよね。
――(編集部)確かに。そもそも、秋本さんはなぜ山ではたらこうと思ったのでしょうか?
秋本さん
高校生のときに友だちのお父さんに誘われて、長野県にある木曽駒ケ岳を登ったことがきっかけで山への価値観がガラッと変わりました。下山後は「山で生きていくにはどうしたらいいのか」ばかり考えるほど、魅せられてしまって。
当時通っていた高専から信州大学農学部 農学生命科学科に編入し、森林・環境共生学コースを専攻してフィールドワークに熱中しつつ林業の勉強もしました。卒業後は木材や建築を扱う会社に入社、ようやく念願の山での仕事に就けたんです。
――(編集部)進路が徹底的に山に向かっていますね!入社後は理想通りに山ではたらけたんでしょうか?
秋本さん
それが……最初は木を切る仕事などを任されていたのですが、設計図を書く内勤の部署に異動になってしまい、山に入れなくなってしまったんです。山の仕事をして生きていくのが大前提だったので、1年半ほどで退職させてもらいました。
山でのはたらき方を知るために、山に登り、人に会う
――(編集部)かなり思い切った行動だと思いますが、それだけ山ではたらきたかったんですね……。
秋本さん
思いだけは強かったものの、山にどんな仕事があるのか、どうやったら山ではたらけるのかがわからなくて。だったら実際に山ではたらいている人たちに直接話を聞きに行こうと思い、動き出しました。
具体的には長野県と山梨県を跨いでいる八ヶ岳、中央アルプス、南アルプス、北アルプスをひと夏かけて歩き回って、そこではたらいている人に声を掛けて、話を聞いて回ったんですよね。
「山の仕事を知りたかったので山にいる人に話を聞きにいったんです」「いきなり?」「いきなり(笑)」
――(編集部)えっ、面識はないですよね?
秋本さん
はい(笑)。
すれ違った方にいきなり「何のお仕事をされているんですか?何かお手伝いさせてください」と質問していたので、怒られたこともありましたね。
「好奇心で勝手に声を掛けて、ズケズケ質問するのは失礼だ」と言われたこともありますし、「君に話すことはない」とバッサリ切られたこともあります。
――(編集部)心が折れることはなかったんですか?
秋本さん
多分、自分にはそういうブレーキが備わってないんだと思います。
とにかく知りたい一心だったし、続けていくと「ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど」と受け入れてくださる方もいて。
――(編集部)知らない人に会ったそばから声を掛けて道を切り拓いていくなんて、まるでロールプレイングゲームのようです(笑)。
秋本さん
まさに、同年代の自分と似たような人とも出くわしたりするんですけど、そうすると一緒に行動しようか!と、ゲームみたいに仲間が増えることもありました。
でも自分は勇者じゃなくて無職ですし、相手も無職なので、無職2人の冒険がはじまるだけでした(笑)。
「初期装備で、あるのは野望だけですね(笑)」
秋本さん
中古の登山用品販売業の方、山とは直接関係のないメーカーの方など、とにかくいろいろな業種の方と出会いました。
このときの出会いがきっかけで山屋のメンバーになってくださったり、クライアントさんになってくださったりと、今につながっていると思います。
山の仕事と人々を結びつける仕事で起業
――(編集部)いろいろな出会いを経験されて、山の仕事を知っていって。そこからどのような経緯で独立したのでしょうか?
秋本さん
たくさんの仕事があると知ったと同時に、「一般の人は山の仕事を誰に頼んだらいいのかわからないのでは」という疑問が頭に浮かんだんです。
山ではいろいろなプロフェッショナルがはたらいているのに、その人たちに依頼できると知っている人は非常に限られています。
そのとき、山の仕事を気軽に相談できる窓口があればいいのではと考え、「山の仕事をすべて引き受ける山岳フリーランス」として独立しました。
最初の1年は山の仕事がありそうなところに自分から営業していましたが、名刺交換した方からSNS経由でご相談をいただくことが増え、だんだんと忙しくなっていきました。
フリーランスとして5年ほどはたらいていたのですが、最後の数年は年間で300日は山に入っていましたね。
年間300日!
秋本さん
本当は365日ずっと山に入っていたかったのですが、いろいろな手続きもあったのでやむを得ず下山する、という心情でした。
法人化したことで、「新たな山の魅力」を見つけた
――(編集部)そこから2021年に法人化。フリーランスの活動は非常に順調だったと思いますが、なぜ法人化に踏み切ったのですか?
秋本さん
ある意味、フリーランスとしての事業が順調すぎたからなんです。年間300日山にいたと話しましたが、私一人では300日分の仕事しかできなかったと言い換えることもできます。
せっかくご相談をいただいたのにスケジュールが合わずにお断りしてしまったり、物理的に1人では請け負えない仕事もあったりしたので、チーム化できればお断りしなくても済むようになると考えました。
「2トンの石を運んで欲しいって依頼をいただいたんですけど、一人じゃ大変じゃないですか」「受けるは受けるんですね…」
秋本さん
また、チーム化だけならフリーランスのままでもできますが、フリーランスとして仲間に仕事を業務委託するのは私のなかで納得できなかったんです。
法人化できれば、法人として受託した仕事を業務委託パートナーに振り分けられるようになるので、納得感のある形にできると考えました。
――(編集部)法人化後は、順調に進みましたか?
秋本さん
仕事量で言えば、初年度から800日分の仕事を受注することができました。私一人ではたらくよりもたくさんの仕事をお請けできたのは、大きな成果だったと思います。
受注する仕事の幅も広がりましたし、法人化したことで個人では請けられなかった公共事業に関われるようになったのも大きいと思います。
山の仕事は、信頼も大事。
――(編集部)法人化大成功ですね!一方で法人ならではの業務も発生しているかと思います。秋本さんのはたらき方が変わった点はありますか?
秋本さん
それでいうと、僕自身が山に入る時間はかなり減りましたね。
――(編集部)(365日山に居たかった人が、山に入る機会が減ってしまってはだめなのでは……)
秋本さん
今の僕の役割は、会社を経営しながら新しい山の仕事を生み出す方法を考えることに変わりました。
でも、山で困っている人の悩みをどう解決していくのか、メンバーの顔ぶれやいろいろな先輩方の教えをもとに考えていくのがだんだん楽しくなってきたんです。
初年度で延べ800日分の仕事に対応できたのも、チーム作りができてきたからです。僕1人ではできないことでも「あの人とあの人が一緒ならできるな…」と考えて実行していくことが、今は面白いですね。
山の新たな一面に触れられることが僕にとってのはたらくWell-being
――(編集部)かつてはご自身が山に入ることを最優先されていましたが、だいぶはたらき方が変わってきました。今、秋本さんご自身はどんなことにはたらくWell-beingを感じているのでしょうか。
秋本さん
僕は、山はわからないものだと思っていて。
どんなに勉強しても常に学ぶことがある「わからなさ」が山の面白さであり、いつも山の新しい一面に触れられるのが幸せであるという考えは、昔から変わっていません。
秋本さん
以前と今とで変わったのは、山の新しい一面への触れ方だと思います。自分が山に登っているときは自分の感性で山に触れられますが、それは僕一人だけの触れ方に過ぎません。
しかし、今は自分の感性では見えなかった山の姿、感じられなかった山の面白さが、株式会社山屋というチームに集まってくるようになりました。
自分一人では絶対に見ることができなかった山の表情を知り、思いつきもしなかったアイディアに触れられる毎日は、本当に充実しています。
あるとき、それまで数年僕がお付き合いをしていたお客様のところへ、別のメンバーにいってもらったことがありました。仕事のクオリティに不安はなかったのですが、それでも大丈夫かなと心配しながら待っていたんです。
ところが彼が仕事を終えて報告してくれたのは、僕の知らないお客様の一面や、僕がいるときには起きなかったイベントの話だったんです。
このときほど、法人化してチームではたらくことの楽しさを感じたことはありません。同じ人や山でも、見る人によって感じるものが違うことに気づきました。本当に毎日が面白いな、と感じているのが今のはたらくWell-beingだと思います。
まだ世の中にない仕事にワクワク!
――(編集部)今後の目標を教えてください。
秋本さん
新しい山の仕事をどんどん開拓していきたいですね。
最近はITやアニメなど、以前はなかった業種の企業からご相談をいただく機会が増えています。新しい業界と交わることで、今はまだ世の中にない新しい仕事を生み出せるかもしれないとワクワクしています。
その一方で、新しい仕事だけを目的にするのは、山屋の理念に反するとも思っています。山で困っている人を、山好きな人が助ける環境を作ることが、山屋のはじまりです。
この姿勢を大切にしながら、より安全に堅実な形で続けられる体制作りを軸にしていきたいです。そのためにも、僕はもっと勉強していきます!
<取材・文=飯室 佐世子/撮影=手塚 裕之>
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